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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第十二章・次代を告げる暁を5
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「お前といると落ち着く」
「嬉しいことを。最近、忙しくしているそうですね」
「教団の調査結果が出揃ってくれたはいいが、禁術について改めて精査する必要が出てきてな。他に大司教ルメニヒのことも分かったぞ」
教団の話題にイスラも顔を上げました。
それはイスラも気になっていたのでしょう。
ハウストが目配せし、フェリクトールが私とイスラに調査結果を話してくれます。
「あの禁術は人間界の一部の部族に伝わる古い術だということが分かった。国を持たない部族は人間界の各地に点々と暮らしていたが、部族の頭役を担う一族が山奥に村を作って暮らしていたようだ。ルメニヒは幼い頃に族長と婚約し、嫁いだということが分かった。一族の跡継ぎを作る為の結婚だが、夫婦仲は良好で跡継ぎもすぐに誕生したよ。しかし、その待望の跡継ぎはひどく病弱で幼くして病死してしまってね……」
「跡継ぎが……」
高貴な身分の婚姻は跡継ぎを作る為に行なわれることが多いもの。
それは貴い身分であればあるほど重責をもって担われるもので、希少な部族の族長に嫁いだルメニヒの重責も相当なものだったことでしょう。
「更に不幸は続いて、数年後に生まれた子も病弱だったようだ」
「そうでしたか……。二人目の子はどうなったのですか?」
「二人目が病に伏せるたびにルメニヒは悲観し、やがて部族に古くから伝わる呪術に傾倒していくようになった。呪術で病を治して丈夫な子どもにしようとしたようだ。だが、無情にも二人目も幼くして病死してしまったよ。しかも間もなくして妾が跡継ぎを誕生させて、やがて族長も妾の方を気に掛けるようになっていったらしい」
「…………」
言葉が出てきませんでした。
ルメニヒの境遇に胸が痛い。二人の子どもを失くしたばかりか、愛していた族長の心も別の方へと移っていったのですから。それではいったいなんの為にっ……。
「そこからのルメニヒは気が触れたような言動をするようになったそうだよ。狂信的に呪術に没頭し、禁術にまで手を出した。禁を犯したルメニヒを部族は追放したというわけだ」
フェリクトールの言葉にイスラが納得したように頷きます。
「そこからナフカドレ教団に入信して大司教にまで上り詰めたということだな。教団はルメニヒが入信した頃から急速に組織力を高めていった。教団の古い信仰と、部族の禁術は相性が良かったんだろう。狂信的な信仰者が多かったわけだ」
イスラも独自に教団について調査していたのでいろいろと合点がいったのでしょう。
私は、……ルメニヒの言葉が耳に甦るようでした。
ルメニヒは私に何度も言ったのです。私がルメニヒや地下最深部で禁術の実験台になった女性たちを理解することはないと。彼女は私を持たざる者だと言いました。
言うとおりです。持たざる者の私がここにいることを許されているのは奇跡のようなもの。
ルメニヒの行ないは非道なもので決して許されるものではありません。しかし、完全完璧な赤ん坊を作ることにこだわった彼女が切なくもありました。
せめてという気持ちで、目を伏せて彼女の鎮魂を祈りました。
私が彼女や地下最深部にいた女性たちを真に理解できるなど思っていません。けれど、この鎮魂の祈りが彼女に届きますようにと願います。
「ブレイラ、大丈夫か?」
黙り込んだ私にハウストが心配そうに声を掛けてくれました。
私はゆっくりと顔を上げ、大丈夫ですと小さく頷きます。
ルメニヒの境遇に同情を覚えました。胸が痛くなるほどに憐れに思います。でも、それに流されてしまうことは何の救いにもなりません。
「私は大丈夫です。それより薬を使われていた魔族の方々は大丈夫ですか? 解毒剤が処方されたと聞いています」
「問題ない。すぐに薬が抜ける訳じゃないが今はほとんど落ち着いている」
「そうですか、それは良かったです」
私はほっと安堵するとイスラを振り向きます。
解毒剤の処方が間に合ったのはイスラのお陰でした。
「イスラもありがとうございました。あなたのお陰で手遅れにならずに済んだ方々がたくさんいます」
「ブレイラが俺に植物のことを教えてくれていたからだ」
「あなたのお役に立てて嬉しいですよ」
そう言ってイスラに笑いかけると、またハウストに向き直りました。そして。
「式典までに皆が少しでも回復してくれると嬉しいですね。この日は、魔族にとって特別な日ですから」
「ブレイラ……」
ハウストが驚いたように目を丸めました。
この『式典』とは、もちろんクロードを正式にハウストと私の第三子にする為のもの。この式典で、クロードが次代の魔王であるということを魔界全土に周知させるのです。
同時に、この式典の日からクロードは西都から王都に移り住み、ハウストと私の子どもとして育てることが決まっていました。
「いいのか? お前は乗り気じゃなかっただろう」
そう、私はずっとクロードを譲られることに躊躇いを覚えていました。でも今、前向きに受け入れることを決めています。
受け入れなければならないのだと、納得したのです。
「……本音を言えば、ランディとメルディナに申し訳ないという気持ちもあります。二人は納得してくれていますが、子を手離して平気でいられる親などいませんから。でもルメニヒや地下最深部にいた女性たちのことを知った時、私の躊躇いなどただのワガママだということを思い知らされました」
「ブレイラ……」
「どうやら私は勘違いをしていたのです。私の憂いの気持ちは自己満足に過ぎなかったのですから。今ならルメニヒが私を憎む気持ちも、メルディナの厳しさも、なんとなく分かる気がするんです。だっておかしいですよね。私は魔界の世継ぎを授かれないのに、ここから身を引くことはしたくありません。それなのに譲り受ける世継ぎを育てることを躊躇ったのですから」
そう、とんだワガママではないですか。
身勝手な自分に呆れて自嘲がこみあげました。
でもそんな私をハウストが何か言いたげに見ています。困惑と焦りが混じった顔で、彼にしては珍しい。
「……ブレイラ」
「どうしました?」
「…………お前、自分が世継ぎを作れないことを気にして……馬鹿なことを考えてないだろうな」
「馬鹿なこと……?」
意味が分かりませんでした。
でも少し考えて、もしかしてとハウストを見つめ返します。
「まさか、あなたっ……」
「…………。お前には前科がある」
前科……、それは二年前の冥王戴冠の時のことですね。
二年前、ハウストと私は一度別れたのです。理由はハウストが私を忘れてしまったからですが、私自身も世継ぎを授かれない自分が王妃でいいのかと悩みました。
そんな事ありましたね。思い出して口元が微かに綻びます。
「バカですね。世継ぎに悩んで今になって身を引くなら、ゼロスが冥王を戴冠した二年前にとっくに身を引いています。でも、私はここにいるじゃないですか」
意外と心配性ですよね。でもそれが向けられるのは私だけだと思うと気分がいいです。
私はハウストを見つめて笑いかけました。
「ハウスト、私はワガママなのですよ。きっと四界で一番ワガママで、一番酷い人間です。ご存知ですよね」
私は身を引くつもりはなく、ハウストが私以外を抱くのも許せません。世継ぎの為だと言われても絶対納得してあげられません。
この私のワガママはハウストが魔王だから許されているもの。私はずるいのです。すべてを承知でワガママをしているのですから。
そう言って微笑んだ私にハウストはほっと安堵した顔になりました。
「知ってるぞ。お前は結構ワガママだ」
安心したくせに意地悪なことを言いますね。
自分でも承知していることですが、あまりワガママワガママ言われるのも……。
「ええっ、ブレイラ、ワガママだったの?!」
ふとゼロスの声が割り込みました。
ゼロスは口端に焼き菓子の欠片をくっつけながら大きな瞳で私を見つめています。
「なんで? どうして? そうだったの?」
不思議そうに首を傾げています。
その反応はちょっと嬉しいですね。それってゼロスは私をそんなふうに思ったことはないということですからね。
イスラは……、黙ったままティーカップに口を付けています。我関せずなのは意味を察しているからでしょうか。
私は小さく苦笑して、ゼロスの口端にくっついた焼き菓子の欠片をとってあげます。
「ワガママにもいろいろあるんですよ」
「うん?」
「きっと、もう少し大きくなったら分かります」
「そうなの?」
首を傾げたままのゼロスに小さく笑ってしまいました。
私はイスラとゼロスを見つめる。二人にはお話ししなければならないことがあります。
イスラはもう知っていることですが、しっかりと二人に伝えたい。
「イスラ、ゼロス、お話しがあります」
真剣な様子に気付いて二人も改まって私を見つめます。
二人を順に見て、ゆっくりと口を開く。今からお話しすることは私たち家族にとってとても大切なこと。
「もうすぐあなた達に弟ができます。名はクロード、あなた達も一度会ったことがありますね」
「ああ。分かってる」
イスラが頷いて、笑んでくれました。
あなたには二人目の弟ですね。
「迎えてくれて嬉しいです。可愛がってあげてください」
「大丈夫だ。そもそも俺とゼロスだって血が繋がった兄弟なわけじゃない。ちゃんと面倒見てやる」
「頼もしいですね。ありがとうございます、イスラ」
今までイスラには何度も助けられてきました。
私だけではありません。弟のゼロスにとってもイスラは偉大な兄。まだゼロスが赤ん坊だった頃は守り、今では共に戦って、兄として肩を並べて歩んでくれている。立派な長男です。
次にゼロスを見ました。
ゼロスは意味が分かっているのかいないのか、きょとんとした顔です。
「ふーん、そうなんだあ~」
とりあえずお返事してくれましたが、……分かってませんよね、これ。
クロードが誰なのか分かっているでしょうが、新しい兄弟ということにピンときていないようです。
「ゼロス、あなたも兄上ですね」
「ふーん、そうなんだあ~。…………んん? えっ、ええええ?! ぼ、ぼぼぼく、あにうえになるの?!」
ゼロスが飛び上がる勢いで驚きました。
良かった、ようやく理解してくれたよう。
でも理解した途端、あまりに重大な事態に今度は動揺しまくりです。
「ぼ、ぼくがあにうえっ……。あにうえみたいに、あにうえで、あにうえだから、あにうえになるから、ぼくあにうえっ……!」
「ゼ、ゼロス、落ち着いて……」
理解してくれたのは嬉しいですが今度は逆に心配になってきました。大丈夫でしょうか。
ハウストとイスラもゼロスの動揺ぶりにちょっと困惑しています。
果たしてゼロスはいったいどんな兄上になるのか……。
一抹の不安はありますが、でもきっと大丈夫でしょう。独りでないのなら大丈夫です。
ここにいる私たちは誰一人血が繋がっていないけれど、家族になれたのですから。
「嬉しいことを。最近、忙しくしているそうですね」
「教団の調査結果が出揃ってくれたはいいが、禁術について改めて精査する必要が出てきてな。他に大司教ルメニヒのことも分かったぞ」
教団の話題にイスラも顔を上げました。
それはイスラも気になっていたのでしょう。
ハウストが目配せし、フェリクトールが私とイスラに調査結果を話してくれます。
「あの禁術は人間界の一部の部族に伝わる古い術だということが分かった。国を持たない部族は人間界の各地に点々と暮らしていたが、部族の頭役を担う一族が山奥に村を作って暮らしていたようだ。ルメニヒは幼い頃に族長と婚約し、嫁いだということが分かった。一族の跡継ぎを作る為の結婚だが、夫婦仲は良好で跡継ぎもすぐに誕生したよ。しかし、その待望の跡継ぎはひどく病弱で幼くして病死してしまってね……」
「跡継ぎが……」
高貴な身分の婚姻は跡継ぎを作る為に行なわれることが多いもの。
それは貴い身分であればあるほど重責をもって担われるもので、希少な部族の族長に嫁いだルメニヒの重責も相当なものだったことでしょう。
「更に不幸は続いて、数年後に生まれた子も病弱だったようだ」
「そうでしたか……。二人目の子はどうなったのですか?」
「二人目が病に伏せるたびにルメニヒは悲観し、やがて部族に古くから伝わる呪術に傾倒していくようになった。呪術で病を治して丈夫な子どもにしようとしたようだ。だが、無情にも二人目も幼くして病死してしまったよ。しかも間もなくして妾が跡継ぎを誕生させて、やがて族長も妾の方を気に掛けるようになっていったらしい」
「…………」
言葉が出てきませんでした。
ルメニヒの境遇に胸が痛い。二人の子どもを失くしたばかりか、愛していた族長の心も別の方へと移っていったのですから。それではいったいなんの為にっ……。
「そこからのルメニヒは気が触れたような言動をするようになったそうだよ。狂信的に呪術に没頭し、禁術にまで手を出した。禁を犯したルメニヒを部族は追放したというわけだ」
フェリクトールの言葉にイスラが納得したように頷きます。
「そこからナフカドレ教団に入信して大司教にまで上り詰めたということだな。教団はルメニヒが入信した頃から急速に組織力を高めていった。教団の古い信仰と、部族の禁術は相性が良かったんだろう。狂信的な信仰者が多かったわけだ」
イスラも独自に教団について調査していたのでいろいろと合点がいったのでしょう。
私は、……ルメニヒの言葉が耳に甦るようでした。
ルメニヒは私に何度も言ったのです。私がルメニヒや地下最深部で禁術の実験台になった女性たちを理解することはないと。彼女は私を持たざる者だと言いました。
言うとおりです。持たざる者の私がここにいることを許されているのは奇跡のようなもの。
ルメニヒの行ないは非道なもので決して許されるものではありません。しかし、完全完璧な赤ん坊を作ることにこだわった彼女が切なくもありました。
せめてという気持ちで、目を伏せて彼女の鎮魂を祈りました。
私が彼女や地下最深部にいた女性たちを真に理解できるなど思っていません。けれど、この鎮魂の祈りが彼女に届きますようにと願います。
「ブレイラ、大丈夫か?」
黙り込んだ私にハウストが心配そうに声を掛けてくれました。
私はゆっくりと顔を上げ、大丈夫ですと小さく頷きます。
ルメニヒの境遇に同情を覚えました。胸が痛くなるほどに憐れに思います。でも、それに流されてしまうことは何の救いにもなりません。
「私は大丈夫です。それより薬を使われていた魔族の方々は大丈夫ですか? 解毒剤が処方されたと聞いています」
「問題ない。すぐに薬が抜ける訳じゃないが今はほとんど落ち着いている」
「そうですか、それは良かったです」
私はほっと安堵するとイスラを振り向きます。
解毒剤の処方が間に合ったのはイスラのお陰でした。
「イスラもありがとうございました。あなたのお陰で手遅れにならずに済んだ方々がたくさんいます」
「ブレイラが俺に植物のことを教えてくれていたからだ」
「あなたのお役に立てて嬉しいですよ」
そう言ってイスラに笑いかけると、またハウストに向き直りました。そして。
「式典までに皆が少しでも回復してくれると嬉しいですね。この日は、魔族にとって特別な日ですから」
「ブレイラ……」
ハウストが驚いたように目を丸めました。
この『式典』とは、もちろんクロードを正式にハウストと私の第三子にする為のもの。この式典で、クロードが次代の魔王であるということを魔界全土に周知させるのです。
同時に、この式典の日からクロードは西都から王都に移り住み、ハウストと私の子どもとして育てることが決まっていました。
「いいのか? お前は乗り気じゃなかっただろう」
そう、私はずっとクロードを譲られることに躊躇いを覚えていました。でも今、前向きに受け入れることを決めています。
受け入れなければならないのだと、納得したのです。
「……本音を言えば、ランディとメルディナに申し訳ないという気持ちもあります。二人は納得してくれていますが、子を手離して平気でいられる親などいませんから。でもルメニヒや地下最深部にいた女性たちのことを知った時、私の躊躇いなどただのワガママだということを思い知らされました」
「ブレイラ……」
「どうやら私は勘違いをしていたのです。私の憂いの気持ちは自己満足に過ぎなかったのですから。今ならルメニヒが私を憎む気持ちも、メルディナの厳しさも、なんとなく分かる気がするんです。だっておかしいですよね。私は魔界の世継ぎを授かれないのに、ここから身を引くことはしたくありません。それなのに譲り受ける世継ぎを育てることを躊躇ったのですから」
そう、とんだワガママではないですか。
身勝手な自分に呆れて自嘲がこみあげました。
でもそんな私をハウストが何か言いたげに見ています。困惑と焦りが混じった顔で、彼にしては珍しい。
「……ブレイラ」
「どうしました?」
「…………お前、自分が世継ぎを作れないことを気にして……馬鹿なことを考えてないだろうな」
「馬鹿なこと……?」
意味が分かりませんでした。
でも少し考えて、もしかしてとハウストを見つめ返します。
「まさか、あなたっ……」
「…………。お前には前科がある」
前科……、それは二年前の冥王戴冠の時のことですね。
二年前、ハウストと私は一度別れたのです。理由はハウストが私を忘れてしまったからですが、私自身も世継ぎを授かれない自分が王妃でいいのかと悩みました。
そんな事ありましたね。思い出して口元が微かに綻びます。
「バカですね。世継ぎに悩んで今になって身を引くなら、ゼロスが冥王を戴冠した二年前にとっくに身を引いています。でも、私はここにいるじゃないですか」
意外と心配性ですよね。でもそれが向けられるのは私だけだと思うと気分がいいです。
私はハウストを見つめて笑いかけました。
「ハウスト、私はワガママなのですよ。きっと四界で一番ワガママで、一番酷い人間です。ご存知ですよね」
私は身を引くつもりはなく、ハウストが私以外を抱くのも許せません。世継ぎの為だと言われても絶対納得してあげられません。
この私のワガママはハウストが魔王だから許されているもの。私はずるいのです。すべてを承知でワガママをしているのですから。
そう言って微笑んだ私にハウストはほっと安堵した顔になりました。
「知ってるぞ。お前は結構ワガママだ」
安心したくせに意地悪なことを言いますね。
自分でも承知していることですが、あまりワガママワガママ言われるのも……。
「ええっ、ブレイラ、ワガママだったの?!」
ふとゼロスの声が割り込みました。
ゼロスは口端に焼き菓子の欠片をくっつけながら大きな瞳で私を見つめています。
「なんで? どうして? そうだったの?」
不思議そうに首を傾げています。
その反応はちょっと嬉しいですね。それってゼロスは私をそんなふうに思ったことはないということですからね。
イスラは……、黙ったままティーカップに口を付けています。我関せずなのは意味を察しているからでしょうか。
私は小さく苦笑して、ゼロスの口端にくっついた焼き菓子の欠片をとってあげます。
「ワガママにもいろいろあるんですよ」
「うん?」
「きっと、もう少し大きくなったら分かります」
「そうなの?」
首を傾げたままのゼロスに小さく笑ってしまいました。
私はイスラとゼロスを見つめる。二人にはお話ししなければならないことがあります。
イスラはもう知っていることですが、しっかりと二人に伝えたい。
「イスラ、ゼロス、お話しがあります」
真剣な様子に気付いて二人も改まって私を見つめます。
二人を順に見て、ゆっくりと口を開く。今からお話しすることは私たち家族にとってとても大切なこと。
「もうすぐあなた達に弟ができます。名はクロード、あなた達も一度会ったことがありますね」
「ああ。分かってる」
イスラが頷いて、笑んでくれました。
あなたには二人目の弟ですね。
「迎えてくれて嬉しいです。可愛がってあげてください」
「大丈夫だ。そもそも俺とゼロスだって血が繋がった兄弟なわけじゃない。ちゃんと面倒見てやる」
「頼もしいですね。ありがとうございます、イスラ」
今までイスラには何度も助けられてきました。
私だけではありません。弟のゼロスにとってもイスラは偉大な兄。まだゼロスが赤ん坊だった頃は守り、今では共に戦って、兄として肩を並べて歩んでくれている。立派な長男です。
次にゼロスを見ました。
ゼロスは意味が分かっているのかいないのか、きょとんとした顔です。
「ふーん、そうなんだあ~」
とりあえずお返事してくれましたが、……分かってませんよね、これ。
クロードが誰なのか分かっているでしょうが、新しい兄弟ということにピンときていないようです。
「ゼロス、あなたも兄上ですね」
「ふーん、そうなんだあ~。…………んん? えっ、ええええ?! ぼ、ぼぼぼく、あにうえになるの?!」
ゼロスが飛び上がる勢いで驚きました。
良かった、ようやく理解してくれたよう。
でも理解した途端、あまりに重大な事態に今度は動揺しまくりです。
「ぼ、ぼくがあにうえっ……。あにうえみたいに、あにうえで、あにうえだから、あにうえになるから、ぼくあにうえっ……!」
「ゼ、ゼロス、落ち着いて……」
理解してくれたのは嬉しいですが今度は逆に心配になってきました。大丈夫でしょうか。
ハウストとイスラもゼロスの動揺ぶりにちょっと困惑しています。
果たしてゼロスはいったいどんな兄上になるのか……。
一抹の不安はありますが、でもきっと大丈夫でしょう。独りでないのなら大丈夫です。
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