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十七章 三国会議 (選抜戦・1)
二百五十四話 よろしくねっ
しおりを挟む『side ローナ』
「とりゃぁぁ!!!」
「ぐっ、ぐはぁっ!!?」
重さを変え、対応しきれていない相手をぶっ飛ばす。
「これで三人目……って、キリがないんだけど!?」
もちろん私以外の場所でも激しく戦いが繰り広げられているが……まだ半分以上残っている。このままじゃ先にこっちが体力切れで終わってしまう!
(かといって、グランドアーマーは燃費が悪過ぎ……と、いうか、そもそも…………)
…………私のとこだけ、人少ない?
「……他の上位はいっぱいいるのに……なんで、この……舐められてる……?」
「……な、何ぶつぶつ言って……ぎゃぁっ!?」
私だって、ウルスに食らいついてきた人間……ちょっと、頭にくる!
「…………なら、飛び込んでやる!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ライナ side』
「つ、強すぎる……」
「ふぅ……やっと落ち着ける。」
剣の長さを元に戻し、周囲に転がる彼らを見下ろしながら息を吐く。
(私の担当は終わった……あとは、少しずつ来る人たちを倒して、勝ち残れば……)
今まで散々、上の景色を見てきたせいか……久しぶりに上位としての地位を確認することができた。ウルくんに席を取られたとはいえ、まだ3席……これしきでやられるのも変なはな…………
「ライナァぁっ!!!」
「……えっ、うわぁっ!?」
瞬間、油断していた私の真横をローナさんがジェットで通り過ぎた。どうやら狙いは私だったようで……何故か不満そうな表情で眉を可愛らしく曲げていた。
「やっぱり、ライナの方が多い……ずるいよまったく!」
「な、何の話!? ……って、まだ私たちで戦う時間じゃ」
「うるさーい、八つ当たりさせろー!!」
(えぇ……?)
駄々をこねる子どもっぽさとは裏腹に、容赦のない一振りが私の頭を狙ってくる。当然やられてあげる理由もないので、剣で弾き返そうとしたところ……とてつもない斧の重量によって、無理やり受け止めざるを得なかった。
「っ!? 重い……ふっ!」
「おっと、予想できてたけどね!!」
それに対し、私は剣を少しだけ長く伸ばし、斜めに滑らせてその重圧から逃れる。ついでに、その軌道と重さのまま地面まで刺さって欲しかったが……彼女はすぐさま斧を振り上げ、軽々と肩に乗せて体勢を整え直した。
「……何か、魔法が乗ってるね?」
「さぁね? ……触ってみたら!!」
(っ、投げた!?)
すると、唐突に彼女はその斧を躊躇うことなくこちらに放り投げ、同時に接近してきた。そんな奇怪な行動に少し驚きながらも私は斧を弾こうとしたが……やはり、普通じゃない重みに対抗し切れず、体勢を大きく崩されてしまった。
「くっ……こうなったら!」
「ガラ空きだね、はぁっ……ふぇ!?」
ローナさんは隙だらけの私に拳を突き出し、どうすることもできないと判断したので……予め弾かれた瞬間に剣を掴む力を緩め、ちょうど剣身を掴めるように調整していた。そして、一気に魔力を流し込み……私は伸びる剣に引っ張られるように飛び上がった。
「そ、そんなのありっ!??」
「ありだよ、はっ!」
「うぉっ!?」
奇想天外な回避行動に動揺した彼女に対し、私は空中から足で踏みつけようとした。しかし流石に安直過ぎたか、見てからでも十分反応されてしまい、状況は振り出しに戻る。
「えっ、急に単純、行き当たりばったりすぎない?」
「それはこっちの台詞だよ……私も、新しいことに挑戦しないとね!」
そう言って剣をしまい、私は両手の掌底を合わせ……そこに炎と氷の球を作り出し、互いで潰し合うように包み込んだ。
「散って、『炎気楼』!!」
「んっ、霧……って、ウルスの魔法じゃん!」
(……違うけどね。)
氷が熱され濃い水蒸気となり、暖かさとともに視界を広く眩ませていく。彼が使っていた本物の霧とまではいかないものの、これで十分見える情報量は少なくなった……あとはっ。
「…………!」
「っ、そこっ!!」
音を立てた瞬間、ローナさんの素早い反応で拳がこちらへ届いた。どうやらフレイムアーマーも発動しているようで、目下に赤い光がチラついていたが……
「えっ、この感触って…剣!?」
「じゃあね、ローナさん!」
「も、もしかしてまた……こら、逃げるなぁ!!」
彼女が殴ったのは私が伸ばした剣の刃で、ちょうど地盤が崩されたところで私は空から落下し、大分遠いところで着地する。また、慌ててローナさんは私を追いかけようとするが……水蒸気は晴れていき、代わりにそっちへ向かっていく他の生徒の姿が見え始めた。
「なっ、まさかこれを狙って……!?」
「あんなに派手にやってたら、流れてくる人もいる……対処、よろしくねっ!」
「えっ、えぇ!? ズル、ウルス女、バカおさななじみ!!!」
(……な、何言ってるの……??)
最初の言葉以外、全く悪意の意図が分からなかったが……とりあえず、私は彼女から逃げるように距離を取った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『フラン=ハート side』
「……ねむい。」
空にぷかぷか浮きながら、私は下の様子を見てみる。どうやら上位狙いで人が固まっているようだけど……ほぼ返り討ちにあってた。特に、1年の上位や強そうな人は遊んでいるようにしか見えない……うちの3年よりも強いのだろう。
(1年に混ざれば楽しそうだけど……流石にすぐ終わっちゃう。わざわざ自らの手で三国会議の優秀な代表を潰す必要もないし、もうちょっと待とう。)
…………我ながら、不思議な考え方だ。ほんの少し前までは配慮も我慢もしてなかったのに……今では、簡単に彼らは期待をしてしまっている。
『怖いんだろ、人に期待するのが。それで勝手に失望して……誰にもぶつけられないのが、お前は耐えられない。だから…………人を見下し始めた、そうだろ?』
『…………あなたは、何者ですか?』
『気温と石1つで、ここまで踊っていた気分はどうですか……フラン=ハートせんぱいっ?』
『……今まで通り…勝つだけだ。』
人生で一番寒かったあの日、私は負けた。
今までも、敗北を味わったことは一応あった。お父さんやグランさんとの手合わせでは流石に勝てるはずもなく……ただ、それはあくまで私の中で『負け』という認識はなかっただけ。
『英雄が相手なのだから、私は勝てない』……そんな常識を、風を吹かせるだけで崩壊させた。
(今の私に……常識はない。何が正しくて間違ってたのかも、どこまでが当たり前で異常なのか……宙ぶらりん。)
……ここから、作らないといけないのだろうか……私の常識を。面倒だけど…………まあ、まずはあれだ。
「勝ち逃げは許さないからね……ウルス。 ……もちろんフィアも。」
……あの子、可愛いし。
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