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十九章 戦いと抗い (選抜編・2)

二百九十三話 連携

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『side フィーリィア』


「…………」
「…………」

 今は学院長の決めたペアで軽い作戦会議の時間を設けられ、クルイさんとキール、マグアとロードとそれぞれ組んでおり、私は……例のアーシル=ケイルさんだった。


「何故、ケイルさん否定するんですか? そういう『』でも担になってるんですか?』


 ……選抜試合で完封してしまった以上、私としては少し気まずい他ない。が、同じ仲間になってしまった以上そんなことも言ってられない。とりあえず何か話さないと空気が……


「……相手は」
「僕が、あの負けを気にしている……そう思っているんでしょう?」
「…………!」

私が口を開いた途端、俯きがちだったケイルさんが不意に顔を上げ、やや恨めしげに話し始めた。

「……確かに、あなたに負けたことは衝撃的でした。三年の上位スプリアの僕が簡単に一年の君に負けた……この事実は受け入れがたいものです。」
「はぁ……」
「……受け入れがたいですが、事実は事実です。あなたの実力は本物であって、それに負けた私がこれ以上小言を言うのはお門違い……だから、僕はあなたをつもりです。」
「…….『見てみる』? それはどういう……」
「さぁ、こんな情けない話より作戦を話し合いましょう。」
「…………それもそうですね。」


 半ば強引に話を切られてしまい、これ以上追求するなという意思も感じられたため、ひとまず切り替える。今の彼が何を考えているのか全く分からないが、変に根に持っているわけではなさそうなので、深追いも不要か。

「作戦を話し合う前に、僕の称号について詳しく話します。僕の称号『知恵の魔力者』は、この僕の魔力で特別に作られた本に魔法を保存しておくことができます。」
「……その本以外に保存はできないのですか?」
「ええ。『それなら、このような本を何冊も作ればいい』という人もいますが、何故か二冊以上持つと僕の魔力が著しく失われてしまいます。おそらく保存できる限界などが関係していると思いますが……とにかく、これ一本しか無理です。そもそも、発動はともかく溜める行為は僕以外できないので複数冊用意する待つ利点はさほどありませんが。」

 あらかた彼の称号について理解したので、今度はこちらの称号もとい魔法の情報を共有していく。

「私が使える称号の魔法? は『ライム・クリスタリゼーション』という魔法で、冷気に成って動けるものですが……正直、よく分かりません。」
「最後に発動していたものですか……でも、分からないと? ご自身の魔法なのにですか?」
「この魔法は冬のタッグ戦の決勝で発現したから……効果としては、私の凍てる月晶を発動しているときに使える魔法で、氷っぽいことなら大抵なんでもできます。体が冷えすぎたりすると使えなくなるのが欠点ですが。」
「……だいぶざっくりしてますね。しかし、強力なことには変わりない。その力でフラン=ハート様に対抗したのなら、その魔法を軸に動く方が勝てそうですね。今回、僕は補助に、あなたを主に戦いましょう。」
「はい……でも、私の魔法には発動準備が必要で、その間は無防備になるので……」
「守ればいいのですね。それは構いませんが……ただ一人、クルイさんへの対応は厳しいかもしれません。」

 確かに、ケイルの言うとおり、他の3人は百歩譲って耐えることができても、2年首席のクルイさんは飛び抜けて強い。ライム・クリスタリゼーションを発動する前に攻め込まれたら3年上位スプリアである彼でも対処できない可能性が高い……とすれば…………


「さて、そろそろ会議終了だ! みんな、戦闘体制を取れ!!」
「……なら、それを逆手に取りましょう。です。」
「誘導? ……なるほど、確かに彼なら引っかかる。それでいきましょう。」

 私が言葉をで示すと、一瞬疑問を浮かべたケイルさんだったがすぐに理解し、杖を取り出す。

「最低でも10秒かかります、いけますか?」
「……最速より最短でいきましょう。彼だけじゃない、他の人たちも強敵なので。」
「はい。」

 忠告をもらったこともあり、一度みんなの戦闘体勢を観察していく。
 まず、クルイさんとキールは前者が前、後者が後ろと私たちと似たようなもので、彼らの戦い方を鑑みるに物理と魔法の分け方だろう。
 そして、マグアとロードの2人は横並びになっており、標準はわかりやすくクルイさんたちに向かれていた。

(…………読めた。)
「制限時間は10分、それでは……始めっ!!」

 学院長の合図が、訓練場に響き渡る。その刹那……背後から稲妻クルイさんが襲いかかってきた。

「……つっ!!」
『凍てる月晶』
「おっ、冬の大会の意趣返しだったんだが……予測済みってか?」

 私は反射的……というより、その可能性を考慮していたこともあり、背中越しに発した冷気を氷に変え、彼の蹴りを受け止めさせた。意趣返しとは、おそらくウルスの開幕オーバージェットのことだろうか。

「はぁっ……くっ!!」
「だが、俺も予測済み……受け止められることはなっ!」

 くるりと周り氷を避けながら、私は剣を彼の胴体に振るう。しかし、相手もこちらの行動は分かっていたようで、余裕を持ちながら飛び上がり回避、流れるように踵落としを喰らわせようとしてきた……

「間に合わないぞ、こ「『吹雪く一晶』」……っぶなっ!?」

 ……ので、放たれた踵目掛けて氷の針を飛ばす。それを見た瞬間、クルイさんは余裕綽々な顔を強張らせ、咄嗟に片手を払った影響で現れた電線を辿り、針に掠りながらも地面に無事着地した。

「フィーリィアさん!」
「大丈夫です、そちらの対応を優先してください。」
「え、ええ……!」

 予定通りとは行かず、焦りを見せたケイルさんを落ち着かせながらクルイさんへの視線は外さない。
 
「……ここまで読んでいていたか。だが俺の魔法、ライジング・ブレイカーはそう簡単に反応できるはずない。」
「あなたの動きは『直線』……だから、絞れた。」
「なるほど……前とはか。」

 ……冬の大会では、成す術なくやられてしまった。今回は頼りのウルスもいない中、彼を倒さなくてはいけない。それに、敵は当然彼だけじゃない。

「マグアさん、クルイさんはあっちに!!」
「はやっ、でも混戦なら好都合かも!」
「すぐ行きますわ、クルイさん!!」

 2人は高速移動したクルイさん目掛けて接近、キールもこちらの様子を伺いながら距離を詰めてくる。

(凍てる月晶を先に発動してしまったため、ライム・クリスタリゼーションに切り替えるのに5秒……いや、戦いながらじゃ、それこそ10秒か)

 想定していたとは言え、稲妻の速さ……冷気無しでは対応できなかった。今の自分の力をちゃんと理解しておかなかった結果か。

「連携……いけますか?」
「やってみなければ……分かりませんっ!」


 …………それもそうだ。
 
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みんなの感想(4件)

crazy’s7@体調不良不定期更新中
ネタバレ含む
SO/N
2021.10.30 SO/N

改めて、この度はレビューしていただきありがとうごさいました。自作の長所や特徴を分かりやすくまとめられていて、すごく読みやすかったです。
これからも残りの活動、頑張ってください。

解除
crazy’s7@体調不良不定期更新中

【簡単なあらすじ】
ジャンル:ハイファンタジー
主人公はある事件をきっかけに両親を失い、その事を発端として前世の記憶をも思い出す。もし2度も両親を失ってしまったなら? 全てを失ってしまったならば。主人公でなくても、守るためには強くならなければならない、強くなりたいと願うのではないだろうか? 強さを手に入れても、人としての優しさや思い遣りを失わない彼の、最強を目指す物語。

【物語の始まりは】
それはある事件の七日前のこと。
主人公がいつもより、早起きしたところから始まっていく。その日主人公は、朝ご飯も食べずに父へ魔法を教えてくれとせがむ。
父に魔法を教えて貰うようになった主人公は、その日一人で魔法の練習をしていた。すると爆発音が村の方から聞こえてきたのである。慌てて村へ向かう主人公。果たして父たちは無事なのだろうか?

【舞台や世界観、方向性】
魔法や魔物が存在する異世界が舞台。
ゲームのようにステータスが目視確認できる。
全体的に話し言葉(口語)で描かれている物語だという印象。視点の切り替えもあるが一人称である。

【主人公と登場人物について】
物語の始まりでは、主人公は6歳の男の子。
彼はあることから、前世の記憶を垣間見ることとなる。

村が襲われた時、父に逃してもらったものの魔物に追われた彼は負傷してしまう。父から習った特別な魔法により、なんとか自力で魔物を倒すことができたものの、気を失ってしまう。目覚めた彼は両親の安否が気になり一度村へ戻るが、そこに残されていたのは自分の末路を悟った父の手紙であった。
主人公は父の手紙の手紙から、全てを失ったことに気づく。ショックを受けた彼に流れ込んできたのは、前世の記憶。彼はあまりの頭痛に再び気を失ってしまうのであった。

次に目覚めた時、主人公は見知らぬ場所いた。そこで”伝説級の魔法使い”グラン=ローレスという者が自分を助けてくれたことを知るのだった。彼との出会いが、主人公の運命を大きく変えていくのではないだろうか?

続く

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スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

SO/N
2021.10.07 SO/N

ありがとうございます。是非これからも彼らの物語を楽しんでいってください。

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