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十六.五章 先の世界
二百四十三話 世界
しおりを挟む「あ、当てた……!?」
「大して効いてねぇよ……っと。」
地面にフワッと着地した俺は、変わらず警戒をしながら……自身の変化に着目する。
(……この感覚…………)
「……あの子以外では……数年ぶりか、魔力防壁が傷付けられたのは。」
「はっ、擦り傷で褒められても。どうせわざと食らったオチだろうが。」
「……一度、身で受けておくべきだと思ってな。それ抜きにしてもギリギリだっただろうがな。」
ローレスは服を払い、短剣を鞘に収める。正直なところ、今の一撃は俺の中でも上位に与してたが……これ以上はそう出せない。
「……やっぱり、1人の方がやりやすい?」
「…………ほざけ、誰が居ようが俺の実力は変わらねぇ。テメェの弱さが負けに繋がる、それだけだ。」
「……それもそうだね。」
ハートのくだらない話を流し、俺は再びローレスへ剣を向ける。すると、奴もここからが本番と言わんばかりに魔力の圧をより一層高め……発動した。
「『レベル3・ターミガン』……さぁ、かかってきな。英雄と呼ばれる由縁を伝えよう。」
「……みんな、知ってるけど。」
「えぇ、色んなところで散々言われてますよ。」
『……さ、き……?』
『ああ、『先』だ。』
(…………長ぇな、『先』ってやつはよぉ。)
……お前も、こんな気分だったのか?
「……じゃあ、あんたらは退場するか?」
「「…………まさか。」」
「だろうな……なら、とっととやるぞ!!」
一斉に走り出し…………道を進み始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
寝息も立たない、深夜。俺はあるところへ向かっていた。
冬の寒さがそうさせているのか、建物のあちらこちらに霜が張り付いており……敷地内にある池を見ると水面がしっかりと凍っていた。
「…………ここか。」
俺が来たのは、ある病棟だった。
しかし、そこはただの病棟では無く……前世で言うところの精神科…………といった内容の場所に近い、おかしくなってしまった人たちを入れている療養所みたいな場所だ。
(……暗いな。)
当然、夜も更けていたので、入院者以外の気配は全く無く……それどころか、その病者の反応も限りなく薄い、静かなところだった。
「……狂いたくないな。」
誰もが皮肉と嘲るであろう、そんな呟きを返すものもなく……たった1つ、微かに燃え上がる反応の部屋へと向かう。
その部屋は、病室と呼ぶにはやけにガラス張りな部分が多く、外からでも様子は確認できるような……ちょっとした軟禁所に近い所だった。
(起きてるのか……まだ、腐ってないようだ。)
疑問は色々あれど、とりあえず物音がするその部屋をノックし侵入する。すると、そこにいた人物はこちらを見て目を見開く。
「……なんだ、初めての顔だ。今さら笑いに来たのか? 趣味が悪いな。」
「俺はそこまで暇じゃない……話をする、座ってくれ。」
「話……? もう……何も語ることなんてない。だから……」
「語りに来たんじゃない、いいから座れ。」
「……はぁ………」
汗だくな体をタオルで拭き、渋々奴はベッドに座る。思ったより素直な所を見ると、だいぶあの事が参っているようだ……自業自得な部分はあるが。
「……で、何。落ちぶれた人間に何を……」
「昔、お前に言ったよな……それを実現しにきたんだ。」
「実現……?」
「ああ、俺はお前に……
…………世界を見せに来たんだ。」
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