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十八章 分解した心 (学園編・1)
二百六十三話 今世
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「………ここは……」
タッグ戦の決勝が終わり……2人と別れてしまった後、俺は半年間世話になったベッドに倒れ込み、ほんの少しだけ眠ってしまった。
取り返しのつかない言葉は、俺にとって更なる重圧だったのか、それとも…………とにかく、俺の思考を停止させるには十分だった。その結果なのか……いつも見る夢とは全く異なる景色が目の前に広がっていた。
(澄んだ藍色の空、際限のない空間……もしかして、また。)
呼んだのか、呼ばれたのかは知らないが……ここが俺の精神空間ならば、当然あいつも居るはず。ただ姿が見えない……いや…………
「…………居るんだろ、悠。」
『「‥………ああ、もちろん。」』
目を閉じ、世界に溶け込んでいる彼の名を呼んでみる。すると、一拍置いてから悠の淡々とした声が空間に響き……背後から気配を感じ取れた。
俺は軸を崩さず振り返り、隠れていた意図を問いただす。
「……隠れんぼでもしてたのか?」
『「まあ、そんなところだ。最近は色々あったし、ちょうどいい気休めにはなっただろ?」』
「…………戯れを。」
本気なのか冗談なのか、いつも通り過去の制服を着て薄く笑う俺の顔は相変わらず違和感を感じて……本当に自分が転生者なのか疑問が浮かんでくる。実際、悠の説明ではそうと言い切れないそうだが…………まあ、どうでもいいことだ。
「呼んだのか、俺を。」
『「いいや、この精神世界はあくまでお前の領域……無理やりお前を引き込む権限? は俺にないはず。そもそも対話できる条件が定かではないし……強いて言えば、最初はお前が深く眠ってしまった時。そこから想像で考えれば…………お前のメンタルが疲労し切っていたから、とかだろうな。」』
「…………」
『「黙られても困る……まあ、沈黙してもこっちはお前の考えていることが分かるんだ、ここでくらい吐露してもバチは当たらない。話したいことや相談したいこと、いくらでもあるんじゃないか?」』
悠はこの場所から常に俺の行動と感情を感じ取っている……それはつまり、『全て』を知られているということ。隠し事をしたところで無駄で、分かってはいる…………だが、それでも吐き出すことはできなかった。
『「……じゃあ、あれだ。最近調子はどうだ?」』
「…………それも、中から見てたなら分かるだろ?」
『「お前の口から聞きたいんだ。今、お前は自分自身が進んでいる道……それを正しいモノと、考えられてるか?」』
『……だから、何も言わないでくれ。人の思いも行動も……勝手に、片付けるな。』
『……ウルスくんは、何も分からないんだね。』
「……分からない。俺は……」
『「…………結局、お前は呪いのことを話す気は無かった。『心配させるから』と……その優しさは決して悪ではない。でもな……人は時に、その優しさがやさしく感じなくなるんだよ。分かるか?」』
…………。
『「人は勝手な生き物だ。あれこれ理由をつけても最後は自分の考えを突き通そうとする。誰のためであろうとも、何かを想い続ける限り……受け入れることはできない。諦めることなんて、選択肢にないからな。」』
「…………何が、言いたいんだ。」
『「……分かるだろ、お前の一部は俺なんだから。お前はただ……素直になれないだけなんだ。」』
……小言を。
「……意地を張ってると。俺の気持ちは……分かるんだろ。」
『「…………俺たちは最も距離の近い他人、気持ちや考えを理解することはできても、共感するかは別だ。」』
「なら、最後まで見届けてくれ。分かってくれているだけでいい……お前に同調してもらう訳はどこにもないからな。」
『「…………ああ。」』
平行線になるということも理解しているのだろう、悠は俺の思想にこれ以上口を出そうとはしなかった。俺も、悠の考えを聞きたくなかった……また、勘違いをしてしまうから。
『「……確か、学院を出るんだったよな。テル=クーザとあいつを引き連れて………」』
「……俺は、あいつに言ってしまった。『世界を見せる』と……俺のせいで人生が壊れてしまったんだ、その責任を果たさなければ口だけの男に成り下がる。」
『「……変われるのか、あいつは。いくら洗脳されていたとはいえ、人を脅かした罪が消えることはない……そんな人間にすら、お前は手を差し伸べるのか。」』
悠のもっともな言葉に、俺は首を横に振って否定する。
「罪を消しに行くんじゃない……罪を重ねないために連れて行くんだ。俺も、あいつもこれ以上……背負えるモノがないから。」
『「…………。」』
「……これが、俺の最後の示す行動だ。全部終わらせて……進めるんだ。」
……いつまでも、人のことを考えられるほど……俺は優しくない。呪いのこと、ハルラルスのこと……片付けなければいけないことが山ほどある。
進まなければいけない。誰が何を言おうとも……進める。
『「……誰かに相談は、しないのか。」』
「……することなんてない、したところで……何も。」
『「…………そうか。」』
俺の萎え切らない返事に、悠はこれ以上何も言わなかった。どうせ心の中は読まれてるんだ……口にしようが変わるものはな
『「お前は誰よりも強い……新しい力も、それを活かす技術も持ち合わせて。俺が成りたかった、強い人間だ。」』
「…………そう。」
『「強さは普遍的で……人間は、強さで優劣を決める。守る者、守られる者…………決められるのはお前だけだ。」』
「……それが、なんだ。」
『「……いつか、決断する時が来る。今世で下すお前の判断が、世界の 秩 序 を運命付ける…………俺は、そんな気がするんだ。」』
戯言なのか……よく分からない言い回しに、俺は話半分に聞いていた。何が言いたいのか、伝えたいのか分かりたくもなかったせいもあるが…………
『「…………だから俺は、信じる。俺の人生でできなかったからこそ……信じてみたい。」』
「…………誰を。」
『「………………お前が、紡いできたモノを…………
お前の強さを信じた、者たちを。」』
……勝手にしてくれ。
「………ここは……」
タッグ戦の決勝が終わり……2人と別れてしまった後、俺は半年間世話になったベッドに倒れ込み、ほんの少しだけ眠ってしまった。
取り返しのつかない言葉は、俺にとって更なる重圧だったのか、それとも…………とにかく、俺の思考を停止させるには十分だった。その結果なのか……いつも見る夢とは全く異なる景色が目の前に広がっていた。
(澄んだ藍色の空、際限のない空間……もしかして、また。)
呼んだのか、呼ばれたのかは知らないが……ここが俺の精神空間ならば、当然あいつも居るはず。ただ姿が見えない……いや…………
「…………居るんだろ、悠。」
『「‥………ああ、もちろん。」』
目を閉じ、世界に溶け込んでいる彼の名を呼んでみる。すると、一拍置いてから悠の淡々とした声が空間に響き……背後から気配を感じ取れた。
俺は軸を崩さず振り返り、隠れていた意図を問いただす。
「……隠れんぼでもしてたのか?」
『「まあ、そんなところだ。最近は色々あったし、ちょうどいい気休めにはなっただろ?」』
「…………戯れを。」
本気なのか冗談なのか、いつも通り過去の制服を着て薄く笑う俺の顔は相変わらず違和感を感じて……本当に自分が転生者なのか疑問が浮かんでくる。実際、悠の説明ではそうと言い切れないそうだが…………まあ、どうでもいいことだ。
「呼んだのか、俺を。」
『「いいや、この精神世界はあくまでお前の領域……無理やりお前を引き込む権限? は俺にないはず。そもそも対話できる条件が定かではないし……強いて言えば、最初はお前が深く眠ってしまった時。そこから想像で考えれば…………お前のメンタルが疲労し切っていたから、とかだろうな。」』
「…………」
『「黙られても困る……まあ、沈黙してもこっちはお前の考えていることが分かるんだ、ここでくらい吐露してもバチは当たらない。話したいことや相談したいこと、いくらでもあるんじゃないか?」』
悠はこの場所から常に俺の行動と感情を感じ取っている……それはつまり、『全て』を知られているということ。隠し事をしたところで無駄で、分かってはいる…………だが、それでも吐き出すことはできなかった。
『「……じゃあ、あれだ。最近調子はどうだ?」』
「…………それも、中から見てたなら分かるだろ?」
『「お前の口から聞きたいんだ。今、お前は自分自身が進んでいる道……それを正しいモノと、考えられてるか?」』
『……だから、何も言わないでくれ。人の思いも行動も……勝手に、片付けるな。』
『……ウルスくんは、何も分からないんだね。』
「……分からない。俺は……」
『「…………結局、お前は呪いのことを話す気は無かった。『心配させるから』と……その優しさは決して悪ではない。でもな……人は時に、その優しさがやさしく感じなくなるんだよ。分かるか?」』
…………。
『「人は勝手な生き物だ。あれこれ理由をつけても最後は自分の考えを突き通そうとする。誰のためであろうとも、何かを想い続ける限り……受け入れることはできない。諦めることなんて、選択肢にないからな。」』
「…………何が、言いたいんだ。」
『「……分かるだろ、お前の一部は俺なんだから。お前はただ……素直になれないだけなんだ。」』
……小言を。
「……意地を張ってると。俺の気持ちは……分かるんだろ。」
『「…………俺たちは最も距離の近い他人、気持ちや考えを理解することはできても、共感するかは別だ。」』
「なら、最後まで見届けてくれ。分かってくれているだけでいい……お前に同調してもらう訳はどこにもないからな。」
『「…………ああ。」』
平行線になるということも理解しているのだろう、悠は俺の思想にこれ以上口を出そうとはしなかった。俺も、悠の考えを聞きたくなかった……また、勘違いをしてしまうから。
『「……確か、学院を出るんだったよな。テル=クーザとあいつを引き連れて………」』
「……俺は、あいつに言ってしまった。『世界を見せる』と……俺のせいで人生が壊れてしまったんだ、その責任を果たさなければ口だけの男に成り下がる。」
『「……変われるのか、あいつは。いくら洗脳されていたとはいえ、人を脅かした罪が消えることはない……そんな人間にすら、お前は手を差し伸べるのか。」』
悠のもっともな言葉に、俺は首を横に振って否定する。
「罪を消しに行くんじゃない……罪を重ねないために連れて行くんだ。俺も、あいつもこれ以上……背負えるモノがないから。」
『「…………。」』
「……これが、俺の最後の示す行動だ。全部終わらせて……進めるんだ。」
……いつまでも、人のことを考えられるほど……俺は優しくない。呪いのこと、ハルラルスのこと……片付けなければいけないことが山ほどある。
進まなければいけない。誰が何を言おうとも……進める。
『「……誰かに相談は、しないのか。」』
「……することなんてない、したところで……何も。」
『「…………そうか。」』
俺の萎え切らない返事に、悠はこれ以上何も言わなかった。どうせ心の中は読まれてるんだ……口にしようが変わるものはな
『「お前は誰よりも強い……新しい力も、それを活かす技術も持ち合わせて。俺が成りたかった、強い人間だ。」』
「…………そう。」
『「強さは普遍的で……人間は、強さで優劣を決める。守る者、守られる者…………決められるのはお前だけだ。」』
「……それが、なんだ。」
『「……いつか、決断する時が来る。今世で下すお前の判断が、世界の 秩 序 を運命付ける…………俺は、そんな気がするんだ。」』
戯言なのか……よく分からない言い回しに、俺は話半分に聞いていた。何が言いたいのか、伝えたいのか分かりたくもなかったせいもあるが…………
『「…………だから俺は、信じる。俺の人生でできなかったからこそ……信じてみたい。」』
「…………誰を。」
『「………………お前が、紡いできたモノを…………
お前の強さを信じた、者たちを。」』
……勝手にしてくれ。
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