161 / 170
閑話(おまけ):クラウディア始祖生誕祭
161:ルカ・クラウディア1
しおりを挟む
「………………」
箱の中をみた瞬間、ルカはスーが持ってくる箱をまちがえたのだと思った。まちがえて持ってきたとしてもある種の疑問が残るが、とりあえず何もいわずスーの顔を見る。
「ヘレナ様が最高の品をご用意くださいました。こちらの縄は緊縛師の方が丁寧に手入れをしてある品で、肌に触れても滑らかなのだとか」
スーが早口に何かを説明しているが、ルカの思考はまだ目の前の現状を受け入れていない。
「こちらの蝋燭も、低温で溶けて肌に触れてもーー」
「ちょっと待ってください。スー」
「はい」
顔をあげたスーの頬が真っ赤に紅潮しているのをみて、ルカは彼女が箱を取り違えていないことを察する。
「これを私に贈るように、ヘレナに勧められたのですか?」
それしか考えられないと思ったが、スーはさらに恥ずかしさに身を染める。頬だけではなく、顔から首筋までが綺麗に発色していた。
「い、いえ。わたしがお願いしたのです。ルカ様のために用意したいものがあると。そうしたらヘレナ様がご協力くださってーー」
スーはもじもじと恥じらいながらも、しっかりと自分の意志で用意したと打ち明けた。ルカは懸命に状況を整理するが、初心なスーが思いつくとは考えにくい。
「スー、なぜこれを私に贈ろうと思ったのですか?」
素直に聞いていみるしかなかった。
「そ、それは、その、ルカ様に悦んでいただきたいからです!」
「………………、私が、悦ぶ?」
「はい。わたしはルカ様がお望みであれば、それがどんなことでもすべて叶えてさしあげたいのです」
恥じらいに頬をそめて訴える様子はいじらしく、ルカは彼女を抱き寄せたくなる。
けれど。
どう考えても話の雲行きが怪しい。
「ルカ様のお好みの趣向を一緒に楽しめるように、わたしも精いっぱい励みますので!」
一世一代の告白と言わんばかりに、スーは言いつのる。視界にうつる彼女の様子は健気だが、話の筋道が斜め上すぎた。
「スーの気持ちはありがたいのですが、私達の間にこのような小道具は必要ありません」
「え!?」
「たしかに世の中には倒錯的な夜の世界を好む者もいますが、私の趣味ではありませんので」
斜め上に飛びだしているスーの思考を連れ戻すために、ルカははっきりと伝えた。
「――でも、ルカ様」
スーはうなだれたように肩を落としてから、ふたたび顔をあげる。表情にさらに気迫がこもっていた。ルカは嫌な予感を覚える。
「わたしはルカ様がくつろげる場所になりたいのです」
「はい。スーはすでに叶えています」
「いいえ、まだまだ足りておりません! わたしはルカ様がどのような嗜好をお持ちでも大好きです! だから、どんなことでも隠さず打ち明けてください。もし、このさきルカ様が特殊な欲望を満たすために他の女性を求めるようなことになったら、わたしは悔しくて夜も眠れません!」
いったい何を打ち明けられているのだろうかと、ルカは恥じらいながら訴えるスーを見つめてしまう。まったく身に覚えのない誤解が、スーの意気ごみを加速させているようだった。
「ですので、わたしには隠さず求めてほしいのです。………ルカ様にとって、わたしはまだまだ経験不足で、いまはまだ「寝たきり淑女」でしかありませんが。必ずルカ様の期待に添えるようになります。だから、ルカ様の好みをわたしに教えてほしいのです」
あまりの斜め上さに言葉を失いかけたが、何事にも全力投球のスーらしい主張だった。ルカはすれ違いや誤解があるなら、糸が複雑にからむ前にほどいていけばいいと気をとりなおす。
「わたしは何があってもルカ様が大好きです」
スーは羞恥に瞳を潤ませながら、くりかえし訴える。その様子があまりに愛しくて、おもわず理性が飛びそうになったが、ルカはなんとか踏みとどまって彼女の手から箱をとりあげた。
「スーからの贈り物は受けとりますが、これは必要ありません」
「でも、ルカ様………」
「どこから仕入れた情報なのか知りませんが、私にはスーが思っているような趣味はありませんので」
「でも、ヘレナ様も否定されませんでした」
ルカはようやくなるほどと納得する。デタラメに皇家の裏事情を書いたゴシップは世に溢れている。すべてに裏付けがなく信憑性に乏しいものばかりだが、交流を広げればスーの耳にも聞こえてくるだろう。
真実味のない話も、ヘレナが噛んでいるのなら事情は変わる。スーがここまで思いこむのも仕方がない。ルカは以前ルキアが姉から面白い話を聞いたと笑っていたのを思いだした。
悪趣味だなと思うが、大した問題にはならないと考えたのだろう。余興にされるのは面白くなかったが、原因がわかれば誤解を解くのは容易い。
「それは、ヘレナが面白がっているだけですね」
「ヘレナ様が?」
「はい。彼女は人をからかうのが好きですから」
信じられないと目を剥くスーに笑いながら、ルカは伝える。
「それに、この際伝えておきますが、あなたは「寝たきり淑女」ではないですよ」
「え?……あ、もしかして、わたしはそれ以下なのでしょうか」
一気に不安げになるスーに、ルカは首を横に振ってみせる。
「あなたが「寝たきり淑女」なら、ほとんどの女性がそうなってしまう」
「どういう意味でしょうか」
「意味はーー」
ルカは彼女の耳元で囁くように、どういうことかを教えた。
「だから、スーが「寝たきり淑女」なわけがない」
火が出るのではないかと思うほど、スーの顔がさらに火照っていく。どこまで赤く色づくのかと思うが、照れている様子はひたすら愛しい。
「そ………そう、なのですか?」
「はい。だから、スーが劣等感や焦りを覚えることはありません」
ルカは恥じらいで甲まで染まっているスーの手をとった。
「スーの気持ちはとても嬉しい。でも、こんなに震えるほど恥ずかしい思いをする必要はない」
箱の中をみた瞬間、ルカはスーが持ってくる箱をまちがえたのだと思った。まちがえて持ってきたとしてもある種の疑問が残るが、とりあえず何もいわずスーの顔を見る。
「ヘレナ様が最高の品をご用意くださいました。こちらの縄は緊縛師の方が丁寧に手入れをしてある品で、肌に触れても滑らかなのだとか」
スーが早口に何かを説明しているが、ルカの思考はまだ目の前の現状を受け入れていない。
「こちらの蝋燭も、低温で溶けて肌に触れてもーー」
「ちょっと待ってください。スー」
「はい」
顔をあげたスーの頬が真っ赤に紅潮しているのをみて、ルカは彼女が箱を取り違えていないことを察する。
「これを私に贈るように、ヘレナに勧められたのですか?」
それしか考えられないと思ったが、スーはさらに恥ずかしさに身を染める。頬だけではなく、顔から首筋までが綺麗に発色していた。
「い、いえ。わたしがお願いしたのです。ルカ様のために用意したいものがあると。そうしたらヘレナ様がご協力くださってーー」
スーはもじもじと恥じらいながらも、しっかりと自分の意志で用意したと打ち明けた。ルカは懸命に状況を整理するが、初心なスーが思いつくとは考えにくい。
「スー、なぜこれを私に贈ろうと思ったのですか?」
素直に聞いていみるしかなかった。
「そ、それは、その、ルカ様に悦んでいただきたいからです!」
「………………、私が、悦ぶ?」
「はい。わたしはルカ様がお望みであれば、それがどんなことでもすべて叶えてさしあげたいのです」
恥じらいに頬をそめて訴える様子はいじらしく、ルカは彼女を抱き寄せたくなる。
けれど。
どう考えても話の雲行きが怪しい。
「ルカ様のお好みの趣向を一緒に楽しめるように、わたしも精いっぱい励みますので!」
一世一代の告白と言わんばかりに、スーは言いつのる。視界にうつる彼女の様子は健気だが、話の筋道が斜め上すぎた。
「スーの気持ちはありがたいのですが、私達の間にこのような小道具は必要ありません」
「え!?」
「たしかに世の中には倒錯的な夜の世界を好む者もいますが、私の趣味ではありませんので」
斜め上に飛びだしているスーの思考を連れ戻すために、ルカははっきりと伝えた。
「――でも、ルカ様」
スーはうなだれたように肩を落としてから、ふたたび顔をあげる。表情にさらに気迫がこもっていた。ルカは嫌な予感を覚える。
「わたしはルカ様がくつろげる場所になりたいのです」
「はい。スーはすでに叶えています」
「いいえ、まだまだ足りておりません! わたしはルカ様がどのような嗜好をお持ちでも大好きです! だから、どんなことでも隠さず打ち明けてください。もし、このさきルカ様が特殊な欲望を満たすために他の女性を求めるようなことになったら、わたしは悔しくて夜も眠れません!」
いったい何を打ち明けられているのだろうかと、ルカは恥じらいながら訴えるスーを見つめてしまう。まったく身に覚えのない誤解が、スーの意気ごみを加速させているようだった。
「ですので、わたしには隠さず求めてほしいのです。………ルカ様にとって、わたしはまだまだ経験不足で、いまはまだ「寝たきり淑女」でしかありませんが。必ずルカ様の期待に添えるようになります。だから、ルカ様の好みをわたしに教えてほしいのです」
あまりの斜め上さに言葉を失いかけたが、何事にも全力投球のスーらしい主張だった。ルカはすれ違いや誤解があるなら、糸が複雑にからむ前にほどいていけばいいと気をとりなおす。
「わたしは何があってもルカ様が大好きです」
スーは羞恥に瞳を潤ませながら、くりかえし訴える。その様子があまりに愛しくて、おもわず理性が飛びそうになったが、ルカはなんとか踏みとどまって彼女の手から箱をとりあげた。
「スーからの贈り物は受けとりますが、これは必要ありません」
「でも、ルカ様………」
「どこから仕入れた情報なのか知りませんが、私にはスーが思っているような趣味はありませんので」
「でも、ヘレナ様も否定されませんでした」
ルカはようやくなるほどと納得する。デタラメに皇家の裏事情を書いたゴシップは世に溢れている。すべてに裏付けがなく信憑性に乏しいものばかりだが、交流を広げればスーの耳にも聞こえてくるだろう。
真実味のない話も、ヘレナが噛んでいるのなら事情は変わる。スーがここまで思いこむのも仕方がない。ルカは以前ルキアが姉から面白い話を聞いたと笑っていたのを思いだした。
悪趣味だなと思うが、大した問題にはならないと考えたのだろう。余興にされるのは面白くなかったが、原因がわかれば誤解を解くのは容易い。
「それは、ヘレナが面白がっているだけですね」
「ヘレナ様が?」
「はい。彼女は人をからかうのが好きですから」
信じられないと目を剥くスーに笑いながら、ルカは伝える。
「それに、この際伝えておきますが、あなたは「寝たきり淑女」ではないですよ」
「え?……あ、もしかして、わたしはそれ以下なのでしょうか」
一気に不安げになるスーに、ルカは首を横に振ってみせる。
「あなたが「寝たきり淑女」なら、ほとんどの女性がそうなってしまう」
「どういう意味でしょうか」
「意味はーー」
ルカは彼女の耳元で囁くように、どういうことかを教えた。
「だから、スーが「寝たきり淑女」なわけがない」
火が出るのではないかと思うほど、スーの顔がさらに火照っていく。どこまで赤く色づくのかと思うが、照れている様子はひたすら愛しい。
「そ………そう、なのですか?」
「はい。だから、スーが劣等感や焦りを覚えることはありません」
ルカは恥じらいで甲まで染まっているスーの手をとった。
「スーの気持ちはとても嬉しい。でも、こんなに震えるほど恥ずかしい思いをする必要はない」
0
お気に入りに追加
511
あなたにおすすめの小説
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
聖女よ、我に血を捧げよ 〜異世界に召喚されて望まれたのは、生贄のキスでした〜
長月京子
恋愛
マスティア王国に来て、もうどのくらい経ったのだろう。
ミアを召喚したのは、銀髪紫眼の美貌を持った男――シルファ。
彼に振り回されながら、元の世界に帰してくれるという約束を信じている。
ある日、具合が悪そうな様子で帰宅したシルファに襲いかかられたミア。偶然の天罰に救われたけれど、その時に見た真紅に染まったシルファの瞳が気にかかる。
王直轄の外部機関、呪術対策局の局長でもあるシルファは、魔女への嫌悪と崇拝を解体することが役割。
いったい彼は何のために、自分を召喚したのだろう。
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる