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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第四章・私の星7
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「初めまして、勇者様。私の名はルメニヒ。ナフカドレ教団の大司教をしております」
「……教団? それじゃあ、お前がピエトリノ遺跡にある神殿のっ」
「勇者様にご存知いただけていたなんて光栄でございます」
ルメニヒがお辞儀した。
しかしイスラは不快を隠さない。今回の一件にナフカドレ教団がなんらかの形で絡んでいることは分かっている。
「ふざけるな! ジークヘルムはどこにいる!」
「ジークヘルムは私の忠実な信仰者。教団にすべてを捧げるべく、彼は王としての最後の役目を果たしてくれました」
「最後の役目だと? 貴様の目的はなんだ!」
イスラはルメニヒを鋭く睨む。
しかしルメニヒは怯えることはなく、それどころかイスラに問いかける。
「勇者様、あなたは人間界の王であり神格の存在。この人間界において、魔王や精霊王や冥王と渡り合う唯一の存在です。勇者様は、王としてこの人間界をどう思われますか?」
「……どういう意味だ」
イスラは訝しんだ。
ルメニヒはうっそりと笑うと、イスラに向かって一歩一歩近づく。
「人間界は魔界や精霊界に比べて諍いが多く、混沌とし、貧しさに苦しんでいる者が多い。勇者様の御母上様も魔界の王妃になる前は貧民だったと聞いています。大変な苦労をされたことでしょう。――――なぜ、人間界にはこれほどの苦しみがあるのか。その答えは一つ、人間界には数多くの国があるからです」
ルメニヒはイスラの前で立ち止まると、ゆっくりと手を伸ばす。
イスラの鍛えられた胸板にそっと手を置いて、まるで誘惑するかのように身を寄せる。
イスラは目を細めた。
ルメニヒの胸元からは思考を奪うような女の匂いがしたのだ。
「人間界は一つにならなければいけません。まずモルダニア大国が勇者様の手に委ねられます。間を置かずに他の国々も勇者様のものとなり、ゆくゆくは人間界にある国のすべてが勇者様のものになります。そう、人間界は王である勇者様の元で一つに纏まるのです。私は大司教として勇者様を支えたく思います」
ルメニヒは香りを纏ったままイスラを見つめた。微笑を浮かべ、イスラの頬に触れようと手を伸ばしたが。
「おい、触るなよ」
イスラが淡々と吐き捨てた。
そしてじろりとルメニヒを見る。それは睥睨の眼。
光を弾く金色の髪は嫌いではないが、今目の前にあるのはイスラの好きなものではない。
「不快だ。離れろ」
「っ。…………それは、失礼いたしましたっ……」
ルメニヒがぎりりっと奥歯を噛んでイスラから離れた。
屈辱に拳を握りながらもイスラの前で跪く。
「ご無礼を、お許しくださいっ……。しかしながら、人間界を一つに纏めなければ人間界は滅びの道を辿るでしょう。それには勇者様の御力が必須!!」
ルメニヒはそう声を上げると足元から魔力を立ち昇らせた。
それは巨大化して竜巻のように膨れ上がり、周囲の草木を激しく揺らして圧倒する。
しかしイスラは悠然と立ったままルメニヒを見据えていた。
この国の王も王妃もナフカドレ教団の信仰者だった。このモルダニア大国は教団に乗っ取られたと考えてもいいだろう。ならばイスラが今しなければならないことは一つ、それはこの国の民衆を守ること。
「貴様が何を企んでいるかは知らない。俺は人間界の国々の政にも深く関わる気はない。だが決めたぞ、貴様を人間界から排除する!」
それは王の宣告。
この国の民衆は勇者を信じていた。助けを求めていた。理由はそれだけで充分だ。
イスラは魔力を解放して剣を構えた。
勇者の強大な魔力がルメニヒの膨れ上がった魔力を吹き飛ばす。
そして一気に距離を詰めるとイスラが剣を振り下ろした。
ルメニヒは咄嗟に避けるも衝撃に吹き飛ばされる。イスラは地面を蹴ってルメニヒを追い、追い詰めて一気に始末をつけようとした。
「これで終わりだ!! っ、え?!」
ガシリッ!
突如、背後から腕が掴まれた。
イスラは振り返り、驚愕に目を見開く。
腕を掴んだのは、イスラをここまで案内した男だったのだ。
それだけじゃない、さっき森から逃げてきた者達も次から次にイスラにしがみ付いて動きを封じる。
「お、おい、離せ!!」
予想外のことにイスラは動揺して振り払おうとした。だが民衆は離されまいと必死の形相でしがみ付き続ける。
その展開にルメニヒは微笑を浮かべてイスラに近づく。
「いかがですか? 私の可愛い信者たちは」
「信者だと? まさか教団にっ……!」
民衆は既に教団の信仰者になっていた。
民衆はイスラを騙してここに連れてきたのだ。
しがみ付く腕はイスラを離さず、ルメニヒに捧げるように拘束している。
民衆はイスラを勇者と崇めながら、狂信のままイスラを差し出したのだ。
「その通りでございます。本当なら勇者様もぜひ私に従い、人間界の正しき王になっていただきたかったのですが、……仕方ありません」
ルメニヒはそう言うとローブの袖から黒い短剣を取り出した。
短剣の黒い刃。鋭く黒光りするそれにイスラは息を飲む。短剣から禍々しい力を感じたのだ。
ルメニヒは口角をニタリと吊り上げる。そして。
「勇者様には象徴として、我々人間の為に尽くしていただきましょう!!」
――――ザンッ!!
腕が……熱い。
イスラがそう認知したのと、視界が赤く染まったのは同時。
ごろんっ。地面に転がったのは、左腕。
「っ、く……!」
見ると左腕がなかった。
切断され、腕が地面に転がっている。
腕の切断部からは血が噴き出し、辺りを血飛沫で染めていく。
「ッ、グアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
イスラは絶叫した。
熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い!!!!
血が噴き出す切断部を押さえ、ガクリッと地面に膝をついた。
全身から冷や汗が噴き出して呼吸がうまく出来ない。苦しさに足掻くのに、体が動かなくなっていく。
熱を感じていたのに急激に体温が下がり、意識が朦朧とし始める。
「くそッ、貴様ら……!」
イスラが地面に膝をつきながらも、ギロリッとルメニヒと民衆を睨みつける。
民衆は「ヒッ」と脅えて後ずさったが、ルメニヒはうっそりと笑ってイスラを見下ろした。
そして切断したイスラの左腕を拾い、両手に抱いてうっとりと頬擦りする。
「おおっ、勇者様の御体! これぞ人間界の新たなる力! 新たな人間界の象徴になるでしょう!!」
ルメニヒは興奮と恍惚の表情で言うと、イスラを見下ろして唇に薄い笑みを浮かべた。
膝を屈したイスラに手を伸ばし、血飛沫で赤く染まる頬をなぞる。
「勇者様、今までご苦労様でした。人間界創世の頃より代々の勇者によって人間界は守られてきました。王でありながら国も無く、玉座も無く、ただただ人間界の為に戦い続けたことに感謝いたします。しかしもう終わったのです。これからの人間界はどうぞ私にお任せください。私が人間界の救世主となり、人間界を救ってみせましょう。だからもう勇者は必要ございません」
「……勇者は、……必要、ない」
イスラが掠れた声で呟く。
目を見開いて愕然とするイスラに、ルメニヒは笑みを浮かべたまま顔を近づける。
「勇者様、ごゆっくりお休みくださいませ」
耳元で囁かれた艶めかしい声。
ルメニヒはイスラの心臓に短剣を突き刺そうとしたが。
「――――イスラ! イスラ、どこですか?!」
茂みの向こうから声が聞こえてきた。
その声にイスラがぴくりと反応する。耳に心地よく響くそれはブレイラの声。
近づいてくる気配にルメニヒは舌打ちしてイスラから離れる。
「もういい、目的は果たした。引きましょう」
そう言うとルメニヒは転移魔法を発動し、信仰者たちを連れて姿を消した。
ルメニヒの気配が消えて、ぷつりとイスラの緊張の糸が切れる。
「っ、……うぅっ」
ドサリッ。
とうとうイスラは倒れた。
地面は鮮血に染まって血の水溜まりができている。
夥しい血液量だ。意識が急速に遠ざかって、瞼が強制的に閉じていく。
だが、だめだ。ここで眠ってはいけない。なぜなら。
「返事をしてください! イスラ! イスラ!!」
ブレイラがイスラを探している。声が近づいてくる。
こんな姿を見たらきっとブレイラは泣いてしまう。胸を痛めて、悲しんで、たくさん泣かせてしまう。
でも、体はぴくりとも動かせなかった。
「――――っ、イスラ!!!!」
茂みを掻き分けてブレイラが姿を見せた。
「イスラ! イスラっ!!」
イスラの名を叫びながら駆け寄ってくる。
ブレイラが赤く染まったイスラの体に縋るようにしがみ付いて、何度も、何度もイスラの名を繰り返した。
「イスラ! しっかりしてくださいっ、イスラ!!」
ブレイラが泣いている。
イスラの血で頬やローブを赤く染めながら、イスラに抱きついて泣いている。
「…………ブレイ……ラ……」
イスラはなんとか声を振り絞った。
声はとても小さくて掠れていたが、少しでもブレイラを慰めたかったのだ。
「イスラ!! イスラっ……!!」
ブレイラがイスラの頬に手を添えて顔を食い入るように見つめてくる。
イスラも見つめ返して、目が合う。
どうしてだろうか、こんな時だというのに、ブレイラが泣いているのに、ブレイラを見ていると胸の奥がじわりと温かくなった。
柔らかな温もりに包まれていると急速に意識が遠ざかる。
大丈夫だとブレイラを安心させたいのに、イスラの意識はそこで途絶えた。
◆◆◆◆◆◆
「……教団? それじゃあ、お前がピエトリノ遺跡にある神殿のっ」
「勇者様にご存知いただけていたなんて光栄でございます」
ルメニヒがお辞儀した。
しかしイスラは不快を隠さない。今回の一件にナフカドレ教団がなんらかの形で絡んでいることは分かっている。
「ふざけるな! ジークヘルムはどこにいる!」
「ジークヘルムは私の忠実な信仰者。教団にすべてを捧げるべく、彼は王としての最後の役目を果たしてくれました」
「最後の役目だと? 貴様の目的はなんだ!」
イスラはルメニヒを鋭く睨む。
しかしルメニヒは怯えることはなく、それどころかイスラに問いかける。
「勇者様、あなたは人間界の王であり神格の存在。この人間界において、魔王や精霊王や冥王と渡り合う唯一の存在です。勇者様は、王としてこの人間界をどう思われますか?」
「……どういう意味だ」
イスラは訝しんだ。
ルメニヒはうっそりと笑うと、イスラに向かって一歩一歩近づく。
「人間界は魔界や精霊界に比べて諍いが多く、混沌とし、貧しさに苦しんでいる者が多い。勇者様の御母上様も魔界の王妃になる前は貧民だったと聞いています。大変な苦労をされたことでしょう。――――なぜ、人間界にはこれほどの苦しみがあるのか。その答えは一つ、人間界には数多くの国があるからです」
ルメニヒはイスラの前で立ち止まると、ゆっくりと手を伸ばす。
イスラの鍛えられた胸板にそっと手を置いて、まるで誘惑するかのように身を寄せる。
イスラは目を細めた。
ルメニヒの胸元からは思考を奪うような女の匂いがしたのだ。
「人間界は一つにならなければいけません。まずモルダニア大国が勇者様の手に委ねられます。間を置かずに他の国々も勇者様のものとなり、ゆくゆくは人間界にある国のすべてが勇者様のものになります。そう、人間界は王である勇者様の元で一つに纏まるのです。私は大司教として勇者様を支えたく思います」
ルメニヒは香りを纏ったままイスラを見つめた。微笑を浮かべ、イスラの頬に触れようと手を伸ばしたが。
「おい、触るなよ」
イスラが淡々と吐き捨てた。
そしてじろりとルメニヒを見る。それは睥睨の眼。
光を弾く金色の髪は嫌いではないが、今目の前にあるのはイスラの好きなものではない。
「不快だ。離れろ」
「っ。…………それは、失礼いたしましたっ……」
ルメニヒがぎりりっと奥歯を噛んでイスラから離れた。
屈辱に拳を握りながらもイスラの前で跪く。
「ご無礼を、お許しくださいっ……。しかしながら、人間界を一つに纏めなければ人間界は滅びの道を辿るでしょう。それには勇者様の御力が必須!!」
ルメニヒはそう声を上げると足元から魔力を立ち昇らせた。
それは巨大化して竜巻のように膨れ上がり、周囲の草木を激しく揺らして圧倒する。
しかしイスラは悠然と立ったままルメニヒを見据えていた。
この国の王も王妃もナフカドレ教団の信仰者だった。このモルダニア大国は教団に乗っ取られたと考えてもいいだろう。ならばイスラが今しなければならないことは一つ、それはこの国の民衆を守ること。
「貴様が何を企んでいるかは知らない。俺は人間界の国々の政にも深く関わる気はない。だが決めたぞ、貴様を人間界から排除する!」
それは王の宣告。
この国の民衆は勇者を信じていた。助けを求めていた。理由はそれだけで充分だ。
イスラは魔力を解放して剣を構えた。
勇者の強大な魔力がルメニヒの膨れ上がった魔力を吹き飛ばす。
そして一気に距離を詰めるとイスラが剣を振り下ろした。
ルメニヒは咄嗟に避けるも衝撃に吹き飛ばされる。イスラは地面を蹴ってルメニヒを追い、追い詰めて一気に始末をつけようとした。
「これで終わりだ!! っ、え?!」
ガシリッ!
突如、背後から腕が掴まれた。
イスラは振り返り、驚愕に目を見開く。
腕を掴んだのは、イスラをここまで案内した男だったのだ。
それだけじゃない、さっき森から逃げてきた者達も次から次にイスラにしがみ付いて動きを封じる。
「お、おい、離せ!!」
予想外のことにイスラは動揺して振り払おうとした。だが民衆は離されまいと必死の形相でしがみ付き続ける。
その展開にルメニヒは微笑を浮かべてイスラに近づく。
「いかがですか? 私の可愛い信者たちは」
「信者だと? まさか教団にっ……!」
民衆は既に教団の信仰者になっていた。
民衆はイスラを騙してここに連れてきたのだ。
しがみ付く腕はイスラを離さず、ルメニヒに捧げるように拘束している。
民衆はイスラを勇者と崇めながら、狂信のままイスラを差し出したのだ。
「その通りでございます。本当なら勇者様もぜひ私に従い、人間界の正しき王になっていただきたかったのですが、……仕方ありません」
ルメニヒはそう言うとローブの袖から黒い短剣を取り出した。
短剣の黒い刃。鋭く黒光りするそれにイスラは息を飲む。短剣から禍々しい力を感じたのだ。
ルメニヒは口角をニタリと吊り上げる。そして。
「勇者様には象徴として、我々人間の為に尽くしていただきましょう!!」
――――ザンッ!!
腕が……熱い。
イスラがそう認知したのと、視界が赤く染まったのは同時。
ごろんっ。地面に転がったのは、左腕。
「っ、く……!」
見ると左腕がなかった。
切断され、腕が地面に転がっている。
腕の切断部からは血が噴き出し、辺りを血飛沫で染めていく。
「ッ、グアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
イスラは絶叫した。
熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い!!!!
血が噴き出す切断部を押さえ、ガクリッと地面に膝をついた。
全身から冷や汗が噴き出して呼吸がうまく出来ない。苦しさに足掻くのに、体が動かなくなっていく。
熱を感じていたのに急激に体温が下がり、意識が朦朧とし始める。
「くそッ、貴様ら……!」
イスラが地面に膝をつきながらも、ギロリッとルメニヒと民衆を睨みつける。
民衆は「ヒッ」と脅えて後ずさったが、ルメニヒはうっそりと笑ってイスラを見下ろした。
そして切断したイスラの左腕を拾い、両手に抱いてうっとりと頬擦りする。
「おおっ、勇者様の御体! これぞ人間界の新たなる力! 新たな人間界の象徴になるでしょう!!」
ルメニヒは興奮と恍惚の表情で言うと、イスラを見下ろして唇に薄い笑みを浮かべた。
膝を屈したイスラに手を伸ばし、血飛沫で赤く染まる頬をなぞる。
「勇者様、今までご苦労様でした。人間界創世の頃より代々の勇者によって人間界は守られてきました。王でありながら国も無く、玉座も無く、ただただ人間界の為に戦い続けたことに感謝いたします。しかしもう終わったのです。これからの人間界はどうぞ私にお任せください。私が人間界の救世主となり、人間界を救ってみせましょう。だからもう勇者は必要ございません」
「……勇者は、……必要、ない」
イスラが掠れた声で呟く。
目を見開いて愕然とするイスラに、ルメニヒは笑みを浮かべたまま顔を近づける。
「勇者様、ごゆっくりお休みくださいませ」
耳元で囁かれた艶めかしい声。
ルメニヒはイスラの心臓に短剣を突き刺そうとしたが。
「――――イスラ! イスラ、どこですか?!」
茂みの向こうから声が聞こえてきた。
その声にイスラがぴくりと反応する。耳に心地よく響くそれはブレイラの声。
近づいてくる気配にルメニヒは舌打ちしてイスラから離れる。
「もういい、目的は果たした。引きましょう」
そう言うとルメニヒは転移魔法を発動し、信仰者たちを連れて姿を消した。
ルメニヒの気配が消えて、ぷつりとイスラの緊張の糸が切れる。
「っ、……うぅっ」
ドサリッ。
とうとうイスラは倒れた。
地面は鮮血に染まって血の水溜まりができている。
夥しい血液量だ。意識が急速に遠ざかって、瞼が強制的に閉じていく。
だが、だめだ。ここで眠ってはいけない。なぜなら。
「返事をしてください! イスラ! イスラ!!」
ブレイラがイスラを探している。声が近づいてくる。
こんな姿を見たらきっとブレイラは泣いてしまう。胸を痛めて、悲しんで、たくさん泣かせてしまう。
でも、体はぴくりとも動かせなかった。
「――――っ、イスラ!!!!」
茂みを掻き分けてブレイラが姿を見せた。
「イスラ! イスラっ!!」
イスラの名を叫びながら駆け寄ってくる。
ブレイラが赤く染まったイスラの体に縋るようにしがみ付いて、何度も、何度もイスラの名を繰り返した。
「イスラ! しっかりしてくださいっ、イスラ!!」
ブレイラが泣いている。
イスラの血で頬やローブを赤く染めながら、イスラに抱きついて泣いている。
「…………ブレイ……ラ……」
イスラはなんとか声を振り絞った。
声はとても小さくて掠れていたが、少しでもブレイラを慰めたかったのだ。
「イスラ!! イスラっ……!!」
ブレイラがイスラの頬に手を添えて顔を食い入るように見つめてくる。
イスラも見つめ返して、目が合う。
どうしてだろうか、こんな時だというのに、ブレイラが泣いているのに、ブレイラを見ていると胸の奥がじわりと温かくなった。
柔らかな温もりに包まれていると急速に意識が遠ざかる。
大丈夫だとブレイラを安心させたいのに、イスラの意識はそこで途絶えた。
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