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十八章 分解した心 (学園編・1)

二百六十九話 楽な道

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「…………流石に、そこまでしませんよ。」
《界晴》

 は効かなかったので、こちら側から勝負を切り上げるように魔法を解除する。また、竜の魔力で体が動かせるようになった隙に界晴を発動し、回復に専念した。

 すると、安心したのか肩透かしだったのか、ため息を吐きながらフレッドはその場にへたり込んだ。

「…………試そうとしていたのが、逆に試されていたとは。してやられました。」
「でもまあ、これで分かっただろ? こいつは正真正銘グランの弟子で世界最強……英雄の時代は終わったってことだ。」
「…………そうなりますね。」

 勝負も終わり、クーザはこちらへ歩み寄ってフレッドの頭をポンと叩く。加えて、その後ろからついてきていたマルクは俺の方を見て驚き……というより、恐怖の色を訴えかけていた。

「…………その力は、何なんだ。髪が変わった時のとは別……なのか?」
「……龍の魔力。龍に認められた者が扱う特殊な魔力だ。」
「龍……話には聞いていましたが、より真実味が湧きました。それをひとりで……」
「…………ですよ。」




『…………帰ろう、ウルくん。』









「…………とりあえず、部屋に帰りましょう。」


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















「……改めて、今日からよろしくお願いします。ウルスさん、マルク=アーストさん。」
「…………今日『から』? そういえば、僕たちはなぜこの国に来たんだ……?」
「なんだウルス、言ってなかったのか?」
「えぇ、立て続けに言っても混乱するだけなので。」

 学園長室に戻り、俺たちは本題へ乗り掛かる……が、この中で唯一聞かされていないマルクがその意味を問う。

「……マルク、お前と俺はこの学園で一つ任されていることがある。それを担保たんぽに……というわけでもないが、この国に来れたんだ。」
「たんぽ……?」
「あぁ…………三国会議は知ってるな?」

 俺の質問に、マルクは首を縦に振る。

「その三国会議で毎回、行われる世界大会がある。」
「てっきり、君が人族代表として出ると思っていた……人族はあの学院から出場させているようだからな、一度は出てみたかったものだ。」
「ふっ、ならじゃねぇか。貴重な体験だぜ?」
「はい?」
「面白がって……そんなものでもないでしょうに。」

 クーザの笑みと入れ替わるように、代わりにフレッドが単刀直入に説明を始めた。


「ウルスは今回、精霊族代表の指揮を取ってもらいます。そして、マルク=アースト…………あなたには、
























 精霊族代表として、三国会議に出場してもらいます。」



















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
















「……なぁ、ウルス。本当にこれでよかったのか?」
「……『よかった』、とは?」

 フレッドと戦った日の夜、俺はクーザと今後のことのために学園にある小さな部屋……彼女専用の研究室らしいが、そこで打ち合わせをしていた。そんな中、突然クーザは俺に疑問を投げかける。

「アーストのことだ。連れてきたのはどうでもいいが、三国会議の代表……それも、精霊族として出すなんて…………実力も精神力もまるで成ってない。病院から無理やり引っ張ってきて、私にはどれも正しい判断には思えないのだが。」
「……種族が違えど、認められればその国の人間として出られる。マルクは一時的にここの生徒となり、出場権を得た……今更、人族代表として出せるわけもないので。」
「…………何故、あいつを出場させる?」
「…………『可能性』、です。」








『頼む……生徒たちの『可能性』を広げるためにも、お前の力が必要なんだ。どうかやって見せてはくれないか。』








「……俺は、あいつに可能性が残っていると……そう思います。」
「…………。」
「奴らに……悪にそそのかされ、受け入れたとはいえ……人を襲ったとしても、その原因の一つは紛れもなく俺です。俺というイレギュラーが彼の自尊心を傷つけ、歪ませ…… 罪 を 背 負 わ せ た 。」
「…………」
「……性格に難があれど、あいつの心には『強くなりたい』……その意志が今もあります。危険な思想も、今は持っていない…………だから」





 座っている彼女の手が、机を揺らす。静まり返った空間に響かせ……俺の言葉を遮った。






「…………私は、お前の謙遜が嫌いだ。本当は分かっているくせに……に進もうとする。」
「……それが、事実なので。」
「…………フィアのことは感謝してる。間違いなく、お前が救ったんだ。その事実は受け入れずに……どうして、抱えようとするんだ。」















『……これで、いいんだ。』








 …………最近…いや、俺が強くなろうとした在の日から……洗濯し続けた日々が…………徐々に収束しているように感じる。








『……ゆっくりでいいからな。』








 言葉正しさも、行動優しさも…………その答えが分からずに、その場その場の判断で決めつけてきた。望まれているモノを与えられず、己の心をはかりにかけ続けて……こうなってしまった。








『………………だめ、なんだ。』








 ここからは……もう振り返られない。進むのも、選ぶのも全て俺自身…………もう、誰にも委ねることなんてしない。










「それが……俺の責任なので。」










 …………だって、世界で一番、強いから。





 
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