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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
5日目⑤
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「…ホントに…女性だったんだ。」
ぼんやりとロイさんを見ていた私の耳に、ジャスミンさんの声が聞こえた。
「ジャスミン!王妃様に…失礼だぞ。」
ジャスミンさんはハッとしたように口を一旦押えたが、真っ青になって頭を下げ
「ぁ…ご、ごめんなさい。」
「王妃様、失礼の段ご容赦ください。」
ロイさんはそう言いながら、頭を下げられた。
「…男の振りをしていたんです。そう思われて当然です。気にしないでください。」
口元に笑みを浮かべたが、少し強張っていたかもしれない。
私は王妃と呼ばれたことで、なにか不安な気持ちになっていた。
王妃…様…か。
まるで強調するかのように、私をなぜ王妃と呼ばれるのだろうか?
貴族の教育を受けたロイさんならわかっているはずだ。
戴冠式、そして結婚式後ならわかるが、この時点では私はまだ王妃ではない。
なのに…なぜ…私を王妃と呼ぶのだろう。
確かにすでに王宮に入り、国を動かしているのはルシアン殿下だが、公式に王冠を聖職者等から受け、王位への就任を内外に宣明する儀式…戴冠式を終えていないルシアン殿下はまだ王ではない。
儀式という一定の作法・形式で執り行われる行事だから、形だけだと言う者もいるが…、そのような大きな儀式を執り行うのには、貴族の協力は必要だ。
それは、戴冠式を無事執り行えるという事は、王に対して貴族らは忠誠を誓ったと同様の事。
だからその前に、敬称をつけられて呼ばれることは…とても違和感を感じる。
何か意図があるのかもしれない。
ロイさんの意図を探るように見つめ…
「ロイさん。私はまだ王妃ではありません。戴冠式そして結婚式が終わるまでは、私はブラチフォード国のロザリー・ウィンスレットです。どうぞ、ロザリーとお呼びください。」
「ですが…。もう決まったも同然なのですから…。」
「確かに戴冠式、結婚式の式典を終えれば、そうなるのでしょうが…。出来れば私は…敬われる身分となるなら、それに見合う働きをすることで、民から…」
ロイさんの顔が変わって行くのがわかった。私はにっこり笑い
「そしてロイさんから、本当に王妃だと言われたいです。」
ロイさんは目を見開くと、困ったような顔で笑った。
「ロイさん…?」
「すみません…。ルシアン殿下と互角の剣の腕前と聞いていたので、どんな女傑の方かとビビッておりましたが…。こんなに気さくで綺麗な方とは…。」
そう言って、にっこり笑われると呟くように
「あなた様で良かった。」
「…それは…どういう意味なのでしょうか?」
ロイさんはまたにっこり笑い、その問いに答えてはくれず、ジャスミンさんに目を移し
「バウマン公爵は私に、ジャスミンとナダルの命が大事なら、ルシアン殿下になれと脅し、ルシアン殿下の振りを徹底的に仕込まれました。
でも、ルシアン殿下にお会いした時、無理だとすぐにわかりました。
剣の腕前もですが。なにより、赤い瞳にその纏われたものが見えたのです。
敵に対する時の、あの地獄の業火のような赤い瞳を…。
そして味方には、家の灯りのように、温かく迎えてくれる赤い瞳を見て…私は気が付けば、ルシアン殿下の前に跪いておりました。
でも今回のことで…少し不安になってしまったのです。ルシアン殿下はロザリー様の剣を、そして愛を、無条件に信じていらっしゃる。そして…そんなあなた様の為に無理をなさることが…不安で…。」
今回の事は確かに私のせいだ。
おひとりで動かれるようなことにさせたのは…私のせい。
そっと唇を噛んだ私に、ロイさんは途切れ途切れに
「もし…ロザリー様が…裏切れば…ルシアン殿下と互角の剣の腕、そしてその腕を鍛えられたあのウィンスレット侯爵様が父親。おふたりが逆臣となればバウマン公爵より恐ろしいと…考えてしまい…。」
「…そうだったんですね。」
「申し訳ありません!ロザリー様が権力の権化でないことを確かめようとしたことを…どうかお許しください。」
「ロイさん…。」
ロイさんは私の前に跪き
「私はルシアン殿下とロザリー様に対し、忠誠を貫くことを誓います。」
そう言われた赤い瞳は…ルシアン殿下のように、国への愛に溢れた瞳だった。
ぼんやりとロイさんを見ていた私の耳に、ジャスミンさんの声が聞こえた。
「ジャスミン!王妃様に…失礼だぞ。」
ジャスミンさんはハッとしたように口を一旦押えたが、真っ青になって頭を下げ
「ぁ…ご、ごめんなさい。」
「王妃様、失礼の段ご容赦ください。」
ロイさんはそう言いながら、頭を下げられた。
「…男の振りをしていたんです。そう思われて当然です。気にしないでください。」
口元に笑みを浮かべたが、少し強張っていたかもしれない。
私は王妃と呼ばれたことで、なにか不安な気持ちになっていた。
王妃…様…か。
まるで強調するかのように、私をなぜ王妃と呼ばれるのだろうか?
貴族の教育を受けたロイさんならわかっているはずだ。
戴冠式、そして結婚式後ならわかるが、この時点では私はまだ王妃ではない。
なのに…なぜ…私を王妃と呼ぶのだろう。
確かにすでに王宮に入り、国を動かしているのはルシアン殿下だが、公式に王冠を聖職者等から受け、王位への就任を内外に宣明する儀式…戴冠式を終えていないルシアン殿下はまだ王ではない。
儀式という一定の作法・形式で執り行われる行事だから、形だけだと言う者もいるが…、そのような大きな儀式を執り行うのには、貴族の協力は必要だ。
それは、戴冠式を無事執り行えるという事は、王に対して貴族らは忠誠を誓ったと同様の事。
だからその前に、敬称をつけられて呼ばれることは…とても違和感を感じる。
何か意図があるのかもしれない。
ロイさんの意図を探るように見つめ…
「ロイさん。私はまだ王妃ではありません。戴冠式そして結婚式が終わるまでは、私はブラチフォード国のロザリー・ウィンスレットです。どうぞ、ロザリーとお呼びください。」
「ですが…。もう決まったも同然なのですから…。」
「確かに戴冠式、結婚式の式典を終えれば、そうなるのでしょうが…。出来れば私は…敬われる身分となるなら、それに見合う働きをすることで、民から…」
ロイさんの顔が変わって行くのがわかった。私はにっこり笑い
「そしてロイさんから、本当に王妃だと言われたいです。」
ロイさんは目を見開くと、困ったような顔で笑った。
「ロイさん…?」
「すみません…。ルシアン殿下と互角の剣の腕前と聞いていたので、どんな女傑の方かとビビッておりましたが…。こんなに気さくで綺麗な方とは…。」
そう言って、にっこり笑われると呟くように
「あなた様で良かった。」
「…それは…どういう意味なのでしょうか?」
ロイさんはまたにっこり笑い、その問いに答えてはくれず、ジャスミンさんに目を移し
「バウマン公爵は私に、ジャスミンとナダルの命が大事なら、ルシアン殿下になれと脅し、ルシアン殿下の振りを徹底的に仕込まれました。
でも、ルシアン殿下にお会いした時、無理だとすぐにわかりました。
剣の腕前もですが。なにより、赤い瞳にその纏われたものが見えたのです。
敵に対する時の、あの地獄の業火のような赤い瞳を…。
そして味方には、家の灯りのように、温かく迎えてくれる赤い瞳を見て…私は気が付けば、ルシアン殿下の前に跪いておりました。
でも今回のことで…少し不安になってしまったのです。ルシアン殿下はロザリー様の剣を、そして愛を、無条件に信じていらっしゃる。そして…そんなあなた様の為に無理をなさることが…不安で…。」
今回の事は確かに私のせいだ。
おひとりで動かれるようなことにさせたのは…私のせい。
そっと唇を噛んだ私に、ロイさんは途切れ途切れに
「もし…ロザリー様が…裏切れば…ルシアン殿下と互角の剣の腕、そしてその腕を鍛えられたあのウィンスレット侯爵様が父親。おふたりが逆臣となればバウマン公爵より恐ろしいと…考えてしまい…。」
「…そうだったんですね。」
「申し訳ありません!ロザリー様が権力の権化でないことを確かめようとしたことを…どうかお許しください。」
「ロイさん…。」
ロイさんは私の前に跪き
「私はルシアン殿下とロザリー様に対し、忠誠を貫くことを誓います。」
そう言われた赤い瞳は…ルシアン殿下のように、国への愛に溢れた瞳だった。
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