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十三章 龍と仮面
百六十五話 堕ちた
しおりを挟むそれは、今から20年前ほど。この国……いや、世界にある予言があったらしい。
曰く……数ヶ月後に『厄災』が襲いかかってくる、と。
「あ、あれが……ドラゴン!? 本で見た姿と全く同じだ……!」
「おいおいやばくないか!!? たしか英雄5人がかりでやっと倒せたって逸話じゃなかったか、そんなの私たちだけじゃ不可能だろっ!!!」
(まずい…………こうなった、ら…………)
夢現な精神を他所に、俺はほぼ反射的に彼らの元へ移動する。そしてただ何も考えずに今から自身が行うことだけを伝えた。
「今からお前たちを街に転移させる、そこからハルナとミーファの転移でなるべく早く英雄たちを呼んできてくれ。」
「ウ、ウルス様は……?」
「龍を倒す……じゃあな、戻ってくるなよ。」
「えっ……ウルくんま……!」
有無を言わさず彼らを転移させ、俺は草木を靡かせ、空からゆっくりと降り立とうとするヤツを睨みつけた。
(感情を……捨てろ。もう、俺の過去に……価値なんて…………)
『……うん、風の魔法を覚えたい! 教えてお父さんっ!!』
『よし、じゃあ早速やるぞウルス!!』
…………スてろ。
『…………キサマガ、ワレノアイテカ?』
(……言語が……意思疎通ができるのか?)
鋭い牙の生えた龍の口は動いていなかったが、何故か音としてヤツからの声が耳に届いていた。魔法なのかテレパシーの一種なのか知らないが……こちらを敵対視しているのは間違いないようだ。
「…………俺と、殺る気か?」
『ワレハ、ドラゴン……ムカウモノ、ヨウシャハナイ。』
「……会話になってねぇよ。」
操られているのか、俺の言葉に対するレスポンスがやや噛み合っておらず、その証拠にヤツの漆黒の眼に光は無かった。
そんなヤツの状態を測るため、俺は神眼でステータスを覗き込む。
名前・金色成る龍
種族・龍
能力ランク
体力・810
筋力…腕・795 体・788 足・521
魔力・999
魔法・30
付属…意思不明
称号…【龍の加護】(龍に加護を与えられた者に贈られる称号。この世界に存在し得る通常魔法全てに耐性を持つ)
(俺と同等………いや、少しだけ弱い。)
『龍の加護』……見たことも聞いたこともない称号だが、効果的に魔法の攻撃はあまり意味がなさそうだ。
『キサマハ、フサワシイアイテ……カカッテコイ。』
「……何が相応しいだ。」
アビスを剣へと変形させ、動揺を怒りへと無理やり変換させていく。ただ…………この先のことを考えたくなかった。
「………………死ね。」
『陰陽成る光影』
龍へ逃げられない神威級魔法を放ち、その隙に転移でヤツの背後へと回り込む。そして剣を時空斬り発動直前までの速度で翼を傷つけようとした…………
……………だが。
「…………………は?」
龍は、人ではない。ということはつまり、魔物である……そう考えていた。それが示すことは、以前戦ったオーガたちと同じ……魔物には魔力防壁がないという考え。
しかしヤツは魔物ではない…………『龍』だった。
『…………モット、コイ。』
「っ…………うるせぇ!!!」
魔力防壁に弾かれた剣に驚きながらも、俺は構わずメッタ斬りを仕掛けていく。だがヤツの魔力防壁は何か特別なのか、俺の斬撃を何度食らっても決定的なダメージを受けている様子はなかった。
やがて魔法を受け止め切り、自由に動けるようになった龍は空へと羽ばたき、口元に魔法陣を作り出した。
「グロォォォォァァアァ!!!!!」
「魔法……なっ!?」
《時空斬り》
ヤツの咆哮に呼応したかのように、魔法陣から黄金に輝く炎のブレスを吐いてきた。それに対し俺はほぼ反射的に自分を守るため時空斬りを発動し、何とかその攻撃を避けたが……
「森が…………なんて威力………!」
黄金の炎は辺りの木々や燃やし、洞窟をあっという間に焦がしていく。威力でいえば確実に神威級……下手をすればそれ以上だ。
(絶対に……俺が倒さなければ…………)
『……オトウサンが……お母さん、が………死ぬ、なんて……嘘……うそ…………ウソ………!!』
『お前はチチに生かされたんだ。だったら、生き残った者としてこれ以上同じことを…………』
「……………あァァ!!!!」
『蒼炎』
『……………ヌルイ!』
転移で空へと移動し、記憶を焼くように蒼き炎をヤツへと飛ばすが、裏式とはいえやはり大したダメージにはなっていなかった…………分かりきった話だが。
「オルらァぁッ!!!!!」
『グチョク……!』
大剣へと変化させ、脳天を一直線に狙う。だがそれも見た目にそぐわない超高速移動によって避けられ、逆に今度はあちらからとてつもない迫力のタックルが俺目掛けて飛んできた。
「ちっ……蜥蜴ガぁぁっ!!!!」
左手を捻り、ヤツ目掛けて放とうとする。この魔法なら、龍神流な
『よし、じゃあこれでいこう!! 俺の魔法の流派、その名も……………リュウジンリュウだ!』
「………………ァ」
気づけば、俺の体は呆気なく地面へと打ち落とされていた。
心も、堕ちた。
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