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十六章 期待 『pride』
二百十六話 戦える
しおりを挟む「お前たちは、いつも同じミスを繰り返す……いい加減治さないとな。」
「……ご忠告、どうも。」
辛辣な挑発に、カーズは語気を強めて返してくる。事実が事実なので身に染みているのだろう……人のことなんて言えないが。
「すまん……だが、お前ならできる……!」
「…………はい!!」
魔力防壁が壊れ、退場するソーラの鼓舞に、カーズの青い光は活性化し始める。どこまで食らいついていけるか試させてもらおう。
「……化身流同士、仲良く行きましょう……『マリンシャボン』!!」
「ああ、『闇の腕』!」
吹雪の残り香が漂う中、俺たちは強化された魔法をぶつけ合う。
(……遠くにいるフィアが狙われると厄介だ。できることなら、もう一度気配を消してくれた方がいいのだが………)
「目は離しませんよ……2人とも!」
カーズはフィアの標準から逃れるように移動しながら、俺との攻防を繰り広げていく。これは、意外と簡単にはいかなさそうだ。
「『アクアランス』!!」
「魔法に乗せるだけが化身流じゃない……はっ!!」
「……!?」
迫り来る水の槍たちを寸前のところまで詰めさせ、俺は両手でバンッと大きな音を鳴らす。すると、紫掛かった黒い光は周囲に闇の波動を起こし……その衝撃で飛んでくる魔法たちを破壊した。
「まだまだあるぞ……ふん!」
「今度は……って、砂、ぐっ……!?」
続いて、地面を軽く一掴みしてから全身を使ってカーズ目掛け投げ飛ばし、まるで闇の砂嵐かのような現象を起こす。
その闇風は威力こそ小さいものの、一瞬だけ夜のように暗い景色を作り出し……その間に一瞬で距離を詰めた俺は、彼の足元の地面を殴り、下から黒いオーラを突き上げた。
「がぁっ……くっ、このっ!!」
吹き飛ぶカーズは反撃として腕を振るい、水撃を飛ばしてくるが……それを俺は手の爪を立て、引っ掻くようにしてを切り、邪悪な爪跡をぶつけ相殺させた。
「お前に、この魔法を教えたのは俺だ……指導された通りに扱って勝てるわけがないだろ?」
「……分かっています。やはり、今の僕たちではあなたに掠りもしない実力……決勝戦を見て、散々思い知りました。」
しかし、そんな諦めの言葉とは裏腹に……カーズは両手を突き出し、走る青光をそこに集中させ始めた。
「だから……ここからは僕が歩みます。あなたが教えてくれた力を…………己がものとして、正しく!!」
(…………。)
澄んだ空気を裂くように、光に反射された空模様は濃いものへと変化していき……やがて、手に球のように少しずつ凝縮し始めた。
「今は勝てなくとも……せめて、あなたを……オーシャン・エク」
「『アイシクル・グラディウス』」
「…………えっ、フィーリィアさ……!!?」
ちゃんと捉え続けていたようで、カーズはフィアの詠唱に反応し……いつの間にか影っていた地面を視認した。そして、すぐさま空を見上げ……落ちてくる巨大な氷剣に目を見張った。
「は、はんげ……がっ!?」
「よそ見をするなって言っただろ。」
闇の衝撃波を飛ばし、溜めにためていた水球を妨害して強制的にキャンセルさせることで選択肢を無くさせ……ガラ空きのカーズに凍えた大剣がぶつかり、紫色の破片が散らばった。
『そこまで!! 勝者はウルス、フィーリィア!!』
「くっ……ど、どうして……勝てない………?」
「……化身流、武身流を過信しすぎだ。それに、まだ自力が足りていない……その流派にかまけていたんだ。」
「………………」
「……でも、お前たちはまだまだこれからだ。」
グローブをはめ直し……俺は顔を見ることなく告げた。
「強くなれよ、2人とも。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…………行きましょう、ソーラ。」
「あ、ああ……くそっ、全く敵わなかった……!」
試合が終わり、余すことなく無情に思い知らされた無力さに、僕たちはしばらく舞台の入り口で立ち尽くしていたが……心の整理もついたところで、足を進め始めた。
「……なぁ、ウルスは……なんて言ってた?」
「……『強くなれよ』と……らしくない言葉でした。」
……正直、敗北感よりも…………その一言の方が、よっぽと堪えたと思う。
「……僕たちが変わっているように、ウルスさんも変わっている……ということですかね。」
「いや、そういう感じだったのか? 大体、そんな問いかけるような言い方……やっぱりおかしいだろ。『変わった』っていうより……変えられた? 何というか、変わらざるを得なかったというべきか…………」
『……先は遠いな。』
『…………それもそうですね。でも、追いつけないわけじゃありません。挫けず後を追えば……いつか必ず隣に立って一緒に戦える。諦めたらダメですよ?』
『…………ふっ、今更ありえないだろ。何なら、今度の冬の大会にでもウルスを倒してやろうぜ!!』
…………あなたを追いかけて、一緒に戦える日は……来るのでしょうか。
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