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十八章 分解した心 (学園編・1)

二百七十五話 〈炎〉

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「イルア、ナルミ!」
「ああ!」「うん!」

 開始とともに、エルサの指示でイルアとナルミが攻め上がってくる。

イルア両手剣はともかく、ナルミの大楯おおたて……ガッラ二刀流より珍しいな。)

 この世界では魔力防壁という万能の盾が存在するため、盾を構えて戦う戦士はあまり存在しない。下手に持つと重りになるため、展開の速い魔法戦では邪魔になったりするため、居たとしてもソーラのような剣と盾……ましてや、盾一つ持ちの魔導士なんて見たことがない。

「タンクってところか……」
「頼むぞ、ナル!」
「もちろん!」

 早速イルアが剣を俺に振りかざし、一歩下がって回避する。そして、すかさず反撃の一振りを出したところ……予想通り、ナルミが前に出て受け止めた。

「私がいる限り、あなたの攻撃は通らないよ!」
「じゃあ、お前がいいんだな?」
「……ふぇ、うわぁっ!?」

 強気な態度を覆すため、俺は目の前にある身長ほどの大楯に足を当て、ステータスの限りやや上向きに押し出す。すると、予想外のベクトルの力だったようで、結果的に彼女が無防備な体を見せてきたので蹴り飛ばしてやった。

「ぐふっ!!」
「ナル!? ……よくもやってくれた、なぁぁ!?」
「分かりやすいな、お前も!」

 恋人がやられ、愚直に突っかかってきたイルアの手首を小突いて掴み、そのままスイングして投げ飛ばす。さて、次は……

「『インパクトウェーブ』!」「『水紋』!」「『フレイム』!!」
「遅い。」

 連続して放たれた衝撃波と水皿、炎を難なく避けていく。インパクトウェーブという魔法は初見だが、この速さなら大したことはない……当たる方が難しいな。

『透』
「はぁぁっ……なっ、どうなっ……!?」
「見たまんまだ、おらっ!!」
「リリー!?」

 回避を見た瞬間に、今度は白銀少女のリリーが突撃してきたため、C・ブレードで受け止める……と見せかけてから透過して姿勢を崩させ、肩を掌打しょうだで突き飛ばす。

「……こんなものか?」
「まさか……ナル、リリー!!」

 後方から聞こえるイルアの指示により、すぐさま体勢を立て直したリリーが羽を使い空から、ナルミは正面……そして、イルアは後ろからといった三方向からの攻めが繰り出された。

(挟み撃ち、タイミングも完璧……実践とやらで連携は前々から練習していたのだろう。まだまだ甘いが。)
『ジェット』
「飛んだ…リリー!」
「やらせません、今度こそ!!」

 如何せん速さが無いので、行動範囲が狭められる前に俺は上昇し地上からの攻撃を無効化する。そして、落ちてくるリリーのレイピアを必要最低限の動きで避け切り、通り過ぎ様に背中を斬りたかったが……流石に、それは封じられた。

「『フェアリーリング』!」
「っ……判断は早いな。」
「ふんっ……っていうか、空を飛ぶのはありなんだ? 円がどうとか言ってたくせに、随分と弱気ね?」
「俺が言ったのは『円から出ない』だ、ルールはちゃんと守ってる。」
「確かに……けどな、空を飛ぶのは精霊族の十八番おはこだ!」
「その通り!!」

 魔法を放ち、俺の飛翔にエルサが小言を言っている隙にイルアとナルミが同じ高度にまで昇ってきていた。十八番かなんだか知らないが、せっかくだ……少し見せてもらおう。

「『トルネードジェット』!」
「当たるかっ、はぁっ!!」
「……ここだぁっ!!」

 撒き餌の竜巻を起こし、双方に放ってみたところあっさりとそれらは避けられてしまい、背後からイルアの突進が飛んでくる。それを敢えてギリギリのところで避けた瞬間……俺が隙だらけと見たのか、ナルミが盾で俺を思いっきり押してきた。

「このまま場外負けになってもらうよ!!」
「……断る。」
『オーバージェット』
「ぐぇっ!!?」
「ナルぐはぁっ!!?」

 どうやら円から押し出しこちらの違反負けを狙っていたようだが、すぐさまオーバージェットの勢いで押し返し、再びナルミを吹き飛ばす。また、そのついでに円の中に留まっていたイルアに近づき、地面目掛けて斬りつけてやった。

「魔物相手なら、この展開スピードでも合わせてくれるだろうが……人間相手じゃそうはいかない。もっと仕掛けてこい。」
「くっ……『ポテンシャル・レッド』、『ポテンシャル・ブルー』!!」
(強化魔法……触れずにか。)

 俺の挑発に乗ったのか、エルサは杖を掲げて魔法を唱える。すると、彼女だけではなくマルクたち4人も同時に赤と青に光りだし、何かしらの強化を得ていた。本来、強化や付属魔法は対象に直接触れていないと発動できないが……称号を上手く扱えているのは高評価だ。

「あんた、リリーと前に出て!!」
「あ、あぁ!」
「アーストさん、魔法を……はっ!」
(……さっきより数段速いな。)

 地面に降り立ったと同時に、後衛だったマルクも前に出て2人で挑んでくる。そして、マルクが後ろで魔法を放ちながらリリーが三度みたび剣を突き刺してきた……と、思いきや、それはどうやらブラフのようだった。

「『フレイム』!」
「……っ、なるほど!」
「今だ、畳みかけろ!!」

 リリーが羽を使い空へと向かったため、ひとまず俺はフレイムを斬って壊したが……そのすぐ後ろにマルクが迫ってきており、背後からナルミ、横からイルア、更に空からリリー……今度は4方向の三角錐さんかくすい形に俺を取り囲んだ。

(おまけに、タイミングも先ほどは少し違う……ジェットも警戒済みだろう。同じ手は食わせられないか。)

 マルクを入れた、即興にしてはよくやれている……でもまあ、あくまで学生に毛が生えたレベルの攻撃。崩すのはあまりにも容易い。

。」
「うっ!?」
「な、何をぐぉっ!??」

 まず、手始めに一番先に届くであろう上方向のリリー目掛け剣を投げ、タイミングを無理やりずらさせる。次に、とっくに間合いに入り込み、剣を上段から振り下ろそうとしていたマルクの手首を強引に掴み、肩にかかと落としを食らわせひざまずかせた。
 
「ど、どううぐっ!?」
「ナルっ、がはぁっ!!」

 それから、ナルミの突進の盾を肩で流し、力を下向きに変換させることで転ばす。さらに、その隙に大楯の持ち手を瞬く間に奪い取り、イルアごと2人とも巻き込んで地面に強く叩きつけてやった。

「み、みんな……っ、消えた!?」
「転移だ……『風神・一式』!!」
「「「「……!!」」」」

 仕上げに、俺は転移でリリーをやり過ごし、空から4人まとめて風の咆哮で大ダメージを与えてやった。あとは…………アイツだ。

「よくも……『インパクトウェーブ』!!」
「『風神・二式』……これで、準備は整った。」

 飛翔した俺を衝撃波で撃ち落とそうとするが、紫風の竜巻で自身を囲む、無効化する。極め付けには、竜巻を拳に収束させ……宙に浮きながら腕を振り抜いた。

「『風神・三式』」
「っ、がはぁっ……!!?」

 円から出られず遠距離になってしまったものの、風圧は十分だったようでエルサは避ける暇もなく壁へ叩きつけられる。一応全員、まだ魔力防壁は残っていたが……この戦力差に、若干の焦りが見え始めていた。

「ど、どうなって……速さは、私たちでも追いつける、のに……」
「恐ろしく処理が早い……本当に同じ子どもなのか……?」
「これが……アーストさんの言っていたことですか? 彼の強さは……」
「いや……まだ、これでも……そうだろ、ウルス?」
「…………」

 ……どこまで俺の強さを伝えたのか知らないが……ここは学院じゃないんだ、指導者としての力はちゃんと示させてもらおう。

「寝てる暇は無い……行くぞ!」
「……金属の球体? あれ、形が変わって……」
「武器魔法……? ……えっ、あの形状はまさか……!?」
「ナルミ、早く構えてっ!!」

 地に足をつけ、C・ブレードからテラスへ武器を入れ替える。そして、テラスを地面に置いて形を変化させ……やがて、俺の倍程度に大きくなったは口から白色の光を放ち始める。

「な、何故こんな物が……!?」
「……ぶっ飛べ!!」
「危ない……くっ、強いよこれっ!!!」

 俺は驚いている彼らを他所よそに点火させ…………から魔力の砲弾を撃ち放つ。それをナルミがギリギリのところで受け止めたが当然耐えられるわけもなく、後ろにいたリリーとイルアごと吹き飛んでいく。

(マルクとエルサは……離れてたか。)
「あ、あなた何勝手に……!?」
「でも……これなら通用する!」

 大砲に巻き込まれなかった2人は、何やら揉めながらも強引にマルクの方が魔法を手に掲げていた。それはどうやら炎の魔法で……しかし、今まで見たことがないくらいに熱く、激しく燃え上がる灼熱のほむらだった。あんな魔法が使えるようになっていたのか。

「いけっ、『シュテルクスト・フレイム』!!!」
(……桁違いの威力だ。)

 先ほどまでのフレイムとは比べ物にならない火力を誇っており、まともに当たれば致命傷……かといって、この円の中で避けられる大きさでもない。

 赤の火炎…………なら、こちらは青でいこう。





「……消せ、『蒼炎』」


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