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十七章 三国会議 (選抜戦・1)
二百五十話 間抜け野郎
しおりを挟む『ミル side』
(……もしかして、全員ここにいる?)
数日経たち、ついに三国会議の選抜の日がやって来た。
朝、教室に向かった私たちをラリーゼ先生がこの広い訓練所へと連れ出した。すると、そこにはおそらく全学年の生徒がやや狭苦しい感じで詰められており、普段の集会とはまた違う雰囲気が漂っていた。
「ここでやるの? 1対1にしては広い舞台だねー」
「1対1とは限りませんよ、タッグ戦とか別の形式があるかもっす。」
「もしかしたら、ここで学院長が指名していくとか? そうだったら望み薄かもなぁ……」
「流石にそれはないと思うけど。」
ローナさんとニイダくん、ソーラくん、そしてフィーリィアさんがこの舞台についてそれぞれ反応する。一応ラリーゼ先生は『鍛えておけ』と言ってたから、戦わないことはないと思うが……
「おはよう、みんな。今日集まってもらったのは他でもない、三国会議に出場する人間を選出する為だ。そして、その選出方法は至って単純だ。」
「単純?」
「それじゃあ、発表する。代表の決め方は…………
……全員での、大乱戦だ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『タール=カリスト side』
「……はぁ? 全員って……」
「えっと……うちって1学年で300以上居るから……」
「全部まとめると、900人は居るね。もっと言えば端数含めて1000人…………」
「せ、せんっ!? 無茶苦茶だぁ!!?」
後ろでわちゃわちゃしてるマグアとライナにイライラしながら、俺は学院長が出した試合形式に疑問を浮かべる。
(この人数で一気にやって試合になるのか? 上位はともかく、有象無象は勝てる見込みがねぇだろ。)
……もしくは、それが目的なのだろうか。篩にかけまくって真に強い奴を……それも、混戦に対応できるような限られた人間を選びたいとか。
「今から10分後、一斉に戦いを始める。魔力防壁が壊れた者はその時点で退場してくれ……では、準備を始めてくれ!」
その一言でざわめいていた舞台が一層煩くなっていき、焦っている者から慌しく移動を始めていく。当然、焦ったところで何かできることもないので、俺は悠々と場所を決めに……
「ねぇねぇ、組もうよタールくん! 2人ならより勝ちやすいんじゃない?」
「は? 甘えんな、今回ばかりは1人で戦うんだよ。」
「えぇ、そんな殺生なぁ~」
予想通り食い下がってくるマグアに語気を強めそうになるが、冷静に言葉で下す。
「アホか、タッグ戦とは訳が違うんだよ。敵は複数で、別に決まった仲間なんていない……お前に裏切られる可能性もあるんだよ。」
「ぼ、僕が君を裏切るわけないよ!! 愛を誓い合った中だって言うのに!!」
「誓ってねぇよ妄想女、じゃあなっ!!!」
誤解しかない表現に愛想を尽かして俺は去っていく。これで邪魔な奴はどこかに行ったし、わざわざ近づいてくることもないだろう……さて、どこに…………
「おっと、すまない。」
「っ……おい、気をつけろや……あ?」
不意に、背中に誰かがぶつかってきて俺は姿勢を崩してしまう。そして、そんな悪びれもしない男の態度にこごとをつぶやいたところ……そいつが胸につけていた銀色のバッジに目がいった。
(その色は確か……3年の上位だったか?)
「……おや? 君はタール=カリストか。1年主席とばったり会うとは、偶然だな。」
「…………にしては、出来過ぎだろうが。」
喧嘩売ってきてるのか、青く光る髪をしたキザな男は俺の顔を見て何か底知れない薄ら笑いを見せつけてくる。何か目的なのだろうか……どうせ始まるまで暇だ、探りでも入れてやる。
「お前、名前は?」
「礼儀がなってないな……まあいい、俺はシーク=トリアス。3年次席をやらせてもらってる。」
「次席……ハートのちょうど下ってか。」
話によると、ハート以外の3年上位はそれほど強くはないと聞いているが……だとしても一応上級生だ。見たところ雰囲気も弱者では無さそうだし、期待はしていいだろう。
「精々、俺の前に立たないことだな。三国会議に出たかったらとっとと散れや。」
「…………『ハート』、だと?」
「……んあ?」
用も済んだので、俺はシーク=トリアスをパッパと手で払う素振りを見せたところ……何故か、あの女の名前を呟きながら俺に怒りのような表情をし始めた。
「お前、調子に乗るなよ。いくら主席だからといって、あの方を呼び捨てにできるほどの実力は持ってないだろうに……滑稽とはまさにこのこと。」
「はい? 滑稽? なに勝手にキレてんだ?」
「分からないのか? あの方……フラン=ハート様に対して失礼過ぎるって言ってるんだよ。」
「…………。」
……同級生に『様』って…………何なんだこいつは?
名前・シーク=トリアス
種族・人族
年齢・18歳
能力ランク
体力・141
筋力…腕・141 体・149 足・137
魔力・156
魔法・17
付属…なし
称号…【力の才】
【空を飛ぶ者】(この称号を持つ者は、宙に浮く度に一度だけ空間を蹴ることができる)
「……おまけに、奇妙な称号か。」
「見たか? ……まあ、そんなことはどうでもいい。あの男……ウルスとやらは見当たらないが、どこに行った?」
「知るかそんなこと、テメェで探せや。」
……そもそも、今この学院に奴の姿が無いので教えようも無いがな。
「はっ……生意気な奴だ。これはきっと、ウルスも大したことない男なのだろうな。お前みたいな人間に負けたのにも関わらず、運良くフラン=ハート様に勝ってしまった…………一周回って哀れに感じるよ。」
『……ここでは、誰もが強くなろうと日々励んでる。少なくとも、俺の周りの人間は……みんなはそうだった。だから、俺も何かしたいと……思ったのかもしれない。』
「…………『運良く』、だと?」
「違わないだろう? 確かに強者ではあるかも知れないが、あの方に勝つなんて偶然以外あり得ない……残念だ、試合を見ていればこんな検証をわざわざする必要も…………」
「…………
…………今度は、お前か。」
「……なんだと?」
……まるで、過去の自分を見てる気分だ。
馬鹿みたいに、『何も知りません』と意気揚々と語る振る舞いは……ウルスにとって、どう映っていたのか。
『──ふははっ!!!』
『…………似合わねぇな。』
でもまあ……そりゃ、笑いたくなるよな。
「間抜け野郎が、こう何人も居る……人間ってのは本当に視野が狭いんだな。俺も、お前も…………何1つ変わらない、病人だ。」
「……言っている意味が分からない。急に何を」
「覚悟をしろって言ってんだよ。『痛い目』にあって、『意思』に打ちつけられても…… ‘ 逃げるなよ。’ 」
……やってやろうじゃねぇか。
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