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十七章 三国会議 (選抜戦・1)

二百四十五話 浮かんで

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『ミル side』



「……はあぁぁ……」
「……元気出してよ、ミル。」

 結局、今日は何もできることはなく、渋々フィーリィアさんと軽く散歩をする。しかし、心の内は未だモヤモヤで、考えれば考えるほどそれは増えていく。


「来週には三国会議のこともあるし……やることいっぱいだぁ……」
「あと、もう少しで筆記試験もあるね。」
「……あぁ!? もうやだぁ……!」


 やることがいっぱい過ぎて、私は頼るようにフィーリィアさんの体にもたれかかる。

「……フィーリィアさんは大丈夫なの……?」
「……多分。魔法のことなら頭に入るし、勉強もよくしてたから。」
「いいなぁ、実技なら何とでもなるのに……文字書きたくない!!」
「…………そういう理由なの?」

 ギャーギャーと騒ぐ私に、フィーリィアさんのツッコミが入る。やがてフニャフニャになった私の体は感情の起伏により、今度は発火する。

「……あー! もう、なんか動き回りたい! フィーリィアさん、付き合って!!」
「特訓? いいよ。」
「よし、じゃあ行こう!!」
 

 ……考え過ぎて、おかしくなりそうだ。いや、もうだいぶ変だけど。















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















『ミル side』



「……称号?」
「うん。決勝の後、確認してみたら……魔力暴走が消えて、変なのが出てきた。」

 訓練所に移動したところ、体を動かす前にフィーリィアさんがそんなことを言って私にステータスを見せてくれた。





名前・フィーリィア
種族・人族
年齢・16歳

能力ランク
体力・90
筋力…腕・84 体・91 足・96
魔力・130

魔法・16
付属…なし
称号…【解き放たれた心ライナス・ハート】(???)



「…… 解き放たれた心ライナス・ハート? 聞いたことないや……」

 話によると、ウルスくん曰く魔力防壁は条件を満たせば消せる称号であり、結果的に冬の大会を通していつの間にか無かなっていたようだが……今度はそれと入れ替わるように、この称号が現れたらしい。


「ラリーゼ先生に聞いても知らなかったし、図書室の本にも載ってないし……ウルスついでに学院長にも、って。結局いなかったけど。」
「……詳細も出ないし……フィーリィアさん、何か変化はあった? 体の調子がおかしいとか……」
「ううん、むしろ良い感じ。でも…………!」

 何かを言いかけたところ、不意にフィーリィアさんは体から冷気を放つ。そんな急な行動と冷気の寒さに私の体は少し凍えてしまう。

「さ、さむっ……ど、どうしたの?」
「……決勝の時、これが急に変わったの。よく分からないけど、もしかしたら…………!」
「うぇっ、ま、また……うわぁっ!?」

 私のそばで、フィーリィアさんがまた魔力を高めていく。すると、今度は冷気が白い風のようなものへと変化していき……一気にそれが周囲へとどろいた。

「……【ライム・クリスタリゼーション】」





名前・フィーリィア
種族・人族
年齢・16歳

能力ランク
体力・120
筋力…腕・119 体・131 足・124
魔力・516

魔法・20
付属…【ライム・クリスタリゼーション】(ステータスが
           全て上昇し、白風を操れるようになる)
称号…解き放たれた心ライナス・ハート




(…………んん!? 魔力が……跳ね上がってる!!?)


 あまりの急激な見た目の変化に、私は反射的にステータスを確認してみたところ……他の数値もそうだが、明らかに魔力の数値だけとんでもないほどに上昇していた。

「フィ、フィーリィアさん!? こ、この状態の自分をステータススキャンしたことある!?」
「……そういえばしてなかった。 …………あれ、魔力が凄い増えてる。何で?」
「た、多分それのせい……っていうか、寒すぎるよ……!」
「あっ、ごめん。離れる。」

 至近距離にいたせいか、私の体は既にかじか んで動けず、慌ててフィーリィアさんが距離を取ってくれる。しかし、氷点下を下回る白い冷気のような風は私をそう簡単に逃してはくれなかった。

「……確か、試合の途中で消えてた? よね? あれはなんだったの?」
「……これのこと?」

 私が決勝戦のことを思い出していると、フィーリィアさんは一瞬にして体を薄め……最終的には完全に姿を白風へと変えてしまった。

「そ、そこに居るの、フィーリィアさん?」
『居るよ……というか、何処にでも出てこれる。代わりに体がすぐに冷たくなるけど。』
「冷たく……?」
『この魔法、魔力が切れるより寒さで体力が限界になる。だからいつまでもってわけにはいかない……』
「…………ふぅ。」
「ひゃっ!?」

 何処からでも聞こえてくるような、不思議な声の感覚に聞き入って行ったところ……不意に、冷たい息が私の耳へ吹かれて驚いてしまう。

「……どう?」
「びびっ、びっくりした!? もうフィーリィアさん!」
「ごめん、つい……それで、何か分かった?」
「う、うーん……でも正直、その魔法だけでいえば……英雄とも戦える力があるかも? 本当に凄いよ。」

 もし、昨日のグランさんとの勝負に参加してたら……なんて考えてしまうくらい、異常で自由度の高い魔法だ。冷気や氷の威力もそうだが、消えてる間は物理攻撃が無効な上に何処にでも出現できる…………はっきり言って強すぎる。

「……神眼を持ってるウルスなら、何か分かるかな? それとも普通の心眼でどうにか…………」
「自分でも見れない称号……魔力暴走と何か関係はあるはずだけど、私には何も分からないや。ごめんね。」
「そう……まあ、悪いことはないし、ちょっとずつ慣れていく。」

 そう言ってフィーリィアさんは魔法を解除し、いつも通りの姿に戻る。

(……称号。カリストくんやルリアさんもそうだけど、たったが付いてるだけで……変わってしまう。)

 ……理不尽だと思う。フィーリィアさんも、魔力暴走というがそこにあっただけで……ずっと苦しんでた。私についてる魔法の才なんかはともかく…………




『──昏睡状態を狙って、やられた。春までに称号を消さないと……俺が、この世から消える。』
『…………え……!?』




 …………嫌だ。



「……大丈夫?」
「…………うん、何でもない。とりあえず特訓しよう!!」
「……そうだね。」



























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー































「……あ、兄さん。」
「お、ニイダ。最近背が伸びてきたか?」
「余計なお世話っすよ。」

 訓練所で1人静かに特訓していたところ、兄さんが俺を見つけてこちらにやってきた。正直なところ、兄さんに構っている余裕は毛ほどもないのだが……わざわざ無視するのは変な話だ。

(まったく……は。)
「どうだ、せっかくなら手合わせでもしてやろうか?」
「いや、遠慮しとくっす。しばらくは1人で高めたいもんで。」
「ほう、随分と気合が入ってるようだな……三国会議が楽しみか?」
「そんなところっす……あっ、少し聞いても良いっすか?」

 適当に兄さんのからかいをあしらいながら、俺はあることを質問した。

「俺、新しいが欲しいんすよ。何かいい考えでもないっすか?」
「技? 魔法じゃなくてか? ってかいきなり過ぎるだろ。」
「いやぁ、俺も冬の大会を通して力不足を感じて。できることなら、俺たちを倒した相手に聞くのが手っ取り早いかと。」
「雑な……そうだなぁ……」

 兄さんに適当な理由を付けて考えさせながら、俺も短剣を抜いてあれこれと試行錯誤してみる。

(……近距離は、あの高速回転で形にはなってるが……そこから進化させていかなければこの先は通用しない。そのためにも、まずは出始めや魔法に繋がるための……)


 ……そう言えば、ウルスさんはいつも独特な構えをしている。剣を最初から持つ際には、空いている手を心臓に近い位置まで持っていってる……確か、魔法の出が速くなると言っていたような。

『武装・雷鳴』
「……確かに、ちょっと速い。」
「ん?」

 ……つまり、心臓から近い位置に魔法の媒体を持っていけば発動が速くなる。そこまで明確な差が無いとはいえ、発動に時間がかかる武伸・雨燕には意外と使えそうだ。


(……だが、ただ真似るだけじゃ話にならない。俺なりのスタイルを確立させなければ…………)

「……そういえば、兄さんの構えってどんな感じだったすか?」
「構え? ……まあ、俺は速く動くことを意識してるからな。こうやって姿勢を低くして……加速を上げるっ!」

 兄さんは言葉通り腰を深く落とし、普段の体勢の半分くらいの高さにまで合わせてから一瞬にして舞台の壁まで到達する。その動きはソーラさんやカリストさんの重さを感じさせることなく、かといってミルさんやマグアさんの軽やかさも見えない不思議な加速だった。

「ライトニング・ライジングの影響か、通常時の動きも似てしまってる……得しかないから構わないが、逆に他の動き出しが苦手だ。」
「……他とは?」
「例えば、俺は緩急をつけた動きが苦手だ。ウルスみたいな、常に可変かへんする状況に合う不規則な行動は俺にはできない。止まるか動くか……俺はそれだけだ。」
(……難しいこと言うな、この人。)

 ローナさんなら一瞬で爆発しそうな説明を、俺は何とか自分の中で噛み砕く。やはり俺たちと比べて経験があるのか、言語化する力が高い……流石、2年の首席だ。

「……ちなみに、俺の動きは?」
「ニイダも俺と似たようなものだが……俺が加速を『消す物』、ニイダは加速を『利用する物』という感じだな。」
「利用?」
「簡単に言えば、俺はライトニング・ライジングで加速の時間を無くすのに対して、お前は徐々に動きの中で上げて相手を翻弄する……分かるか?」

 ……そう言われれば、俺は攻撃のたびにスピードを上げて、どんどん相手の対処を上回る動きをすることが多い。ただ、それがどういう意味を成すのか全く理解ができない。

「…………要は、極論ニイダは速く動くこと自体を考えなくてもいいと思う。さっき言った緩急を付けた動きの方が、活かせることは多いと思うぞ?」
「……ウルスさんみたいな動きってことすか?」

 ……そうなると結局、真似ることになってしまう。同じように動いては…………いや。



『えっ……まさかそんな……!??』
『もっとめるべきだったすね、ソーラさん!!』
『くっ…………!!』





「…………緩急と、加速……」
「……おっ? 何か思いついた顔だな?」
「……そっすね。」


 …………浮かんできた。


 
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