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十八章 分解した心 (学園編・1)
二百七十四話 〈精〉
しおりを挟む「……今度はあんたが相手? いいわよ、私が相手に……」
「私? ……何言ってるんだ? お前たちはチームだ、全員でかかってきてもらう……そうでもしないと話にならない。」
「「「「…………!?」」」」
(……本気か、ウルス?)
ウルスが言った挑発的な勝負内容に、精霊族の4人が固まる。それも無理はない、何せ今のウルスのステータスは僕の倍程度……1対1ならともかく、4人を相手するには難しいに違いない。
名前・ウルス
種族・人族
年齢・16歳
能力ランク
体力・245
筋力…腕・231 体・274 足・288
魔力・250
魔法・18
付属…なし
称号…なし
(ステータスすら操る……恐ろしい奴だ。)
彼曰く、神界魔法を使わずとも体の魔力と力を操る? ことで他人から見えるステータスを操作できるだけではなく、実際にその見える能力に準じた身体になるとか……次元が違いすぎる話なのでよく分からないが、つまりウルスはこのステータスで彼女らと戦うつもりだろう。
「な、舐めてるの!? この私たち4人があんた1人負けるとでも、本気で!!?」
「4人じゃない……マルク、お前を含めた5人だ。顔合わせを兼ねた擦り合わせってところだ。」
「ぼ、僕も……?」
「さ……流石にそれは無茶じゃない? えっと……ウルス? 私たちって結構強いってここじゃ有名なんだけど、試合にならないよ?」
強気過ぎる提案に、エルサ=ミラストだけでなく蜜柑色の髪をした女の子も苦言を呈する。その感想は至って当然で、いくらウルスがステータス以上の力を持っていたとしても、複数相手に勝てるわけがない……そう思っていたが、どうやら彼はその壁すら生ぬるいようだった。
「なら、こうしよう…………3メートルでいいか。」
「ん? ……円を書いてどうした? というか何でボックスに墨汁が……」
すると、ウルスは急にボックスから墨のような液体を取り出し、自身が突き刺した剣を中心に円を描く。その大きさは何とも言えない微妙なもので……しかし、舞台の広さと比べればとても快適とは呼べない範囲だった。
(……まさか……!?)
「……っ、そこから出ない……!?」
「察しがいいな……リリー=ミラスト。戦いの最中、俺はこの半径約3メートルの円の外に出ない。出た時点で俺の負け……これでやっとちょうどいいハンデになるな。」
「ど……どこまでつけ上がれば気が……! 大体、この男と組むなんて私は……」
「イレギュラーの一つや二つ、乗り越えられないようじゃ三国会議で勝てるわけもない……それとも、自信がないのか?」
「っ……!」
ウルスの攻撃的な発言に、ついにエルサ=ミラストは押し黙ってしまう。これが圧倒的な力を持つ者の自信…………しかし、どこか違う。
『止めてやる、お前を。』
『……その程度か、世界を救った英雄は。』
(……言葉が、以前より強い。変わったのか、ウルスも……?)
……思えば、彼は学院のことをどう整理させたのか。あの仲間たちの誰も連れて来ず、わざわざ僕を選んで……それに、表情も前より堅い。一体何があったのか……
「それで、どうする? 勝つ見込みが無さそうなら戦わなくても……」
「やるわよ……やればいいんでしょ!! でもその代わりあんたが負けたらその指導者ってやらを辞退してもらうから! いい!?」
「……いいのですか、ウルス?」
「はい……それじゃ、時間をやる。作戦でも立ててこい。」
「言われなくても、ほらみんな!」
「……あの、あなたも。」
「あ、あぁ……」
勢い任せな流れに呆然としていると、エルサ=ミラストの妹らしき白銀の少女に促され、彼女らの跡をついていく。そして、ウルスに聞かれないように縮こまりながら作戦会議を始めた。
「じゃあ作戦だけど、いつもの陣形で……」
「ちょっとちょっと、その前にこの人のことをちゃんと聞かないと! っていうか私たちの自己紹介もしておかないとね!」
「た、頼む。」
元気いっぱいな蜜柑色の少女の提案により、まずはその彼氏? である灰色髪の男が喋り始めた。
「俺はイルア、両手剣使いで得意属性は土、がっつり近接型だ。よろしくな。」
「かっこいい、イル……」
「いいや、君の方が可愛いよナル……」
「「「…………」」」
身長は僕よりやや高め、少し長い前髪をサラッと流す男前なイルアにナルと呼ばれた蜜柑色がまたもや灼熱の愛情劇を見せる。こんな人前でイチャつけるなんて……ある意味大物な2人なんだろうか。
「ねぇ、あんたが言い出したんでしょナルミ、そういうのは後にして!」
「あっ、ごめんごめんエルサ、ついうっかり……で、私の名前は盾使いのナルミ! 見ての通り私とイルは血よりも濃い縁で繋がってるから、よろしくね!」
「……何がよろしくなんだ……?」
「彼女なりの挨拶です……暖かく見守ってあげてください……」
何をどう反応していいのか分からずボヤくと、こちらもなんとも言えない表情で白銀の少女が擁護していた。こんな暑さをこれから毎日見せられるとなると……気が重い。
「……次は私ですね。リリー=ミラスト、そこのエルサ=ミラストの双子の妹です。武器はレイピア、光属性が得意です……これからよろしくお願いしますね。」
白銀の少女……リリー=ミラストは温和な優しい笑顔で僕に小さくお辞儀をする。姉よりも小さな体であるものの、そのお淑やかさと可憐さは別の美しさを持ち合わせており……正直、とても彼女の妹とは思えないほどの可愛らしい人だった。
「はい、私はエルサ=ミラスト……これでいいわよね?」
「姉さん、まだ彼の自己紹介がまだですよ。」
「名前はさっき聞いたでしょ、時間の無駄よ。」
「まあまあ、エルサは顔見知りらしいけど私たちは何も知らないし……それに、何が得意か聞いといた方が作戦も立てやすいでしょ? 無駄じゃないって。」
「っ……なら手短に話して。」
(……忙しないな。)
……本人を目の前にここまで嫌悪感を顕にされると、逆に何も感じなくなるものだ。それも周りは理解しているようだし……今さら変えられるものでもないのだろう。それこそ気にするだけ無駄だ。
「……改めて。僕はマルク=アースト、片手剣で得意な属性とかは無いかな。近接でも後衛でも大丈夫だけど……」
「だけど?」
「…………言わせてもらうけど多分、今から考える作戦ってのもあんまり意味を成さないと思うよ。」
「……どういう意味だ、アースト。」
名前・イルア
種族・精霊族
年齢・16歳
能力ランク
体力・181
筋力…腕・174 体・166 足・182
魔力・149
魔法・16
付属…なし
称号…【力の才】
名前・ナルミ
種族・精霊族
年齢・15歳
能力ランク
体力・150
筋力…腕・180 体・177 足・161
魔力・141
魔法・15
付属…なし
称号…【守護者】(発動時、自身の耐久力、持久力を上昇させる)
名前・リリー=ミラスト
種族・精霊族
年齢・16歳
能力ランク
体力・171
筋力…腕・166 体・163 足・179
魔力・178
魔法・17
付属…なし
称号…【力の才】
【魔法の才】
【能力受諾者】 (効果的な付加魔法を受ける時、その恩恵を増加させることができる。また、そういった付加魔法を受けることを認否できる。)
「君たちのステータスは確かに高い……本来なら、ウルスくらいの実力者も簡単に倒せるかもしれない。」
「なに、ステータスで測ってるのあなた? あの程度人数差でいくらでも……」
「いや、そういう問題じゃない……ウルスとの戦いで、ステータスという概念は存在しないんだ。」
「……え?」
『何だ、自覚がないのか? お前はその仮初……いや、借り物の力を自分の力だと思い込んでいるだろ? それはいくら何でも都合が良すぎるとは考えないのか。』
……あの言葉も、今となっては耳が痛い。
「あいつの前では、どれだけ力が強かったり、魔法が優れていて、武器が業物であっても……何一つ、意味がない。常にこちらの裏を取って予想外の動きを見せる……絶体絶命な状況を、路上の小石を転がすだけでひっくり返せる才能がある。」
「は……? 結局何が言いたいの、あなたは?」
「最初にも言った通り、今から作戦を緻密に練っても確実に潰される。だから考えるのは誰が何をするか……簡単な役割だけにした方がいい。崩された時が怖いしね。」
「……とてもそんな風には見えないが……どうする、エルサ?」
イルアの懐疑的な雰囲気に、エルサは複雑な表情をしながらも思考する素振りを見せる。てっきりこれも頭ごなしに否定してくると思ったが……そこまで非合理な女ではないらしい。これで聞く耳を持たれなかったら流石にきつかったな。
「……だったら、これだけ。イルアとナルミは前衛、リリーは中盤、私と……あなたは後衛。これだけを頭に入れて後は臨機応変に、いい?」
「分かった。」「うん!」「はい。」
「あと、最後に言っておくけど……くれぐれも足手纏いにはならないでね、あなた。私が邪魔だと判断したら一切動かないで。」
「ちなみに、俺たちは一年でも学園最強……周りからは『超新星』って呼ばれてるんだ。足手纏いかはともかく、置いてかれないように頼むぞ?」
「……善処するよ。」
イルアの自慢? に僕が返事をしたところ、相変わらず苦虫を噛み潰したような似合わない顔で彼女……エルサは、暇そうに空を眺めていたウルスに声をかける。
「できたわよ、準備……そっちこそ、覚悟はできた?」
「……いつでも、覚悟はできてる。動揺を隠せてないお前よりはな。」
「減らず口を……!」
「では、この試合は私が見届けます……両チーム、配置に!」
またもや喧嘩が繰り広げられると思ったところ、ハーミア=フレッドが両者の間に入って試合開始を促す。そして、お互いに戦闘体制を取り……早々に、合図は切られた。
「それでは……勝負、始め!!」
「どいつもこいつも……人族のくせに!!」
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