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十一章 束の間

百三十六話 気に食わない

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「な……タッグ戦だと? こいつらで? 俺は誰と?」
「もちろんマグアだろ、お前たち仲良さそうだし。」
「はぁ!? んなもんやるわけねぇだろっ!!!」

 予想通り、ルリアの提案にカリストはあり得ないといきどおり、ついでに何故か俺に意見を問いただしてきた。

「おい、ウルスもなんか言えよ! お前だって嫌だろ!?」
「……別に嫌ではないが……そんな急にタッグ戦を行っても、まともな連携は取れないと思いますよ?」
「大丈夫だ、私たちだってそんな練習はしたことないんだからお互い様だろ?」
「くっ……くだらねぇ、なら帰る!!!」

 さすがに勝手が過ぎたのか、カリストは怒り心頭のまま訓練所を去ろうとする。それを見たルリアは特に臆することもなく、俺に何かアイコンタクトを取ってきた。

「…………引き止めろと?」
「ああ、頼む。奴はお前を認めてるだろうからな、何か餌でもあれば釣れるはずだ。」
(魚扱い……しかし何故そんなことを………)

 ルリアがそこまでこのタッグ戦にこだわる理由が分からないが……仕方ない。

「おい、カリスト。」
「あぁ? うるせぇな、てめぇら3人で仲良く特訓でも……」
「もし俺たちに勝てたら……今度、手合わせをしてやる、それでどうだ?」
「…………なに?」

 俺の言葉の意味が分かったのか、カリストは足を止めこちらを振り返る。彼自身、常に強さを追い求める性分しょうぶんなので、やはりこういう機会は逃したくないようだ。

「お前だってもっと強くなりたいだろ? たまには俺と一勝負しても損はないと思うぞ。」
「………………」
「それに、は常に万全の状態で始まるものじゃない……不慣れな状況でも力を発揮できるのが真の強者だ、違うか?」

 俺はそれらしい理由を添えて、カリストを説得する。少なくともこの学院での戦いに万全でない勝負はあまりないが……カリストなら、そんな言い訳じみたことは言わないはずだ。

「…………ちっ。おい、作戦会議だ。」
「おっ、やる気になったんだ! そんなにウルスと勝負がしたいの?」
「うるせぇ、いいからこい!」

 カリストは勝負を受ける気になったようで、マグアを呼んで軽い戦略を練るようだった。そして俺たちも同じように小声で作戦会議を始めることにする。

「……これでいいですか?」
「ああ、我儘わがままを聞いてもらってすまないな。それで、こっちも一応作戦でも考えたいが……何かあるか?」
「今回はルリアさんに合わせますよ、自由に動いてもらって構いません。このタッグでの経験はありませんし、下手に考えても仕方ないですからね。」
「そうか、じゃあそれでいこう。」

 話もそこそこに、俺たちはそれぞれ武器を構えていく。ちなみにまだカリストたちはギャーギャーと言い合いをしていた。
 そんな様子を確認したあと、俺は待つついでとして彼女に質問をする。

「……ルリアさん、どうしてタッグ戦を提案したんですか? ただマグアの実力を確かめたいなら、別に俺たちを巻き込む必要は無かったのでは?」
「そう言うな、私だってただ興味本位でやろうってわけじゃない。この勝負はきっとになると思ったんだ。」
「……カリストのため、ですか。」

 彼女が一体どこまで考えているのは分からないが……何となく、その一言でこの戦いの意味は理解できる気がした。

「カリストは良くも悪くも『独り』だからな。お前にだけは多少気を許しているが、他の奴らにはまださっぱりだろ?」
「……確かに、カリストはどこか他人と距離を取っているイメージはありますね。おそらく、今まで肩で風を切っていた態度もあって、そう簡単に自分の心象しんしょうを変えられないのが大きいと思います。」

 俺と戦うまで、カリストは正直なところ中々の悪ガキだった。気に入らない相手につっかかっては意味もなくけなしたりと、かなりキツイ存在として振る舞っていた。しかし、それも俺との勝負や武闘祭をて徐々に変わっていき、少なくとも今では常識のある人間へと成長したものだ……口は相変わらず悪いが。



『別に、疑ってるわけじゃ無いよ。ウルスが連れて来たってことはそれなりの信用があるってことだし、実力もあるって聞いた。けど……これは団体戦、私たちは仲間なの。人を見下すような人間を、私はそう簡単に割り切れないよ。』



 だが、変わったからといって過去が消えるわけでもないことは、彼自身が一番理解しているのだろう。あの時は気にしていないフリをしていたが、やはりローナに言われた言葉はカリストの中に引っかかっているに違いない。

「ああ、私もそう考えてる。だから、あのマグアのような突き抜けた存在はカリストにとっていい刺激になる……根拠のない勘だけどな。」

 ルリアはそう言って薄く笑う。そんな彼女の姿は俺にでも年を重ねた……所謂いわゆる『先輩』らしい、頼り甲斐がいのあるものだった。

(…………俺も、見習わないとな。)

「2人とも、こっちは準備完了だよ!」
「そうか、それじゃあ始めるか。」

 マグアがそう言ったことで互いに戦闘態勢に入っていく。その構造は彼らが並列に並び、対して俺はルリアの背後に隠れるといった直列的なポジションをとっていた。

「……お前たちから仕掛けてこい。」
「だって、どうするタールくん?」
「舐めてんな……んなもの、乗るだけだ!!」

 カリストはそう言い放ち、こちらへ走り出そう……とはせずに、急にマグアの方へと手を突き出した。そしてあろうことか味方である彼女に対し、最上級魔法を放った。

「爆ぜろ、『ブレイクボンバー』!!」
「な、なにを……!?」
(……だな。)

 至近距離にいるマグアは、普通ならもろに食らってしまうはずだったが…………それも作戦の内だったようで、おもむろに自身の片手剣を魔法へと突き出した。
 そして、その剣に魔法がぶつかった瞬間……激しく血走る爆発はあっという間に剣の中へと吸収されていった。

「ど、どうなって……!」
「いっくよー、『バースト』!!!」
「っ……ルリアさん!!」
『ジェット』

 マグアが吸収した魔法を魔力の塊として飛ばしてきたので、俺は驚いて固まっているルリアを抱え込んで空へと逃げる。そして2人と距離を見計らいながらルリアへ状況を伝える。

「ルリアさん、マグアの剣は魔法を吸収して遠距離攻撃、または剣自身を強化させることができるんです。」
「そ、そういうことか、びっくりした……だからカリストは魔法を……ん? ウルス、何故マグアの武器のことを知ってるんだ? あいつのことは知らないのだろう?」
「……はい、マグアことは俺もほとんど知りません。でも……彼女の使うのことは少し小耳にはさんでいるので。」

 俺はこの前、ガータにマグアのことを散々聞かされていたこともあり、特にあの青い魔法武器のことは事細かく知らされていた。やはり情報を知っているのといないのでは大きく変わってくるな。

「マグアの武器は、飛んでくる魔法を吸収して無属性魔力の塊を飛ばす…または、剣に魔力を纏わせて威力そのものを強化する魔法が仕込まれています。」
「……それは、随分と高性能だな。なら、魔法での攻撃はほとんど通用しないと思っていいのか?」
「そうなりますね、ただタイミングさえ合えば魔法でも十分通用するチャンスはあります。あくまで剣に捉えられなければ吸収はされないので…………それより、あの。」
「どうした?」

 俺はある程度話したあと、この抱え込んでいる状況のことをルリアに示唆し、自力で飛ぶよう促す。すると彼女は何故か不満そうにしながらも俺の元から離れ、ジェットを発動した。

「『ジェット』……全く、失礼な伝え方だな。私はそんなに重くないはずだが?」
「いや、重いとかじゃなくて……ルリアさんを持っていたらまともに戦えないですよ。わざわざジェットも覚えたんですから、使わない意味はないでしょうに。」
「ふふっ、冗談だ……それじゃ、気を取り直していくか!」

 ルリアはそう一蹴して、剣を構えながら2人の方へ突っ込んでいき、俺も呆れながらその後を追って攻めていく。

「あ、あの先輩まで飛んでる!? さすがソルセルリー学院、魔法の強さが段違いだね!!」
「おい、集中しろ!! 迎え撃つぞ!!」

 カリストの指示で2人とも剣を構え、反撃の準備をする。それに対し俺たちもそのまま手に持っていた剣を強く握った。

(ルリアはマグア狙いか……なら、カリストを先に潰すか。)

 そう決めた俺はルリアの背後にピッタリ隠れ、ギリギリまで挙動を見られないように潜む。そして接近によりカリストの姿が視界に入った瞬間飛び出し、足元をるように剣を払った。

「はっ、お前の手はもうバレバレなんだよっ!!」
「だろうな。」

 しかし、それは読んでいたようでカリストは上手く位置取って剣を避け、カウンターの振り下ろしをこちらに食らわせようとする。
 もちろん俺も避けられるとは思っていたので、その大剣もジェットでそのまま流れながら回避し、解除して地面に降り立つ。

「……剣を変えやがったか? だが例の武器神器とは違うな、何だそれ?」
「さぁな、わざわざ手の内を教える馬鹿はいない……精々考えてみるんだな。」

 ……まあ、だろうが。

「けっ、なら引き出すまで!!」

 カリストは意気揚々と大剣を先程と同じように振りかざしてくる。本来なら避けるなり利用するなりする攻撃だが……せっかくだ、このC・ブレードの本領を確かめてやる。

「っ、受けなが……」






「『さび』」
「……うっ!!??」

 カリストの剣を受け流すようにC・ブレードに当てた瞬間、俺はこの武器の魔法を発動させる。すると…………俺の武器は瞬く間に錆をまとい始め、滑らかだった腹もまるで長年使い古された金属かのように赤褐色せきかっしょくいろへと変化していた。
 となると当然、剣の上を滑ろうとしていた大剣は錆によって勢いを阻害そがいされ、落ちていくと認識していたカリストは力の入れ方を間違えて体勢を大きく崩した。

「は、なにが……!!?」
「隙あり、だっ!」
「ぐっ、がはぁっ……!!?」
 
 体勢が崩れたカリスト目掛け拳を放ったあと、渾身の回し蹴りで吹き飛ばす。そしてすかさず詰め寄って更なる連撃を繰り出すために、再び武器魔法を発動する。

「『けん』……はっ!!」
「なっ、研磨けんまされ……ぐふっ!?」

 先ほど錆びさせた剣を今度は魔法で磨き上げ、切れ味を上昇させる。そして剣で下段から斬り上げ、その勢いのままに宙返り蹴りを食らわせた。
 すると、流石に一方的な展開で焦ったのか、カリストは蹴られた勢いを殺さず強引に俺との距離を取り、不機嫌そうに言葉を零した。

「……まさか、錆をつけるのがその武器の魔法ってか? とんだおもちゃじゃねぇか。」
「流石に、俺もそこまでとち狂ってはない。これはほんの一部だ……!!」

 俺はを確認してから、同じように彼との距離を詰めていく。すると、俺の武器を警戒してかカリストは無闇に動かず、あくまで受け身で俺の攻撃を迎え撃とうとする。いつもより弱気なのは慣れないタッグ戦からなのだろうか、それともマグアの存在が頭にチラついているのか。

……)
「次こそぶっ飛ばす!!」

 ……おそらく、さっきのような受け流し止めは通用しないだろう。そして、今俺が狙うべき的は………


「おらぁぁっ!!」
「……『とう』」

 俺はカリストの剣とぶつかり合う瞬間、そんな言葉を呟く。
 
 C・ブレードに刻まれている魔法は他のどの魔法武器とも似通わない特殊なもので、ある意味ではアビスの能力と方向性は同じだ。しかしあちらは『色んな武器に変化する』のに対し、C・ブレードは『色んなに変化する』という、極めて異質なものだ。
 具体的に言えば、C・ブレードの魔法は唱えた言葉の意味のままに変化するというもの。錆と唱えれば剣は錆び、研と言えば剣は研磨され……そして、透と呟けば剣は…………


「は、はぁぁ!!?」
「いいリアクションだ……らっ!!」
けん

 C・ブレードはカリストの剣を無視し、見事に透過した。その結果、お互いの攻撃は肩透かしを食らい、カリストはまたもや体勢を大きく崩していた。
 その姿はガラ空きだったが、俺はカリストを無視して振り切った剣を持ち替え透過を解除し、目掛けて剣を投げた。そこにいたのは………


「……っ!? おいだ!!!」
「……えっ、何タールくわぁっ!??」

 俺たちの直線上……奥の方で戦っていたマグアはカリストの声に振り返るがもう遅く、俺の放った剣に直撃しリズムを崩されていた。

「良いぞウルス……はっ!!」
「く、しまっ……ぐふっ!!」

 マグアの攻撃が中断した瞬間にルリアはその隙を突くように剣を振るい、クリーンヒットで斬り飛ばした。そして、彼女がこちら側に吹っ飛んでくるのを見た俺は足にフレイムアーマーを付与し、カリストを無視して飛び出した。

『フレイムアーマー』
。」
「クソッ、待てや……!!」

 俺の行動の意味を理解したのか、カリストは一歩遅れて俺を追いかけるが…………手遅れだ。

「はぁっ!!」
「ま、まず……がはぁっ!!!?」
「このっ……『ブレイクボンバー』!!」

 フレイムアーマーで威力の増した飛び蹴りをマグアに食らわせ、魔力防壁を破壊する。そしてすかさずカリストの方を振り返り、目の前にまで迫っていた爆破魔法を……ルリアのジェットに抱えてもらい、回避する。

「なっ……!!?」
「タッグ戦ならではだな……いくぞ、ウルス!!」
「はい!」

 ルリアさんはそう言って俺をカリストの方へ放り投げ、剣を構える。また、その投げられた勢いのまま俺はカリストへ炎蹴を放ち、反射的に構えていた大剣を大きく弾いた。

「ぐっ、こうなったら超え……」
「終わりだ、カリスト!!!」

 カリストが超越・力を発動する前に、ルリアがジェットからの斬撃を食らわせた。その結果、カリストは大きく吹き飛んでいき、元々のダメージも重なって魔力防壁も壊れてしまっていた。



「……ふぅ、やったなウルス。」
「はい、良い動きでしたよ。」

 勝負が終わり、俺は突き出された拳を合わせる。正直、ここまでスムーズに行けるとは思っていなかったが……予想以上にルリアのジェットの技術力や判断力が向上していたおかげもあるな。

「ちっ……クソッ!!」
「タールくん、ごめんねー僕が足を引っ張っちゃって……それにしてもあの2人、凄いね!! 特にウルスの不意打ちには参っちゃったよ~、さすが武闘祭でタールくんと組んでたことはあるねっ!」
(……武闘祭のことは知ってるのか。)

 武闘祭の試合を見ていた……ということか? ならカリストに馴れ馴れしいのは納得? だが……


「…………どうだった、カリスト? たまにはこうやって誰かと一緒に戦うのも悪くないだろ?」

 ルリアは倒れたままのカリストに近づき、そう告げる。しかしその言葉が気に入らなかったのか、なお眉をひそめながら彼女に反発した。

「……何が悪くない、だ。こいつの戦いにおける経験値はゼロに近い、そんなヘラヘラしたあまちゃんと組んだところで生まれるものなんて存在しねぇんだよ。」
「えぇ、そうかな~? 僕はタールくんと組めてし、実りはあったと思うよ?」
「…………そういうところが気持ち悪いんだよ……帰る。」
「え? あっ、待ってよタールくん~!」

 カリストは静かに立ち上がって出口へと向かっていき、マグアもその後をついていった。そして、ルリアは不思議そうに首を傾げながらこちらに近寄ってくる。

「……何故カリストはあそこまで怒っていたんだ? 流石に余計な世話をしすぎたのかもしれないな…………」
「いや、ルリアさんに対して怒っていたんじゃないと思います。カリストは勝負の八つ当たりはしませんし、おそらく別の理由ですよ。」
「別の理由……だとすれば、やはりマグアか。本当に気に食わないんだな、あの女を……」


 …………気に食わない、か。


「……まあ、2人のことは置いておきましょう。それで、これからどうしますか? 俺たちはほとんどダメージを受けてませんし、まだ特訓をしようと思えばできますが……」
「当然、特訓だ! 元々その目的で来たんだからな、今更やらないなんて言わせないぞ?」
「……分かりました。」

 ルリアのやる気満々な顔を見て、俺は先程のを思い出す。



『えぇ、そうかな~? 僕はタールくんと組めてし、実りはあったと思うよ?』



(……変わらないといけないのは、彼女も同じか。)
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