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十四.五章 別れ行く道たち
百八十四話 この日々も
しおりを挟む「はぁ……まだ、まだぁ……はらぁっ!!!」
ウルスに魔法をかけてもらった剣と盾をひたすらに振り回し、体に馴染ませる。以前よりも大分重くしても動かせるようになったが……こんなものじゃだめだ!
「おらっ、はぁっ……くぁぁっ!!!」
「凄い掛け声ですね、ソーラ。」
「んあ……カーズか、まだ、時間には…早くない、か?」
「そう言うソーラも早いですよ、珍しいですね。」
「……強くならないといけないしな。」
特訓の約束をしていたカーズがいつの間にか来ており、そんな質問に俺はあの日の大敗を巡らせる。
『…………今のは、流石の俺も効いた。だが……ふん!』
『なっ、ぐはぁっ……!!?』
『マグア……がはぁっ!?』
『2人とも……うっ……!』
……あの時、確かに俺の武身流は通用していた。だがあんな単発で息を切らしているようでは……今後、戦っていけない。そのためにももっと……さらに上の段階へと進まなければ。
「……何を考えているか分かりますよ、ソーラ。」
「…………え?」
「もっと強く……神と戦えるくらい、ってところですか。僕も同じ気持ちですよ……『レベル1・アクア』」
そう言ってカーズは体から青い光を漂わせ、腕を軽くあさっての方向へ振るう。すると青い光はその残像を辿るように水として形成され、そのまま一直線に飛んでいった。
「僕も、やっとまともに使えるくらいまで出来ましたが……これじゃ奴らには勝てません。もっと強力な、ここから何か特殊な魔法を……」
「魔法…………あっ、そういえば思いついたんだよカーズ!! 新しい魔法を!」
「えっ、そうなのですか?」
『人を簡単に傷つけやがって……これはその報いだぁぁっ!!!!!』
…………夢中になって、ほぼ無意識的にやっていたが……あの一撃は間違いなく、俺の要になるはずだ。そして、更にそれを高めるためには…………
「『第1形態・灯火』……ぐぉっ、ウルスの魔法と合わさってめちゃくちゃ重い、けど動かせはするな。」
「それで、そこからどうするのですか?」
「ああ、最近たまたま発見したんだが……この状態で剣と盾を擦り合わせると、ほら。」
「……おぉ、凄い発火ですね。」
武身流を発動させた剣と盾を互いに軽く擦り合わせると、赤い光が混ざり合いそれぞれに大きな炎が現れる。光量と照らし合わせると何十倍と言っていいほどの拡大だが……今回はこれを利用する。
「この現象をうまく使えば……俺の必殺魔法が完成する!!」
「必殺魔法……って、うわぁっ!?」
剣の方に寄せるよう、今度は強く擦れさせる。そして発火が始まる前に剣を空へと掲げ…………一気に振り落とした。
「燃えろ、『暴炎の一閃』!!!!」
「そ、その威力はまずうぉぉあっ!!!??」
躊躇なく振り下ろされた赤光の剣は、その残像を巨大な炎へと変え……そのまま真っ直ぐ舞台の壁まで飛んでいった。
炎は地面を抉り、空気を裂き……冬の温度をあっという間に灼熱へと変えていく。やがて壁へとぶつかった暁には…………訓練所までも割った。
「「…………えぇぇっ!!??」」
果たしない威力の高さに、俺とカーズはおもわず絶叫してしまう。
「え、ソ、ソーラ!? 何ですかその威力は!??」
「あ、あれぇ……初めてやったけど、こんなに強かったのか……?」
「強いってもんじゃないですよ!? 単純な威力で言えば超越……いや破壊級にすら迫るほどの、というかやりすぎですよ!! 僕たちじゃこれ直せないですって!」
「ひ、ひとまず学院長を呼ぶか……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ……すっかり暗くなってしまいました。ソーラが訓練所を壊すからですよ、全く。」
「いやぁ、あの光景を見た時の学院長の表情は良かったなー。これで俺もウルスみたいな必殺魔法を……」
「自在に使えなくては意味ないです。もっと調整しなければ……いざという時には使えません。」
訓練所をぶった斬った後、俺たちは学院長を呼んで何とかその日中に直してもらった。その際、学院長はその壊れ具合を見て『ここまでの威力を出した学院生なんて、今まで居たか……?』と呟いていた。そう考えると、今の俺にはかなり超過した力らしいが……使えるものは仕方ない。
(……そう考えると、魔法のランクも大して 当てにならない ような……)
「……聞いてますか、ソーラ。強い魔法なのは結構ですが、周りの人間を巻き込みかねない物なら誰も必要としませんよ。」
「分かってるって、あれはあくまで最大火力なんだ。ここから普段使いできるようにするさ。」
…………そう、化身流も『使えるだけ』では、もういられない。
『…………呆れた。だったら…………………皆殺しだ。』
『戦う気が無いのなら仕方ない、手始めにあの生意気な小娘を殺してやるか。』
(……魔法ができて、強くなって…………でも、もうそれで満足できる状況じゃない。 ……ウルスもこんな気持ちだったのだろうか。)
たまに……疑問に思うことがあった。
ウルスは現時点で世界最強の男だ。英雄だろうが神だろうが、彼の前では等しく弱者であり、言ってしまえばそれ以上がない……『頂点』だ。
誰よりも強くて…………なのに、どうして更に強くなろうとしているのか。
「……カーズ、ウルスはどうして『強くあろうとする』と思う?」
「……急な質問ですね。まあ、彼の上昇志向は誰にも劣らず、それを実現できてしまうくらいに意志も強く……憧れてしまいます。だからこそ、僕も最初に彼の強さを知った時はそう思いましたよ。」
カーズは暗い空を見上げ、白い息を何処かへと飛ばした。
「……でも、すぐに分かりましたよ。その理由は。」
「…………なんだ?」
「単純です。ウルスさんは『守りたい』んですよ。自分の手が届くモノすべて……もう、絶対に失わないように。」
『……今まで、俺はみんなに色んなことを言ってきた。偉そうに何かを語ったり、間違っていると諭したり……真っ向から話をしたことがなかった。高みの見物をしている奴がして良いことじゃない…………すまなかった、みんな。』
「あの日、彼は謝ってきましたが……普通に考えたらおかしいですよね。何で自分を犠牲にしてまで、守った奴らに頭を下げるのか……」
「それは……自分のことを黙っていた罪悪感の話じゃないのか?」
「だとしても、少なくとも部外者に対してあんな神妙に言う義理なんてありません。ライナさんや出会ったことがあるローナさんに対してはともかく、僕たちはただただ救われていただけです。感謝はしても文句を言う立場じゃありませんよ。」
…………カーズの言いたいことは分かるが、答えが見えてこない。『強くあろうとする』ことと『守りたい』……それは、ウルスにとっての…………
「……ウルスさんは、一度すべて失った。その理由は自分の弱さと思い込んで……だから、強くなって守りたいんだと思います。」
「…………それと頭を下げる話の関係はあ」
「今だけじゃないんです。誰かの過去も未来も……この日々も、あの人にとっては全部守るべきモノ…………『できたらいい』じゃない、『できないと終わり』なんです。彼にとっては。」
「…………!」
『何も無いんだよ……叶えても、継いでも、カエらない。人は……カエってこないんだ…………わかってるのか、アーストッ!!!』
「……だから、強くありたいんだと思います。最強のためなんかじゃなく……守るためだけに。」
「…………そう、だよな。やっぱり。」
……あの叫びは…………本音だったはず。その時はあまり深く考えなかったが……それほどウルスの絶望は悲しく、底がなかったのだろう。
(……全部、か。俺にはきっと……できないだろうな。)
さっきはあんなことを考えたが……烏滸がましいにも程がある。生まれてこの方、やっと強くなる意味を理解し始めた俺なのに対し、ウルスはずっと…………小さな頃から知っていた。
「……先は遠いな。」
「…………それもそうですね。でも、追いつけないわけじゃありません。挫けず後を追えば……いつか必ず隣に立って一緒に戦える。諦めたらダメですよ?」
「…………ふっ、今更ありえないだろ。何なら、今度の冬の大会にでもウルスを倒してやろうぜ!!」
「それは……気が早すぎでは?」
「何が『早い』だ、そうすればウルスだって安心するだろ? ……よし、それじゃ部屋で特訓だ!!!」
「えぇ!? 今からですか!??」
『……………それこそ、今までの何十倍もきついだろうが…………』
『やります!!』『やるぞ!!』
『……ああ、分かってる。』
……俺はまだ弱い、だからこそ…………やり続けるしかない!
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