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十八章 分解した心 (学園編・1)
二百六十六話 羽
しおりを挟む「……いつからですか?」
「最初からですよ。神眼を使わなくとも、ファーリィアよりは遥かに分かりやすい……美も、戦闘には役立つのかもしれませんね。」
「へぇ……どうやら会えそうですね、テルの弟子にも。」
手を払い、俺は挑発を含んだ言葉をぶつける。すると彼女は楽しそうに笑みを浮かべ、驚きのあまり固まっていたマルクに軽く頭を下げた。
「ごめんなさい、少し試してみたかっただけです。大した魔法は用意していなかったので。」
「は……はぁ、今のは……」
「お前はまんまと引っかかったんだよ、妖艶の罠に。これがソルセルリー学院元首席なんて、あそこも落ちぶれたなぁ。」
「いくら綺麗だとしても、相手は英雄……気を緩むな、マルク。」
俺がそう言うと、マルクはバツが悪そうに頭を掻く。これまでの彼ならすぐに言い返してきそうなものだが……流石にこの件で言い訳をするほど恥知らずではないのだろう。そもそも何か仕掛けられるのがおかしいだけで、別に彼が悪いことをしたわけでもないが。
「……あなたが、グランさんの弟子……どこか似た雰囲気があるような、ないような……でも、彼も引っ掛かることはないはず。ということはやはり師弟として……」
「何の考察をしてんだ、お前……相変わらずあいつのことが大好きだな。」
「「…………えっ?」」
…………大好き?
「ちょ、ちょっとテル……!? なにを、いいかげんなことを……!!?」
「いいかげんって、散々私に相談してきただろうが。20年以上片思いするってどんだけ純情なんだよ、あいつなんてもう50歳だぞ? 子どもを産みたきゃ早しろ。」
「な、なななななっこここど、コドド…………!!!??」
(…………どういう関係なんだ、師匠とは……)
さらっとバラされた事情と、さっきまでの威勢が完全に消え去りただの女性となったフレッドの様子を見て、俺は困惑する他なかった。20年以上……彼ら英雄に一体どんな物語があったのだろうか。
「……こほん、それより……グランさんの弟子であるあなたは果たしてどれほどのものでしょうか?」
「……? 何が言いたいんですか?」
「そのままの意味です。確かにあなたはグランさんの弟子でしょうが……これしきのことで全てを認められません。世界最強の英雄と呼ばれる男……その教え子ならば、それ相応の強さを示せるはず。」
「おいおい、まさか戦いたいってのか? そんな血気盛んな奴だったかお前?」
「……英雄と……」
気を取り直したフレッドは改まった様子で、師匠の弟子である俺を問い詰める。急な身の変わりようが続いてやや強引な流れにも思えるが……今回の目的には彼女の信用を勝ち取れる方が好都合、それで納得してもらえるなら十分だ。
「……いいですよ、試合をしましょう。」
「…………そうこなくては。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……意外と広いですね、ここの訓練所。」
「ここは用途別に幅広く施設が用意されているので。 ……それに、強敵と戦うならば広い方が選択肢も増えますから。」
(……警戒はされてるな。)
場面は移り変わり、学園の訓練所にやってきた。ちなみに、うちの学院の訓練所との違いとして地面……向こうは柔らかい砂で形成されているのに対し、こちらは硬く、底が岩盤になっている。となれば、砂を地面から巻き上げるような戦法は取れない……ほんの少しの違いで意外と戦い方は変わるものだ。
「言っとくけどなハーミア、そいつはこの前私たち3人……人族の英雄まとめて相手しても余裕で勝った奴だぞ。まず勝てる可能性はゼロだ。」
「そう言われて、止める英雄は居ませんよ。」
「……本当に、やるんだな……」
……見たところ、武器は構えていない。英雄はそれぞれ神器を持っていると聞いたが……出し惜しむつもりか?
名前・ハーミア=フレッド
種族・精霊族
年齢・38歳
能力ランク
体力・466
筋力…腕・439 体・497 足・412
魔力・1145
魔法・30
付属…なし
称号…【魔法を極めし者】
【魔法の才】
【英雄】
【成人の証】
【明日の使い手】(神器・アウリオンの使い手に贈られる)
(……20年前にドラゴンを倒したと言うことは……当時は18歳だったのか? その若さでなら……相当の実力者だったのか。)
英雄では一応、一番強いのは師匠だそうだが……舐めてかかれば返り討ちに合うだろう。
「……じゃあ、手短に。そちらから。」
「綽々ですね……甘えさせてもらいますが!」
まずはどんな戦い方をするのか確かめるため、俺はフレッドに先手を譲る。すると、彼女は片手を伸ばし魔法を放つ準備をしたので……待合がてら様子を探ってみた。
「…………俺があの人の教え子なら、不都合でも?」
「……いいえ。あなたの話は度々聞いています……『しっかりしている子』と。グランさんの弟子として何一つ不満はありません。」
「……とすれば、やはり俺の力を直に?」
俺の質問に、彼女は妖艶に小さく笑う。
「意外と単調……英雄は全員戦うのが好きなんですね。」
「そんなことはないですよ。ただ彼は……グランさんは、戦いの中で私たちと心を通わせ、やがてドラゴンを倒しました。私はそれに倣い……あなたのことを勝負の中で知ります!」
「……!」
十分な時間が経ち、早速フレッドは魔法を放とうと魔力を解放した……と思いきや、何故かいきなり羽を広げる。
精霊族の特徴は主に5つ……若い期間の長さと整った容姿、尖った耳…………そして、魔法のレベルの高さと羽だ。
他の種族と比べ、比較的魔法の扱いが上手いとされており、その理由として体内に循環する魔力の質が高い・流れが速いなどがあり……それは当然、羽にも適応される。
精霊族の羽は発動時に実態化し、ルリアの天・双翼のように羽ばたきと魔力操作によって宙を舞い、空を飛ぶことができる。
つまり…………羽もある意味では体の一部、『媒体』だ。
(っ……まさか!?)
「精霊族の力……味わってください!!」
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