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十三章 龍と仮面
百六十七話 ここまでだ。
しおりを挟むずっと、ずっと…………彼は頑張っていた。
あの日の悲劇を繰り返さないように。もう二度と大切な人を失わないように。周りの人をどんな危険からも守るために……
………….ずっと。
世界で一番強くなった。大人よりも、英雄よりも、誰よりも強く…………本当に、昔の頃とは別人のように、強くなった。
そして、誰よりも優しかった。困った人が居たらすぐに手を差し伸べ、相手のことを想って、嫌なことがあっても愚痴をこぼさない……昔から優しい人だ。
だからこそ、
彼は…………
………………ウルくんは、今、この瞬間…………泣きたいはずなんだ。
でも、彼は泣かない。強い人だから。
そんな人だから、私は………彼をずっと────
ずっと、 。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(……………生きて……る、か。)
数秒、気絶していたのか…………俺の意識は朦朧としており、光か煙かは分からないが未だに目を開けることができなかった。
(…………キーンと……左耳の鼓膜が……それに、左腕も……吹き飛んでる………)
『ホープエンジェル』
やがて体へ伝わってくる激痛が、俺の左腕が欠損しているということを知らせてくる。時間はかかるが、今のうちに魔法で治しておかなければ……………
「…………た、い……りょくも……削れ……すぎ、た。」
水蒸気爆発。水が急激に熱されることで瞬間的に蒸気となり、数千倍にも膨張することで爆発が起こる恐ろしい現象。
前世の……悠の記憶の隅っこに、そんな聞いたような話として残っていた知識。前世ではまず日常的に起こせるものでもなければ、何かに向けて放つような機会なんてなかった。
だが…………ここは 異 世界だ。
(……………森は……弾け、飛んでる……)
白い気配が消えかかり、やっと目が開けられた。すると、そこに映っていたのは……もはや、森というにはあまりにも寂れた跡地だった。
木は薙ぎ倒され、葉は全て散り……生い茂っていた雑草も灰となって舞い上がり、空気は塵によって汚れてしまっていた。
「…………この、世界は………簡単に………」
『…………イマノハ、キイタ。』
「……………!?」
しかし、その塵も……ヤツの降り立つ風圧によって呆気なく吹き飛んだ。
「まだ……魔力、防壁すら………」
『タッタ、ヒトリデ……ココマデヤルトハ。ダガ……モウ、ゲンカイノヨウダ、ナ。』
「…………なら、もう一度………ぐふっ!?」
再生した左腕に力を入れ、再び絶・水爆を放とうとしたところ……身体に溜まったダメージが喀血として現れる。それも大量の血が飛び散り、不覚にも即座に自身の状態を把握できてしまった。
「がぁ……く、そ…………」
『……キサマハ、オノレヲシバッテイル。“ スベテ ”ヲ、トケバ……コンナモノジャ、ナイダロウ?』
「お前…………なんか、に、何が………」
………………言われなくても……分かってる。けど……だめなんだ。
思い出が…………自分の不甲斐なさが…………俺の限界を、決めてしまっている。
あの人の……あいつの……顔を見た、途端……今まで自分がやってきたこと全てが、否定されたかのような……もう、何をどう想えばいいのか…………本当に、わからないんだ。
『………俺は、今日から………最強を目指す。』
そう決意したあの日から、ひたすら俺は強くなろうとがむしゃらに突き動いた。顧みることをやめ、前を向き……それだけじゃだめで、そこから周りと一緒に生きて……歩幅を合わせて、大切なものを守ろうと…………でも、全部……俺の『今日』は…………そこだった、のに…………………
「………おれ、は……………」
もう…………立てない。俺の人生が、父さんの背中を追うことなら…………もう、生きている意味なんて……………!
『…………アキラメル、カ?』
「…………好きに、しろ。俺は……ここまでだ。」
『ソウカ、ダガ……ソノマエニ………………
………………マネカレザル客だ。』
………………その時、声が聞こえた。
何度も。何度もなんどもきいた、こわいろ……………
「ウルくん、大丈夫!!!?」
…………聞きたくない、言葉。
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