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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第九章・二つの星の輝きを6
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「あにうえだっ、あにうえ~~!!」
ゼロスは一目散にイスラのもとに駆け寄った。
どうしてイスラがここにいるのか分からない。でも嬉しくて飛び跳ねるようにイスラの足に抱きついた。
「どうして?! どうして、あにうえがいるの?!」
「ゼロスが玉座に座ったのが分かったからだ」
「ぼくが?!」
きょとんと見上げると、イスラの手がゼロスの頭にポンっと置かれた。
そしてイスラが目を細めて笑う。
「ああ、冥界が元気になった。良くやったな」
「うん! ぼく、えらい! ぼく、すごい!」
誇らしげに自画自賛のゼロスにイスラは苦笑するが、今回ばかりは本気で褒めてやりたい。
冥界の守りが弱まっていたせいで危うく薬の原材料になる薬草が枯れてしまいそうだったのだ。間に合わないかと思った時、萎れていた草花が目覚めの時を迎えたかのようにいっせいに開いたのである。それはまるで冥界の大地が息を吹き返したかのようで、すぐにゼロスが玉座に座ったのだと分かった。
「ところでゼロス、ブレイラはどうした。他にも誰か一緒じゃないのか?」
イスラが周囲を見回しながら言った。
今までゼロスが一人で冥界を訪れたことはなく、いつもブレイラが同行していた。
しかし今ブレイラの姿は見当たらない。それどころか護衛士官や女官の姿もない。
まさかっとイスラはゼロスを見下ろす。
するとゼロスは誇らしげに胸を張った。
「ぼくね、ひとりできたの! ひとりで、おいすにすわってた!」
えっへんと鼻を鳴らし、腰に手を当てるゼロス。とても偉そうである。
イスラは「偉かったな」と頭を撫でて褒めたが、はっと異変に気付いた。
ゼロスが一人で冥界の玉座に座れたことは褒めたいが、あの心配性のブレイラがそれを許すとは思えなかったのだ。
しかも護衛士官や女官の姿もない。ということは、ゼロスは誰にも言わずに勝手に冥界を訪れたということ。それは普段の甘えん坊ゼロスなら考えられない事だった。そんな甘えん坊ゼロスが自発的に行なったということは相応の理由があったはず……。そう、ブレイラの身にとても重大なことが起きたレベルの。
「ブレイラに何があった?!」
「ああああっ、そうだ! あのね、あにうえ、たいへんなの!! ちちうえ、まかいにかえってきたけど、すっごいケガしてた! おててまっかだった!! ブレイラはとじこめられてて、かえってこれないの!!」
……意味が分からない。
だがゼロスは身振り手振りを交えて一生懸命にイスラに伝え、深刻な事態だということは伝わった。
要するに、ブレイラとハウストは人間界で一緒に行動していたが、ハウストだけが怪我をして魔界に帰ってきたのだろう。しかしブレイラは帰ってこず、どこかに閉じ込められている。
問題はどこにブレイラが閉じ込められているかだが、それはほぼ間違いなくピエトリノ遺跡にある教団本部。
ハウストに怪我をさせることが可能な力は四界の王の力しかない。ということは勇者の左腕が使われたということだ。このままでは人間界の武力衝突にブレイラが巻き込まれてしまう。
そこまで把握したイスラは今後の計画を組み立てる。
「俺は最後の薬草を採ったら人間界へ行く。そこにはブレイラもいるはずだ。ゼロスは魔界に戻ってろ」
「それなら、ぼくもいっしょにいく!! ぼくもブレイラたすけたい!!」
「お前が?」
イスラは複雑な顔でゼロスを見下ろした。
ゼロスは強気に立候補するがイスラは悩む。
冥王なのでゼロスの潜在能力は高い。しかし実戦経験はない。しかも普段の訓練も鍛錬も真面目にしてきたとは言い難い。
「……遊びじゃないぞ」
「うん、あそばない!」
宣言するが疑わしい。
イスラはゼロスの背中に括りつけられた剣を見た。訓練用の剣だがゼロスなりに考えて持参したのだろう。
「ここからは訓練じゃない、実戦だ。戦えるのか?」
「はいっ、がんばります!」
返事はとても立派だ。
イスラは悩んだが、すぐに悩むのをやめた。自分は勇者でゼロスは冥王、そしてブレイラの子ども。ブレイラが教団に囚われているなら、ゼロスがイスラと同じく助けに行きたいと思うのは当然のことだ。
だいたいイスラがゼロスくらいの年頃の時には既に戦っていた。
「分かった、連れて行く。ただし俺は甘くないぞ」
「はいっ、あまえません!」
「泣くなよ。泣いたら魔界に帰れ」
「はいっ、なきません!」
「我儘もなしだ。我儘をしたら置いていく」
「はいっ、ワガママしません!」
ゼロスはピンッと背筋を伸ばし、とてもお利口に宣言した。
今ここでイスラとゼロスは師匠と弟子のような関係になっている。それは、かつてのハウストとイスラのようであるが、果たして……。
「…………本当に大丈夫だろうな」
「だいじょうぶ! あにうえ、はやくいこうよ!」
ゼロスが張り切って長い階段を降り始めた。
イスラは疑わしい……と思いつつも、連れて行くと決めたので一緒に階段を降りだす。
地上まで長い階段だが、その間もゼロスがおしゃべりしていたお陰であっという間に雲を抜けて地上が見えてきた。
だがイスラが立ち止まった。
「ん? あにうえ、どうしたの?」
気付いたゼロスは振り返り、イスラがなにやら地上を見下ろしていることに気付く。
地上は遥か眼下で、森の木々の緑が絨毯のように広がっている高さだ。
「見ろ、肉だ」
「ああっ、ケンカしてるっ。ダメなのに~!」
森で数えきれないほどの猛獣の群れが乱闘していた。
巨体の猛獣同士が激しくぶつかりあって、衝撃に木々が倒れて土埃があがっている。どうやら冥界の動物は冥王の力のおかげで元気いっぱいのようだ。
「俺は昨日から何も食べてない」
「ぼくも! ぼくも、おなかすいた!」
「先に行くぞ、お前も来い!」
イスラが階段から飛び降りた。
空中で華麗に回転して見事な着地を決める。着地の衝撃を吸収しながらも反動を利用して体勢を切り替え、巧みな体術で周囲の猛獣を一撃で一掃していった。
「わあああ~っ、あにうえ、かっこいい~~!!」
ゼロスは瞳を輝かせた。
ゼロスだってかっこよく戦いたい。
「ぼくも!」
ゼロスも真似て飛び降りようとしたが、ビュオオオオオォォォ!! 猛烈な突風が地上から吹き上げた。
ゼロスはたじろぐ。飛び降りるには、ここは少し高すぎるかもしれない。
「…………。……もうちょっと、したから」
ゼロスはトントントンッと階段を駆け下りる。
少し下りて、とべるかな? 立ち止まって見下ろす。まだちょっと高いので階段を駆け下りて、とべるかな? 立ち止まって見下ろす。あともう少し下りて……。
しばらくして、ようやく丁度いい高さの場所でゼロスは立ち止まった。
「よ~しっ、いくぞ~!」
ゼロスは勇ましく声を上げる。そして、――――ぴょん! 見事に飛び降りた。
飛び降りた高さは地上から三段目だが、着地した時もかっこいいポーズを決めて満足だ。
「あにうえ~!」
ゼロスは背中の剣を抜いてイスラがいる所へ走っていく。ゼロスも狩りに参加するのだ。
「ゼロス、遅いぞ!」
「ご、ごめんなさい~っ、でもね、じょうずにぴょんってした!」
「本当だろうな」
「ほんと!」
ぴょんとしたのは地上三段目からだが、それはあえて言わない。
ゼロスは剣を構えてイスラと並んだ。
暴れていた猛獣の群れはイスラがほとんど気絶させていたが、ゼロス用に何頭か残されている。
狩りくらいできなければ怪物相手に戦えるわけがない。イスラはこの旅でゼロスを徹底的に鍛え上げるつもりなのだ。
ゼロスは一目散にイスラのもとに駆け寄った。
どうしてイスラがここにいるのか分からない。でも嬉しくて飛び跳ねるようにイスラの足に抱きついた。
「どうして?! どうして、あにうえがいるの?!」
「ゼロスが玉座に座ったのが分かったからだ」
「ぼくが?!」
きょとんと見上げると、イスラの手がゼロスの頭にポンっと置かれた。
そしてイスラが目を細めて笑う。
「ああ、冥界が元気になった。良くやったな」
「うん! ぼく、えらい! ぼく、すごい!」
誇らしげに自画自賛のゼロスにイスラは苦笑するが、今回ばかりは本気で褒めてやりたい。
冥界の守りが弱まっていたせいで危うく薬の原材料になる薬草が枯れてしまいそうだったのだ。間に合わないかと思った時、萎れていた草花が目覚めの時を迎えたかのようにいっせいに開いたのである。それはまるで冥界の大地が息を吹き返したかのようで、すぐにゼロスが玉座に座ったのだと分かった。
「ところでゼロス、ブレイラはどうした。他にも誰か一緒じゃないのか?」
イスラが周囲を見回しながら言った。
今までゼロスが一人で冥界を訪れたことはなく、いつもブレイラが同行していた。
しかし今ブレイラの姿は見当たらない。それどころか護衛士官や女官の姿もない。
まさかっとイスラはゼロスを見下ろす。
するとゼロスは誇らしげに胸を張った。
「ぼくね、ひとりできたの! ひとりで、おいすにすわってた!」
えっへんと鼻を鳴らし、腰に手を当てるゼロス。とても偉そうである。
イスラは「偉かったな」と頭を撫でて褒めたが、はっと異変に気付いた。
ゼロスが一人で冥界の玉座に座れたことは褒めたいが、あの心配性のブレイラがそれを許すとは思えなかったのだ。
しかも護衛士官や女官の姿もない。ということは、ゼロスは誰にも言わずに勝手に冥界を訪れたということ。それは普段の甘えん坊ゼロスなら考えられない事だった。そんな甘えん坊ゼロスが自発的に行なったということは相応の理由があったはず……。そう、ブレイラの身にとても重大なことが起きたレベルの。
「ブレイラに何があった?!」
「ああああっ、そうだ! あのね、あにうえ、たいへんなの!! ちちうえ、まかいにかえってきたけど、すっごいケガしてた! おててまっかだった!! ブレイラはとじこめられてて、かえってこれないの!!」
……意味が分からない。
だがゼロスは身振り手振りを交えて一生懸命にイスラに伝え、深刻な事態だということは伝わった。
要するに、ブレイラとハウストは人間界で一緒に行動していたが、ハウストだけが怪我をして魔界に帰ってきたのだろう。しかしブレイラは帰ってこず、どこかに閉じ込められている。
問題はどこにブレイラが閉じ込められているかだが、それはほぼ間違いなくピエトリノ遺跡にある教団本部。
ハウストに怪我をさせることが可能な力は四界の王の力しかない。ということは勇者の左腕が使われたということだ。このままでは人間界の武力衝突にブレイラが巻き込まれてしまう。
そこまで把握したイスラは今後の計画を組み立てる。
「俺は最後の薬草を採ったら人間界へ行く。そこにはブレイラもいるはずだ。ゼロスは魔界に戻ってろ」
「それなら、ぼくもいっしょにいく!! ぼくもブレイラたすけたい!!」
「お前が?」
イスラは複雑な顔でゼロスを見下ろした。
ゼロスは強気に立候補するがイスラは悩む。
冥王なのでゼロスの潜在能力は高い。しかし実戦経験はない。しかも普段の訓練も鍛錬も真面目にしてきたとは言い難い。
「……遊びじゃないぞ」
「うん、あそばない!」
宣言するが疑わしい。
イスラはゼロスの背中に括りつけられた剣を見た。訓練用の剣だがゼロスなりに考えて持参したのだろう。
「ここからは訓練じゃない、実戦だ。戦えるのか?」
「はいっ、がんばります!」
返事はとても立派だ。
イスラは悩んだが、すぐに悩むのをやめた。自分は勇者でゼロスは冥王、そしてブレイラの子ども。ブレイラが教団に囚われているなら、ゼロスがイスラと同じく助けに行きたいと思うのは当然のことだ。
だいたいイスラがゼロスくらいの年頃の時には既に戦っていた。
「分かった、連れて行く。ただし俺は甘くないぞ」
「はいっ、あまえません!」
「泣くなよ。泣いたら魔界に帰れ」
「はいっ、なきません!」
「我儘もなしだ。我儘をしたら置いていく」
「はいっ、ワガママしません!」
ゼロスはピンッと背筋を伸ばし、とてもお利口に宣言した。
今ここでイスラとゼロスは師匠と弟子のような関係になっている。それは、かつてのハウストとイスラのようであるが、果たして……。
「…………本当に大丈夫だろうな」
「だいじょうぶ! あにうえ、はやくいこうよ!」
ゼロスが張り切って長い階段を降り始めた。
イスラは疑わしい……と思いつつも、連れて行くと決めたので一緒に階段を降りだす。
地上まで長い階段だが、その間もゼロスがおしゃべりしていたお陰であっという間に雲を抜けて地上が見えてきた。
だがイスラが立ち止まった。
「ん? あにうえ、どうしたの?」
気付いたゼロスは振り返り、イスラがなにやら地上を見下ろしていることに気付く。
地上は遥か眼下で、森の木々の緑が絨毯のように広がっている高さだ。
「見ろ、肉だ」
「ああっ、ケンカしてるっ。ダメなのに~!」
森で数えきれないほどの猛獣の群れが乱闘していた。
巨体の猛獣同士が激しくぶつかりあって、衝撃に木々が倒れて土埃があがっている。どうやら冥界の動物は冥王の力のおかげで元気いっぱいのようだ。
「俺は昨日から何も食べてない」
「ぼくも! ぼくも、おなかすいた!」
「先に行くぞ、お前も来い!」
イスラが階段から飛び降りた。
空中で華麗に回転して見事な着地を決める。着地の衝撃を吸収しながらも反動を利用して体勢を切り替え、巧みな体術で周囲の猛獣を一撃で一掃していった。
「わあああ~っ、あにうえ、かっこいい~~!!」
ゼロスは瞳を輝かせた。
ゼロスだってかっこよく戦いたい。
「ぼくも!」
ゼロスも真似て飛び降りようとしたが、ビュオオオオオォォォ!! 猛烈な突風が地上から吹き上げた。
ゼロスはたじろぐ。飛び降りるには、ここは少し高すぎるかもしれない。
「…………。……もうちょっと、したから」
ゼロスはトントントンッと階段を駆け下りる。
少し下りて、とべるかな? 立ち止まって見下ろす。まだちょっと高いので階段を駆け下りて、とべるかな? 立ち止まって見下ろす。あともう少し下りて……。
しばらくして、ようやく丁度いい高さの場所でゼロスは立ち止まった。
「よ~しっ、いくぞ~!」
ゼロスは勇ましく声を上げる。そして、――――ぴょん! 見事に飛び降りた。
飛び降りた高さは地上から三段目だが、着地した時もかっこいいポーズを決めて満足だ。
「あにうえ~!」
ゼロスは背中の剣を抜いてイスラがいる所へ走っていく。ゼロスも狩りに参加するのだ。
「ゼロス、遅いぞ!」
「ご、ごめんなさい~っ、でもね、じょうずにぴょんってした!」
「本当だろうな」
「ほんと!」
ぴょんとしたのは地上三段目からだが、それはあえて言わない。
ゼロスは剣を構えてイスラと並んだ。
暴れていた猛獣の群れはイスラがほとんど気絶させていたが、ゼロス用に何頭か残されている。
狩りくらいできなければ怪物相手に戦えるわけがない。イスラはこの旅でゼロスを徹底的に鍛え上げるつもりなのだ。
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