155 / 291
十三章 龍と仮面
百五十三話 死ねない
しおりを挟む「…………できない……一体何が原因なんだ?」
ニイダに諭された1日後、俺たちは予定よりも早く例の森の近くにある町へと到着し、今はそれぞれ町で休憩と準備をしているところだった。そして俺は1人すぐ近くの人気のない場所へと入り、連絡を取った後……彼から受け取ったあの力を試していた。
『……冷めてるだろ。もう少し愛想良くしてれば良かったと、今更ながら思ってるよ。』
あの時、悠に流された記憶にはある『特殊な武器』が登場していて、彼はそれを俺の神器である『アビス』の能力で実現しろと言った。それから俺は時間がある時に何度か試したが……一向に完成する気配がなかった。
(どうしてだ……一瞬だったとはいえ、形もどういう武器かも俺はイメージできているはず。いつもならこれくらいのイメージでも十分だった……何かできない理由でもあるのか?)
…………あるとすれば、アビスに……? いや、神器にできないことなんてあるのか………?
「……いや、確か学院長が…………」
「……あっ、居ましたよハルナ。」
「ほんとだっ……ウルス様、なんでこんな所に居るの?」
なんて考え込んでいると、いつの間にかミーファが木の影から飛び出してくる。また、その後ろからハルナもひょっこりと現れ、こちらへ向かってきた。
「……2人とも、どうした? もう準備はできたのか?」
「はい、私たちは元々準備はしていたので……それで、ここで何を?」
「少し武器の調整をな。2人も聞いている通り、目的地には何かしらある可能性がある……だから、できることはしておかないと。」
「へぇ、相変わらずウルス様は色々熱心だねぇ……」
「様はやめろ……それより、2人こそどうしてここに来たんだ? 集合場所は街の入り口だろ、そこで待ってた方が良かったんじゃないか?」
「ええ……ハルナが、少し頼み事をしたいらしくて。」
俺がそう聞くと、何故か気恥ずかしそうにミーファはハルナへと話を振った。そしてハルナも何やら指をもじもじと遊ばせ始めた。
「……どうした、組み手でもしたいのか?」
「そ、そうじゃなくて……その………旅の時にしてた、アレを………」
「『アレ』? ……武器の手入れか?」
「ち、違うよ! だからアレだって……!!」
「素直じゃないですね、ハルナは。もっとはっきり伝えたほうが……こうやってっ!」
「え? ……何やってるだミーファ?」
俺が首を傾げたままでいると………不意にミーファが俺の体へ飛び込んで腕を回し抱きついてくる。そんな行動の意味がよく分からなかったが、その意図を聞く前にミーファはこちらを見上げて微笑んだ。
「……やっぱり、落ち着きます。昔より身長も伸びたので流石に照れますが…………ウルス様、頭を撫でてほしいです。」
「……別に構わないが…………もしかしてハルナがして欲しかったのはコレなのか?」
いまいち理解が追いつかないものの、俺は言われた通りミーファの頭を撫でてながらハルナに聞く。すると、それが要望だったのか彼女はらしくもなく小さく頷いた。
「そうか……だが、そんなにしてた覚えはないが………」
「してましたよ、ウルス様は無意識にしてくれていたのかも知れませんが……私たちを落ち着かせるためによく。そうですよね、ハルナ?」
「う、うん! だからほら私にも!!」
「あ、ああ……って、2人揃って抱きつく必要あるのか。動きづらいんだが……」
「動きづらくなんかありません。私たちは……これで充分ですから。」
『冒険者で活躍してるってなら、お金だっていっぱい持ってるはず……なのに、2人は今もあなたに貰ったモノを大切に使ってる。もっと良いやつだっていくらでも売ってるのに……どうしてっすかね。』
(………………ニイダの……言う通りなのだろうか。)
…………俺が2人に贈れたものは、数少ない。
戦い方、生き方…………毛布や武器も所詮、価値が生まれるほどの意味のあるものは、何1つなかった。
普通の人間として、当たり前に得られる……そんなものしか与えてあげられなかった。
「…………なんだか、昔に戻ったみたいですね。」
「……そうだな。」
「昔かぁ……また一緒に旅がしたいよぉウルス様~」
「…………卒業できたら、俺も暇になる。その時はまた、旅をするのもいいかもな。」
『………死ぬんだよ、“ 孤独 " にねっ!』
(……………………俺は、死ねない。)
まだ、守るべきモノはいくらでもある。それを置いて……
「ほんとっ!? やったぁ!!」
「……楽しみに待ってます、ウルス様!」
……………誰が、消えるものか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「どうすかウルスさん、少し装備と服を変えてみたっす! 洒落てるでしょう?」
「……洒落てるも何も、戦闘にその軽装はどうなんだ?」
集合の10分前、俺たちが向かって待機していると町からニイダとラナが出てきた。そして早々にニイダが俺にそんなことを聞いてきた。
今のニイダの服装は、以前の忍者っぽい雰囲気が抜けており、灰色などの暗めの色合いは変えずに半袖とハーフパンツとなっていた。また、金属類の装備は膝当てだけであり、いかにも動きやすさを重視したような格好となっていた。
「私はいいと思いますが……何か変なところでも?」
「……普段の模擬戦ならともかく、今回は魔力防壁が壊れても終わりじゃないんだぞ。少しくらい硬めたほうがいいと思うが。」
「いやぁ、そんなことは分かってますって……俺もそこまで馬鹿じゃないっすよ。あえて軽装にしたのは俺のすばしっこさを活かすためっす、大体ウルスさんも大して変わらなくないっすか?」
「俺は生身でも大抵は耐えられるからだ。仮に俺がやられるような攻撃があるなら、装備なんてあっても無くても変わらないしな。」
「確かに、ウルス様を倒す攻撃が来たらもうどうしようもないね!」
「そんな元気にいうことっすかねぇ……てか、じゃあいいじゃないっすか俺の服も! …………まあそれは置いといて、ライナさんの方はどう思うっすか?」
「えっ、わ、私は………!?」
ニイダにそう言われ、俺はラナの姿を見てみる。すると、彼女も同じように服を変えていたようで、こちらは山吹色だった色合いが少し明るくなり、七分丈だったトップスは緩い長袖になってその上に白と金色のベストとマントを付け、スカートは脛にまで伸ばした檸檬色の、ニイダとは違って以前よりも守りを固めたような格好となっていた。
「可愛いじゃん! やっぱり美人なひとは全然違うな~」
「そ、そうかな…………ウルくんはどう思う、かな。」
ハルナに褒められ、照れているラナは次にこっちに意見を求めてきたので……俺は率直に伝えた。
「…………冒険者っぽい格好になったな。色が明るいから隠密にはあまり向いてないと思うが………」
「うっ……そ、そうだねぇ………似合ってないかぁ………」
「い、いや、そんなことは言ってない。装備に関しては以前よりも固められていい……」
「ちょっとちょっと、そこは見た目の感想っすよ普通。そんな真面目に語られても困るし、ライナさんが言って欲しい一言はそれじゃないっすって。」
言われたい一言…………
「……綺麗……だと思うぞ。」
「……! あ、ありがとう……!!」
「はぁ、世話が焼けるっすねぇ~」
(何様だよ………)
ただ、俺の感想はラナには事足りたようで、嬉しそうに頬を緩ませていた。ミルやフィーリィアの時もそうだったが、こういう時は機能性じゃなく素直に見た目を褒めた方がいいのだろうか………?
「……おっ、俺たちが最後か。ってことはみんな準備はできているんだな。」
なんて1人悩んでいると、クルイたち3人が町から出てこちらへと向かってくる。どうやらこれで森へ向かう準備が完了したようだ。
「さて……それじゃ、ここからは陣形重視で進んでいく。それと、奴らが現れたり気配を感じたらすぐに言ってくれ……その時は戦わずに逃げるからな。」
(…………逃げられるならそれで構わないが……おそらく無理だろう。)
できることなら、なるべくクルイたちに正体をバラしたくはないが……こうなってしまった以上、それを躊躇っても仕方ない。
「……行きましょう、クルイさん。」
「ああ……出発だ!」
…………今度こそ、尻尾を掴んでやる。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する
あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。
俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて
まるでない、凡愚で普通の人種だった。
そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。
だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が
勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。
自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の
関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に
衝撃な展開が舞い込んできた。
そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。
※小説家になろう様にも掲載しています。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる