291 / 291
十九章 戦いと抗い (選抜編・2)
二百九十三話 連携
しおりを挟む『side フィーリィア』
「…………」
「…………」
今は学院長の決めたペアで軽い作戦会議の時間を設けられ、クルイさんとキール、マグアとロードとそれぞれ組んでおり、私は……例のアーシル=ケイルさんだった。
「何故、ケイルさんが否定するんですか? そういう『役』でも担になってるんですか?』
……選抜試合で完封してしまった以上、私としては少し気まずい他ない。が、同じ仲間になってしまった以上そんなことも言ってられない。とりあえず何か話さないと空気が……
「……相手は」
「僕が、あの負けを気にしている……そう思っているんでしょう?」
「…………!」
私が口を開いた途端、俯きがちだったケイルさんが不意に顔を上げ、やや恨めしげに話し始めた。
「……確かに、あなたに負けたことは衝撃的でした。三年の上位の僕が簡単に一年の君に負けた……この事実は受け入れがたいものです。」
「はぁ……」
「……受け入れがたいですが、事実は事実です。あなたの実力は本物であって、それに負けた私がこれ以上小言を言うのはお門違い……だから、僕はあなたを見てみるつもりです。」
「…….『見てみる』? それはどういう……」
「さぁ、こんな情けない話より作戦を話し合いましょう。」
「…………それもそうですね。」
半ば強引に話を切られてしまい、これ以上追求するなという意思も感じられたため、ひとまず切り替える。今の彼が何を考えているのか全く分からないが、変に根に持っているわけではなさそうなので、深追いも不要か。
「作戦を話し合う前に、僕の称号について詳しく話します。僕の称号『知恵の魔力者』は、この僕の魔力で特別に作られた本に魔法を保存しておくことができます。」
「……その本以外に保存はできないのですか?」
「ええ。『それなら、このような本を何冊も作ればいい』という人もいますが、何故か二冊以上持つと僕の魔力が著しく失われてしまいます。おそらく保存できる限界などが関係していると思いますが……とにかく、これ一本しか無理です。そもそも、発動はともかく溜める行為は僕以外できないので複数冊用意する待つ利点はさほどありませんが。」
あらかた彼の称号について理解したので、今度はこちらの称号もとい魔法の情報を共有していく。
「私が使える称号の魔法? は『ライム・クリスタリゼーション』という魔法で、冷気に成って動けるものですが……正直、よく分かりません。」
「最後に発動していたものですか……でも、分からないと? ご自身の魔法なのにですか?」
「この魔法は冬のタッグ戦の決勝で発現したから……効果としては、私の凍てる月晶を発動しているときに使える魔法で、氷っぽいことなら大抵なんでもできます。体が冷えすぎたりすると使えなくなるのが欠点ですが。」
「……だいぶざっくりしてますね。しかし、強力なことには変わりない。その力でフラン=ハート様に対抗したのなら、その魔法を軸に動く方が勝てそうですね。今回、僕は補助に、あなたを主に戦いましょう。」
「はい……でも、私の魔法には発動準備が必要で、その間は無防備になるので……」
「守ればいいのですね。それは構いませんが……ただ一人、クルイさんへの対応は厳しいかもしれません。」
確かに、ケイルの言うとおり、他の3人は百歩譲って耐えることができても、2年首席のクルイさんは飛び抜けて強い。ライム・クリスタリゼーションを発動する前に攻め込まれたら3年上位である彼でも対処できない可能性が高い……とすれば…………
「さて、そろそろ会議終了だ! みんな、戦闘体制を取れ!!」
「……なら、それを逆手に取りましょう。誘導です。」
「誘導? ……なるほど、確かに彼なら引っかかる。それでいきましょう。」
私が言葉を立ち位置と構えで示すと、一瞬疑問を浮かべたケイルさんだったがすぐに理解し、杖を取り出す。
「最低でも10秒かかります、いけますか?」
「……最速より最短でいきましょう。彼だけじゃない、他の人たちも強敵なので。」
「はい。」
忠告をもらったこともあり、一度みんなの戦闘体勢を観察していく。
まず、クルイさんとキールは前者が前、後者が後ろと私たちと似たようなもので、彼らの戦い方を鑑みるに物理と魔法の分け方だろう。
そして、マグアとロードの2人は横並びになっており、標準はわかりやすくクルイさんたちに向かれていた。
(…………読めた。)
「制限時間は10分、それでは……始めっ!!」
学院長の合図が、訓練場に響き渡る。その刹那……背後から稲妻が襲いかかってきた。
「……つっ!!」
『凍てる月晶』
「おっ、冬の大会の意趣返しだったんだが……予測済みってか?」
私は反射的……というより、その可能性を考慮していたこともあり、背中越しに発した冷気を氷に変え、彼の蹴りを受け止めさせた。意趣返しとは、おそらくウルスの開幕オーバージェットのことだろうか。
「はぁっ……くっ!!」
「だが、俺も予測済み……受け止められることはなっ!」
くるりと周り氷を避けながら、私は剣を彼の胴体に振るう。しかし、相手もこちらの行動は分かっていたようで、余裕を持ちながら飛び上がり回避、流れるように踵落としを喰らわせようとしてきた……
「間に合わないぞ、こ「『吹雪く一晶』」……っぶなっ!?」
……ので、誘導のままに放たれた踵目掛けて氷の針を飛ばす。それを見た瞬間、クルイさんは余裕綽々な顔を強張らせ、咄嗟に片手を払った影響で現れた電線を辿り、針に掠りながらも地面に無事着地した。
「フィーリィアさん!」
「大丈夫です、そちらの対応を優先してください。」
「え、ええ……!」
予定通りとは行かず、焦りを見せたケイルさんを落ち着かせながらクルイさんへの視線は外さない。
「……ここまで読んでいていたか。だが俺の魔法、ライジング・ブレイカーはそう簡単に反応できるはずない。」
「あなたの動きは『直線』……だから、絞れた。」
「なるほど……前とは違うか。」
……冬の大会では、成す術なくやられてしまった。今回は頼りのウルスもいない中、彼を倒さなくてはいけない。それに、敵は当然彼だけじゃない。
「マグアさん、クルイさんはあっちに!!」
「はやっ、でも混戦なら好都合かも!」
「すぐ行きますわ、クルイさん!!」
2人は高速移動したクルイさん目掛けて接近、キールもこちらの様子を伺いながら距離を詰めてくる。
(凍てる月晶を先に発動してしまったため、ライム・クリスタリゼーションに切り替えるのに5秒……いや、戦いながらじゃ、それこそ10秒か)
想定していたとは言え、稲妻の速さ……冷気無しでは対応できなかった。今の自分の力をちゃんと理解しておかなかった結果か。
「連携……いけますか?」
「やってみなければ……分かりませんっ!」
…………それもそうだ。
0
お気に入りに追加
41
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説
ポンコツ気味の学園のかぐや姫が僕へのラブコールにご熱心な件
鉄人じゅす
恋愛
平凡な男子高校生【山田太陽】にとっての日常は極めて容姿端麗で女性にモテる親友の恋模様を観察することだ。
ある時、太陽はその親友の妹からこんな言葉を隠れて聞くことになる。
「私ね……太陽さんのこと好きになったかもしれない」
親友の妹【神凪月夜】は千回告白されてもYESと言わない学園のかぐや姫と噂される笑顔がとても愛らしい美少女だった。
月夜を親友の妹としか見ていなかった太陽だったがその言葉から始まる月夜の熱烈なラブコールに日常は急変化する。
恋に対して空回り気味でポンコツを露呈する月夜に苦笑いしつつも、柔和で優しい笑顔に太陽はどんどん魅せられていく。
恋に不慣れな2人が互いに最も大切な人になるまでの話。
7月14日 本編完結です。
小説化になろう、カクヨム、マグネット、ノベルアップ+で掲載中。
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
転生したら人間じゃなくて魔物、それもSSSランクの天狐だったんですが?
きのこすーぷ
ファンタジー
何時もと変わらないはずの日常。
だけれど、この日は違った。教室の床は光り始め、目が覚めるとそこは洞窟の中。
主人公のコハクは頭の中で響く不思議な声と共に、新たな世界を生き抜いていく。
「ん? 殺傷した相手のスキルが吸収できるの?」授かったスキルは強力で、ステータスの上昇値も新たな世界ではトップクラス。
でもでも、魔物だし人間に討伐対象にされたらどうしよう……ふえぇ。
RPGみたいな感じです。
クラス転移も入っています。
感想は基本的に、全て承認いたします。禁止なのは、他サイトのURLや相応目的の感想となっております。
全てに返信させていただくので、暇なときにでも書いてくださると嬉しいです!
小説家になろう様でも掲載を始めました。小説家になろう様では先行で更新しております。
応援してくれるとうれしいです。https://ncode.syosetu.com/n5415ev/
元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~
桜井正宗
ファンタジー
魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。
帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。
信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。
そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。
すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。
何度も死に戻りで助けてあげたのに、全く気付かない姉にパーティーを追い出された 〜いろいろ勘違いしていますけど、後悔した時にはもう手遅れです〜
超高校級の小説家
ファンタジー
武門で名を馳せるシリウス男爵家の四女クロエ・シリウスは妾腹の子としてプロキオン公国で生まれました。
クロエが生まれた時にクロエの母はシリウス男爵家を追い出され、シリウス男爵のわずかな支援と母の稼ぎを頼りに母子二人で静かに暮らしていました。
しかし、クロエが12歳の時に母が亡くなり、生前の母の頼みでクロエはシリウス男爵家に引き取られることになりました。
クロエは正妻と三人の姉から酷い嫌がらせを受けますが、行き場のないクロエは使用人同然の生活を受け入れます。
クロエが15歳になった時、転機が訪れます。
プロキオン大公国で最近見つかった地下迷宮から降りかかった呪いで、公子が深い眠りに落ちて目覚めなくなってしまいました。
焦ったプロキオン大公は領地の貴族にお触れを出したのです。
『迷宮の謎を解き明かし公子を救った者には、莫大な謝礼と令嬢に公子との婚約を約束する』
そこそこの戦闘の素質があるクロエの三人の姉もクロエを巻き込んで手探りで迷宮の探索を始めました。
最初はなかなか上手くいきませんでしたが、根気よく探索を続けるうちにクロエ達は次第に頭角を現し始め、迷宮の到達階層1位のパーティーにまで上り詰めました。
しかし、三人の姉はその日のうちにクロエをパーティーから追い出したのです。
自分達の成功が、クロエに発現したとんでもないユニークスキルのおかげだとは知りもせずに。
元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました
きゅちゃん
ファンタジー
元エリート (?)銀行員の高山左近が異世界に転生し、コンサルタントとしてがんばるお話です。武器屋の経営を改善したり、王国軍の人事制度を改定していったりして、異世界でビジネススキルを磨きつつ、まったり立身出世していく予定です。
元エリートではないものの銀行員、現小売で働く意識高い系の筆者が実体験や付け焼き刃の知識を元に書いていますので、ツッコミどころが多々あるかもしれません。
もしかしたらひょっとすると仕事で役に立つかもしれない…そんな気軽な気持ちで読んで頂ければと思います。
魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜
東雲ノノメ
ファンタジー
オタクの女子高校生だった美水空は知らないうちに異世界に着いてしまった。
ふと自分の姿を見たら何やら可愛らしい魔法少女の姿!
謎の服に謎の場所、どうしようもなく異世界迷子の空。
紆余曲折あり、何とか立ち直り人間の街についた空は吹っ切れて異世界を満喫することにする。
だけどこの世界は魔法が最弱の世界だった!
魔法使い(魔法少女)だからという理由で周りからあまりよく思われない空。
魔法使い(魔法少女)が強くないと思ったの?私は魔法で生きていく!という精神でこの異世界で生きていく!
これは可愛い魔法少女が異世界で暴れたり暴れなかったりする話である。
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
改めて、この度はレビューしていただきありがとうごさいました。自作の長所や特徴を分かりやすくまとめられていて、すごく読みやすかったです。
これからも残りの活動、頑張ってください。
【簡単なあらすじ】
ジャンル:ハイファンタジー
主人公はある事件をきっかけに両親を失い、その事を発端として前世の記憶をも思い出す。もし2度も両親を失ってしまったなら? 全てを失ってしまったならば。主人公でなくても、守るためには強くならなければならない、強くなりたいと願うのではないだろうか? 強さを手に入れても、人としての優しさや思い遣りを失わない彼の、最強を目指す物語。
【物語の始まりは】
それはある事件の七日前のこと。
主人公がいつもより、早起きしたところから始まっていく。その日主人公は、朝ご飯も食べずに父へ魔法を教えてくれとせがむ。
父に魔法を教えて貰うようになった主人公は、その日一人で魔法の練習をしていた。すると爆発音が村の方から聞こえてきたのである。慌てて村へ向かう主人公。果たして父たちは無事なのだろうか?
【舞台や世界観、方向性】
魔法や魔物が存在する異世界が舞台。
ゲームのようにステータスが目視確認できる。
全体的に話し言葉(口語)で描かれている物語だという印象。視点の切り替えもあるが一人称である。
【主人公と登場人物について】
物語の始まりでは、主人公は6歳の男の子。
彼はあることから、前世の記憶を垣間見ることとなる。
村が襲われた時、父に逃してもらったものの魔物に追われた彼は負傷してしまう。父から習った特別な魔法により、なんとか自力で魔物を倒すことができたものの、気を失ってしまう。目覚めた彼は両親の安否が気になり一度村へ戻るが、そこに残されていたのは自分の末路を悟った父の手紙であった。
主人公は父の手紙の手紙から、全てを失ったことに気づく。ショックを受けた彼に流れ込んできたのは、前世の記憶。彼はあまりの頭痛に再び気を失ってしまうのであった。
次に目覚めた時、主人公は見知らぬ場所いた。そこで”伝説級の魔法使い”グラン=ローレスという者が自分を助けてくれたことを知るのだった。彼との出会いが、主人公の運命を大きく変えていくのではないだろうか?
続く
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
ありがとうございます。是非これからも彼らの物語を楽しんでいってください。