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十六.五章 先の世界
二百四十二話 雲の上
しおりを挟む「何がっ……なっ!?」
「……くっ。」
質問する前に、俺たちの剣はいとも容易く弾かれてしまう。また、何をするつもりなのか俺とハートの肩をがっちり掴み……
「「っ、がぁっ!?」」
「まずっ……!」
「もう遅いぞ!」
グラン=ローレスは俺たちの肩をぶつけさせ、遠くへ放り投げる。また、とんでもない速度と手捌きで眼前まで迫っていたクルイの足を掴み、上手く流しながら反撃の拳を突き出した。
「ふぐっ……!!」
「この程度じゃないよな、ソルセルリー学院!!」
「……言ってくれんな。」
クルイもこちらへ投げ飛ばされ、俺は深く息を吐いて調子を整える。
(ステータス勝負は話にならない。かといって半端な小細工も見てから反応させる……はっきり言って、勝てる未来が見えねぇ。)
せめて、ウルスと戦った時の力があれば勝負にはなっていたかもしれないが……何故か、あれからまるで発動できる気がしない。何か条件があるのか……?
「……まずは、攻める!!」
「…………私も。」
「挟み撃ちか。」
俺は正面から、それを悟ったハートが転移で背後へ回り込んで魔法を放とうとする。だが、ハートの魔力を感じ取れるのか、易々と英雄は反応する。
(だが、やるだけ!!)
「『爆炎射』!!」「『エンドショット』」
「……『レベル2・ドンナー』!」
俺たちの放った魔法を奴は避けようともせず……代わりに、体から黄色い光を溢れさせる。それは、体の震えに呼応するように弾け……辺りに電気が激しく走り、爆炎と闇を破壊した。
「えっ、ぐぅっ!」
「ハートさん!!」
(化身流……それも、アイクの使ってたやつより激しい!)
上位互換といったところか……英雄の放つ電気は近くに現れたハートごと攻撃し、遠くにいる俺の肌もひりつかせる。
「……あれより、ウルスは強いんだよな。」
「あ? ……あんたも知ってんのか、例の調査隊で知った口だろ。」
「…………そうなるな。」
……こいつも毒されやがって…………
「あんたらが何を必死こいて黙ってようが関係ないが……どうせ、いつかはバレるんだよ。どっかから綻んで……その時、あんたも仲良く苦しい思いをするんだ、それが望みか?」
「……分かってる。だが、弟が選んだ友だ……1人だけ逃れるのはずるいだろう?」
「…………きめぇ。」
「悠長に話している余裕があるのか、お前たち?」
薬になりもしない話をしている隙に、グラン=ローレスが俺たちの眼前に現れ、俺に短剣を振るってくる。それをこっちは大剣、そして被せるようにクルイが同じく短剣を抜いて2人で受け止めるが……まるで大木を相手しているかのように頑丈で、重かった。
「ぐぁっ……!!」
「な、なんて強さだ……!!」
「……クルイ、カリスト。うちの弟子が世話になってるようだな。」
「「…………!」」
……あっちも把握済みってか。
「色々、巻き込んでしまったようだ。お前たちはただここに通っているだけなのに、すまない。」
「……なに、謝って、んだ……?」
「……本来、俺たち大人が対処するべき敵だ。それなのにウルスやお前たちに負担をかけて……だが、ウルスを恨まないでくれ。」
「……う、らむ……?」
繰り広げられる競り合いとは真逆に、ローレスはしみったれた表情で言葉を綴っていく。
「あの子は、決してお前たちに迷惑をかけたいわけじゃない。自分が失った時の思いを……お前たちに知って欲しくないんだ。」
(……………)
「だから、恨むなら俺にしてくれ。弟子より劣る強さを誇ってきた、『グラン=ローレス』を……」
似たもの同士かよ……本当、意味の分からない責任の押し付け合いだ。
「あんたには……関係ないだろうが。俺たちが、あいつのせいで…どんな目に会おうが……それは、俺たちと、あいつの責任だ。」
「…………」
「……恨むことなんて、ありません…よ。あいつを知ったことで、俺も……強くなれたの、でっ!!」
俺の目は蒼く光り、クルイの体もより荒々しい雷が回っていく。そして、その力の解放は徐々にローレスを押し退けていった。
「テメェは親だろ……そういう話は息子にでもしてろやっ!!!」
「っ……あぁ、そうだな!!」
緩んだ一瞬の間を捉え、一気に力を込めて弾く。また、すぐさま距離を詰めて剣を振るうが……素手で剣の腹を掴んで防がれてしまう。
「クソっ……!」
「3人とも、学生を遥かに超越した能力を持ってる……今年は盛り上がりそうだな。」
「何の話だ……おらぁっ!!」
俺は一度全体重を剣に乗せ、びくともさせないことを確認してから己の武器に絡みつき、体を回してローレスの上を取ってからぶん殴ろうとした。しかし、奴は特に驚くような素振りも見せず、冷静に剣を手放してこちらの体勢を崩した……想定内だかな。
「足にするぞっ!!」
「ちっ、やってろっ!」
「…………!」
落下する俺の体を思いっきり踏み込み、クルイはローレスの頭上を渡りながら拳を何度も素振りする。すると、その素振りに合わせるように稲妻の塊が高速でローレスの背中を狙っていく。
「『サーベルボルト』……効かんぞ!!」
「でしょうね、ハートさん!!」
「散って、『ツイン・エンドショット』!」
最上級の弧を描く雷撃に拳の弾はあっさりと打ち消されてしまうが、それによって生まれた死角の先に現れたハートが2つの暗黒を放射し、ローレスに避ける時間を与えさせなかったが……それでも、まだ届いていなかった。
「……転移された…………!」
「……お前たちが相手してきた人間は、これくらいでやられたか?」
ローレスは転移でツイン・エンドショットを避け、上空に平然と浮かんでそう告げる。
その高さは見た目よりも遥かに遠く距離を感じさせ……俺たちとの実力差をまじまじと思い知らされる、雲の上の存在だった。
「この世界には、まだお前たちより強い人間は沢山いる。その中でもし、一番を目指すならもっと強く」
『ブレイクボンバー』
「何、上から物言ってんだ……二番目がっ。」
「……!?」
そして、俺はそれより高いところに登り……溜めていた爆破の脚を構える。
(雲の上だからなんだ……人間、飛べる高さは決まってんだよ。)
『俺の……俺の目標は、『お前を超える』ことだ。そのために俺は…………もっと、もっと強くなる。精々……覚悟するんだな、クズ野郎。』
上限は既に知っている。だったら……そこまで突き進むだけだろうが!!
「食らえや、英雄っ!!!!」
『爆脚』
「ぐぁっ……!!?」
地に落とすように、俺は振るった。
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