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十二章 虚と空 (調査隊編)

百四十一話 ぶつけ合おう

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「……どうした、もう逃げるのは飽きたか?」
「…………そんなところです。」

 クルイの魔法の仕組みが分かったため、俺はジェットを解除し地面に降り立つ。そして再び集中力を高め、彼の攻撃を避ける準備をしていく。

「剣もしまって、いよいよ諦め……いや、そんな奴じゃないな。さては……何かするつもりだな?」
「……さぁ、どうでしょう。」
「くくっ、面白い。なら見せてくれ……お前の底力を!!!」

 クルイはそう言って地面を踏みしめ超スピード……ではなく、超・加・速・で俺の目の前まで詰めてきた。

 そして……その加速を理解していた俺は身体を翻ひるがえし、彼の拳を空かさせた。

「…………なに……!?」
「止まっては駄目ですよ……らぁっ!!」
「ぐっ……!!」

 避けられた衝撃で固まっていたクルイを、俺は回し蹴りで吹き飛ばす。しかし受け止める準備はできていたのか、それほど怯むことなく彼はこちらを見据えてきた。

「……よく避けれたな。俺のライトニング・ライジングでの動きを見切ったか?」
「いいえ、避けるのが精一杯ですよ。ただ……もっと複雑な動きがで・き・れ・ば・、俺も白旗を上げていたかも知れませんね。」
「…………嫌いやらしい奴だな、どうせ分かってるんだろ?」

 俺の挑発に、クルイはやっと余裕のある表情を崩し始めた。

 ライトニング・ライジング……この魔法はおそらく体内の魔力を電気属性に変えて高速で流すことにより、自身に稲・妻・の・よ・う・な・動きを可能にさせる代物だろう。
 電気というのは基本、光と同じように凄まじい速さで伝わっていくものであり、その加・速・度・はとても生物には出せないほど速く、あっという間に最高速度まで達する物理現象である。クルイがどこまで電気について理解しているかは知らないが、おそらくその部分に着目して作り出したに違いない。

 つまり、あの魔法を使っている際は常に動きが0か100……助走も予備動作もほとんど存在しないといった、かなり厄介な状態になるということだ。

「さぁ、かかってきてください。」
「……はぁぁっ!!!」

 俺の手招きに乗るように、クルイは再び突撃してくるが……俺は事前にその場でジャンプし、簡単に回避する。それを見たクルイはすかさず飛び上がって俺を追いかけるが…………

『ジェット』
「空中には弱い……そうですよね?」
「ちっ……分かってるな……!」

 俺は彼が足に力を入れた瞬間、真横に移動し攻撃を回避する。すると、その魔法を発動した状態では調整が難しいのか、クルイは数メートルほども飛び上がっていく。

(稲妻をイメージした……それはつまり、直線的な動きしかできないということ。)

 確かに、予備動作のない高速移動はたとえ直線的でも厄介だが……あくまでそれは地に足がついていた時の場合だけだ。肝心の空中戦では、一度飛び上がってしまえば次の行動に移すための地面もないので、ほぼ無力に違いものだ。

「はぁぁっ!!!」
「ぐふっ……やるなっ!!」

 宙に浮いた無防備なクルイに今度こそ、俺は蹴りを入れて地面へ叩き落とす。そしてクルイが次の行動を起こす前に地面へ降り、カウンターを狙っていく。

「だが、まだっ……!!」

 降りた俺をチャンスと見てか、愚直にクルイは近づいてくる。しかしその時には既にこちらは準備が完了していたため、ちょうど拳が届く刹那に上級魔法を発動した。

「『拡散爆かくさんばく』!」
「なっ、くっ……!!?」

 発動した瞬間、俺の周りを囲むように爆発が起こっていき、近づいてきていたクルイにダメージを与える。普段ならいくらでも避けようのある魔法だが、まさかその状態で魔法を喰らうとは思っていなかったようだ。

「『アイスショット』」
「うぉ、危ねっ!?」

 追撃の氷弾を飛ばしてみるが、流石に単調すぎたのかクルイはやや大袈裟気味に移動して回避する。しかし先ほどとは違い、明らかに焦りの色が顔に出ていた彼はこちらを見て息を大きく吐いた。

「……こうなってしまってはジリ貧だな。お互い詰められず、時間だけが無駄に過ぎていく……どうだ、ここは一つ大・勝・負・と行こうじゃないか?」
「大勝負? 何をする気ですか?」
「簡単だ……次の一撃で決めるってことだよ!!!」

 クルイは叫びながら両手を前に突き出し、体内の魔力をどんどん高めていく。だが放つつもりの魔法のチャージに時間がかかるのか、隙だらけになっていた彼に対し俺は牽制の魔法を放つが…………

『フレイムショット』
「…………掻き消された?」

 放った炎の弾はクルイの高まっていく中で溢れ出してきた電気と相殺し、掻き消される…………あれじゃとてもじゃないが近づけないな。

(……溢れた電気だけであの威力。なら、あの溜めから放たれる魔法はとてつもない威力になるだろう……)

 しかし、もうああなってしまっては止める手段もない。だとすれば俺にできるのは…………



「迎え撃つ………!!!」
「それがお前の大技か………さぁ、ぶつけ合おうじゃないかっ!!!」

 クルイは意気揚々に告げながら、目の前に巨大な電気の玉を生成する。そして、俺も対抗するように紫風の玉を作り出し…………

 

「いくぜ…………弾けろ、『ライトニング・バージィング』!!!!!」
「穿うがて……『風神・一式』!!!」


 放たれた電気玉は勢いよく吹かれる紫風と衝突し、そこから漏れていく2つの要素は混ざり合って辺りに嵐を巻き起こしていった。
 紫風は玉を貫こうと、玉は紫風を押し潰そうと互いに命を削り合い、その争いはどんどん激化し小さな災害と変化していく。


「はっ、凄いな!! この魔法に耐えられる奴が1年にいるとは……だが、この程度じゃ俺の魔法は止められまい!!!」
「くっ………!!」
(まずいな…………)


 クルイの言う通り、俺の風神・一式は徐々に電気に侵され、勢いを殺されていく。

(……あっちは溜めた分を全て玉に凝縮させているのに対し、こっちは凝縮させたものを解放させている……その差が出たか……!?)

 風神・一式は威力と範囲、そして距離を全て両立させた万能魔法であり、龍属性であることもあってどんな場面でも使用できる代物だ。だが、そもそものベースが『風』ということもあり、貫通力といった機能においてはやや劣ってしまう。
 ましてや、あちらは全てを凝縮した電気玉……限定的な分、押し出す力も威力も明らかにあちらの方が高い。まず食らえば一撃でやられてしまうだろう。


「ぐっ、がっ………!!!」


 ……やはり、このままでは通用しない。一度ここはなんとか回避して、次・の・段・階・へ…………





「そこまで、試合終了だ!!!」

 
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