二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す

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十四章 失った者たちに

百七十四話 龍翔神舞

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「なっ、いきなりだなお前。」
「別にいきなりでもないだろ、今後の対策を取る上でもちゃんとこいつの力をじかに確かめておくのは重要だ。」
「た、確かに完全体龍器の力を知るのは大切ですが……にしてもまだ彼は…………」
「いいですよ。」

 学院長の言葉をさえぎりながら、俺は彼女の提案を飲んだ。

「俺も、英雄の力を今一度知っておきたいですから……ただ、『条件』があります。」
「条件? なんだ、何か手加減でも……」
「いえ、むしろ全力で来てください……英雄3で、ぜひ。」
「「「………………」」」

 おそらく、世界で一番傲慢な発言に……流石の英雄おとなたちも黙り込んでしまう。仮にも、一度世界を救った者たち……いくら俺の方が強いとなれど、今まで実力は五分だっただろうが…………

「……心配はいりません。もう……俺の力は『天元てんげん』を超えてしまったので、遠慮なくやりましょう。」
「……まさか、そんなことを言われる日が来るとはな…………」
「過剰……では無さそうですね。進化した龍器は強いと、そこまで言うなら儂たちも全力でやらなければ。」
「けっ、生意気な奴だ……だが、こんなに血がたぎるのは何年ぶりか、ってな。」

 クーザがそう言うと同時に、俺たちの体に触れながら転移を発動する。するとそこは学院の離れの方にある訓練所であり、少なくとも辺りに人の気配は全くしないような場所だった。
 また、クーザはボックスから何やら金色の固形物を取り出し、地面へと転がし投げた。

「それは?」
あいつらの技術を早速試作してみた物だ。この辺りの魔力状態を常に一定として人間に認識させるのを作ってみた……まあ、近づかれたらすぐバレるくらいの代物だが、大丈夫だろ。」
「一応、神眼を付けておきます。これで少なくとも俺たちがここにいることは見破れなくなるので。」
「相変わらず、幅の広い魔法だな……よし、早速準備するか。」

 戦いのレベルも相まって、周囲にバレないように色々と工夫をしながら、俺たちは戦う準備を進めていく。





名前・グラン=ローレス
種族・人族
年齢・50歳

能力ランク
体力・601
筋力…腕・604 体・611 足・597
魔力・925

魔法・30
付属…なし
称号… 【成人の証】
   【魔法の才】
   【魔法を極めし者】
   【化身流継承者】
   【英雄】
   【薄明はくめい使つか】(神器・クラプスキュールの使い手に贈られる)




名前・ガラルス=ハート
種族・人族
年齢・40歳

能力ランク
体力・500
筋力…腕・641 体・599 足・685
魔力・544

魔法・28
付属…なし
称号… 【成人の証】
   【力の才】
   【英雄】
   【未来の使い手】




名前・テル=クーザ
種族・人族
年齢・44歳

能力ランク
体力・492
筋力…腕・499 体・532 足・398
魔力・774

魔法・30
付属…なし
称号… 【成人の証】
   【魔法の才】
   【魔法を極めし者】
   【英雄】
   【黄昏たそがれ使つか】(神器・クネパスの使い手に贈られる)




(…………2人とも、前に見た時よりも成長している。隠れて特訓を重ねていたようだ。)

 クーザは分からないが、師匠と学院長は以前よりも数段ステータスが上がっており…………何やらもあるが、それは戦いの中で見極めれば良いだろう。

「……っていうか、あいつが神眼使ってたらステータス見れないじゃねぇか!」
「一方的に知られているのは、それだけで不利ですね……グランさん、ウルスの能力はどこまで把握していますか?」
「最後に見せてもらったのが夏だからな、そこまでの実力しか俺は知らん。もし、あの時以上の力があるというなら……龍よりはるかに手強いぞ。」

 …………正直なところ……全力を出せば、彼らにできることはだろう。だが、それでは彼らの能力を測ることができないので、最初は手を抜かなければ。

「…………すぅ……」

 しかし、油断はできない。目の前にいるのは実際に世界を救った英雄3人であり、現時点で俺の次に強い者たちだ。


「…………それじゃ……かかってきてください。」
「そうか、なら遠慮なく……『レベル3・ターミガン』」

 俺はテラスを手のひらの上で遊ばせながら挑発をする。すると師匠……グランは、いきなり最大出力であるレベル3の化身流を発動し、無詠唱でトールハンマーを作り出した。

「いくぞ…………!」
「おう!!」
(…………吸収か。)

 巨大な雷の鉄槌てっついは俺ではなく、クーザの頭上へと振り下ろされるが、彼女はそれを楽々と自身の神器……クネパスへと取り込んだ。そして、おそらくそこから出るのは…………

「喰らえ、『エクストラ・レイ』!!」
「《時空斬り》……っ!?」

 一直線に飛ばされた紫色の光線を無力化するため、俺は手刀で時空斬りを行い、発生した異空間をぶつけさせそうとしたが……何故か光は穴にぶつかる直前に角度を変え、回り込むように俺をとうと向かってきた。

「へっ、それが魔技ってやつか……だが、当たらなければ何の意味もない、ただの障害物だ!」
「…………そうですか。」

 高速で移動しながら、光線から俺は逃げていくが……今は様子見の2人がそのうち仕掛けてくるに違いない。早めにこの光を消しておかなければ。

(ただ、これは神器魔法……生半可な威力でないことは間違いない。魔力防壁で受け止めることは難しいだろう。)


 ………………ならば。


「……おっ、また魔技か? だが避ければ関係ないぞ!!」
、そうですね。」

 一度大きく距離を取り、俺はテラスを片手剣へと変化させる。そして腰を深く構え……魔技を放った。

「《トキモン》!!」
「ふん、だからそれは……なっ!!??」

 刹那、もはや俺ですら目で認識できない程の速さで眼前の空間を大きく斬った。するとその瞬間、時空斬りと同じように、しかしその大きさは比べ物にならないほどの巨大な異空間が現れる。
 また、その異空間は己の存在を消そうと言わんばかりに周囲から何かを吸収し始めた。それは、空気はもちろん……横を通り抜けようとした光線でさえも例外ではない。

「す、吸われ……クソっ!」

 慌てて光の方向を変えようとするクーザだが、一度飲まれたからには脱出することはほぼ不可能であり、結果的に彼女は攻撃を一度止めざるを得なかった。
 それを隙と見た俺は、彼女の背後へと一瞬で回り込み剣を振るうが……学院長、ガラルスによって受け止められた。

「そろそろ儂も行かせてもらう……はぁぁっ!!」
「………!」

 ガラルスは俺を弾いてから、その場で剣を数回振り抜く。するとその斬撃の跡が緑色の光へと変わっていき、一斉に俺を襲う。

(アヴニールもクネパスと似ているが……こっちは魔力を吸収する必要がなく、自由度が高い。その分、威力は抑えられているが…………やはり消すのが一番か。)

 策を考えながら、俺は一歩踏み出して飛ばしてきた斬撃との距離を調整し……三度みたび魔技を発動した。

「《地段ちだん槍刃そうは》……おらッ!!!」
「っ、地面を……押し出した!?」

 片足を上げ、位置を調整しながら地面へ思いっきり踵落としを喰らわせる。それによって地面の土は衝撃によって押し出され、まるで槍のように地表へと出現し斬撃を貫いた。

「……この程度ですか?」
「転移……グランさん!!」
「分かってるっ!!」

 俺は転移でグランの背後へと移動し、回転しながら水平斬りを繰り出す。それを彼はギリギリのところで謎の短剣で受け止めたが……その直後、俺の体に異様な衝撃が走った。

「くっ……これは、リフレクトカウンターですか。」
「次は俺に来ると予想してたからな、自分の攻撃を受けた気分はどうだ?」

 リフレクトカウンターは、自身に直接的に受けた衝撃ダメージを相手へと反射する破壊級魔法であり、魔力消費は大きいものの実質自分へのダメージを無効化するとともに敵を一方的に攻撃できる強力魔法でもある。

(グランに癖は読まれてる……今まで通りの攻撃じゃ通用しないだろう。)

 だが、もう俺は今までの俺じゃない。それは…………龍器テラスも一緒だ。

「早く解除した方がいいですよ……はぁっ!!」
「……くぉっ!!?」

 空へと浮かび上がり、テラスを変形させ……グランへと。すると、その形態は予想外だったのか、彼は驚きながらその攻撃を魔力防壁に掠らせた。

「ゆ………!??」
「テル、止めに行くぞ!!」
「ああ ……ちっ、逃げるな!」

 すかさずグランとクーザが俺を追いかけてくるが、それを逃げながら休むことなく弓のテラスと魔力の矢で攻撃を仕掛け続ける。

 黒器剣器 テラスは以前のアビスのような只々ただただ深い漆黒しっこくの色ではなく、そこにどこかあわさとあいを感じさせる色彩をしていた。また、テラスは本当の意味であらゆる形態へと変化することができるようになり、弓や銃もその進化によって行えるようになった。
 加えて、その変化に対する大きさや体積の制限もほとんど解除され、武器以外の道具にも俺の知識内で再現できるようになっていた。

「次は……だ。」
「……なんだ、あの輪っかぁっ!!?」
「テル、ぐぉっ!?」

 再び武器を変化させ、今度はそれを……クーザとグラン目掛けて投げ飛ばす。その結果、まさかこんな形の武器が投げ出されると思わなかった彼らは不意を突かれ地面へと撃ち落とされていった。

「…………分かってますよ。」
「何……!?」

 そして、転移でこちらの背後から溜めていたのであろうアヴニールの斬撃の球を予め察知していた俺は、先ほど飛ばしたチャクラムにテラスの鎖を繋げていた。

(テラスは俺に触れられている限り、いつでも形を自由に変えられる。つまり、わざわざ取りに行かなくても……変形させればノータイムで手元に戻る。)
「だが……もう遅い!!」

 わざと彼に球を放たせようと、俺は一瞬動作を遅らせる。それはダメージを受けるわけではなく……むしろ、ガラルスにダメージを与えるためだった。

(…………今だ。)
「放て、アヴニー……!?」

 俺は球が放たれたと同時に、テラスを大楯おおたでへと変化させる。だが、その形は空洞くうどうがあるボールを半分に切ったかのような物であり、空洞の方で彼の攻撃を受け止めた。
 すると当然、斬撃の球は大楯に大きな衝撃を与えるとともにそのを周囲に響かせる。そして、この盾の構造によって音は収束し……爆音の咆哮ほうこうとしてガラルスへと飛んでいった。

零光れいこう
「ぐっ!!? 耳が……っ、しかも消えた……!??」

 不意の音撃おんげきで彼が怯んだ先に、俺は無詠唱で姿をくらませる魔法を発動する。すると彼は俺を探そうと辺りをキョロキョロと見渡していた。

「どこだ、神眼で魔力反応も消えて……」
「ここに居ますよ……らっ!!」
「ぐふっ!!?」

 存在しているはずの俺が視認できていないことに困惑していたガラルスを地面へと蹴り飛ばし、零光を解除する。

 零光とは、自身や周囲の物質に当てられている光の光量を調整し、物理的に相手から目で確認できないようにする裏式魔法だ。これを使えばマジックブレイクや同じように光量を操作されない限り絶対に俺を見ることはできず、神眼と合わせて使えば実質的に透明人間になることができる……まあ、隠密以外にはそこまでだが。

「くそ……強いな。」
「15、6であの強さ……どうやら世界最強というのは本当らしい。」
「ですが、我々もまだ全力を尽くしてません。3人同時でいけばまだ…………っ!??」



 …………そろそろ、やるか。



「な、このは……!?」
「…………龍から貰ったのは、武器だけじゃありません。そのも……俺は自分の物へと成しました。」

 体の奥底から湧き上がる強大な力……に、自身にかかっていた零光が自動的に剥がされる。また、その魔力は俺魔力と掛け合わされ…………訓練所全体に黒い波動を漏らしていた。そして…………



龍翔神舞りゅうしょうしんぶ




「これが…………人と龍を超えた魔法です。」



 俺の体は、黒く染まった。
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