113 / 233
第三話 失われた真実
第十一章:1 闇を照らす輝き
しおりを挟む
朱里は寝台に横たえていた体を起こして、ぱちぱちと自分の頬を叩いた。まだ頭がのぼせているが、いつまでも放心している場合ではないと気を取り直す。
思い返そうとしても、理系の準備室からどうやって自宅まで帰ってきたのか、よく思い出せない。帰宅後はふらふらと自室まで戻り、制服を着替えることもせずにぱたりと寝台に突っ伏してしまった。舞い上がっているのか、動揺しているのか、うろたえているのか、よく判らない感情に支配されている。
朱里は準備室での出来事を振り返る。副担任の仮面をはずした遥は、端正な顔に淡い笑みを浮かべた。それは甘い色香を滲ませながらも、胸が締め付けられるほど切ない。間近に迫った、翳りのある深い色合いの瞳。彼の語った言葉の一つ一つが、小さな棘となって痛みをもたらす。
まるで朱里に触れることが罪であるかのように。
自身を蔑む寂しい言葉。
蘇る囁きが、朱里の中にじわりと哀しさを撒き散らす。
戒めを破るように、彼は強い力で朱里を引き寄せた。顔に触れた掌の熱、頬に落ちかかった柔らかな前髪。
それから。
朱里はそこまで思い出してから、再びかっと頬を染めた。少しずつ鎮まっていた熱が、再び全身を逆流する。
(うわー、駄目)
それ以上の回想を断ち切って、朱里は寝台に転がっていた抱き枕を力一杯抱きしめる。結局、あれから朱里は資料作成の手伝い処ではなく、全く使い物にならなくなり、遥に見送られて帰途についたのだった。
全身を茹蛸のように火照らせて、あからさまにうろたえていたのだから、どうにもならない。遥もあまりの狼狽ぶりに、困ったように苦笑していた気がする。
朱里は抱き枕を抱えたまま、再び寝台にどさりと横たわった。
(私ってば、お子様すぎるよっ。全然先生に釣り合ってない)
胸の内で咆えてから、抱えていた抱き枕をぽこぽこと殴ってしまう。
(先生は呆れてしまったかも。……っていうか、私、こんなに幼くて、本当に先生の伴侶だったの?)
自分がそんな立場を受け入れられるほど大人だったのかと、朱里は失われた事実について無意味な理由で悔やんでしまう。しばらく行き場のない恥じらいと情けなさにとりつかれて悶えていたが、朱里は抱き枕が可哀想な位に変形していることに気付いて、ようやく我に返った。
(とりあえず、着替えよう)
このままでは制服にも皺が寄ってしまう。取り戻した理性で寝台から降り立って、上着に手をかけた。平常心が戻ってくると、暗がりに沈んでいる室内が静まり返っていることに気付く。外は既に日が暮れて、空は夜の装いをはじめていた。朱里は部屋の明かりをつけて眩しさに瞬きしながら、双子の兄と姉が不在であることを思い出した。
このくらいの時刻に双子が帰宅していないことはよくある。けれど、麟華は今朝、帰りが遅くなることを予告していた。
――朱里、私と麒一は教師の集まりに参加して来るから、今夜はまた帰りが遅くなるわ。
朱里がいつものことだと深く考えずに頷くと、麟華は不気味なくらに目を輝かせていた。
――今夜は黒沢先生と二人っきりの夜になるかもしれないわね。朱里、女はガッツよ。この機
会を無駄にしたらお姉さまの鉄槌を喰らうことになるわよ。
突拍子もないことを言い出した姉に、朱里は有り得ないと、全否定の返事をした記憶がある。麟華の妄想はどこまでも膨れ上がっていた。
――そうだわ、これを機に二人で同じ部屋を使えばいいのよ。遡れば朱里はれっきとした伴侶だったんだから、誰も咎めたりしないわよ。私が許す。違うわね、むしろ推奨するわ。
朱里はいい加減にしてよと咆えて、さっさと家を出た。麟華の非常識な発言に気を取られていたが、双子の帰宅が遅くなることは間違いがない。遥と二人で過ごす時間を思うと、朱里はどうしようもなく焦る自分を感じたが、それよりも、ふと今まで感じることのなかった違和感を覚える。
双子が教師の集まりに参加すると言って、深夜に帰宅、あるいは朝帰りすることは、これまでにも度々あったことだ。朱里にはそれを疑う理由がなかったが、少なからず異世界の事情を知った今となっては、不自然な面が見えてくる。
そもそも高等部の美術教師と、大学部の文学系の助教授が一緒に参画できる集まりとはどんなものなのだろうか。学院の教師からも、そんな話を聞いたことがない。完全にないと否定はできないが、そんなに頻繁に交流があるものだろうかと疑問に思う。
帰宅した双子が、いつも不思議なほどに疲労感を漂わせているのも事実だ。これまでは、宴会にでも参加して羽目を外したのだろうと考えていたが、振り返るとやはり不自然だった。
教師の集まりと言うよりは、双子は異世界の事情で出掛けているのではないだろうか。朱里にとっては、そう考えるほうが自然に感じられた。
制服の上着から片腕を引き抜きながら、じっと双子の所在に思いを巡らせて見るが、朱里には検討もつかない。今まで双子が帰宅を果たさなかったことはないのだから、また疲れた顔をして戻ってくるに違いない。胸に広がりつつあった心細さを振り払って、朱里はベランダへと続く大きな窓の前へ歩み寄る。脱いだ上着を手に持ったまま、双子の帰宅がいつ頃になるのかと、すっかり日が暮れた夜空を仰いだ。
直後、朱里は目が痛くなるほどの輝きに包まれる。何が起きたのか判らないまま目元に手を翳して光をやり過ごしていると、それは視界の向こう側ですうっと収斂して消えた。ベランダの向こう側は、何事もなかったのかのように夜の装いを取り戻している。朱里は込み上げた不安に突き動かされるように、窓を開いてベランダへ飛び出した。身を乗り出すようにして、人気のない邸宅の前の道に目を凝らす。
辺りはしんとした静寂と夜の闇に包まれていて、日中のように向こう側を見渡すことができない。朱里はようやく肌に触れた外気の冷たさに気付き、身を震わせる。思わず自身の体を抱くように、腕を回した。息を潜めてみても、何の気配も感じられない。
ただ不安を煽るように、自身の鼓動だけが響く。
朱里は自分を抱く腕に力を込めた。
一瞬、辺りの闇を照らした真っ白な輝き。朱里は考えるよりも先に、血の気が引いていく恐ろしさに占められてしまう。
脳裏に、数日前の出来事が蘇っていた。
麟華に振り下ろされようとしていた白い刀剣の輝き。輝きの激しさは格段に異なっているのに、どうしても結びついてしまうのだ。
朱里は息苦しさを感じて、思わず喘ぐように呼吸する。動悸の止まない胸元にぎゅっと拳に握り締めた手を当てた。
双子も遥も、まだ帰宅していない。朱里は競りあがった不安に支配されて、居ても立ってもいられなくなる。すぐに踵を返すと、上着を羽織ることも忘れて家を飛び出していた。
思い返そうとしても、理系の準備室からどうやって自宅まで帰ってきたのか、よく思い出せない。帰宅後はふらふらと自室まで戻り、制服を着替えることもせずにぱたりと寝台に突っ伏してしまった。舞い上がっているのか、動揺しているのか、うろたえているのか、よく判らない感情に支配されている。
朱里は準備室での出来事を振り返る。副担任の仮面をはずした遥は、端正な顔に淡い笑みを浮かべた。それは甘い色香を滲ませながらも、胸が締め付けられるほど切ない。間近に迫った、翳りのある深い色合いの瞳。彼の語った言葉の一つ一つが、小さな棘となって痛みをもたらす。
まるで朱里に触れることが罪であるかのように。
自身を蔑む寂しい言葉。
蘇る囁きが、朱里の中にじわりと哀しさを撒き散らす。
戒めを破るように、彼は強い力で朱里を引き寄せた。顔に触れた掌の熱、頬に落ちかかった柔らかな前髪。
それから。
朱里はそこまで思い出してから、再びかっと頬を染めた。少しずつ鎮まっていた熱が、再び全身を逆流する。
(うわー、駄目)
それ以上の回想を断ち切って、朱里は寝台に転がっていた抱き枕を力一杯抱きしめる。結局、あれから朱里は資料作成の手伝い処ではなく、全く使い物にならなくなり、遥に見送られて帰途についたのだった。
全身を茹蛸のように火照らせて、あからさまにうろたえていたのだから、どうにもならない。遥もあまりの狼狽ぶりに、困ったように苦笑していた気がする。
朱里は抱き枕を抱えたまま、再び寝台にどさりと横たわった。
(私ってば、お子様すぎるよっ。全然先生に釣り合ってない)
胸の内で咆えてから、抱えていた抱き枕をぽこぽこと殴ってしまう。
(先生は呆れてしまったかも。……っていうか、私、こんなに幼くて、本当に先生の伴侶だったの?)
自分がそんな立場を受け入れられるほど大人だったのかと、朱里は失われた事実について無意味な理由で悔やんでしまう。しばらく行き場のない恥じらいと情けなさにとりつかれて悶えていたが、朱里は抱き枕が可哀想な位に変形していることに気付いて、ようやく我に返った。
(とりあえず、着替えよう)
このままでは制服にも皺が寄ってしまう。取り戻した理性で寝台から降り立って、上着に手をかけた。平常心が戻ってくると、暗がりに沈んでいる室内が静まり返っていることに気付く。外は既に日が暮れて、空は夜の装いをはじめていた。朱里は部屋の明かりをつけて眩しさに瞬きしながら、双子の兄と姉が不在であることを思い出した。
このくらいの時刻に双子が帰宅していないことはよくある。けれど、麟華は今朝、帰りが遅くなることを予告していた。
――朱里、私と麒一は教師の集まりに参加して来るから、今夜はまた帰りが遅くなるわ。
朱里がいつものことだと深く考えずに頷くと、麟華は不気味なくらに目を輝かせていた。
――今夜は黒沢先生と二人っきりの夜になるかもしれないわね。朱里、女はガッツよ。この機
会を無駄にしたらお姉さまの鉄槌を喰らうことになるわよ。
突拍子もないことを言い出した姉に、朱里は有り得ないと、全否定の返事をした記憶がある。麟華の妄想はどこまでも膨れ上がっていた。
――そうだわ、これを機に二人で同じ部屋を使えばいいのよ。遡れば朱里はれっきとした伴侶だったんだから、誰も咎めたりしないわよ。私が許す。違うわね、むしろ推奨するわ。
朱里はいい加減にしてよと咆えて、さっさと家を出た。麟華の非常識な発言に気を取られていたが、双子の帰宅が遅くなることは間違いがない。遥と二人で過ごす時間を思うと、朱里はどうしようもなく焦る自分を感じたが、それよりも、ふと今まで感じることのなかった違和感を覚える。
双子が教師の集まりに参加すると言って、深夜に帰宅、あるいは朝帰りすることは、これまでにも度々あったことだ。朱里にはそれを疑う理由がなかったが、少なからず異世界の事情を知った今となっては、不自然な面が見えてくる。
そもそも高等部の美術教師と、大学部の文学系の助教授が一緒に参画できる集まりとはどんなものなのだろうか。学院の教師からも、そんな話を聞いたことがない。完全にないと否定はできないが、そんなに頻繁に交流があるものだろうかと疑問に思う。
帰宅した双子が、いつも不思議なほどに疲労感を漂わせているのも事実だ。これまでは、宴会にでも参加して羽目を外したのだろうと考えていたが、振り返るとやはり不自然だった。
教師の集まりと言うよりは、双子は異世界の事情で出掛けているのではないだろうか。朱里にとっては、そう考えるほうが自然に感じられた。
制服の上着から片腕を引き抜きながら、じっと双子の所在に思いを巡らせて見るが、朱里には検討もつかない。今まで双子が帰宅を果たさなかったことはないのだから、また疲れた顔をして戻ってくるに違いない。胸に広がりつつあった心細さを振り払って、朱里はベランダへと続く大きな窓の前へ歩み寄る。脱いだ上着を手に持ったまま、双子の帰宅がいつ頃になるのかと、すっかり日が暮れた夜空を仰いだ。
直後、朱里は目が痛くなるほどの輝きに包まれる。何が起きたのか判らないまま目元に手を翳して光をやり過ごしていると、それは視界の向こう側ですうっと収斂して消えた。ベランダの向こう側は、何事もなかったのかのように夜の装いを取り戻している。朱里は込み上げた不安に突き動かされるように、窓を開いてベランダへ飛び出した。身を乗り出すようにして、人気のない邸宅の前の道に目を凝らす。
辺りはしんとした静寂と夜の闇に包まれていて、日中のように向こう側を見渡すことができない。朱里はようやく肌に触れた外気の冷たさに気付き、身を震わせる。思わず自身の体を抱くように、腕を回した。息を潜めてみても、何の気配も感じられない。
ただ不安を煽るように、自身の鼓動だけが響く。
朱里は自分を抱く腕に力を込めた。
一瞬、辺りの闇を照らした真っ白な輝き。朱里は考えるよりも先に、血の気が引いていく恐ろしさに占められてしまう。
脳裏に、数日前の出来事が蘇っていた。
麟華に振り下ろされようとしていた白い刀剣の輝き。輝きの激しさは格段に異なっているのに、どうしても結びついてしまうのだ。
朱里は息苦しさを感じて、思わず喘ぐように呼吸する。動悸の止まない胸元にぎゅっと拳に握り締めた手を当てた。
双子も遥も、まだ帰宅していない。朱里は競りあがった不安に支配されて、居ても立ってもいられなくなる。すぐに踵を返すと、上着を羽織ることも忘れて家を飛び出していた。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
魔法使いに育てられた少女、男装して第一皇子専属魔法使いとなる。
山法師
ファンタジー
ウェスカンタナ大陸にある大国の一つ、グロサルト皇国。その国の東の国境の山に、アルニカという少女が住んでいた。ベンディゲイドブランという老人と二人で暮らしていたアルニカのもとに、突然、この国の第一皇子、フィリベルト・グロサルトがやって来る。
彼は、こう言った。
「ベンディゲイドブラン殿、あなたのお弟子さんに、私の専属魔法使いになっていただきたいのですが」
【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です
楽歩
恋愛
「新人ですもの、ポーションづくりは数をこなさなきゃ」「これくらいできなきゃ薬師とは言えないぞ」あれ?自分以外のポーションのノルマ、夜の当直、書類整理、薬草管理、納品書の作成、次々と仕事を回してくる先輩方…。た、大変だわ。全然終わらない。
さらに、共同研究?とにかくやらなくちゃ!あともう少しで採用されて1年になるもの。なのに…室長、首ってどういうことですか!?
人見知りが激しく外に出ることもあまりなかったが、大好きな薬学のために自分を奮い起こして、薬師となった。高価な薬剤、効用の研究、ポーションづくり毎日が楽しかった…はずなのに…
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))中編くらいです。
旦那様に勝手にがっかりされて隣国に追放された結果、なぜか死ぬほど溺愛されています
新野乃花(大舟)
恋愛
17歳の少女カレンは、6つほど年上であるグレムリー伯爵から婚約関係を持ち掛けられ、関係を結んでいた。しかしカレンは貴族でなく平民の生まれであったため、彼女の事を見る周囲の目は冷たく、そんな時間が繰り返されるうちに伯爵自身も彼女に冷たく当たり始める。そしてある日、ついに伯爵はカレンに対して婚約破棄を告げてしまう。カレンは屋敷からの追放を命じられ、さらにそのまま隣国へと送られることとなり、しかし伯爵に逆らうこともできず、言われた通りその姿を消すことしかできなかった…。しかし、彼女の生まれにはある秘密があり、向かった先の隣国でこの上ないほどの溺愛を受けることとなるのだった。後からその事に気づいた伯爵であったものの、もはやその時にはすべてが手遅れであり、後悔してもしきれない思いを感じさせられることとなるのであった…。
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―
ういの
BL
日乃本帝国。日本によく似たこの国には爵位制度があり、同性婚が認められている。
ある日、片田舎の男爵華族・柊(ひいらぎ)家は、一通の手紙が原因で揉めに揉めていた。
それは、間もなく成人を迎える第二皇子・日乃本 義(ひのもと ただし)の、婚約者選定に係る招待状だった。
参加資格は十五歳から十九歳までの健康な子女、一名。
日乃本家で最も才貌両全と名高い第二皇子からのプラチナチケットを前に、十七歳の長女・木綿子(ゆうこ)は哀しみに暮れていた。木綿子には、幼い頃から恋い慕う、平民の想い人が居た。
「子女の『子』は、息子って意味だろ。ならば、俺が行っても問題ないよな?」
常識的に考えて、木綿子に宛てられたその招待状を片手に声を挙げたのは、彼女の心情を慮った十九歳の次男・柾彦(まさひこ)だった。
現代日本風ローファンタジーです。
※9/17 少し改題&完結致しました。
当初の予定通り3万字程度で終われました。
※ 小説初心者です。設定ふわふわですが、細かい事は気にせずお読み頂けるとうれしいです。
※続きの構想はありますが、漫画の読み切りみたいな感じで短めに終わる予定です。
※ハート、お気に入り登録ありがとうございます。誤字脱字、感想等ございましたらぜひコメント頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」
戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。
周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。
「……わかりました、旦那様」
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる