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第1章 幼少期(7歳)

28 ★レイオス視点

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 泣くだけ泣いて眠ってしまった少女を抱え、ベッドに横たえる。
 泣けるようにと状況を作ったが、予想外が起きた。
 
「縋るのが母親とは思わなかった」
「そうですね。本人も母親に対してあまり良い印象を持っていないようでしたから。……そもそも縋る相手なんて皆無のはずなのに、何故母親だったのでしょう」
「話していない何かがあったか、何か思い出したか、消去法か。その辺じゃない?」
 
 本人の様子と調査から考えて話していない何かがあった可能性は低い。
 だから消去法だろうとは思うけど……誰かに縋るような性格には思えないんだよな。
 当人の今までの言動から、誰にも頼らず自身で何もかもできるように教育されていたようだが、それが事実か調べようにも家庭教師は死亡済み。内容は家庭教師に一任していたため父親も他の使用人達も知らないそうだ。
 だからどんな意図でどんな教育を行っていたかは、家庭教師自身か依頼をした前当主しか分からない。
 いや、前当主は裏の事情を一切話していないから全て家庭教師の采配だった可能性が高いな。
 
「一応起きたら話を聞くけど、情報はないと考えた方がいいな。父親や使用人からの情報の扱いはどうなっている?」
「陛下に渡っていますね。兄の話では『頭を抱えたそうにしていた』そうです。恐らく殿下が自分の手で片付けたいと申し出られましたら一部以外は丸投げ……もとい、やらせていただけるかと」
「ああ、じゃあ言ってくるか。父上が今抱えている案件はどうなったか知ってる?」
「優先順位的にこちらの一部を片付けるまで横に置くそうです」
「分かった。横に置けるなら誰かに任せて問題なさそうだしそれも簡単なものは寄越すよう説得するとする」
「分かっていると思いますが」
「抱え込み過ぎないようにする。あの二人にも話を通して、お前はこっちに残すから」
「分かりました」
 
 彼女のことをメイドに任せ、二人連れ立って部屋を出る。

 侍女がいなくなってしまったから、用意しておいた者に今から来るように言っておかないと。
 家庭教師はどうしようかな。勉強をしたがっていたけど、今はあの資料の清書を楽しみにしていたし。でも一度、きちんとした確認はしておきたい。
 向こうの予定もあるから手配するだけしておくか。
 
 これからまた忙しくなるな。
 ひとつ片付いたと思えば別の問題が発生して、忙しいのは終わりそうにない。
 ……少しだけ、父上の気持ちが分かってきた。
 でもそもそも問題を先送りにしてきたのは父上なんだよな。
 王族内で起こってしまった異常事態が原因とはいえ、その道を選んだのだからもう少しどうにかならなかったのか。
 ならなかったからこうなっているのだと分かっていても、頭の中では同じ考えが堂々巡りしている。
 少しずつやっていくしかない。
 
「……そういえば、ロバートは今どうしてる?」
「ロバート殿下ですか?8歳の王族が受ける程度の教育を受けているだけかと」
「出来は?」
「このまま努力を続け、かつ優秀な側近と配偶者が見つかれば問題はないとの評価です」
 
 つまり微妙なのか。
 こればかりは属性に関係なく本人の資質だが……。
 
「アーシャは小さくてもあんなに優秀なのに、困ったものだ」
「彼女と比べては駄目でしょう。資質の問題では」
「まあね。そのうち激励でもしに行くか」
 
 俺がどうしたって手に入れられない地位が約束されてるんだから、ちゃんとしてくれないと困る。
 まあ本人含め殆どの者はそうだってことを知らないんだけどね。知るのは最低でもロバートがもっと成長して正しい分別が付くようになってからだ。
 父上が言う10年というのは、つまりそういうこと。
 だけどそこまで全てのことを待つのはどうかと思うんだよ。やれることはやるべきだ。
 父上がはっきりと制止を口にするまでは、色々とやらせてもらう。
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