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第1章 幼少期(7歳)

52 王妃殿下とお茶会

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 そこかしこから視線を感じる。
 探るようなものもあるけれど、大体は悪意のある視線ね。
 元から分かっていたことだし、これくらい前に比べれば全然だから気にしないわ。
 問題があるとしたら、幼子だから気付かれないだろうと思っている愚か者がこれほど居ることかしら。

 一番悪意の強い視線に目を向けてやろうかと一瞬考えたけれど、余計な警戒を持たせるのも駄目かとそれは止めておいた。
 誰だったのかしらね、あの視線。
 前に感じていたものと遜色ないくらいの強い悪意の視線だったけれど。
 


「あの日はレイオスの対応ばかりできちんとした名乗りをできなかったな。改めて、名乗ろう。私はエバレット・フォン・アタナシアだ」
「はい。ありがとう存じます、王妃殿下。本日はお招きいただき光栄でございます。私はシュベーフェル家の長子、アリルシェーラ・シュベーフェルと申します。どうかアリルシェーラ、とお呼びくださいませ」
「ああ。楽にしてくれ、今日この場には私と君しかいないのだから」

 王妃殿下とこうして会うのは、最初に挨拶に行った時以来よ。
 あの時は驚いたわ。いきなりイース様を怒鳴るんですもの。
 いえ、仕方のないこととは思うけど。
 どういった先触れだったのかは分からないけれど、5歳も年下の子供と婚約するなんて言い出されたら、普通に驚くし問いただすわよね。
 
「レイオスとはどうだ?無茶なことは言われたりしていないか」
「はい。安全のために出歩いたりはできませんが、よくしてくださっています」
「そうか。何か困ったことなどはないか?」
「困ったこと、ですか?」

 生活に関しては、特段と困ったことはないわね。淑女教育だけではあるけれど教師もつけてもらえたし。魔法の方は言ったばかりだから先の話でしょう。
 他にあるとしたら……困っていることではないけれど、現状がどうなっているのか気になる、かしら?
 今の調査状況や、自分に対する周りの反応を正確に知りたいわ。
 この先表に出ていくのなら、知っていた方がいいもの。自衛のためにも。
 でもこれに関しては王妃殿下からよりもイース様から聞きたいわ。イース様の出方を見るためにも。
 と、なると。
 多分王妃殿下、何か言わないと引き下がらない感じがするのよね。
 そして恐らくイース様に対して何かを言わせたいのではないかしら。不満とか。
 でも馬鹿正直には言えないし……ううん、言えるとしたら……
 
「そう、ですね。レイオス様がドレスや装飾品を贈ってくださるのですが、……最近ずっとこんな感じでして、あの、」
「ああ……見事にレイオスの色ばかりだな」
「はい。婚約者に自分の色を贈るということは分かるのですが……少々、多いのでは、と……」
 
 今日のドレスもイース様が用意されたものだけれど、見事に白地に緑の装飾よ。シンプルですっきりしているけれど、刺繍、とっても凝っているわ。合わせて作られているヘッドドレスと靴も。
 どちらかというと子供らしさよりも大人らしいデザインね。イース様の好みかしら。
 私も好きよ。ごてごてしたものや無駄に華美なものはあまり好きじゃない。

「ふむ。婚約者への贈り物についての予算は決められている。レイオスもその辺りは把握していよう。計算して贈っているだろうから気にせずともいい。と、いうのは君の望む答えではないのだろうな」
「その、はい……」
「正直に言えば私としても少々頭が痛い。異性に一切興味を見せなかったレイオスが、君には分かりやすい執着を見せている。いや、諸々を考えれば何も問題ないどころか助かるんだが」
「まあ……、だから、レイオス様には婚約者がおられなかったのですね」
「その通りだ。何度か年の近い令嬢と顔合わせさせたこともあるが、全て当たり障りなく躱していた。積極的な令嬢も何人かいたが……二、三回会った後は全て向こうから辞退してきてな。それが何度も続いたため相手は自分で見つけろという話になった」
 
 はあ、と溜め息を吐く王妃殿下。
 
 …………。
 イース様、何をなさったの??
 
 野心を持つ・持つよう育てられて令嬢ってとってもしつこくて面倒なのに。それが自ら辞退なんて。
 いえ、なんとなく予想はつくのだけれど。
 
「王族の婚姻は義務だ。レイオスもそれは分かっている。それなのにこうだったわけだが……君は何故、レイオスがそうしたと思う?」
 
 あら。
 それを私に聞くのね?

「レイオス様のことですから、時間の無駄と思われたのではないでしょうか?婚約者に時間を割くよりも、王族としての義務と教養を優先なされたのでしょう」
 
 イース様がいつ、自らが王になれないとお知りになったのかは分からないけれど。
 理解していたのなら、王妃になりたい令嬢・・・・・・・・・を迎え入れるようなことは、しないでしょうね。利用価値があったら話は別でしょうけれど。
 つまりいなかったのでしょうね。イース様として利用価値があると少しでも思える令嬢は。
 
「凄いな、君は。レイオスはまさにそう言ってきた。実際、その時のレイオスの選択は現在となってはかなり助けられている」
「……レイオス様が国王陛下のお仕事を手伝われることがあると。私の事が余計に負担になっているのではと申し訳なく……」
「いや、そこは問題ない。いつものことと言えるからな。むしろ好都合とも考えているだろう」
「そうでしょうか……いつもお忙しそうで、心配です」
 
 12歳のイース様に国王陛下の仕事を手伝わせて助けられているってどうなの?
 第一王子としてイース様がやるのはおかしいことではないでしょうけれど、いつものことというのは流石におかしいでしょう。
 おかしいと思わないの?
 おかしいと思わないくらい前からそんな状態が続いているの?
 王族とはそういうものなの?

 …………。

 スージーは、イース様が重い物を抱えていると言ったわ。
 彼女はそんなイース様の助けになるようにと王妃殿下から頼まれていると。
 その王妃殿下がイース様の負担を負担と思っていないのは、どうなの?
 私が何か試されているのかしら。
 でもそうじゃなかったとしたら……


「私はまだ幼く理解していないことも多くあると存じますが、現状はとても歪だと思います」

 
 10年後、イース様があんな風になられたのは、無理のないことなのかもしれない。
 だけど今は私がお傍に居るのだから、少しでもイース様の負担を減らすことができれば。

 王妃様の真意を、確かめなければ。

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