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第五章:旧街道の鬼火

22:鴉の葬式

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 明け方まで不審な灯りや影がないか見て回ったが、収穫がないままに可畏かい葛葉くずはとともに屋敷へ戻った。ほどなく他の隊員も戻ってきたが、めぼしい報告は得られない。

 第三隊は長丁場になりつつある現場にあわせて、昼夜を交代で巡回している。

 夜勤の隊員たちが、粛々と次の任務のために休息をとっていた。可畏かい葛葉くずはにも休むように命じる。
 屋敷の奥の間へ彼女をうながしてから、部屋をでようとすると、すぐに葛葉くずはから声がかかった。

御門みかど様は休まれないのですか?」

「私はまだ疲れていない」

「わたしも疲れていません」

「嘘をつくな。馬車での長旅のあと、ろくに休まず一晩見回りだ。疲れていないはずがない」

「でも、本当に――」

「ずっと気を張り詰めているから、自覚がないだけだ。黙って休め。これは命令だ」

「……はい」

 不服ですと顔にでていたが、可畏かいはあえて無視をする。

「さいわいおまえには鬼が憑いている。どうせなら役立ってもらおう」

夜叉やしゃにですか?」

「そうだ」

 葛葉くずはには自身の式鬼しきをつけることを考えていたが、夜叉ならいざと言う時には動くはずだ。
 可畏かいは差しだした指先を、円を描くようにすうっと動かした。ぼうっと赤い火が灯る。

「あっち!」

 ぼてっと小柄な少年が葛葉くずはの寝床に転げでた。彼はすぐに起き上がってキッと可畏かいを睨む。

「出してくれるのは嬉しいけど、他の方法はないの?」

「ない。葛葉くずはをたのむ」

「なんで僕があんたの言うことをきかなきゃいけないんだよ! そんな義理も借りもないね」

「私が頼まずとも、おまえはそう動くしかない」

「はぁ? こんなにガチガチに縛られていて、自由に動けないよ」

「それは私のせいじゃない」

 葛葉くずはを守るための数珠は、彼女の祖母を演じていた妖狐をつうじて帝が与えたものだ。
 夜叉は葛葉くずはに憑きながらも、半分は帝に使役されているようなものである。

いましめられていても、人に害を与えない限りは自由なはずだ。それにただでとは言わない。何か旨いものを用意してやる」

 食い物をしめすと、ふてくされていた顔がぱっと晴れた。
 笑うとあどけない美少年にみえる。 

「やる気がでてきた!」

「ほどほどにな。とりあえず葛葉くずはに子守唄でも歌ってやれ」

「わかった!」

 嬉々として答える夜叉に、葛葉くずはがぶるぶると首をふった。

「大丈夫です! 眠れます!」

 焦って声をあげる葛葉くずはにわらってみせて、可畏かいは踵をかえす。
 夜叉を動けるようにしておけば、ひとまず心配はない。

 部屋をでようとすると、ひらりと黒い影が目の前をよぎった。同時に、バタバタと板張りの廊下を駆けてくる足音がする。

「失礼いたします! 閣下!」

 可畏かいの指先に漆黒のアゲハがとまると同時に、少将である四方が飛びこんできた。

「さきほど、また遺体が発見されました!」

 ひらりと舞う漆黒の伝令も同じことを伝えている。

「すぐにでる」

 一緒に行くと言いだした葛葉くずはを「休め」と一喝して、可畏かいは屋敷をでた。

 四方とともに早足に通りをいくと、頭上からぎゃあぎゃあとけたたましい鳴き声が響いてくる。
 まだわずかに朝焼けがのこる空に、からすの大群が影をつくっていた。

「こちらです、閣下」

 おびただしい数の鴉が、軒先や屋根にとまっている。鴉たちが見守る先に惨劇の現場があった。まさに街道の真ん中である。凶行を隠すような意図はなく、むしろ誇示したいのだろうか。

 すでに遺体は運びだされ、警察に引きわたされていた。さいわい早朝のため野次馬も少ない。隊員によって周辺の検証が行われていたが、近くには幾羽かの鴉の死骸が横たわっている。

(これは鴉の葬式か)

 群れをつくって羽ばたき、さらに鴉が集ってくる。鴉には同胞の死骸にあつまる習性がある。それを鴉の葬式とよんでいたが、可畏かいには遺体を放置した場所をしらしめているようにも感じられた。

(鴉の死骸が意図的なものか、ただ成り行きでそうなってしまっただけなのか)

四方しかた

「はい」

「犠牲者の周辺の聞きこみを徹底しろ」

「はい」

 明らかに異形の気配がするのに、狩ることができない。
 はがゆい気持ちを抱えたまま、可畏かいはふたたび辺りに集う鴉たちを眺めた。
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