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十五章 息吹く気持ち 『face』(冬の大会編)
百八十九話 『追憶・フィーリィア』 つめたい
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「寄ってくんじゃねぇ、疫病神がっ!!!」
「うっ……げほぉっ…………」
「ちょっと、汚いからやめて。匂いが残んのよ。」
「知るか!! ……ちっ、何で産んだんだよこいつをよぉ!」
「知ってたらあんた殺してたでしょ? いくら何でも人殺しなんかされたら目覚めが悪いって……これ何回目?」
「知るかぁっ!!!」
蹴られたお腹の痛みは、もう忘れた。ただ……言葉の刃は、今でも突き刺さったままだ。
これが、日常だった。自分がどんな家に住んでいるのか、どんな村や町で過ごしているのか……そんなことは全て、この小さな家の中で完結してしまっていた。
(………………。)
生まれた時から、私はこの2人に嫌われていた。理由はもう分からないが、私は物心がつく前には既に魔力暴走の称号があったようで、何かとそれを理由に苛立ち発散の道具として殴られ、蹴り飛ばされていた。
「目の前には現れて、毎度まいど俺の足を触りやがって……そのくせ、何もできやしない…………お前は本当に使えねぇなぁ、このグズが!!!」
「ぶっ……あぁ………」
父は、いつも怒っていた。私の存在が憎いのか、元々そういう性格だったのか……私の姿を見かけては暴力を躊躇なく振るって、その怒りを増幅させていた。
普段、何をしているのかは知らなかった。周りが暗くなった頃には家を出て、朝に帰ってくる。その時は真っ赤な顔と一緒に嫌な匂いがいつも鼻にきていて、それを母に指摘されるとまた私を殴った。
「はぁ……魔法は使えないどころか魔力暴走だし、おまけに不気味だし……本当、何なのこの子。」
「………………」
「……なんで、こんなのを産んだかなぁ…………」
母は、何もしなかった。ずっと家にいて、嫌な匂いのする飲み物を1日中飲んでいて、私を見る度に何か小言を呟いてはまた飲んで…………一度も触れてはくれなかった。
ご飯はいつも硬いパンだけで、それは母もほとんど変わらないような食事をしていた。ただ、私は1日1回なのに対し、母は数日に1回だけしか食べることはなく、『お腹が空かない』といつも何故か私に向かって言っていた。
………………これ以上、語ることはなかった。
ただ、体の痛みと穴の空いたような感覚だけが私に時間の経過を教えてくれて、それで……本当に、何も無かった。
逃げようとも、助けを乞おうともしなかった。日常だったから。
(…………えほんは、ウソだらけ。)
1冊だけ地面に転がっていた物語を読んでは、そう思う日々。ボロボロに擦り切れて、ほとんど文字も読めないくらいに汚れていたが……毎日、手に取っていた。
でも…………所詮は『お話』。色とりどりな世界も、不思議な物語も、エガオというものがある表情も………結局、オハナシ。
「…………」
資格なんて、最初からなかった。
……生まれてきた私が、悪いのだから…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ちっ、どこ行きやがったあのガキ……!!!」
「…………どっか隠れてるんじゃない?」
「けっ、そのまま消えちまえや……おいよこせやソレ!!!」
(………………)
その日は、いつにも増して怒っていたので、私は本能的に戸棚の中へと隠れていた。そのおかげか暴力を振られることはなく、目の前に映る景色では私のいない日常が何事もなく過ぎていた。
「まっず……こんなの飲んでんのか? バカ舌にも程がある。」
「……あんたが、稼いでくれないからでしょ。」
「あぁ? なんでテメェのために金を使わなきゃいけねぇんだよ、ぶっ殺すぞ。」
「…………そっちの方が、手っ取り早いかもね。」
いつも通り、2人は喧嘩をしていた。だが、毎回何故か殴り合いにまで発展することはなく、怖いことだけ言い合ってからそれぞれ離れた場所で空虚な時間を過ごしていた。
(…………でたら、なぐられる。)
既に感じるものなど無かったが、それでも痛いのは嫌だったので……私は膝を抱えてそのまま隠れたまんま息を潜めていた。
その時だった。
「…………なんか、騒がしくない?」
「はぁ? 知るか、どうせ町のガキが来ただけだろ。あいつと違って煩ぇからな、1発締めるか。」
「……子どもの声じゃないけど…………なんなの、ほんとに。」
(…………………?)
母の言う通り、何やら外から聞きなれない音が聞こえ始める。最初は小さな物音だったが、次第にどんどん音は大きくなっていき……やがて爆発音のようなものまで響き始めた。
「…………!?」
「あぁ……? そこに居んのかガキ、つうかウルセぇなおいっ!! 静かにしろやぁぁっ!!!!」
そんな爆音に驚いた私はつい物音を立ててしまい、父と母に居場所を知られてしまうが……幸いと言うべきか、今はその音に夢中でこちらに向かってくることはなかった。代わりに父は玄関方へと向かい、大声で怒鳴り散らしながら扉を開けた。
「なんなんだテメぇ……らっ…………?」
「…………えっ、誰な……」
(……………ぇ。)
そして、次の瞬間…………父と母は胸を貫かれていた。
「…………?!?!」
「……汚い家だ。その癖にこんな辺境なところまで……おかげで随分な手間を取った。」
「結局、居なかった……本当にこんな町に居たのか?」
「俺には分からん。ただ1つ言えるのは、この町に『収穫』は無かった……早く燃やして帰るぞ。」
(だ、だれ……お父さん、お母さんは………?)
当然、そんな声が出るはずもなく、私はただ戸棚の奥でガタガタ震えているしかなかった。
(なんで……わたし、なにか、いやなこと……したのかなッ…だから、こんな……ことが…………)
訳も分からず、私は自責する。答えなんてあるはずもない……そもそも、そんな次元の話ではない…………分かっていても、恐怖がそれを許さなかった。
(いつも、『死んでほしい』って……『消えてほしい』って…………2人のオネガイが……かなっちゃったの、かなぁ……)
そう、考える他なかった。今起こっている現状に、少しでも『理由』が…………欲しかったから。
「ぅ………ァ……」
「ご…… ……ん………」
(……!! ……おとう……おかあさ………)
必死に目を瞑ろうとしたが……聞きなれた声に、私は隙間に映る世界を再び覗いた。そこには……地面を這いながら…………こっちに……く…る…………
「た…………す…けぇ…………」
「…………フ……ィ……リ、ァ………」
「……………──────ぁ」
……………………溢れた
「……ん? ……まだ、子どもでも居るのか? 仕方ない……家族一緒に届けて…………」
「おい、ちょっと待て……なんでこんな寒くなってる? 火はもう回って…………」
「ぁ……あぁあ……あァァあっぁヅァァあぁああっ!!!!!!!」
溢れて、あふれて…………ひんやりとした空気が、この家を包んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………………」
とっくに、起きていた。でも、動きたくなかった。動かなかったら……死んでいるのと同じだったかもしれないから。
見知らぬ天井、見知らぬ明かり、みしらぬ感触、ミシラヌ暖かさ…………そのすべてが、私に考えさせることをやめた。
「……おっ、起きたみたいだな。だいじょ」
「っ……いやっ………!!!!」
だが、見知らぬ声と共に私の意識は完全に覚醒し……自分の上に乗っていた毛布を必死にかき集め、その中に隠れた。
「……安心しろ、私は敵じゃない。お前を傷つけは……」
「ぃや……もぅ………」
「…………これは、中々だな。」
聞きたくなかった。もう、誰の声も……なんで、こんな場所に居るのかも…………知りたくなかった。
「おい……悪いが、話を進めさせてもらうっ。」
「ぁ…………っ!!」
しかし、強引に毛布を奪われてしまい……その主の姿を目に入れてしまった。
女の人だった。絵本に出てくるみたいな、魔女みたいで……綺麗な金髪で……黒い服で…………架空の人物、だった。
「私はテル=クーザ、知ってるだろ?」
「……………だ、れ………」
「あらら……まあいい、子どもだし知らなくても当然か。」
女の人は何やらよく分からないことを呟いては、再び私に質問をしてきた。そんな姿は妙に怖くて……変に優しかった。
「名前は?」
「………………」
「……? どうした、言えないのか…………あぁ、フィーリィアって名前か、可愛いじゃないか。」
(……カワ、いい…………?)
知らない単語に、私は疑問を浮かべたが……そんなことを顔に出せるはずもなく、ただただこの時間が早く終わることを望んでいた。
けれども、嫌な時間は長く感じて……嫌な記憶も、引き出されてしまう。
『た…………す…けぇ…………』
『…………フ……ィ……リ、ァ………』
「ぅ………ぁぁ………」
「……覚えてるか? 自分に何が起こったの……おいどうした、しっかりしろ!」
『…………さむい……この、こおり………は………あ。』
『おとうさん……おかあ、さん………? なんで……こおって…………』
『わた、し……がが………ぼう、そう………し、し………あぁ……』
「ゔぁ……いやぁぁぁっ!!!!!!」
「こ、これは……おい、落ち着けっ!!!」
最悪の記憶が、私の体を蝕み……あの時のように全部凍らせようとした。だが、女の人が慌てて私の腕を触り……『何か』をし始めた。
「落ち着け……もう、大丈夫だ…………!」
「ち……あ、あぁ…………」
女の人の手はとても温かく……私の体から何かを吸って、暴走を収めてしまった。その反動に、私は堪らず倒れてしまう。
「うぅ………や……やだぁ…………」
「……私は、たまたまお前の住む町の近くを通りかかった。町はボロボロで、人も……それで、氷の山が町の離れに出来ていた。そこにお前は倒れていたんだ。」
「……………うぅっ……ひっ…………」
「…………それを、私が保護した。残念だが……もう、町は無くなった……助けられなくて、ごめんな。」
…………謝られる理由は……分からなかった。ただ……その時の女の人の顔は、忘れられなかった。
「……これ……から…………もう……なに、も………」
「…………もし、当てが無いなら……私と一緒に暮らさないか?」
「…………………ェ……?」
忘れられない……何も、忘れられなかった。
「代わりに慣れるかどうか、分からないが……嫌じゃ無かったら、どうだ?」
「……で、でも…………ぼう、そう……」
「心配するな、私は英雄だぞ? ……だから、フィーリィア。もう泣くな。」
「……………!!」
………………初めて、抱きしめられた。あったかくて……優しくて…………はじめての、感覚だった。
『………………フィーリィア…………』
(………………つめたい。)
「寄ってくんじゃねぇ、疫病神がっ!!!」
「うっ……げほぉっ…………」
「ちょっと、汚いからやめて。匂いが残んのよ。」
「知るか!! ……ちっ、何で産んだんだよこいつをよぉ!」
「知ってたらあんた殺してたでしょ? いくら何でも人殺しなんかされたら目覚めが悪いって……これ何回目?」
「知るかぁっ!!!」
蹴られたお腹の痛みは、もう忘れた。ただ……言葉の刃は、今でも突き刺さったままだ。
これが、日常だった。自分がどんな家に住んでいるのか、どんな村や町で過ごしているのか……そんなことは全て、この小さな家の中で完結してしまっていた。
(………………。)
生まれた時から、私はこの2人に嫌われていた。理由はもう分からないが、私は物心がつく前には既に魔力暴走の称号があったようで、何かとそれを理由に苛立ち発散の道具として殴られ、蹴り飛ばされていた。
「目の前には現れて、毎度まいど俺の足を触りやがって……そのくせ、何もできやしない…………お前は本当に使えねぇなぁ、このグズが!!!」
「ぶっ……あぁ………」
父は、いつも怒っていた。私の存在が憎いのか、元々そういう性格だったのか……私の姿を見かけては暴力を躊躇なく振るって、その怒りを増幅させていた。
普段、何をしているのかは知らなかった。周りが暗くなった頃には家を出て、朝に帰ってくる。その時は真っ赤な顔と一緒に嫌な匂いがいつも鼻にきていて、それを母に指摘されるとまた私を殴った。
「はぁ……魔法は使えないどころか魔力暴走だし、おまけに不気味だし……本当、何なのこの子。」
「………………」
「……なんで、こんなのを産んだかなぁ…………」
母は、何もしなかった。ずっと家にいて、嫌な匂いのする飲み物を1日中飲んでいて、私を見る度に何か小言を呟いてはまた飲んで…………一度も触れてはくれなかった。
ご飯はいつも硬いパンだけで、それは母もほとんど変わらないような食事をしていた。ただ、私は1日1回なのに対し、母は数日に1回だけしか食べることはなく、『お腹が空かない』といつも何故か私に向かって言っていた。
………………これ以上、語ることはなかった。
ただ、体の痛みと穴の空いたような感覚だけが私に時間の経過を教えてくれて、それで……本当に、何も無かった。
逃げようとも、助けを乞おうともしなかった。日常だったから。
(…………えほんは、ウソだらけ。)
1冊だけ地面に転がっていた物語を読んでは、そう思う日々。ボロボロに擦り切れて、ほとんど文字も読めないくらいに汚れていたが……毎日、手に取っていた。
でも…………所詮は『お話』。色とりどりな世界も、不思議な物語も、エガオというものがある表情も………結局、オハナシ。
「…………」
資格なんて、最初からなかった。
……生まれてきた私が、悪いのだから…
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「……ちっ、どこ行きやがったあのガキ……!!!」
「…………どっか隠れてるんじゃない?」
「けっ、そのまま消えちまえや……おいよこせやソレ!!!」
(………………)
その日は、いつにも増して怒っていたので、私は本能的に戸棚の中へと隠れていた。そのおかげか暴力を振られることはなく、目の前に映る景色では私のいない日常が何事もなく過ぎていた。
「まっず……こんなの飲んでんのか? バカ舌にも程がある。」
「……あんたが、稼いでくれないからでしょ。」
「あぁ? なんでテメェのために金を使わなきゃいけねぇんだよ、ぶっ殺すぞ。」
「…………そっちの方が、手っ取り早いかもね。」
いつも通り、2人は喧嘩をしていた。だが、毎回何故か殴り合いにまで発展することはなく、怖いことだけ言い合ってからそれぞれ離れた場所で空虚な時間を過ごしていた。
(…………でたら、なぐられる。)
既に感じるものなど無かったが、それでも痛いのは嫌だったので……私は膝を抱えてそのまま隠れたまんま息を潜めていた。
その時だった。
「…………なんか、騒がしくない?」
「はぁ? 知るか、どうせ町のガキが来ただけだろ。あいつと違って煩ぇからな、1発締めるか。」
「……子どもの声じゃないけど…………なんなの、ほんとに。」
(…………………?)
母の言う通り、何やら外から聞きなれない音が聞こえ始める。最初は小さな物音だったが、次第にどんどん音は大きくなっていき……やがて爆発音のようなものまで響き始めた。
「…………!?」
「あぁ……? そこに居んのかガキ、つうかウルセぇなおいっ!! 静かにしろやぁぁっ!!!!」
そんな爆音に驚いた私はつい物音を立ててしまい、父と母に居場所を知られてしまうが……幸いと言うべきか、今はその音に夢中でこちらに向かってくることはなかった。代わりに父は玄関方へと向かい、大声で怒鳴り散らしながら扉を開けた。
「なんなんだテメぇ……らっ…………?」
「…………えっ、誰な……」
(……………ぇ。)
そして、次の瞬間…………父と母は胸を貫かれていた。
「…………?!?!」
「……汚い家だ。その癖にこんな辺境なところまで……おかげで随分な手間を取った。」
「結局、居なかった……本当にこんな町に居たのか?」
「俺には分からん。ただ1つ言えるのは、この町に『収穫』は無かった……早く燃やして帰るぞ。」
(だ、だれ……お父さん、お母さんは………?)
当然、そんな声が出るはずもなく、私はただ戸棚の奥でガタガタ震えているしかなかった。
(なんで……わたし、なにか、いやなこと……したのかなッ…だから、こんな……ことが…………)
訳も分からず、私は自責する。答えなんてあるはずもない……そもそも、そんな次元の話ではない…………分かっていても、恐怖がそれを許さなかった。
(いつも、『死んでほしい』って……『消えてほしい』って…………2人のオネガイが……かなっちゃったの、かなぁ……)
そう、考える他なかった。今起こっている現状に、少しでも『理由』が…………欲しかったから。
「ぅ………ァ……」
「ご…… ……ん………」
(……!! ……おとう……おかあさ………)
必死に目を瞑ろうとしたが……聞きなれた声に、私は隙間に映る世界を再び覗いた。そこには……地面を這いながら…………こっちに……く…る…………
「た…………す…けぇ…………」
「…………フ……ィ……リ、ァ………」
「……………──────ぁ」
……………………溢れた
「……ん? ……まだ、子どもでも居るのか? 仕方ない……家族一緒に届けて…………」
「おい、ちょっと待て……なんでこんな寒くなってる? 火はもう回って…………」
「ぁ……あぁあ……あァァあっぁヅァァあぁああっ!!!!!!!」
溢れて、あふれて…………ひんやりとした空気が、この家を包んだ。
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とっくに、起きていた。でも、動きたくなかった。動かなかったら……死んでいるのと同じだったかもしれないから。
見知らぬ天井、見知らぬ明かり、みしらぬ感触、ミシラヌ暖かさ…………そのすべてが、私に考えさせることをやめた。
「……おっ、起きたみたいだな。だいじょ」
「っ……いやっ………!!!!」
だが、見知らぬ声と共に私の意識は完全に覚醒し……自分の上に乗っていた毛布を必死にかき集め、その中に隠れた。
「……安心しろ、私は敵じゃない。お前を傷つけは……」
「ぃや……もぅ………」
「…………これは、中々だな。」
聞きたくなかった。もう、誰の声も……なんで、こんな場所に居るのかも…………知りたくなかった。
「おい……悪いが、話を進めさせてもらうっ。」
「ぁ…………っ!!」
しかし、強引に毛布を奪われてしまい……その主の姿を目に入れてしまった。
女の人だった。絵本に出てくるみたいな、魔女みたいで……綺麗な金髪で……黒い服で…………架空の人物、だった。
「私はテル=クーザ、知ってるだろ?」
「……………だ、れ………」
「あらら……まあいい、子どもだし知らなくても当然か。」
女の人は何やらよく分からないことを呟いては、再び私に質問をしてきた。そんな姿は妙に怖くて……変に優しかった。
「名前は?」
「………………」
「……? どうした、言えないのか…………あぁ、フィーリィアって名前か、可愛いじゃないか。」
(……カワ、いい…………?)
知らない単語に、私は疑問を浮かべたが……そんなことを顔に出せるはずもなく、ただただこの時間が早く終わることを望んでいた。
けれども、嫌な時間は長く感じて……嫌な記憶も、引き出されてしまう。
『た…………す…けぇ…………』
『…………フ……ィ……リ、ァ………』
「ぅ………ぁぁ………」
「……覚えてるか? 自分に何が起こったの……おいどうした、しっかりしろ!」
『…………さむい……この、こおり………は………あ。』
『おとうさん……おかあ、さん………? なんで……こおって…………』
『わた、し……がが………ぼう、そう………し、し………あぁ……』
「ゔぁ……いやぁぁぁっ!!!!!!」
「こ、これは……おい、落ち着けっ!!!」
最悪の記憶が、私の体を蝕み……あの時のように全部凍らせようとした。だが、女の人が慌てて私の腕を触り……『何か』をし始めた。
「落ち着け……もう、大丈夫だ…………!」
「ち……あ、あぁ…………」
女の人の手はとても温かく……私の体から何かを吸って、暴走を収めてしまった。その反動に、私は堪らず倒れてしまう。
「うぅ………や……やだぁ…………」
「……私は、たまたまお前の住む町の近くを通りかかった。町はボロボロで、人も……それで、氷の山が町の離れに出来ていた。そこにお前は倒れていたんだ。」
「……………うぅっ……ひっ…………」
「…………それを、私が保護した。残念だが……もう、町は無くなった……助けられなくて、ごめんな。」
…………謝られる理由は……分からなかった。ただ……その時の女の人の顔は、忘れられなかった。
「……これ……から…………もう……なに、も………」
「…………もし、当てが無いなら……私と一緒に暮らさないか?」
「…………………ェ……?」
忘れられない……何も、忘れられなかった。
「代わりに慣れるかどうか、分からないが……嫌じゃ無かったら、どうだ?」
「……で、でも…………ぼう、そう……」
「心配するな、私は英雄だぞ? ……だから、フィーリィア。もう泣くな。」
「……………!!」
………………初めて、抱きしめられた。あったかくて……優しくて…………はじめての、感覚だった。
『………………フィーリィア…………』
(………………つめたい。)
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