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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
4日目⑦
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「なぁ…」
その声に、アストンとルシアンは顔を向けたが、だが、アストンはその声の持ち主のナダルの視線が、ルシアンに向いていることに、笑みを浮かべると、自分もルシアンへと視線を向けた。
アストンとルシアンの視線が自分に集まったことに、ナダルは慌てて一度向けたルシアンへの視線を少しずらすと
「ル…シアン…殿下。ロイとジャスミンさえ、無事なら俺はいい。好きにしてくれ。牢獄でも…、いや死をもって償えというなら、それでもいい!」
ルシアンは顔を歪め
「…牢獄?…死をもって償う?そんなこと、考えてもいない。寧ろ…すまない。」
「…すまない?って…」
頭を下げたルシアンに、ナダルは困惑した。
そんなナダルの気持ちなど、知らないルシアンは頭を下げたまま
「…ここは、祖父が作った地獄。償うべきは王家だ。」
「…」
「ここが存在した理由を知った時、祖父の血が俺のこの体に入っていると思うだけで…苦しかった。…すまない。そんな王家を信じられないだろうが、俺にチャンスをくれないか?祖父が壊した国を立て直すチャンスをくれないか?!」
ルシアンの悲痛な声は、ナダルの心の一部を捕らえようとしていたが、だが…ナダルの心の大部分は、悪夢のようなあの日を、そう簡単に忘れる事は出来ないと言い、その根源であった王家の人間を信用できないと言う。
何を…信じたらいいんだ。
誰を信じたらいいんだ。
頭を下げたルシアンを見ながら、ナダルは心の中で誰ともなしに、そう問いかけていた。
ルシアンに言う言葉は出てこない、だがこのままルシアンが頭を下げた姿は見たくない。
わけのわからない気持ちに、逃げるように視線をまたずらそうとしたときだった。
ルシアンの首筋から、背中の包帯が見え、ナダルはハッとした。
この男は…俺を助けようとして…背中を…。
ナダルの視線は固まったように、ルシアンの首筋から見える白い包帯から、視線を外せなくなっていた。
この男は生きなきゃいけない理由がいっぱいあるのに…なぜ、体を張ってまで俺を助けたんだ?
この男に寄せる期待の声に比べたら、俺の命なんか…邪魔な存在の俺なんか…寧ろ死んだほうが、これから先、スムーズに国をまとめて行けるだろうに、なぜ…だ。なぜ、俺なんか助けたんだ?!
ルシアンの白い包帯から、薄っすらと見えた血に、ナダルは震えながら
「…なんで…助けた。」
呟くようなナダルの声に、ルシアンが顔をあげ、ナダルを見た。
「なんで、俺を助けた?あんたは死ぬところだったんぜ!この国を良くしてくれるんだろう!惚れた女と一緒にこの国の為に頑張ってくれるんだろう!!…なのに、どうでもいい…俺の為に…。
いや…寧ろ死んだほうがいい俺なんかの為に、命を張ったんだ!」
ナダルは意識はしていなかったが、でもそれは、ルシアンをすでに王として認めているような言葉だった。
ルシアンは驚いたように、ナダルを見ていたが、にっこり笑うと…
「…わからん。気が付いたら…飛び出していた。」
「…バカだな。あんたはバカな奴だ。それじゃぁ、命がいくつあったも足りねぇじゃんか。ローラン国が豊かな国になるまで…生きてゆけるのかよ。」
「ナダル…。」
ナダルは項垂れると
「あんた…バカだよ。」と言って唇を噛み、また震える声で「バカだよ。」と言った。
その声に、ルシアンの胸は一杯になり、俯きながら
「だから、側で見ていてくれ…。バカな事をしないように見ていてくれ。」
ナダルはルシアンを睨みつけ
「ふざけんな!!何…何を…言って…んだよ。」
黙って成り行きを見ていたアストンだったが、ルシアンを睨んでいたナダルの目が、だんだんと潤んで行くのを見て、クスクスと笑い
「ナダル、面白れぇだろう?こんな王様が作る国を見たいなぁって思うだろう。」
ナダルの頭が微かに上下したのを見たアストンは、ルシアンに近寄り…小声で
「…【たらし】」
「えっ?」
アストンは人の悪い笑みを浮かべ
「小生意気なチビ姫が、それは…王にとって大事な武器でもあるって言っていたが…本当だな。マジ、心臓をぶち抜かれた気分だぜ。」
そう言いながら、立ち上がると扉をあけ
「そして…その武器は単発じゃないところが、またすごいんだとあのチビ姫が言うんだ。」
と言って、扉の前に立っていたロザリーの腕を引っ張って部屋へと引き入れ
「このふたりだから…ローラン国は良い国なるって、チビ姫が言ったんだが…まさに…そうだと思ったぜ。」
アストンはさらに悪い笑みを浮かべると、ルシアンへとロザリーの背中を押し
「だから、ここで痴話喧嘩なんかして、その武器を半減すんなよ。頼むぜ。」
アストンに背中を押され、戸惑うロザリーに、ルシアンは、ロザリーに何か言おうとしたが、なかなか言葉が見つからないでいた。
だが、答えは…出ていた。そう、気持ちは決まっていた。
青みがかったシャッに、黒いズボン。
肩を越した金色の髪を結び、青い瞳で俺を見る…この女性は…あの時…血だれけになりながら、体で叫んでいたんだ。
好きだと。
命をかけても良いと思うほど、俺を好きだと…民を愛し、国を守る、そういう俺を好きだと。
俺を好きだと…言っていた。
ルシアンは柔らかい笑みを浮かべ
「俺は…おまえを愛してる。」
「ルシアン殿下…。」
「でも……愛しているおまえを、妃として迎い入れることができるその喜びが…俺に違う考えを持たせ、俺の心を揺れ動かすようになった。」
「えっ?…」
「騎士として俺の側にいてくれるおまえに、俺はすべてを預けたいと思っている。それは今もだ。でも妃として俺の側にいるときは、逆に俺にすべてを預けて欲しいと思ってしまうのだ。女として…俺の側で幸せだと思って欲しいと…。だからおまえに…ウェディングドレスを着せてやりたかった。
どこかで思っていたんだ。
相手が俺でなければ…おまえは剣を置き、女としてこれから先、生きて行けるのではないかと…だから他の男と楽し気にいる姿を見ると……苦しかった。だから結婚式を挙げ、ウェディングドレスを着せて…俺と一緒になる事が、女として幸せだと思って欲しいと。
まず国を安定させなければ、何もかもが水の泡なのになぁ。ひどい事を言った、すまなかった。俺が…男としてまだまだということなんだ。」
ルシアンは、手を伸ばし…ロザリーの金色の髪に触れ
「王として、おまえの策が最良だと思う。俺に力を貸してくれ。…おまえに惚れている男としては少々辛いが…な。」
そう言って苦笑すると
「なんだか…カッコ悪いな。俺は…まったく…。ガキだな。」
今まで黙ってルシアンを見ていたロザリーが…
「…あなたは…ほんとガキです。どうして…わからないのですか?私は…あなたがいれば、ウェディングドレスも…なにもいらないのに、どうして…わからないのです。」
ロザリーは目を赤くし、そう言うとルシアンの腕の中に飛び込み
「ただ…あなたがいれば、私は幸せだとどうしてわからないの!」
「…すまない。」
その声にロザリーの泣き声は、大きくなった。
ルシアンの腕がしっかり、ロザリーに回ったのを見て、アストンはため息をつき、ナダルに近づくと小声で
「なぁ…【たらし】同志の会話は…強烈だろう。」
その声に…ナダルの口元が綻んだ。
その声に、アストンとルシアンは顔を向けたが、だが、アストンはその声の持ち主のナダルの視線が、ルシアンに向いていることに、笑みを浮かべると、自分もルシアンへと視線を向けた。
アストンとルシアンの視線が自分に集まったことに、ナダルは慌てて一度向けたルシアンへの視線を少しずらすと
「ル…シアン…殿下。ロイとジャスミンさえ、無事なら俺はいい。好きにしてくれ。牢獄でも…、いや死をもって償えというなら、それでもいい!」
ルシアンは顔を歪め
「…牢獄?…死をもって償う?そんなこと、考えてもいない。寧ろ…すまない。」
「…すまない?って…」
頭を下げたルシアンに、ナダルは困惑した。
そんなナダルの気持ちなど、知らないルシアンは頭を下げたまま
「…ここは、祖父が作った地獄。償うべきは王家だ。」
「…」
「ここが存在した理由を知った時、祖父の血が俺のこの体に入っていると思うだけで…苦しかった。…すまない。そんな王家を信じられないだろうが、俺にチャンスをくれないか?祖父が壊した国を立て直すチャンスをくれないか?!」
ルシアンの悲痛な声は、ナダルの心の一部を捕らえようとしていたが、だが…ナダルの心の大部分は、悪夢のようなあの日を、そう簡単に忘れる事は出来ないと言い、その根源であった王家の人間を信用できないと言う。
何を…信じたらいいんだ。
誰を信じたらいいんだ。
頭を下げたルシアンを見ながら、ナダルは心の中で誰ともなしに、そう問いかけていた。
ルシアンに言う言葉は出てこない、だがこのままルシアンが頭を下げた姿は見たくない。
わけのわからない気持ちに、逃げるように視線をまたずらそうとしたときだった。
ルシアンの首筋から、背中の包帯が見え、ナダルはハッとした。
この男は…俺を助けようとして…背中を…。
ナダルの視線は固まったように、ルシアンの首筋から見える白い包帯から、視線を外せなくなっていた。
この男は生きなきゃいけない理由がいっぱいあるのに…なぜ、体を張ってまで俺を助けたんだ?
この男に寄せる期待の声に比べたら、俺の命なんか…邪魔な存在の俺なんか…寧ろ死んだほうが、これから先、スムーズに国をまとめて行けるだろうに、なぜ…だ。なぜ、俺なんか助けたんだ?!
ルシアンの白い包帯から、薄っすらと見えた血に、ナダルは震えながら
「…なんで…助けた。」
呟くようなナダルの声に、ルシアンが顔をあげ、ナダルを見た。
「なんで、俺を助けた?あんたは死ぬところだったんぜ!この国を良くしてくれるんだろう!惚れた女と一緒にこの国の為に頑張ってくれるんだろう!!…なのに、どうでもいい…俺の為に…。
いや…寧ろ死んだほうがいい俺なんかの為に、命を張ったんだ!」
ナダルは意識はしていなかったが、でもそれは、ルシアンをすでに王として認めているような言葉だった。
ルシアンは驚いたように、ナダルを見ていたが、にっこり笑うと…
「…わからん。気が付いたら…飛び出していた。」
「…バカだな。あんたはバカな奴だ。それじゃぁ、命がいくつあったも足りねぇじゃんか。ローラン国が豊かな国になるまで…生きてゆけるのかよ。」
「ナダル…。」
ナダルは項垂れると
「あんた…バカだよ。」と言って唇を噛み、また震える声で「バカだよ。」と言った。
その声に、ルシアンの胸は一杯になり、俯きながら
「だから、側で見ていてくれ…。バカな事をしないように見ていてくれ。」
ナダルはルシアンを睨みつけ
「ふざけんな!!何…何を…言って…んだよ。」
黙って成り行きを見ていたアストンだったが、ルシアンを睨んでいたナダルの目が、だんだんと潤んで行くのを見て、クスクスと笑い
「ナダル、面白れぇだろう?こんな王様が作る国を見たいなぁって思うだろう。」
ナダルの頭が微かに上下したのを見たアストンは、ルシアンに近寄り…小声で
「…【たらし】」
「えっ?」
アストンは人の悪い笑みを浮かべ
「小生意気なチビ姫が、それは…王にとって大事な武器でもあるって言っていたが…本当だな。マジ、心臓をぶち抜かれた気分だぜ。」
そう言いながら、立ち上がると扉をあけ
「そして…その武器は単発じゃないところが、またすごいんだとあのチビ姫が言うんだ。」
と言って、扉の前に立っていたロザリーの腕を引っ張って部屋へと引き入れ
「このふたりだから…ローラン国は良い国なるって、チビ姫が言ったんだが…まさに…そうだと思ったぜ。」
アストンはさらに悪い笑みを浮かべると、ルシアンへとロザリーの背中を押し
「だから、ここで痴話喧嘩なんかして、その武器を半減すんなよ。頼むぜ。」
アストンに背中を押され、戸惑うロザリーに、ルシアンは、ロザリーに何か言おうとしたが、なかなか言葉が見つからないでいた。
だが、答えは…出ていた。そう、気持ちは決まっていた。
青みがかったシャッに、黒いズボン。
肩を越した金色の髪を結び、青い瞳で俺を見る…この女性は…あの時…血だれけになりながら、体で叫んでいたんだ。
好きだと。
命をかけても良いと思うほど、俺を好きだと…民を愛し、国を守る、そういう俺を好きだと。
俺を好きだと…言っていた。
ルシアンは柔らかい笑みを浮かべ
「俺は…おまえを愛してる。」
「ルシアン殿下…。」
「でも……愛しているおまえを、妃として迎い入れることができるその喜びが…俺に違う考えを持たせ、俺の心を揺れ動かすようになった。」
「えっ?…」
「騎士として俺の側にいてくれるおまえに、俺はすべてを預けたいと思っている。それは今もだ。でも妃として俺の側にいるときは、逆に俺にすべてを預けて欲しいと思ってしまうのだ。女として…俺の側で幸せだと思って欲しいと…。だからおまえに…ウェディングドレスを着せてやりたかった。
どこかで思っていたんだ。
相手が俺でなければ…おまえは剣を置き、女としてこれから先、生きて行けるのではないかと…だから他の男と楽し気にいる姿を見ると……苦しかった。だから結婚式を挙げ、ウェディングドレスを着せて…俺と一緒になる事が、女として幸せだと思って欲しいと。
まず国を安定させなければ、何もかもが水の泡なのになぁ。ひどい事を言った、すまなかった。俺が…男としてまだまだということなんだ。」
ルシアンは、手を伸ばし…ロザリーの金色の髪に触れ
「王として、おまえの策が最良だと思う。俺に力を貸してくれ。…おまえに惚れている男としては少々辛いが…な。」
そう言って苦笑すると
「なんだか…カッコ悪いな。俺は…まったく…。ガキだな。」
今まで黙ってルシアンを見ていたロザリーが…
「…あなたは…ほんとガキです。どうして…わからないのですか?私は…あなたがいれば、ウェディングドレスも…なにもいらないのに、どうして…わからないのです。」
ロザリーは目を赤くし、そう言うとルシアンの腕の中に飛び込み
「ただ…あなたがいれば、私は幸せだとどうしてわからないの!」
「…すまない。」
その声にロザリーの泣き声は、大きくなった。
ルシアンの腕がしっかり、ロザリーに回ったのを見て、アストンはため息をつき、ナダルに近づくと小声で
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