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第二十一章:サイオンの希望

123:皇太子を支える者

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 クラウディアとサイオンの実情。

 告白の決意をしても、あまりにも真実味に欠ける話である。信じてもらうことにも壁があると考えていたが、事態はあっさりと受け入れられた。ガウスと宰相は既に皇帝ユリウスと以前から情報を共有していたのだ。サイオンを欺くだけはあって、完璧な機密の共有である。

「この件は陛下に固く口留めされておりましたので」

 ガウスが面白がるように、口元に人差し指を立てる素振りをする。

「それは理解できるが……」

「皇帝陛下はいち早く殿下の野望に気づいておられましたので、それで我々に打ち明ける決意をなさったのでしょう。御身だけでは険しい理想も、殿下が同じ未来を望んでいるとわかれば現実味を帯びてくるとお考えになられた。しかし陛下の英断もさることながら、ルキア殿の洞察力も恐ろしいですね」

 ガウスの声には素直な賞賛がにじんでいる。

「そうだな。私も常々絶対に敵に回したくない男だと思っていたが、まさかここまでとは」

「さすが宰相のご子息ですが、私は背筋に悪寒が走りました」

 ガウスが自身の巨体を両腕で抱くような仕草をして笑っている。ルカもルキアの言動を振り返ると身震いしそうになった。ガウスの率直な感想に思わず頷いてしまう。

 ルカからサイオンに関する告白を聞いても、ルキアが驚愕する様子はなかった。ただしみじみと深い吐息をついて頷いただけである。

(だいたい、そのようなことではないかと検討がついておりました)

 事情をすべて受け止めてからの、最初のルキアの言葉である。

(ずっとスー様には何か窺い知れない深刻な事情があると思っていたのですよ)

 ルカは耳を疑ったが、考えてみれば彼は以前から同じようなことを語っていた気がする。

(そうでなければ、これまでの殿下の態度に説明がつきません)

 頑なにスーの好意を受け入れないルカへの違和感。ルキアはずっと燻らせていたのだろう。

 彼の父親であるべリウス宰相はサイオンの機密を知っていたが、宰相が鉄壁の意志で秘事を守るのは想像に難くない。息子というだけでルキアに明かすような甘さもない。

 固く秘匿されていた王家の掟。
 辿り着くはずもない筋道に、ルキアはおおよその検討をつけていたと涼しい顔をしている。

 ルカが信じられないという顔をしていると、ルキアは不敵にほほ笑んだ。そして、なぜ想像がついたのか坦々と成り行きを語った。情報力、洞察力、交渉力、もてる力のすべてを発揮してルキアは真相に迫っていたのだ。

 ルカだけではなく、ガウスも絶句した恐るべき能力である。

(殿下が打ち明けてくださって私は全てが腑に落ちました。さすがに私の予想では賄えなかった事実もございますが、回答を得て今はとても清々しい気持ちです)

 その時のルキアの晴れやかな笑顔を、ルカは決して忘れないだろう。賞賛を通り越して、恐怖を感じるほどの明晰な側近である。

(それが殿下の決意であれば、私はできる限りの力を尽くします)

 迷いのない揺るぎない誓いだった。ルキアがそう言ってくれることは想像ができたが、言葉にされるとこの上もない安堵感が広がった。

(殿下)

 目の前には、幼少から見慣れたルキアの屈託のないほほ笑みがあった。

(私は帝国のために諦念が御身にしみ込んでしまった殿下を案じておりましたが、どうやら杞憂だったようです)

 幼い頃から共にあったべリウス姉弟の思いをルカは改めて噛みしめる。ありがとうと感謝を伝えると、ルキアは何をいまさらと皮肉気に笑った。

「……私は周りの者に恵まれているな」

 ガウスに素直な感想を述べると、満面の笑みが返ってくる。

「殿下にそのように仰っていただけるとは、なんと名誉なことでしょう」

 優雅な手振りとともに、ガウスが茶化すように大袈裟な口上を述べる。ルカはいつもの調子でたしなめた。

「おまえはいちいち大袈裟だな。体が大きいので暑苦しいくらいだ」

「常に筋肉が燃焼しておりますので」

 憂慮を紛らわせるようにガウスは冗談を言う。
 ルカは呆れたが、スーの安否を思い固く張りつめている気持ちが、わずかに緩んだ。
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