上 下
160 / 214
結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

6日目⑧

しおりを挟む
「それにしても…」
そう言って、リドリー伯爵は零れる笑いを右手で押さえながら

「ウィンスレット侯爵は、何故そのような恰好でいらっしゃるのですか?」

自分の恰好が笑われていたことに、ようやく気が付いたウィンスレット侯爵は真っ赤になった顔で気まずそうに
「…ぁ…これは…敵方の中に入り込むための変装なんですが…やっぱり、やりすぎ感…ありますかね?」

ウィンスレット侯爵に、そんな顔をさせるつもりではなかったリドリー伯爵は慌てて
「ウィンスレット侯爵…あ、あの…」

だが、ウィンスレット侯爵はリドリー伯爵に穏やかな笑みを浮かべ
「このような恰好ではありますが…心は騎士のまま。今回ルシアン殿下に命ぜられたことはも、抜かりなくやってまいりました。」

そう言って、俺を見た。
その自信にあふれた顔に、リドリー伯爵はホッとした顔で、そして俺はいつも通りに言った。

「ご苦労だった。」

ウィンスレット侯爵は満面の笑顔だったが、俺の顔を見て瞳を揺らし心配そうに

「しかし、ルシアン殿下。これからどうなさるのですか?命ぜられた通りに、ジャスミン嬢を安全な場所へとお連れはしましたが…バウマン公爵の動きはかなり巧妙になっており…我々は後手に回っているように思えます。」

そう問うウィンスレット侯爵の声に、リドリー伯爵も俺を見た。



無茶な計画だとは重々わかっている。
バウマン公爵らを一掃し、何食わぬ顔で戴冠式と結婚式をやるなんて、そんな計画に不安を持たない者はいないだろう。ましてや招待客には知られてはならないのだから…無茶な話だ。

だが、これからのローラン国の事を考えると、そうしなければならない。


なぜなら、ローラン国はスムーズに王位を俺に移したことを内外に…いや、特に他国に見せなければならないからだ。

先代王は化け物だったという話は、ローラン国を揺るがし、そんなローラン国を周辺の国はほくそ笑み、様子をうかがっている。
もし今回の事が、いつでも牙をむこうとする国に知られたら、内乱にまきこまれたと言って、救出と言う言葉を叫びながら、堂々と兵を進めるやもしれない


これは…バウマン公爵との戦いだけではない。

それをわかっているから、どんなに準備を整えても不安はなかなか取り除けない。

簡単ではないのはわかっている。

だが…隠密にそして素早く片付けたい。



「ルシアン殿下…」
リドリー伯爵が俺の名を呼び、ウィンスレット侯爵が微笑んで

「リドリー伯爵も、私も、すでに腹を括っております。どうぞ何なりとご命令ください。」


そうだ。ひとりで戦っているわけじゃない。

俺は両手に握りこぶしを作り
「万全を喫して、明日は8時に招待客を大聖堂に移し、入れ違いに罠を仕掛けた城内にバウマン公爵らを引き込む。その為には…」

そう言って、ウィンスレット侯爵を見た。


勝ちたい。

その言葉が頭を過った。

いや、勝つんだ。


ウィンスレット侯爵の声が力強く
「どんなご命令ですか?」

「この大陸一、著名な騎士である、ブラチフォード国ウィンスレット侯爵に頼みたい。」

ウィンスレット侯爵の顔が変わった。

その顔を見つめながら
「襲ってくるであろう、ヒューゴ率いる近衛師団の力を削ぐために、近衛師団の兵を…ひとりでも多くこちらに引き込んでもらいたい。」

戦闘モードに変わったウィンスレット侯爵の顔に、リドリー伯爵の体がビクンと動いたのが目の端で見えた。


リドリー伯爵もようやく気付いてくれただろうな。
日頃、頼りなさそうに見えるのは仮の姿、今目にしている姿こそが、本当のウィンスレット侯爵の姿だと。


戦闘モードに入った侯爵は…怖いんだ。


そう思いながら、ウィンスレット侯爵を見ると、それは嬉しそうに
「では…久しぶりにローラン国の酒場に足を運びましょうか。」

ウィンスレット侯爵はゆっくりと俺の前に跪き
「明日は二日酔いでもどうぞご容赦くださいませ。」と言ってニヤリと笑った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おじさんは予防線にはなりません

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」 それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。 4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。 女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。 「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」 そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。 でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。 さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。 だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。 ……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。 羽坂詩乃 24歳、派遣社員 地味で堅実 真面目 一生懸命で応援してあげたくなる感じ × 池松和佳 38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長 気配り上手でLF部の良心 怒ると怖い 黒ラブ系眼鏡男子 ただし、既婚 × 宗正大河 28歳、アパレル総合商社LF部主任 可愛いのは実は計算? でももしかして根は真面目? ミニチュアダックス系男子 選ぶのはもちろん大河? それとも禁断の恋に手を出すの……? ****** 表紙 巴世里様 Twitter@parsley0129 ****** 毎日20:10更新

ズボラ上司の甘い罠

松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。 仕事はできる人なのに、あまりにももったいない! かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。 やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか? 上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。

きみの愛なら疑わない

秋葉なな
恋愛
花嫁が消えたバージンロードで虚ろな顔したあなたに私はどう償えばいいのでしょう 花嫁の共犯者 × 結婚式で花嫁に逃げられた男 「僕を愛さない女に興味はないよ」 「私はあなたの前から消えたりしない」

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...