48 / 50
第三部 狙われた極上の時間
【第四六話 悪魔のような女神の笑顔】
しおりを挟む「皆さんの晴れ姿に負けないようにと、とびっきりのオシャレをしてきたんですけど、やっぱり皆さんの方が輝いてますね……残念……」
麗葉さんは、時にはモデルのようにポーズをとり、時にはがっかりしてみせたり、いちいちリアクションを大きくして話をしている。
これはライブや舞台に立つゼノンの人間の職業病とも言うべき習性だった。
テレビやユーチューブと違って、表情が見えないステージ上からは、遠くの人にも近くに演者が居るかなような、同じ空気を感じさせるパフォーマンスをしなければならない。
私も最初の半年間の合宿で、そうするように徹底して教えられてきた。観客席で聞いているファンに〝面白くない〟と思われたら引退しろとまで言われていた。
そこまでゼノンの所属芸能人は教育を徹底されているので、麗葉さんもその例に漏れずに実践しているんだ。
「そんな事ないですー!」
「俺たちよりよっぽど輝いてますよー!」
会場の空気はどんどんと熱気を帯びて、あらゆる視線と注目を麗葉さんが独り占めしていっている。
これはゼノンの教育の賜物だろうか。はたまた麗葉さん自身の魅力の成せる事だろうか。
後者だろうな、絶対に。
やっぱりすごいよ麗葉さんは。今日の主役は完全に麗葉さんだな。もう私の出る幕なんて無いよね……この後どうすればいいんだろう。どうやって注目を浴びればいいんだろう。
それともいっその事、計画は白紙にして仕切り直した方が良いのかな。
「——皆さんはこの後、二次会とかで、お酒を飲みに行く方も多いと思いますが……」
考え事をしていたら、途中まで麗葉さんのスピーチを聞き逃していたらしい。話はお酒の話題に変わっていた。
他ならぬ麗葉さんのスピーチなんだ。新成人でもあり、同じ事務所の仲間でもあり、ライバルでもある私が聞かなくてどうするよ。
「お酒は飲んでも呑まれるな。これは絶対に守って下さいね!」
会場は盛大な拍手と歓声に包まれて、新成人の皆んながそれぞれの言い方で合いの手を入れている。
お酒か……今夜、実家で家族とお祝いに飲む予定だけど、ロッキーは飲んでもいいんだろうか。ロッキーは酔うとどうなるんだろう。
面白そうだから飲ませちゃおっと。
自然と顔が緩むのが自分でも分かった。シャイニングを売り出す好機を麗葉さんに潰されてピンチなのに、何を呑気に全く別な事を考えてるんだ私は。
しっかりしろ伊吹美優。今はこの後の事をどうするかを考えなきゃでしょ!
頬をピチピチと自分で叩いて気合いを入れ直す。
「そうそう。お酒と言えば、お酒を飲むお店は居酒屋とかクラブとか色々ありますよね? 偶然にも、来週から公開される映画にキャバ嬢にスポットを当てた映画がありまして、私も出演してるんですよねぇ」
舞台袖から黒子の格好をした人達が、そそくさと登場して、特大のポスターを掲げ出してきた。
は⁉︎ 何故に黒子⁉︎ そして映画の告知ですか⁉︎
「五人のキャバ嬢をしている女の子達の日常と非日常を描いた物語です。私が今着ているドレスも映画で着ている物です。煌びやかな世界に生きる女の表と裏を演じています。私よりも素敵な女優さん達のドレス姿が、すっごく綺麗ですので、皆さん観に来て下さいねぇ!」
またまた会場は盛大な拍手と歓声に包まれていき、その拍手喝采の中、麗葉さんは舞台から降りて行ってしまった。
去り際もスピーディーでコンパクトに。これぞゼノン流。
「美優! まさかの木田麗葉だったじゃん! 仲良いんでしょ? 何で知らなかったの?」
それは私が一番、教えてほしいわ!
「私も知らない事だからサプライズなんじゃん」
「あ、そっか」
そっかじゃないよ。この後の私の企画のインパクトが立ち消えたのよ。まだ何も具体案が出てこないんだよ。一体、どうすんのよぉお!
「どうですか伊吹さん。無事に成人式を終えられて、今の率直な感想を聞かせて下さい」
「はい。一生で一度の成人式を、地元で迎えられた事にまず感謝したいです」
式典も終わり、会場の外で集まって記念写真などを撮り終わった頃を見計らって、待機していたマスコミが駆け寄ってきたので、取材に応じていた。
まずは、きちんと礼節に則った対応から入らなくちゃね。その方が後のインパクトも印象深くなるというものです。
予期せぬ麗葉さんの登場で動揺したけど、麗葉さんのパフォーマンスは会場内のゲストスピーチのみで終了している。その後は姿が見えないから、映画の宣伝活動で次の現場に行ってるんだろうと思った。
なので気持ちを切り替えて、麗葉さんは私の前座として皆んなのハートを暖めてくれる役目をしてくれたんだと、都合良く解釈する事にした。
当初の予定通りにシャイニングとして目立つ為に、私はこれから決起します!
やるぞ伊吹美優! ここからは私が主役だ!
「成人になられて、今まで出来なかった事が色々と出来る様になりました。伊吹さんがまずやりたい事とは何ですか?」
マスコミの方から、今の私にとってめちゃくちゃタイムリーな質問が飛んでくる。
「はい。確かに色々あると思います。お酒も飲めるようになりましたし、未成年じゃないので個人の責任がとても大きくなったのだと感じてます。ですので、今まで以上に自分の言動に責任感を持って挑みたいですね」
マスコミの質問の意図に何も答えてない内容だけど、大切な前振りなのでこの台詞は残しておかないとならない。
「あ、えっと……そうですよね。その通りです。で、伊吹さんのその責任感ある言動で最初に何をやりたいと思ってますか?」
焦らされた記者の方は、少し呆気に取られてる表情をして再度、同じ質問を繰り返す。
そりゃそうだよね。何言ってんのコイツみたいに思うよね。
「はい。この場で、とっておきのサプライズを用意してるので、記者さん達も一緒に楽しんで行って下さいね!」
「え……」
「えー! 何なに? 美優ったらサプライズなんて用意してるの⁉︎」
記者さんが要点を得ない感じで首を捻ってるのと同時に後ろから、今日の私にとっては悪魔の……他の皆んなにとっては女神の声がした。
ビックリして振り返ると、そこにはさっきと同じ衣装のままの麗葉さんがニコニコとしていた。
その笑顔は物凄くイタズラっぽく、私の出方を伺ってるようだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
転生×召喚 ~職業は魔王らしいです~
黒羽 晃
ファンタジー
ごく普通の一般的な高校生、不知火炎真は、異世界に召喚される。
召喚主はまさかの邪神で、召喚されて早々告げられた言葉とは、「魔王になってくれ」。
炎真は授かったユニークスキルを使って、とにかく異世界で生き続ける。
尚、この作品は作者の趣味による投稿である。
一章、完結
二章、完結
三章、執筆中
『小説家になろう』様の方に、同内容のものを転載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる