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第1章 幼少期(7歳)
26 揺さぶりの結果は
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「お嬢様は今、一体何をしておられるのですか?危険なことではありませんよね?」
部屋に入り落ち着くなり、カトリーナがそう詰め寄ってきた。
心配しているはしているようだけれど、随分な言い草ね。
ここを一体どこだと思っているのかしら?
「カトリーナ。ここはレイオス殿下の離宮よ。危険なんてありえないの。そういうことを言うものじゃないわ。レイオス殿下を信用していないと言っているようなものよ」
「そ、れは。……申し訳、ありません」
流石に不味いと分かったようで、すぐに謝罪を口にする。
でも、納得はしていないようね。
なんだか焦っているみたい。一体何に?
少し、仕掛けてみましょう。
「一体どうしたの?何か気になることでもあった?」
「いいえ、ただ……早くお屋敷に戻られた方が、お嬢様のために良いと思ったのです」
「それは……、お会いはできないけれどお父様もここにいるのでしょう?帰ってもどうしようもないわ」
「ですが、いつまでも王家の皆様の負担になるわけにもいきません。頃合いを見て、お屋敷に戻られるべきです」
言い募るカトリーナ。
そう言えば、私が王家の負担になりたくないと言い出すと思ったのでしょう。
幼い頃の私は、誰かの負担になることを恐れていた。
カトリーナ以外の者達は皆、私を避けるか無視するか嫌々な態度を隠さなかったからだ。
お父様とお婆様、どちらの命令かは分からないけれど。
「…………あのね、カトリーナ。私、気付いたの」
「それは……一体、何にですか?」
「屋敷の者達は、おかしいということよ。当主の一人娘への、いずれ主になるものへの態度ではないわよね」
しっかりと目を合わせて、言う。
…………カトリーナの、視線が泳いだ。
なんてわかりやすいのかしら。
信じたいという思いが、目を曇らせていたのね。
「ねぇカトリーナ。貴方は何を望んでいるの?――――私は貴方の娘ではないのよ」
そう口にした、瞬間。
カトリーナの顔がとてつもない絶望に歪んだ、と思ったら、どんっと突き飛ばされた。
「きゃぁっ!」
突然のことに受け身も取れず、床に倒れ込む。
まさかカトリーナがそんなことをするとは思わず、完全に油断していた。
「失礼します!どうされましたか!」
悲鳴を聞きつけたのだろう、部屋の前で警備をしていた騎士が飛び込んできた。
そして床に倒れた私と呆然と立っているカトリーナを見て、さっと私を庇うように間に入ってくる。
行動が早い。優秀な騎士だわ。
「ち、がう。ちがうんです、私はっ!」
どこか混乱した様子で駆け寄ろうとするカトリーナ。
それを、騎士が押し止める。
「それ以上の接近は敵対と見做す!手の空いている者、この女を拘束しろ!」
「待ってください!私はあの子に危害を加えようとしたわけではありませんっ!」
「レイオス殿下の婚約者であるご令嬢が悲鳴を上げて倒れていた、それは動かぬ事実だ!二人きりで居た以上貴様を拘束しない理由がない!」
騎士の怒号。
それから開け放たれたままの扉から数人の騎士が入ってきて、カトリーナを拘束していく。
カトリーナは抵抗するけれど、騎士の前ではそれは全くの無意味。
カトリーナ自身もすぐそれに気付いたのだろう、私を見て、口を開く。
この状況で、一体何を言うつもりかしら。
言い訳か。真実か。
「違うの、お願い話を聞いて!――――キサラっ!」
悲しみに歪んだ顔で、悲鳴のように声を張り上げる。
飛び出た名前は、私のものではなかった。
やっぱり、そうだったのね。
知識でだけは知っていた、その名前の持ち主は――――カトリーナの、本当の娘。
騎士に引き摺られていくカトリーナ。
何度も何度もこちらを振り返ろうとしては騎士に邪魔をされ、抵抗空しくどこかへ連れて行かれてしまった。
部屋には、私を助け起こしてくれたメイドと、最初に飛び込んできてくれた騎士が残っている。
「私は殿下をお呼びしてくる。君はこのままご令嬢についていてくれ」
「はい」
二人で頷き合い、騎士も部屋を出て行った。
…………。
カトリーナが何らかの洗脳を受けていたかは、十中八九そうだと思う。
施したのはお父様ではなくお婆様でしょうね。お父様がしたのなら、私に対して優しく接するはずがない。他の使用人達と同じように。まあ使用人の何割がお父様側だったかは分からないけれど。
カトリーナは、私が自分の娘であるように思わされていたのかしら?
でもそれでは色々矛盾があるわよね?私をきちんとシュベーフェル家の娘と認識していたようだし。
今どこかで取り調べを行っているのだとしたら、何か分かるかしら。カトリーナは確実にお婆様と繋がっているから。
…………。
助けたいと、思っていたはずなのに。
最初から全てが手遅れだった、なんて。どうしようもないじゃない。
マーサ先生も、カトリーナも。
部屋に入り落ち着くなり、カトリーナがそう詰め寄ってきた。
心配しているはしているようだけれど、随分な言い草ね。
ここを一体どこだと思っているのかしら?
「カトリーナ。ここはレイオス殿下の離宮よ。危険なんてありえないの。そういうことを言うものじゃないわ。レイオス殿下を信用していないと言っているようなものよ」
「そ、れは。……申し訳、ありません」
流石に不味いと分かったようで、すぐに謝罪を口にする。
でも、納得はしていないようね。
なんだか焦っているみたい。一体何に?
少し、仕掛けてみましょう。
「一体どうしたの?何か気になることでもあった?」
「いいえ、ただ……早くお屋敷に戻られた方が、お嬢様のために良いと思ったのです」
「それは……、お会いはできないけれどお父様もここにいるのでしょう?帰ってもどうしようもないわ」
「ですが、いつまでも王家の皆様の負担になるわけにもいきません。頃合いを見て、お屋敷に戻られるべきです」
言い募るカトリーナ。
そう言えば、私が王家の負担になりたくないと言い出すと思ったのでしょう。
幼い頃の私は、誰かの負担になることを恐れていた。
カトリーナ以外の者達は皆、私を避けるか無視するか嫌々な態度を隠さなかったからだ。
お父様とお婆様、どちらの命令かは分からないけれど。
「…………あのね、カトリーナ。私、気付いたの」
「それは……一体、何にですか?」
「屋敷の者達は、おかしいということよ。当主の一人娘への、いずれ主になるものへの態度ではないわよね」
しっかりと目を合わせて、言う。
…………カトリーナの、視線が泳いだ。
なんてわかりやすいのかしら。
信じたいという思いが、目を曇らせていたのね。
「ねぇカトリーナ。貴方は何を望んでいるの?――――私は貴方の娘ではないのよ」
そう口にした、瞬間。
カトリーナの顔がとてつもない絶望に歪んだ、と思ったら、どんっと突き飛ばされた。
「きゃぁっ!」
突然のことに受け身も取れず、床に倒れ込む。
まさかカトリーナがそんなことをするとは思わず、完全に油断していた。
「失礼します!どうされましたか!」
悲鳴を聞きつけたのだろう、部屋の前で警備をしていた騎士が飛び込んできた。
そして床に倒れた私と呆然と立っているカトリーナを見て、さっと私を庇うように間に入ってくる。
行動が早い。優秀な騎士だわ。
「ち、がう。ちがうんです、私はっ!」
どこか混乱した様子で駆け寄ろうとするカトリーナ。
それを、騎士が押し止める。
「それ以上の接近は敵対と見做す!手の空いている者、この女を拘束しろ!」
「待ってください!私はあの子に危害を加えようとしたわけではありませんっ!」
「レイオス殿下の婚約者であるご令嬢が悲鳴を上げて倒れていた、それは動かぬ事実だ!二人きりで居た以上貴様を拘束しない理由がない!」
騎士の怒号。
それから開け放たれたままの扉から数人の騎士が入ってきて、カトリーナを拘束していく。
カトリーナは抵抗するけれど、騎士の前ではそれは全くの無意味。
カトリーナ自身もすぐそれに気付いたのだろう、私を見て、口を開く。
この状況で、一体何を言うつもりかしら。
言い訳か。真実か。
「違うの、お願い話を聞いて!――――キサラっ!」
悲しみに歪んだ顔で、悲鳴のように声を張り上げる。
飛び出た名前は、私のものではなかった。
やっぱり、そうだったのね。
知識でだけは知っていた、その名前の持ち主は――――カトリーナの、本当の娘。
騎士に引き摺られていくカトリーナ。
何度も何度もこちらを振り返ろうとしては騎士に邪魔をされ、抵抗空しくどこかへ連れて行かれてしまった。
部屋には、私を助け起こしてくれたメイドと、最初に飛び込んできてくれた騎士が残っている。
「私は殿下をお呼びしてくる。君はこのままご令嬢についていてくれ」
「はい」
二人で頷き合い、騎士も部屋を出て行った。
…………。
カトリーナが何らかの洗脳を受けていたかは、十中八九そうだと思う。
施したのはお父様ではなくお婆様でしょうね。お父様がしたのなら、私に対して優しく接するはずがない。他の使用人達と同じように。まあ使用人の何割がお父様側だったかは分からないけれど。
カトリーナは、私が自分の娘であるように思わされていたのかしら?
でもそれでは色々矛盾があるわよね?私をきちんとシュベーフェル家の娘と認識していたようだし。
今どこかで取り調べを行っているのだとしたら、何か分かるかしら。カトリーナは確実にお婆様と繋がっているから。
…………。
助けたいと、思っていたはずなのに。
最初から全てが手遅れだった、なんて。どうしようもないじゃない。
マーサ先生も、カトリーナも。
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