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十八章 分解した心 (学園編・1)

二百七十一話 〈天〉

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「な……何で、私が……バレた……!?」
「……え?」
「い、いや…………それより、あんたは何者!? 見たところこの学園の関係者じゃなさそうだけど!?」

 反撃の剣を首元に当てられても、未だ強気な黄土色髪の少女は僕の存在を疑う。
 
 汚れひとつもないしなやかな髪、透き通るほど綺麗な肌と整った顔、切れ味はあるものの悠々と光り輝く琥珀こはくの瞳、白く長いローブに隠れた女性らしく細く豊満な体つき…………彼女の見た目を褒めろと言われれば幾らでも思いつきそうな、そんな魅力のある人だった。

(……ライナ次席にも劣らない美貌びぼう……だが、この鋭い目つきは…………なんだ?)
「なんとか言いなさいよ……さもなくばタダじゃ済まないわよ!!」

 少女は勢いで僕を怯ませたいのか、魔力防壁を少し削ってでもこちらに詰め寄ってくる。昔の僕なら、無闇に挑発をするようなことをしてとんでもないことになってそうな状況だが…………大事なのは『冷静』と『毅然きぜん』だ。

「……いきなり人に斬りかかるのは、良くないんじゃないか?」
「っ……それは、あなたが不審者だからわよ!」

 正論のような愚者ぐしゃの発言に、我ながら頭が痛くなってきたが……どうやら、僕は不法侵入者か何かと間違われているようだ。まあ実際のところ、不審者にも等しい立場であるのは間違いないが……この施設を使わせてもらっている以上、関係者ではある。

「僕は今日、この学園に招待された者だ。不審者ではない。」
「なら、なんでこんな時間にふらふらしてるの!?」
「それは散歩……僕の趣味というか。怪しかったのは申し訳なかったが、別に何か企んでいるわけでもない。第一、そんなことをしたらここの学園長に何されるか分からないしね。」

 自分の非を認めながら、状況を指摘して僕が愚かな行動を起こすわけがないと説明する。ここも同じく寮制度を取り入れていることからすると、おそらく彼女はこの学園の生徒……同い年くらいか? とすれば、ここで下手したてにですぎるのも悪手だろう。

「君こそ、こんな時間に何を? 同じく散歩でもしていたのか?」
「そんなわけないでしょ! 私こそ学園長に明日のこと……って、なんであんたに言わないといけないの!? 私は学園生なんだから、服を見れば分かるでしょ!!」
(……つまり、白いローブが制服と。)

 言われてみれば、昼間にここを歩いていた人間は全員こんな服装だったような気がする。周りの建物や風景に目を奪われてしまっていたので思いつかなかったが、それならば話は早い。

「そうか、なら今日は戻った方がいいんじゃないか? 門限もあるだろうし、僕もとっとと帰る……それでっ!?」
「何勝手に仕切ってるの……部外者が!!」

 ずっと隙をうかがっていたのか、彼女は僕の剣を右手の杖で弾き距離を取る。そして、未だ戦闘体制を切らず僕の出方をうかがっていた……尋常じゃない警戒心だ。

「ここは精霊族の国よ!! あんたみたいなが簡単に出入りできるような場所じゃないのよ!!!」
「……人族かどうかは……関係ないんじゃ? 精霊族しか入れないなんて話は」
「黙れっ!!! 次喋ったら容赦無く吹っ飛ばす!!!」
「そうかっ」

 元気よく返事をした刹那、予告通り彼女は高速の突きを繰り出してきた。いつもの僕ならこの速さに対応し切ることはできなかっただろうが……さっきウルスの戦いを見た直後のおかげが、案外手こずることなく剣で受け止めることができた。
 しかし、威力だけは殺せなかったので……抗うことなく訓練場方面へと体を流し、受け身をとってその中心に僕は立った。

「…………どうしても、疑うのかい。」
「当たり前よ、私はここの学生……部外者を追い出す権利がある。」


 …………どうしても譲らないか。ならば……



「……さっきから『部外者』って一方的に決めつけてるが……ちなみに、どうなんだい?」
「…………は?」
「いや、そのローブが何とかって言ってたけれど、それを『証拠』にするには根拠が薄いと思うんだ。例えば……、とか?」
「……何言ってんの。」

 ……状況や様子を見るからにまずありえない話だろうが……彼女も根拠なく疑ってきた身だ、同じ罪を背負ってもらおう。

「その強さだ、てっきりここの資料を奪いに来て、たまたま僕と出くわして焦って……そんな物語もどこかにはありそうじゃないか?」
「…………本気で言ってるの、あんた。」
「君が言えた立場か? 頭ごなしに否定して……どちらにせよ、この場を穏便に済ませる気は無いのなら、こうしないか?」

 そう言って……僕は今一度、久方ひさかたぶりの構えを取って剣を彼女に向ける。

「戦いの中で、確かめよう。そして、それでもまだ僕を疑うっていうなら……君に従うよ。」
「……この私に、勝負を挑むって言うの?」
「ああ。生憎、君のことは知らないが……相当の手練てだれだろう? その疑心や苛立ちをぶつけてみてくれ。」
「…………」

 僕の提案に、彼女は睨みを和らげることなく……ゆっくりと舞台へ上がってきた。

「……その大口おおぐち、後悔しないことね。の私に……ひれせろっ!!!!」
(が、学園一……っ!?)






名前・エルサ=ミラスト
種族・精霊族
年齢・16歳

能力ランク
体力・154
筋力…腕・151 体・149 足・167
魔力・202

魔法・18
付属…なし
称号…【力の才】
   【魔法の才】
   【能力寄付者のうりょくきふしゃ】(対象の相手に触れることなく付属・強化魔法をかけることができる。ただし、弱体化魔法等は不可)






「がぉっ…………!!」
「やっぱり、威勢だけのようね……一瞬で終わらせる!!」

 先ほどとは違い、一手を見せない様な動きで僕に近づき、杖で僕の胸を思いっきり叩き飛ばした。その速さも威力も初撃以上で……簡潔に言って、凄まじかった。

(ステータスも僕より全然……まともにやっては勝てないな!)
「……!?」

 しかし、やられっぱなしというわけにもいかない。自ら勝負を挑んだ以上…………勝ちを狙う!!

『フレイム』
「くらぁぁっ!!!」
「ぐっ……!」

 吹き飛ばされた直後、今度は無理やり足で踏ん張って姿勢を立て直し、さっきの感覚で突っ込んできた彼女の時期をフレイムでずらし……反撃の斬撃を魔力防壁に掠らせた。



「…………一瞬じゃ、終わらせない……エルサ=ミラスト。」
「……気安く呼ばないで、マルク=アースト。」



 互いにステータス名前を盗み見し、天井の抜けた舞台での火蓋ひぶたを開けた。


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