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十六章 期待  『pride』

二百三十話 未練

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(……勝った。私が……勝てたんだ。)

 この試合はタッグ戦……しかし、確かに私の力が勝利へ導いたことは、間違い無いだろう。その高揚感は……何ものにも変えたがいものだ。

「ご、ごめんなさいミカヅキさん! 私がウルスくんにやられたせいで……」
「いや、私も力及ばすだった……しかし、さむい……もう少し手加減してくれよ、フィーリィア。」
「……勝負なので。」
「ふふっ、言うようになったな。」

 ほぼ同時くらいにウルスにやられたのか、ミルがこちらへ来て頭を下げる。それをルリアさんがなだめながら……私の生意気な態度に笑みを溢した。

「……最後の、お前の戦う姿。やっと整理が付いたようだな。」
「……ルリ…ミカヅキさんのおかげです。」
「おいおい、呼びたいように呼んでくれ。何ならミルも『ルリア』って言ってくれてもいいんだぞ?」
「え? あ、はい! そうさせてもらいます、ルリアさん!」

 つい勢いで下の名を口にしてしまったが……むしろ、彼女にとっては嬉しいのか、ミルにもそう呼びかけていた。


「…………今まで……ルリアさんのように、厳しいことを言ってくれる人はいませんでした。私が弱いから……みんなは気を遣ってくれて、それに甘えていました。」
「……そうだな、ウルスは特に。」
「でも……駄目なのは、そのことなんだって、気付きました。『自分はこうなんだ』って……自分自身で認めることが、大切なんだって。」






『……私は、誰も傷つけないように……もう、昔みたいに…………救えなかった人がいなくなるように、強くなりたい。 ……だめかな?』






 ……『変わりたい』のは、本心だ。でもそれはきっと、私の実力じゃ早い気持ちだったんだ。


 もっと、色んなことを経験して……負けて、勝って、楽しんで苦しんで…………積み重ねたその先にあるのが、なんだ。

 


 まだ、焦らなくていい。今、進んでいく時を……余すことなく、体験しよう。

 

「……決勝戦、観てるからな。頑張れよ。」
「頑張ってね、フィーリィアさん!」
「はい、必ず勝ちます……それでは。」

 2人からの応援に感謝し……こちらの様子を眺めていたウルスの元へ近づく。
 彼の表情はどこか嬉しそうで……いつも通り、私の目をしっかり見てくれた。


「……ちょっと疲れちゃったから、先に戻ってるね。」
「あぁ……凄かったぞ、フィア。」
「……ありがとう。」


 自然に笑えているだろうか、顔は赤くなっていないだろうか……そんな、柄にもない思考を巡らせてから、私は手を軽く上げる。すると、彼も意味を汲み取ってくれたようで…………互いの手を合わせ、舞台にその音を弾けさせた。


(…………恥ずかしいな。)

 













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

















「…………色々、ありがとうございました。」
「ん? ……別に、お前が甘やかしている部分を代弁しただけだ。フィーリィアに対しては特別緩いからな。」
「そうだそうだっ! 私にももっと女の子扱い……ぶぺっ!?」

 ルリアさんに感謝を述べながら…….またもやルールを破ったミルの頬を引っ張って罰を与える。

「言ったよな? 『神器は使うな』って……困るのは自分だって分からないのか、ミル?」
「ふぁ、ふぁってふるふふんにかひたばぁったの!」
「……なんて?」
「ふぃ、ふぃた!!」

 『だ、だってウルスくんに勝ちたかったの!』……とぼやくミルにため息を吐きながら、そのほっぺたをつねってから離す。別に、今のミルならその注目にも耐えられそうだが……保護者としては不安でしかない。

「……とにかく、次はやめてくれよ。俺も……色々あるからな。」
「はーい……」
「…………なぁ、ウルス。」

 ミルを叱りつけていると、ルリアさんが神妙な顔をし……質問をしてきた。

「……今聞くようなことじゃないかもしれないが……個人戦、どうしてカリストに負けたんだ?」
「どうしてと言われても……カリストの方が強かったからとしか言いようが……」
「そうか……じゃあ質問を変えよう。何故、お前は。」
「……それも…………いや……」

 ……実際、あの試合は間違いなくカリストの純粋な実力が残したものだ。俺が弱く……あいつが強かっただけ、それ以上でもそれ以下でもない。
 ただ……もし、そこに理由をつけるのであれば…………



「……あの勝負は、お互い『迷い』があった。その迷いを、どれだけぶつけられたか……それが、勝敗を分けたのかもしれません。」
「……ウルスくんは、迷っていたの?」
「……もう、終わった話だ。だから…今は大丈夫だ。」

 …………みんな、俺に似たようなことを聞いて……それほど、俺の態度は不自然で、分かりやすいのだろう。話す意味なんて無いが。

「……そのカリストを倒したのが、お前たちの最後の相手だ。いくらフィーリィアの実力が上がったとは言え……正直、勝てる未来が見えない。何か策はあるのか?」
。フィアが成長した今、全て予定調和に進むと思います。」
「ほ、本当に? ルリアさんに聞いたけど、負けかけてたって……」
「あの時の勝負はまだ続いている……そのために、舞台は整えた。」

 ……そして、ハートはおそらく……

「……大体、あの人が俺たちに勝てる道理なんてありませんよ。」
「それは……どうしてだ?」
。」
「「…………?」」




『あの人は、強くない。』




「周りがついてこれないから、強くなることに意味を見出せなくなった……そんなもの、こっちはとっくの前にだ。」
「…………。」
「人の強弱しか見ず……退屈に日々を生きている。 …………そんなの、塵以外の何者でもない。」




『『強い』だけが人の、あなたの全てじゃない……いつかそれを伝えてみせます、ハートさん。』





「強かろうが、弱かろうが……時間は流れる。本当にそれだけが人の人生と言うなら…………テメェの周りには、何の価値もないのか?」
「ウ、ウルスくん……」
「…………とにかく、俺は負けません。絶対に。」



 ……次は、負けてはならない。もし、負けてしまえば…………








(…………未練になる。)


 
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