二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す

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十五章 勝ち取るもの 『certify』

二百九話 今日

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「ついに解放の力も発動したな……そういえばアレってどういうものなんだ?」
「確か、反応速度と思考力? がめちゃくちゃ上がってステータスも……って、それより何でウルスはもう私の魔法を使いこなしてるの!? 練習する時間とかなかったよねぇ!?」
「お、落ち着いてくださいローナさん、周りに迷惑ですよ!」

 突然怒り始めるローナさんをなだめながら、ソーラ含めた僕たち3人は彼らの激化する戦いに熱中していた。

(……ここまで、ウルスさんがカリストさんに合わせる……いや、食らいついている様な状況だ。お互い致命的なダメージは受けてないが、1回でもまともに受ければ試合はそれで終わるだろう。)

 特に、今のカリストさんの攻撃を受けたら魔力防壁どころじゃ済まない……それほど、この戦いの状況は瞬きも許してはくれない。



「……なぁ、カリストもそうだが…………俺たちもだいぶ強くなったと思うよな?」
「えっ、急ですね……えぇ、まあ。色々ありましたからね。」

 ……と思った矢先、さっそくソーラが僕の目をぱちくりと瞬かせる。何故いきなりそんな話を…………

「そうだねぇ、他のみんなと比べても私たちの成長率は異常だと思うよ? 私なんて、入学した時の倍くらいステータスが上がってるし。」
「倍!? 普通、ステータスってそこまで急成長できるものなのか?」
「さあ……そういう称号を持ってるならともかく、普通なら尋常じゃなく厳しい特訓をしなければいけませんが……生憎、僕たちはそこまでの特訓はしてないと思います。だから、理由があるとすれば…………」




『……野暮かもしれませんが、ウルスさん。あなたはどうやってそこまで強くなったんですか? 』
『…………別に、野暮でも何でもない。ただ師匠の特訓を受けて、自分でも鍛えて……とにかく、強くなることだけを考えていた。そして、それを加速させる称号があった結果……今がある。特殊なことは何も……してない。』
『そう……ですか。でも、ウルスさんはまだ15、6歳です。いくら色んな要因があったとしても、世界最強になれるのは……何というか…………』
『おかしい……まあそうだな。だが、じゃない。俺は…………』




「……『心』と、『環境』……」
「…………え?」
「受け売りですが、強くなるにはその2つが重要だそうです。全てを覆すほどの心の強さと、それを導いてくれる環境……それらがあれば、人は限界を。」
「……環境は、確かにそうかも。私たちはウルスがいる環境だったから、ここまで強くなれた。でも心? は何かフワフワしてるような…………」

 ……言ってしまえば、精神論的なものだろう。周りを惹きつけ、その手段を教えてくれる『彼』という環境は正しくソレに違いない……が、その精神論の話は正直難しいところだ。


(気持ちだけじゃ、どうにもならないことだってある。いくら強くなりたいと思ったところでステータスが上がらないように、心は行動とともに無ければ…………いや、ウルスさんもそれくらいは分かってるはず。)

 しかし、あの時の言い方はそんな安直なものじゃなかった。ならば、心というのは一体……もし、ウルスさんにそれを当てはめて考えれば…………



『ああ、彼に助けてもらった俺はその日から稽古を受けるようになったんだ。もう絶対同じことを繰り返さないように、で鍛えた結果…………』


 『死ぬ気で』……そういうことなのか? いや、まさかそんな…………


(…………ウルスさん、あなたの『心』とやらは……)

















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「解放……すっかり自分のものだな。」
「余裕こくなよ、とっとと向かって来い。」

 蒼い目でこちらを睨み、指を招くカリストの様子を観察しながら、俺は策を脳内で立てていく。

(今のカリストは……とてつもない強さだろう。俺の動きも全て見てから反応、力も速さも何倍の差…………それを覆すには『裏』をかくしかない。)

 ただ、裏をかくといっても、普段の戦い方がソレに近いため、カリストはもう慣れてしまっている。全てをひっくり返すような、カリストの思考を停止させられるほどの虚突きょつき…………かなり限られるだろうが、やるしかない。

「…………『オーバージェット』」
「……目障りな。」

 俺は超スピードであちこちを飛び回り、三次元的に動いてカリストを撹乱かくらんさせる。当然、目は追いついているだろうが……警戒しているのか、手は出してこない。この隙に色々仕掛けさせてもらうぞ。

『グラウンドウォール』
「……『蒼炎』!!」
「その炎か、当たればいいな!」

 あちこちに土の壁を作り、それを使ってタイミングをずらしながら適当に蒼炎を彼目掛けて放つ。そして、炎は避けられることであちこちの地面に着火し、燃え続ける……一見無駄撃ちに見えるが、地面を燃やす特性が相まって体を隠すこともできる。そして…………

「……あ? 何で、炎に突っ込んで……!?」
『蒼炎』

 飛び回る最中、俺は地面の炎へと突撃し……体へと魔力を回復させる。そんな不可解な現象にカリストは少し動揺を見せた。

 界晴。周囲の空間に流れる魔力を少しずつ体へと送り込み、魔力と体力を微量ながら回復させる魔技。あくまで魔法ではないため、人間が元々持つ自然回復を、身体に流れる魔力を操作して強く促し応用した特殊なもので、迅速な回復は行えない。

 だが、界晴にはまだ1つ特別な能力があり、それは……少ない魔力で作られた魔法なら、自動で魔力として取り込んでくれるといったものだ。

(初級、中級程度なら、もはや俺に害はない……そして、蒼炎という魔法は前世の記憶を元に作られた、最低限の魔力で最大限の効果を生み出す『裏』式魔法。つまり、蒼炎に限って半永久的に放つことができる。)

 炎を放っては吸収し、魔力消費をオーバージェットだけに抑えながらどんどん攻撃の頻度を上げていく。また、蒼炎の威力が馬鹿にならないと知っているカリストは舌打ちを溢しながら、ただただ回避に専念していた。

「何が起こってるかしらねぇが……だから何だって話だ。その速さじゃまだ俺には……」
「知ってる。だから、今この俺が出せる最高のパフォーマンスを……見せてやる。」

 そう告げた俺は一度、直線上に炎を放ってカリストに距離を取らせる。それから、一気に炎の中へ飛び込んでいき……そのの発動に生じる魔力ロスを無くしてから、体現した。

「『よろ碧炎えんたん』……これが、現時点での最強のよろい。これで無理なら…………今の俺に打つ手はない。」
「……それも、発動と同時に吸収してるから無限って感じか? 小癪こしゃくな……何をまとおうが、俺には」














「ペラが回るな。」
「…………!!?」


 挑発と共に、俺はカリストの懐に潜り込み……蹴りを食らわせた。

「ぐほぉ……良い速さだ、やっと舞台に立てたってか?」
「……悪いが、お前の土俵どひょうに立つつもりはない。大人しく静観しておくんだな。」
「……けっ!!」

 オーバージェットでほんの一瞬飛び上がり解除してから、碧炎へきえんを噴出してサマーソルトを繰り出す。その速さや加速はジェットやベリルアーマーの類いを軽く超えるほどであり、カリストの魔力防壁を軽く掠らせた。

「まだまだ……『爆脚』っ!!!」
「な、なに…………がはぁっ!!?」

 続いて、爆破の魔力を炎に重ねる様に合わせ、弾ける脚をカリストの横腹に一撃を入れる。それでも抵抗はされ、クリーンヒットとはならかったが……ここに来て、初めて奴の表情が曇った。

「解放で、魔力は上がってたとしても……魔力防壁の強度はそう変わらない。半分はいってるよな?」
「…………どこまでも真似っこ、ローナの魔法も俺のも……こすいなぁ!?」
「簡単だからな、『』だけで使える自分の魔法を恨め。」
「言ってくれるなぁ……ウルスさんよぉっ!!」

 地面に降り立った瞬間、カリストは俺の挑発が頭に来たのか物凄いスピードで大剣を振り下ろしてくる。しかし、今の俺にはそれを避けられるほどの速さがあったため…………剣を沿僅かな動きで回避し、カリストの体に触れた。

「ふ、ふざけ……!?」
「止まれ、『バインドチェーン』」
「く、鎖…………ぐぉっ!?」

 カリストの身と剣を地面に縛り付け、鎧の加速を合わせた発勁はっけいで大きく怯ませてから大きく距離を取り……試合を終わらせるための魔法を溜めていく。

「げほぉ、がぁ……」
「……俺の力を測ろうとしたのが間違いだったな。これで……終わらせてやる。」

 ……本音を言えば、カリストの自力をもっと見たかったが……それ以上に、勝つことが大事だ。それに、もう奴のステータスだとそんな余裕も無いだろう……口惜しいが、試合終了だ。

「……からめ、『炎神えんじん一式いちしき』!!!」
「………………」

 刹那、空に巨大な魔法陣が出現し……そこから蛇の様にうねる火炎放射が降り注ぎ、カリストへ襲い掛かる。

(……仮に、鎖を魔法で壊され避けられても、この魔法は3段階まで続いていく。その内の1つでも当たれば魔力防壁は壊せるに違いない。)

 それに加え……炎神の三式は、超広範囲攻撃。少なくとも初見で避けられる様なタマじゃない。



「……俺にはあと一歩遠かったな。」

「……………一歩……」

「だが、お前ならきっと、もっとつよ「その一歩は……























 …………、踏み出すんだよ。」

 



 音はかき消され……気づけば、俺の体は壁に深く埋まっていた。




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