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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第四章・私の星3
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翌日。
いよいよ今日はモルダニア大国祝賀式典の日です。
ジークヘルム王即位六十周年を祝うために、人間界の各国の王侯貴族だけでなく、魔界や精霊界からも貴族や高官が訪れています。私も招待された一人です。
王都の中心にある広場には多くの民衆が集まり、昂揚した雰囲気の中で祝賀パレードが始まるのを待っています。
そして国王の居城にある大広間には招待を受けた王侯貴族や高官が並んでいました。
大広間の壁にはモルダニア大国国旗が幾つも垂れ下がり、荘厳で厳粛な雰囲気を醸し出しています。
時間になると、管楽器が高らかに鳴り響きました。ジークヘルム王の入場です。
大広間に姿を見せた王は参列する王侯貴族を見回しました。
「ようこそモルダニア大国へ。この度は祝賀式典に参列していただけました事を心より感謝いたします!」
ジークヘルムの挨拶が終わると、次は参列者の紹介です。
数えきれないほどの人々が席を連ねる中、私とゼロスが最初に紹介されます。ここには魔王も精霊王も勇者も不在の為、四界の王の一人である冥王ゼロスが最も地位が高いという扱いでした。それに次いで、魔王の妃であり勇者と冥王の親である私という順です。
「冥王ゼロス様、並びに魔界より王妃ブレイラ様!」
侍従長によって高らかに紹介されました。
大広間に並んでいる方々が私とゼロスに注目します。
その中で私はゼロスとともに立ち上がり、並ぶ方々にゆっくりと視線を送りました。
私とゼロスは皆の頭上に設えられた高殿に二人掛けの椅子を用意されていました。側にはコレットや他の女官が控えるという特別な待遇です。
「この度はお招きいただきありがとうございます。皆様にお会いできたことを嬉しく思います。ゼロス、あなたもご挨拶してください」
「えっ、ぼくも?!」
私の後ろに隠れていたゼロスがぎょっとしました。
私の足にぎゅっとしがみ付いて、顔だけだしておろおろします。見知らぬ大人が大勢いるのでびっくりしているのですね。
「ゼロス、大丈夫ですよ」
「うん……。ゼロス、です……」
小さな声で名乗ると、私の後ろにまた顔を引っ込めてしまいました。
私は苦笑しながらも皆に向かってお辞儀し、ゼロスとともに着席しました。
「ブレイラ……」
不安そうにゼロスが見上げてきます。
私にぎゅっと抱きつくゼロスに大丈夫ですよと笑いかけてあげました。
ゼロスは冥王であり、魔王の第二子です。こういった式典は初めてではないのですが、知らない大人ばかりの場所では緊張してしまうのです。
無事にゼロスと私の紹介が終わり、地位の高い者から順に紹介されていきます。
こうして厳かな雰囲気のなかで祝賀式典が始まったのでした。
◆◆◆◆◆◆
「っ、う……」
イスラの意識がゆっくりと浮上する。
重たい瞼を開けると見慣れぬ天井が映った。
どこかの一室で眠っていたようだが、全身が酷く重いことに気付いて一気に覚醒する。
「っ、魔法陣かっ……」
自分を中心に呪縛魔法陣が描かれていたのだ。
魔法陣を囲むようにして六人の術者が立っている。術者たちはイスラが目覚めた事に気付くと、更に魔力を高めて呪縛魔法陣を強化した。
「ぐっ、なんのつもりだっ……!」
全身に伸し掛かる重力に押し潰されそうになる。
イスラは術者たちを鋭く睨みながらも、自分がなんらかの策中に嵌まったことを悟った。
アンネリーナとの歓談中に強烈な睡魔に襲われた。おそらく紅茶が原因だろう。最初からすべてが罠だったのだ。
「お前ら何者だっ。答えろ!」
「答える必要はない。時が来るまで眠っていろ」
そう言って術者たちは術中に落ちたイスラを嘲笑う。
更なる魔力を発動して攻撃魔法陣を出現させ、激しい落雷がイスラを襲った。
魔法陣のなかで幾十幾百の閃光が走り、轟音と衝撃波に部屋の窓ガラスが震撼する。
術者たちは攻撃の成功を確信したが……。
「――――残念だ。だが、答えないなら相手をする必要はないな」
魔法陣の中、イスラは悠然と立っていた。
術者が六人集まろうとイスラに傷一つ負わすことが出来なかったのだ。
「そ、そんなっ……」
「直撃したはずだぞっ」
術者たちは驚愕し、青褪めて後ずさる。
しかしイスラが逃がすことはない。
「本物の呪縛魔法を教えてやる」
イスラがそう言い放った瞬間、膨大な魔力が解放されて魔法陣を一瞬で消滅させた。
術者たちは慌てて逃げようとしたが、――――ドンッ!!
「ぐぁっ……、あっ……!」
「ッ、くそっ……、ぅっ」
術者たちが押し潰されるように床に突っ伏して這いつくばった。指一本動かすことも呼吸すらもままならない。
本来、呪縛魔法とは身体拘束と魔力拘束である。しかし行使者の力量によっては呼吸を奪い、肉片の一欠けらも残さずに圧死させることが可能な魔法なのだ。その最強レベルの魔力を有しているのは四界でも限られているが、間違いなくイスラはその一人だ。
「参考になったか?」
イスラは足元に這いつくばる術者たちを一瞥した。
だがふと気付く。
「その指輪は……」
術者たちは王妃と同じ紋章の指輪をしていた。
それは西のピエトリノ遺跡の神殿で見たシンボルだ。
……嫌な予感がした。
神殿にはなんらかの信仰者達が集まり、そこでは妙な薬が出回っていた。この国の王族がそれに関わっていると考えてもいいだろう。それだけじゃない、勇者を拘束する必要があるなんらかの事態が動いている。
その時、窓の外から歓声が聞こえてきた。
はっとして窓を開けると、遠くに見える王都の広場に数えきれないほどの民衆が集まっている事に気付く。まるで祭典のような賑わいだ。
その光景にイスラは息を飲む。
この国で祝賀式典が開かれることを思い出した。そして、その祝賀式典にブレイラが招待されている事も。
「ブレイラっ……!」
イスラは部屋を飛び出した。
祝賀式典はすでに始まっている。その式典で何かが起ころうとしている。
それは限りなく確信に近い予想だった。なぜなら。
「やはりそうか。すぐに片付けてやるっ」
イスラは好戦的な顔つきになり、魔力を纏って剣を構えた。
廊下に出ると、紋章が刻まれた指輪を嵌めた術者や剣士が待ち構えていたのだ。決定的である。明らかにイスラを足止めする為のものだった。
「邪魔する奴は容赦しない!」
こうしてイスラは立ち塞がる術者や剣士を力尽くで突破していくのだった。
◆◆◆◆◆◆
いよいよ今日はモルダニア大国祝賀式典の日です。
ジークヘルム王即位六十周年を祝うために、人間界の各国の王侯貴族だけでなく、魔界や精霊界からも貴族や高官が訪れています。私も招待された一人です。
王都の中心にある広場には多くの民衆が集まり、昂揚した雰囲気の中で祝賀パレードが始まるのを待っています。
そして国王の居城にある大広間には招待を受けた王侯貴族や高官が並んでいました。
大広間の壁にはモルダニア大国国旗が幾つも垂れ下がり、荘厳で厳粛な雰囲気を醸し出しています。
時間になると、管楽器が高らかに鳴り響きました。ジークヘルム王の入場です。
大広間に姿を見せた王は参列する王侯貴族を見回しました。
「ようこそモルダニア大国へ。この度は祝賀式典に参列していただけました事を心より感謝いたします!」
ジークヘルムの挨拶が終わると、次は参列者の紹介です。
数えきれないほどの人々が席を連ねる中、私とゼロスが最初に紹介されます。ここには魔王も精霊王も勇者も不在の為、四界の王の一人である冥王ゼロスが最も地位が高いという扱いでした。それに次いで、魔王の妃であり勇者と冥王の親である私という順です。
「冥王ゼロス様、並びに魔界より王妃ブレイラ様!」
侍従長によって高らかに紹介されました。
大広間に並んでいる方々が私とゼロスに注目します。
その中で私はゼロスとともに立ち上がり、並ぶ方々にゆっくりと視線を送りました。
私とゼロスは皆の頭上に設えられた高殿に二人掛けの椅子を用意されていました。側にはコレットや他の女官が控えるという特別な待遇です。
「この度はお招きいただきありがとうございます。皆様にお会いできたことを嬉しく思います。ゼロス、あなたもご挨拶してください」
「えっ、ぼくも?!」
私の後ろに隠れていたゼロスがぎょっとしました。
私の足にぎゅっとしがみ付いて、顔だけだしておろおろします。見知らぬ大人が大勢いるのでびっくりしているのですね。
「ゼロス、大丈夫ですよ」
「うん……。ゼロス、です……」
小さな声で名乗ると、私の後ろにまた顔を引っ込めてしまいました。
私は苦笑しながらも皆に向かってお辞儀し、ゼロスとともに着席しました。
「ブレイラ……」
不安そうにゼロスが見上げてきます。
私にぎゅっと抱きつくゼロスに大丈夫ですよと笑いかけてあげました。
ゼロスは冥王であり、魔王の第二子です。こういった式典は初めてではないのですが、知らない大人ばかりの場所では緊張してしまうのです。
無事にゼロスと私の紹介が終わり、地位の高い者から順に紹介されていきます。
こうして厳かな雰囲気のなかで祝賀式典が始まったのでした。
◆◆◆◆◆◆
「っ、う……」
イスラの意識がゆっくりと浮上する。
重たい瞼を開けると見慣れぬ天井が映った。
どこかの一室で眠っていたようだが、全身が酷く重いことに気付いて一気に覚醒する。
「っ、魔法陣かっ……」
自分を中心に呪縛魔法陣が描かれていたのだ。
魔法陣を囲むようにして六人の術者が立っている。術者たちはイスラが目覚めた事に気付くと、更に魔力を高めて呪縛魔法陣を強化した。
「ぐっ、なんのつもりだっ……!」
全身に伸し掛かる重力に押し潰されそうになる。
イスラは術者たちを鋭く睨みながらも、自分がなんらかの策中に嵌まったことを悟った。
アンネリーナとの歓談中に強烈な睡魔に襲われた。おそらく紅茶が原因だろう。最初からすべてが罠だったのだ。
「お前ら何者だっ。答えろ!」
「答える必要はない。時が来るまで眠っていろ」
そう言って術者たちは術中に落ちたイスラを嘲笑う。
更なる魔力を発動して攻撃魔法陣を出現させ、激しい落雷がイスラを襲った。
魔法陣のなかで幾十幾百の閃光が走り、轟音と衝撃波に部屋の窓ガラスが震撼する。
術者たちは攻撃の成功を確信したが……。
「――――残念だ。だが、答えないなら相手をする必要はないな」
魔法陣の中、イスラは悠然と立っていた。
術者が六人集まろうとイスラに傷一つ負わすことが出来なかったのだ。
「そ、そんなっ……」
「直撃したはずだぞっ」
術者たちは驚愕し、青褪めて後ずさる。
しかしイスラが逃がすことはない。
「本物の呪縛魔法を教えてやる」
イスラがそう言い放った瞬間、膨大な魔力が解放されて魔法陣を一瞬で消滅させた。
術者たちは慌てて逃げようとしたが、――――ドンッ!!
「ぐぁっ……、あっ……!」
「ッ、くそっ……、ぅっ」
術者たちが押し潰されるように床に突っ伏して這いつくばった。指一本動かすことも呼吸すらもままならない。
本来、呪縛魔法とは身体拘束と魔力拘束である。しかし行使者の力量によっては呼吸を奪い、肉片の一欠けらも残さずに圧死させることが可能な魔法なのだ。その最強レベルの魔力を有しているのは四界でも限られているが、間違いなくイスラはその一人だ。
「参考になったか?」
イスラは足元に這いつくばる術者たちを一瞥した。
だがふと気付く。
「その指輪は……」
術者たちは王妃と同じ紋章の指輪をしていた。
それは西のピエトリノ遺跡の神殿で見たシンボルだ。
……嫌な予感がした。
神殿にはなんらかの信仰者達が集まり、そこでは妙な薬が出回っていた。この国の王族がそれに関わっていると考えてもいいだろう。それだけじゃない、勇者を拘束する必要があるなんらかの事態が動いている。
その時、窓の外から歓声が聞こえてきた。
はっとして窓を開けると、遠くに見える王都の広場に数えきれないほどの民衆が集まっている事に気付く。まるで祭典のような賑わいだ。
その光景にイスラは息を飲む。
この国で祝賀式典が開かれることを思い出した。そして、その祝賀式典にブレイラが招待されている事も。
「ブレイラっ……!」
イスラは部屋を飛び出した。
祝賀式典はすでに始まっている。その式典で何かが起ころうとしている。
それは限りなく確信に近い予想だった。なぜなら。
「やはりそうか。すぐに片付けてやるっ」
イスラは好戦的な顔つきになり、魔力を纏って剣を構えた。
廊下に出ると、紋章が刻まれた指輪を嵌めた術者や剣士が待ち構えていたのだ。決定的である。明らかにイスラを足止めする為のものだった。
「邪魔する奴は容赦しない!」
こうしてイスラは立ち塞がる術者や剣士を力尽くで突破していくのだった。
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