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第1章 幼少期(7歳)

6 無色の魔力

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 大神殿の中央、生誕の間。
 この国で産まれた者ならば一度は確実に足を踏み入れる場所。

 伝え聞いた話では、ここで初代国王が生まれたという。


「こちらへどうぞ」
「……はい」

 神官様に呼ばれ、部屋の中央へ向かう。
 お父様とカトリーナは入り口で待機。中へ入れるのは調べる神官様と調べられる者だけなのよ。誤認してしまうとまずいから。

「それでは始めます」

 神官様が宣言し、儀式を始める。
 壁や床に刻まれた模様が光の道を作り、中央に立つ私へと集まってくる。
 美しい光景だわ。この光景は二度目よ。覚えている。他のことはほとんど覚えていないのに。
 本当に……私に一体、何が起きていたのかしら。

「どうか目を閉じてください。そして自らの心と向き合うのです」

 足元まで光が来たあたりで神官様が言った。
 言われたとおりに目を閉じて、胸元で手を組む。

 属性は、どうしようもないことだわ。生まれついての色で大体が決まっているもの。
 だけど少しくらい期待してもいいはず。だってほんのわずかでも私にも光の属性があったのだもの。
 どうせ水の属性が出るにしても、以前よりも少しでも強く光の属性が出てくれれば少しは待遇が良くなるかもしれない。

「そ、そんな。まさか……」

 そう考えながらその時を待っていると、耳に神官様の呆然としたような声が届いた。
 どうしたのかしら。なんだか様子がおかしいみたい。
 目を開く。そして視界に飛び込んできたのは水の属性の青い魔力――では、なかった。

「え……」

 私を取り巻いていたのは、僅かに金色を纏った、何の色も持たない透明な魔力だった。

 水の属性じゃ、ない?
 それは喜ばしいけれど、でも、どの色でもない透明とはつまりどういう属性なのかしら?

「無属性」

 いつの間にか隣に来ていた神官様がぼそりと言う。
 その声音は、硬くて厳しい。

 私、何かとてもまずい状況だったりするのかしら。

「水ではないのか。そして多少光はある、と。魔力量は十分、ならいいだろう。帰るぞ」

 入口に立つお父様が言う。
 その後ろで、カトリーナが絶望したかのような悲壮な顔をしていた。
 お父様の反応はまあ分かるけれど、……カトリーナの反応がおかしい。
 カトリーナはこの透明な魔力……無属性?について何かを知っているんだわ。そしてお父様は、知らない。
 どういうことかしら……?

「おい、さっさとしろ」

 考え込んでいると、お父様が不機嫌そうに言ってきた。
 考え事の邪魔をしないでほしいわ。
 今の私にはお父様の優先順位は低いのよ。
 それでも私は子供でお父様の娘だから、従わなければならないのよね。
 溜め息を噛み殺しお父様の元へ向かおうと歩き出そうとした、けれど。

「え?」

 そんな私の肩を、神官様がやんわりと掴んだ。
 驚いて神官様を見るが、彼は険しい顔でお父様を見ている。

「どうやらオリオン殿は無属性がどういうことかお知りではないようですね」

 感情を押し込めたような声音で神官様が言う。
 なに……何が起きているの?訳が分からないわ。

「それがなんだと言う?神官ごときが……さっさとそれをこちらに寄越せ」
「いいえ。ご息女を貴方に渡すことはできません。貴方には今この瞬間、虐待の容疑が掛かりましたので」
「なっ!?」

 お父様が驚愕の声を上げる。

 虐待。この場合、私に対する、よね?
 確かにお父様が私にしたことは虐待以外の何物でもないわ。操り人形にしたことは当然として、覚えている限りの幼い私にしてきた仕打ちも。

「ご令嬢、どうぞあちらへ。少々お父君と話をいたしますので」

 神官様がそう入口とは別の、いつの間にか開いていた扉へと誘導する。
 逆らう理由もないし、行った方がいいわね。恐らく私には悪いようにはならないはず。
 お父様と神官様の話も気になるけど……ああ、そうだわ。

「あの、カトリーナ……私の侍女も一緒では、いけませんか?」

 少し視線を彷徨わせながら、神官様に聞く。
 駄目なら駄目でいいけれど、このよく分からない状況で一人になるのは少し不安だもの。それにカトリーナは何か知っているようだし。

「あちらの女性ですか?ふむ、……よいでしょう、部屋にご案内を。さあ、貴方はあちらへ」
「は、はい」

 神官様に促され、部屋を出る。
 その先には修道女は一人いて、どうぞこちらへ、と私をどこかへ案内しようとしていた。
 神官様を振り返ってみると頷かれたから、少し不安ながらもその修道女の後を追った。

 薄暗い廊下は、少しだけあの石の牢に似ていた。

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