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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

6日目⑦ 前日の夜…ルシアン

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「各国からお見えのお客様は、明朝、予定通り大聖堂にご案内いたします。」

「あぁ、頼む。」

疲れた声にリドリー伯爵が眉を顰めた。

「ルシアン殿下…?」

「心配かけてすまない。」

そう言って微笑むと

「少し、バウマン公爵を侮っていたなと…思っていたのだ。」

「申し訳ありません。副団長のヒューゴの動きを見謝った私のミスでございます。まさか、あのように頭の切れる奴だとは…。」

悔し気に顔を歪めたリドリー伯爵に
「いや、伯爵のせいではない。ローラン国の近衛師団の実態をキチンと把握していなかった私のミスだ。リドリー伯爵こそ……大丈夫か?」

「私は…大丈夫です。ですが、今もって信じられません。まさか近衛師団の団長が…真面目が取り柄のあいつが…」
と言ってリドリー伯爵は口ごもった。

リドリー伯爵はそれから先の言葉は言いたくなかったのだろう。
言えば現実を受け止めなければならない。
なぜなら、近衛師団の団長はリドリー伯爵の盟友であったからだ。


俺は視線をリドリー伯爵から外し、テーブルの手紙へと移した。

それは急な知らせだった。
数時間前、町はずれの売春宿で剣を振り回し、数人の娼婦と客の男を殺した団長を、駆け付けた副団長のヒューゴが切ったと言う知らせ。


俄かに信じられなかった。
実直で、妻一筋と言われるような男が売春宿に行っていた事実も驚きだったが、なにより馴染みの女が客をとっている所に飛び込んできて、女をそして客だった男を切り、近くにいた女達も犠牲になったという。そしてこれ以上の犠牲者を出す事を恐れ、団長と一緒に売春宿に行った兵士が、ヒューゴの屋敷に知らせに走り、駆け付けた副団長のヒューゴはやむを得ず団長を切ったという話だった。

話は…よくできている。

だが戴冠式、結婚式を明日に控えた中、近衛師団の団長が町はずれの売春宿に行くだろうか…。

近衛師団は一般部隊と同様に実戦部隊としての任務もこなしているために、町へと繰り出すこともあるが、一番は君主の警護、衛兵任務だ。そんな近衛師団のそれも団長が、町はずれの売春宿に馴染みの女を作るほど出入りをしていたとは思えない。

そして何より、人柄だ。
真面目だけが取り柄の男が、売春宿に出入りをし、馴染みの女がいたという事がどうしても違和感があった。


「恐らく…嵌められたのであろうな。」

「…はい。ヒューゴはバウマン公爵の息がかかっている者だという事は間違いありません。近衛師団を自由に動かしたいためには、団長は邪魔だったのでしょう。」

「…警備の体制は変えるしかないな。くそっ!足元を…崩されるとは…」

「…ルシアン殿下。」


落ち着け。
何が一番か、考えろ。


大きく息を吐き。

「大聖堂の警備にヒューゴが率いる近衛師団は外し、城内の警備を命ずる。」

「近衛師団を…城内に入れるのですか?ヒューゴとの直接対決を避けるために、各国の王族を守るように大聖堂の警備へと向かわせる計画を変えるのですか?今回の事で、我々が思っていたより、ヒューゴは近衛師団を把握していると思われます。なのに…城内に迎え入れるのですか?!ヒューゴはもちろん、ローラン国の近衛師団は大陸一の強さです。このまま各国の王族の警備につけるべきです。バウマン公爵とて他国を敵に回そうとは考えないと判断して、大聖堂の警備に近衛師団を置いたのではありませんか?!」

「そうだ。だがリドリー伯爵。ヒューゴが我々の想像以上に近衛師団を掌握しているとわかった今、大聖堂に張り付けていていても、俺を殺りに王宮にやってくるだろう。ならば…城内に閉じ込め、一気にやろう。」

「ルシアン殿下…。」


「リドリー伯爵。少しでも近衛師団の兵士らを我々の方に引き入れる為に、動いてもらうぞ。」

「ですが…私は近衛師団の兵士らを説得できるほど、彼らとは親しくはありません。」
リドリー伯爵は、青い顔で頭を横に振った。



シーンと静まり返った部屋に、コンコンと扉を叩く音がした。


その音に俺は思わず笑みが零れ落ち、きっと笑顔でリドリー伯爵を見たのだろう。

茫然とした顔で俺を見るリドリー伯爵に
「…近衛師団の兵士らを説得することができる者がいた。」

「えっ?…」


…適任だ。この大陸でその名を知らぬ者はいないレジェンドが…。兵士らが憧れるレジェンドが…。

「入れ。」

俺の声に扉が開き、現れたのは…

ジュストコール(上着)、ジレ(ベスト)、白いシャツを着て、ボンタン(ブカッとしたズボン)、ブーツを履き、左手に黒の指無しグローブに髑髏の大きな指輪、腰に橙色のサッシュベルト(飾り帯)を巻き、その上から黒皮のベルト。剣は、上着の上から焦茶色の皮の剣帯で吊り上げ、頭には緑のバンダナを巻き、その上にツバ広の羽根付き帽子。おまけに蛇の形のネックレス、右手に獅子の頭の紋様の指輪というアクセサリーまで身に着けた。



ウィンスレット侯爵だった。



ルシアンの、そしてリドリーの視線を集めたウィンスレット侯爵はキョトンとした顔で

「…ぇ…えっと、どうかなさいました?」

リドリー伯爵はウィンスレット侯爵の恰好にポカンと口を開け…ゆっくりと俺に視線を移し

「…ウ、ウィンスレット侯爵?」

裏返った声に俺は
「さすがレジェンド。この重い空気をも祓ってくれる。」

そう言った俺に、リドリー伯爵はハッとしたように俺を見て、そして口元を緩めた。

「どうだろう?リドリー伯爵。ウィンスレット侯爵なら、兵士らをこちらに引っ張られると思わないか?」

リドリー伯爵の顔は満面の笑顔となり
「御意。」と力強く頷くと、大きな声で笑った。











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