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閑話(おまけ):クラウディア始祖生誕祭

156:ヘレナ・ベリウス1

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時系列がすこし戻って「148:大人の階段」と「149:飛空艇から見る故郷」の間のお話です。
クラウディアの始祖生誕祭は、いわゆるクリスマスのようなイベントです。
ルカスーのクリスマス。お楽しみいただければ幸いです。


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 皇太子の私邸で侍従長をつとめるオトの淹れる紅茶は美味しい。彼女の気配はいつも穏やかで、主と主が歓迎する客人への気づかいがいたるところに感じられる。

 ヘレナはスーに招かれて皇太子の私邸を訪れるたびに、このやしきにながれる和んだ空気を感じていた。

 やしきのもつ空気は主の色をまとう。つとめる執事や侍従の影響もあるが、基本的には主の性格がよくあらわれるのだ。

 スーを迎える前のルカの私邸の空気も決して悪くはなかったが、主が不在であることが多く、ヘレナが訪れてもどこか他人行儀で味気のない様子だった。

 けれど、今はあきらかに歓迎されているというのが伝わってくる。
 ルカに変わって私邸の雰囲気を形作っているのは、まちがいなくスーだろう。

 今もスーの元を訪れたヘレナの前で、彼女は生き生きと赤い瞳を輝かせて嬉しそうに笑っている。
 ルカの私邸の広間が、彼女スーがいるだけで華やかに感じられた。

 外は寒さの厳しい時期を迎えているが、スーと二人でお茶を飲む時間は、ヘレナにほっこりとした温かい気持ちを与えてくれる。

「ヘレナ様、先日はありがとうございました。わたしのわがままでヘレナ様のお宅へ大勢でお邪魔してしまったのに、快く迎えてくださってとても感謝しております」

「いいえ。わたくしの方こそ、とても楽しいひとときでしたわ」

 ヘレナがスーを自宅へ招待すると、彼女は交流のある令嬢を一緒に伴ってもよいかと尋ねてきた。

 ヘレナとスーの関係には、皇太子の公妾と婚約者という複雑さがある。世間的に考えれば、触れてはいけない地雷に近づくような危うさが漂うはずだった。

 そんな茶会に参加したがる令嬢がいるとも思えなかったが、ヘレナはスーの意欲を組んで快く受け入れた。結果として、彼女は華やかな催しとなりそうなほどの人数を伴って、ヘレナの自宅を訪れたのだ。

 いつも様々な者との交流をはかるために、自宅を会場に多くの者を招待することには慣れていたが、ヘレナはあらためてスーの顔の広さに驚いた。いつのまにか、彼女は帝国貴族の令嬢を足場にして、多くの知人を作っていたようである。

「わたくしはスー様の視野の広さに驚きましたわ。わたくしも新しい知人ができて、とても有用な茶会となりました」

「そう仰っていただけると嬉しいです! でも、わたしもヘレナ様のおかげで新しい出会いがありました!」

 スーを招くと決めた時から、ヘレナはこれから皇太子妃となる彼女の味方となりそうな者を紹介するために、多くの賓客を招待していた。

 ヘレナの自宅は互いに呼び寄せた者で賑やかになり、茶会は華やかなひとときになった。

「わたしがルカ様の私邸に引きこもっているだけでは、いずれ足手まといになります。そうはなりたくないので、自分の身を自分で守れる程度には、味方を作っておこうと思って励んでいます。だから、ヘレナ様にいろんな方を紹介していただけて、とても嬉しかったです」

「はい。スー様のお考えは、わたくしにも伝わってきました」

 皇太子の公妾と婚約者という関係がつくる色メガネも、あの茶会をきっかけにして解消されていくだろう。皇太子の公妾という印象から語られるヘレナの噂は不穏なものが多い。ヘレナは甘んじて暗い噂を受け入れていたが、スーにはヘレナが悪役となる風聞が耐えがたかったのかもしれない。

 茶会をきっかけに、ヘレナの本当の人となりや真実を喧伝したかったという意図も感じていた。

「わたしはルカ様との結婚をできるだけ多くの方に祝福してほしいです。わたしとルカ様は絶対におしどり夫婦になってみせますので!」

 力強く語るスーに頼もしさを感じて、ヘレナは自然と笑みがもれる。

「スー様は素晴らしい皇太子妃になられますわ」

 彼女の言葉にはすでに行動が伴っている。ルカの想いを糧に美しく花開いてゆくのが目に見えるようだった。

「一時はどうなることかと案じましたけれど」

 ヘレナは思いだしておかしくなるが、笑い話にできてよかったというのも本音だった。

(あのときは、本当に危機感をいだきましたもの)

 ルカとの初めての夜に向けての、スーの意気ごみはとんでもなかった。
 一歩まちがえると、恐ろしい事態に発展していたかもしれない。

 帝国貴族の夜の作法には苛烈な面もあるが、ルカが想いを募らせた無垢なスーに、そんなことを望むはずもない。全てを鵜呑みにしたスーの意欲と焦りには、ヘレナの方が肝を冷やした。無垢ゆえの意気ごみで、ルカとの夜を迎える前に取り返しのつかないことになるのではないかと、一時は本気で案じていたのだ。

「その節は本当にありがとうございました。ヘレナ様の助言がなければ、わたしはとんでもない過ちを犯すところでした」

 今となっては、スーにも当時の無謀さが理解できるらしい。無知を恥じるかのように、頬を染めている。

「それに、ヘレナ様のお言葉にとても助けられました」

「わたくしがお力になれたのなら、とても嬉しいですわ」
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