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十八章 分解した心 (学園編・1)

二百八十三話 敵

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「……終わったか。」

 爆破と砂嵐によって次第に霧が晴れ……その次にはマルクが地面に倒れている姿が見えた。魔力防壁は完全に壊れており、勝敗は火を見るより明らかだった。

「……確かに、実力はある。俺たちにはまだ及ばないが、これからもっとお前は強くなれる。」
(……その割には、期待外れな顔だ。)

 だが……仕方のないことだ。あいつの人生で本気になれたのはおそらくこの数日……何年も真剣に鍛え続けている男に一朝一夕で敵うはずもない。




『ど……どこに、そんな力…が……!!』
『お前が知る必要はない。それより答えろ、誰がお前に手を貸した。』
『こ、これは……僕の力だぁ……ぐぁぁっ!!?』
『テメェの愚図に付き合う気はない……人が一朝一夕いっちょういっせきに強くなれるわけがないだろガキが、夢見んな。』





 たった、一瞬で……人は強くなれない。俺が教えたやったんだ、本人が一番理解しているはず。

「期待してるぞ、アースト。お前は俺たちの」



















。」




 その時、小さく芯のある声が響いた。運命に抗うように……あるいは、ただを捏ねるように。




 声の主は…………当然、立ち上がろうとするアーストだった。


「……悪いが、魔力防壁が無い相手を俺は叩けない。食い下がられても無理だ」
「な、ラ…………。」
(…………何を言ってる?)


 魔力防壁の回復には時間がかかる。個人差はあれど1時間は絶対に復活しない……それを補う魔法も存在しない。ショックで幻覚で……も…………


「…………は?」
「……えっ、あれ……私の目がおかしいのかな? そんなことって……」
「あ、ありえないはず……でも、あのは……!」


 ……何が起こってる? この、不可能を不条理に乗り越える力…………ど こ か で…………




「ま、魔力防壁を……治した、だと……!?」

「……さァ、続キだ。」


 そう言って、魔力防壁を治したアーストは…………ブロンズ気味だった黒目は、橙色に光り輝いていた。
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


















 何が、起こってる? 僕の体に……目が、痛い……!



(……いヤ、なんでもいい。蘇った鎧を……活カセ!!!)




「はぁァッ!!!」
「くっ……よく分からないが、復活したならもう一度……っ!!??」

 意識が朦朧とする中、僕は魔法を放とうとしたところ……イルアが真正面から復活したこちらの魔力防壁を叩き斬り、破壊する。

 …………が、瞬く間に紫色の壁は再生していく。

「ど、どうなってる……『サンドタイフーン』!!」
「ぐっ……オオォァァ!!!」

 砂の竜巻に巻き込まれ、持続的に傷つけられようとも復活させながら魔力を貯め続ける。しかし、復活も一瞬といったわけではなく、その際に生まれる修復の時間に魔法は壁内へと潜り込み、細かな傷をつけられていく。

「イル!!? これ以上は」
「分かってる!! だが……こいつはそんなことを望んでいない!」
「ワカッテ、るな……イルア!!」

 今、僕の体に何が起こっているのか……常識的に考えるのならすぐに中止するべきだ。けど、せめてこの戦いには……決着を!

「僕は……上に、立つ!!!」
「上……それは人の上ってことか!」
「知、ラン!!!」




 昔は、そうだった。人の上に立って玉座に座る……そんな夢を見ていた。

 そして、それはいまも変わらないのだろう。結局、人は誰かと比べて生きているのだから、比較対象よりは優位に立ちたい……その想いが人一倍強い僕は、どこまで行っても情けない人間だ。




『……僕は、『無かったこと』にできない。許されることもない罪を……一生背負う。甘い夢なんて見ない。』





 罪は、存在し続ける。罪こそが、僕をそうたらしめる……だったら、変わるのではなく




「……『シュテルクスト・フレイム』!!!」
「っ、ぐぉぉぁっ!!!!」




 その先に、『次』があるんだ。
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




















(…………どっちが……)

 炎と砂嵐がぶつかり、舞台全体を包み隠す。加えて、異様な戦いによって生まれた複雑な魔力が感知力もを乱し……見た目からでは全く決着の具合が分からなくなっていた。





『……いきなり人に斬りかかるのは、良くないんじゃないか?』
『っ……それは、あなたが不審者だからわよ!』




 ……前に戦った時には、こんな力無かったはず。これもあのウルスとかいう男の成果なのだろうか…………いや、だとすればイルアも同じ速さで成長しているはず。いくら変なちからがあったとしても、ここまで追い込まれるわけがない。




『……できれば、見届けてあげてください。そうすれば、きっと姉さんも…………』




 …………リリーは、まだ私が昔のままだと思い込んでいるのだろう。『誰にでも優しいお姉ちゃん』……そんな幻想をずっと夢見て、我慢を隠して私に接している。


(…………けど、無理だ。私は人族を……あのを許すことはできない。)



 同じだ、どいつもこいつも。それを一人ひとり分けて見るなんて…………できるわけがない。そんな器用な人間なら、とっくに私は忘れて……できるわけがないっ!




『……エルサ、あなたがそう簡単に受け入れられないことは分かっています。ですが、何も知らず相手を否定することは……あなた自身をも陥れる行為です。』
『なら……私にどうしろって言うのですか。』
『知って欲しいのです。あなたの思う人族と本当の人族は……人間は違うのだと。彼らを知れば、必ず変わります。』







「…………いやだ。」


 期待なんかするな。あいつらも……アーストも同じ、だ。私たち異種族を下に見て……わかり合おうとなんて、してない。



「…………ぐっ……」

(…………負けてる)





 人族は…………敵なんだ。
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