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十章 ありがとう

百三十話 『前世 

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 その日は疲労から倒れるようにベッドへと入った。

 今までのこと、今日のこと、これからのこと……色々と考えて出た『結論』にはまだ自信がなく、迷いながらも俺は就寝した…………







(…………ここは、どこだ?)


 周りを見渡すと、そこは辺り一面が藍色の空で染まっている謎の場所だった。また、近くには何の物や人も立っておらず、本当に何もなくだだっ広い空間の中に何故か俺1人取り残されている状況になっていた。

「…………夢……?」

 まず、そう考えた。こんな不可思議な場所には一度も来たことも聞いたこともなく、そもそも俺はさっきベッドで寝たはずなんだ。だから夢の中でたまたま自我が働いていると考えるのが自然…………だが。

(にしても……意識がはっきりしすぎている。五感も正常に働いているし、何より体も現実のように存在しながらしっかり動かせている。夢と呼ぶにはあまりにもリアルすぎる……)

 なら、現実……? いや、こんな場所が存在するとは思えない。どこまでも藍色に染まって、地面と空の境界線も分からない空間なんて……少なくとも今世の世界では見たことがない。前世ほど地形が解析されていないとはいえ、流石にこんな所があるとは思えな…………













『「綺麗なところだろ、俺も初めてみた時は見惚れてたよ。」』

「……………!!??」

 
 どこからともなく、そんな男の声が聞こえてきた。堪らず俺は辺りをもう一度見渡すが……どこにもその声の主は立っておらず、ただただ虚無の空間が同じように広がっていただけだった。

「……何者だ…………どこにいる?」
『「、か。難しい質問だが……まあ、少なくとも俺はお前の味方であり、『理解者』だ。それだけは絶対に揺らぐことのない真実であって、変わることもない事実だ。」』
(……何を言ってるんだ………? 全く意味が…………)
『「……ああ、すまん。気持ち悪い言い回しだったな……こういう癖は直さないと、お前にも影響が出るからな。」』

 …………また読まれてる……?

『「ああ、読めるな……だが奴と俺は関係ない。俺がお前の心が読めるのは、俺とお前にもっと深い繋がりがあるからだ。」』
「深い、繋がり……?」
『「今のお前がのは、ある意味俺のせいだ。俺という魂が溢れてしまったせいでお前の中に『記憶』が流れ込み、複雑な存在と成ってしまったんだ。」』
「で、できた……魂……記憶……? お前は一体………?」


 飛躍した単語に全く理解できず困惑していると、背後から水溜りを踏むような音が聞こえてきた。その方向へと目を向けると、そこには…………見知らぬを身につけた、黒髪の男が1人立っていた。


(……背丈せたけや体格は俺とほとんど同じ、髪の毛は俺より少し長い………顔も俺とそっ)




「……………えっ。」
『「気づいたか……意外と察しが悪いんだな、。」』
「……いや、そんな…………だって俺は、今まさにここに……!?」
『「ああ、 お前 はここにいるし、 俺 もここにいる。とても理解し難い状況だとは思うが、混乱するな。思考停止すれば先に進むことができなくなるぞ。」』

 聞いたことのある…………いや、からそう指摘されるが、俺の頭は未だ意味を理解しようとしなかった。




 それはそうだ。だって…………目の前にいるのは、      。




「お、お前は……俺………なのか…!? 何で、どうして……!??」
『「落ち着け。確かに俺はお前自身だが、お前は別人……いや、別人とまではいかないか。実際、俺は今までずっとお前の人生を見ていたからな、限りなく近い他人という感じか?」
「た、他人だと……? 何言ってるんだ、お前は俺そのものじゃ……!」
『「違う……ちなみに言っておくが、俺はドッペルゲンガーとか生き写しなんていう存在じゃない。まあはっきり言ってしまえば……………ウルス、お前は俺という存在の『転生体』だ。」』
「…………!!!?」


 ……俺が、こいつの転生体……!? つまり、じゃあこいつは…………『前世の俺』なのか!??

『「お前にとっては、だがな。生憎、俺にとってお前は『生まれ変わった俺』という感覚はない。何故なら俺の意思でお前が動いているわけじゃないからな。」』
「……どういう…………」
『「順に話す……といっても、俺自身全てを知っているわけじゃないし、憶測な部分もある。だから、今から話す内容が真実だと思い込まずに聞いてくれ。」』

 そう言った前世の俺? は俺の周りをゆっくり歩きながら話し始めた。


『「……まず、俺とお前の関係性について話そう。さっきも言った通り、お前にとって俺という存在は『前世の俺』という認識だろうが、俺にとってお前は『転生した俺』という意識はない。その理由は……そもそもの大前提として、俺とお前はからだ。」』
「…………? いや、俺には前世の記憶というものがある……現に俺は前世で家族を…………」
『「そうだな、お前は二度両親を失っている……一度目は前世、二度目はこの世界で。その認識は間違っていないし、起こってしまった事実だが……ウルス、今まで『前世の記憶』を思い出す中で“ おかしい ”と思ったことがないか?」』
「おかしい?」
「ああ、例えば…………ウルス、前世の名前は思い出せるか?」

 ……前世での名前? それはもちろ…ん……………





「…………なっ、いや…え、あれ……?」
『「? そこが俺とお前が根本では別人だという決定的な証拠だ。」』
「ど、どういう意味だ……何で前世の名前が出てこないんだ……?」
『「別に、名前に限った話じゃない。俺が前世で培った知識とか経験とかもお前にとっては曖昧な部分が多かったとは思わないか? まあ中には俺自身の勉強不足なところもあったとは思うが、少なくとも今までそういった場面は何回かあったはずだ。思い出してみろ。」』
(曖昧な……部分………………)










『……そういえば、ここには新入生しか居ないんだな。』

『前世での入学式にはいたが……まあ、そういうものなんだろう。』




『刀……だったか? まあ剣身の太さからして抜刀術のようなものできない………………はず




『「そう、それだ。火の原理やら水の性質やらはともかく、明らかに俺が経験したはずのことや知っている知識が、お前にとっては不確かなものとなっている。」』
「……その時はあまり気に留めていなかったが……確かに変だ。前世での俺は学生で入学式のことや、刀という武器が存在しているのも明確に知っていたはず……なのに、どうしてこんな曖昧なんだ……!?」
『「ど忘れ……なんていうレベルの話ではないな。何せ、知っているはずのことを『忘れた』のではなく、『欠落』してしまっているんだ。それも一部分だけが。」』
(欠落…………)

 ……つまり、俺はあくまで前世の記憶を全て思い出せていたわけではなかったということか……?

「……その理由も、知っているのか?」
『「…………ここからは憶測だが……俺はおそらく、ウルスという人間の魂が形成されるための支柱的存在だったんだ。」』
「た、魂の形成……??」

 またもや出てきた異常なワードに、俺は疑問を浮かべる。いくら転生? といった異次元な経験をしているとはいえ、これはあまりにも理解し難い話だ。

『「……前世で俺が死んだ後、気づいたらにいた。それも、まるで狭い箱の中に閉じ込められたように……この幻想的な景色も、最初はもっと空色そらいろに染まっていたんだよ。」』
「空色…………」
『「そして、俺の頭の中には見知らぬ景色が入ってきた。優しそうな女性に、溌剌とした…………そう、お前が見ている世界が俺にも見えていたんだ。」』
「……じゃあ、お前はずっとここで俺のことを……いや、俺の目に映ったものを見ていたということか。」

 ……ずっと、1人で……………

『「……案外、他人ひとの人生を眺めるのも悪くはなかったぞ。最初こそ死ぬ前のことを思い出しては後悔する日々だったが……お前が幸せそうに生きているのを感じれて、俺も楽しかったよ。」』
「…………………」
『「そして、時が経つにつれて俺を包んでいる『箱』は小さくなっていた……まるで、中にいる俺を消し去ってしまうように。おそらく俺という存在は、ウルスという人格ができるまでの材料……ゼロから人の魂はできないということかもしれないな。本当かどうかは分からないが。」』
「……そうか。」
『「……箱がどんどん縮小して、やがて身動きが取れなくなって意識も朦朧もうろうとしてきた頃…………突如として、『箱』にヒビが入った。」』

 彼は足を止め、俺に指を差す。

『「それは10年前、お前が魔物に襲われて気を失い……奴、『神』と名乗る存在から『運命の束縛者』を付加された時だ。この称号にどんな力があるのか詳しくは知らないが、おそらくそれがきっかけだったはずだ。そしてあの……手紙を見たことによるショックでそのヒビが決壊し、『箱』が……つまり、俺の存在がお前の中に溢れてしまった。」』
「……その結果、お前の記憶が俺に流れ込んできた……?」
『「憶測だがな……けど実際、あの時のお前の頭の中には俺の過去が映ったはずだ。それも実体験のように……まるで己の運命だと言わんばかりに。」』
「………………」





『に……げ…………ろ……………』
『…………………ェ?』




『「……溢れた俺の記憶は、お前の中へと断片的に刷り込まれた。だから、お前は俺……前世の記憶を全て思い出せないと思っている。」』
「……そういうことだったのか。じゃあ結局、俺はどういう存在なんだ……?」
『「……今のは事実として、俺とお前の関係性を言っただけで同じだ。俺がどういう認識をしていようが、ウルスという人間には前世の記憶がある。ただ、転生と呼ぶには少し異質な状況だということを頭の隅っこに入れておいてくれ。」』

 そう言いながら、彼は薄く笑う。その顔に映る目は今まで見てきた誰の目よりも深く、何を考えているのか分からない色をしていた。

「…………お前と俺のことは少し理解できた。何のわけもなく俺が前世の記憶を思い出したわけじゃないこと、俺という存在自体が転生したわけじゃないこと…………けど、1つ聞かせてくれ。何故なんだ?」
『「……というと、『何故この話を今さら話しに来た』ってことか。それは単純な話、からだ。」』
「……無理だった?」
『「ああ、今までは俺からお前に話しかけるアプローチなんてできなかったし、そもそもやろうとしていなかった。普通に考えて魂同士の会話をしようなんて想像つかないしな。」』
「じゃあ……何かできるようになった訳があるのか?」
『「おそらく、『神』とやらの干渉がトリガーになった。魂なのか精神かは知らないが、そういったスピリチュアルな接近が俺にも共鳴し、できるようになった……と考えるのが自然だな。魔法とやらは相変わらず無茶苦茶だよ。」』

 呆れるように彼は言葉を零す。確かに、前世ではそういったものは全てオカルト扱いで、とてもあり得た話ではなかったからな。

『「……『神』とやらの目的は皆目検討も付かないが…………『ウルス』という世界最強の人間を消し去りたい、これだけは真実だろう。」』
「……だろうな、奴は俺のことを邪魔な存在だと思っている。だから……呪いを付けてき……」



『「そう、俺が今回お前に干渉してきたのは……その呪いの話についてだ。」』


 俺がそう言うと、彼はやや食い気味に口を挟んでくる。さっきから話していて思うが、一応転生前の彼と俺でも若干の違いはあるんだな。

『「当たり前だ、お前は俺の記憶が混ざったウルスという人間なだけだからな。俺と同じ人生を歩んでいるわけでもあるまいし……いや、それはどうでもいい。俺が今日ここで話したいのは『これからのこと』だ。そのために色々説明をしたんだからな。」』
「そうなのか……それで、これからっていうのは……」
『「もちろん、デュオだ。奴らは一見ただの悪党だと思っていたが……今回のことからして、相当相手だろう。マルク=アーストを強化させたような技術に、赤仮面のような一般人では太刀打ちできない相手……そして、称号を強制的に植え付ける特殊な力。いくらお前が強いとはいえ、もしかすれば敵わないかもしれないな。」』

 彼の言う通り、奴らの力は底知れない。英雄にまでは及ばないものの、普通の学院生ならばまず敵わないような相手でもおそらく幹部クラス……だとすればそのボスは英雄、それこそ俺と同等レベルの強敵なのかも知れない……?

「……そっちも神の接近に気づけたってことは、やっぱりあの呪いは本物なんだよな。」
『「ああ、絶対とは言い切れないが99パーセントそうだろうし、その想定で動かないと取り返しがつかなくなる場合がある。タイムリミットは約5ヶ月半……その間に決着をつけるべきだ。」』
「……その口ぶりなら、何か解決策でも思いついているのか?」

 俺の質問に彼は首をどちらに振るわけでもなく、代わりに右手をこちらに差し出してきた。また、その右手は突如として透明な淡い光を放ち始める。

『「……解決策と呼べるほどのものはない。ただ、称号をつける方法があるならば解除する方法だってきっとある。だから結局、やることは変わらないはずだ。」』
「……デュオの奴らを捕らえて、解除させる……できるのか、そんなこと。」
『「さあ、それは分からない。だが、この力……いや、があればお前はより強くなれる。受け取ってくれ。」』

 彼はその光る手をこちらにズイっと触れるように促してくる。それに対し俺は恐るおそるその光に手を伸ばし、そして…………









『……○、○○○○○○?』


『…………○○、○○○○○○○○○○。』


『……○○。』






「…………!?」
『「……冷めてるだろ。もう少し愛想良くしてれば良かったと、今更ながら思ってるよ。」』

 流れた記憶に驚いている俺に、彼はそう皮肉のように言う。

「……この中に出てきた、これが……お前の言うか?」
『「ああ、このを再現できれば、お前はもっと強くなれる。向こうに戻ったら練習しておいてくれ。」』

 彼は手を引き、俺から距離を取った。そして何があるかという風に、自身に親指を差した。

『「今ので俺が伝えたいことはほぼ全てだ。そっちから何か聞きたいことでもあるか?」』
「……………聞きたい、こと。」
『「俺が答えられることなら何でもいいぞ。お前は俺の記憶の全てを知っているわけじゃないからな、気になっていることの1つや2つあるだろ?」』
「……………なら、2つだけ。」

 少し考えてから、俺は彼……過去の俺の目を見つめて問う。


「…………前世お前の名前は?」
『「……………














 ………………“ ゆう ”だ。偶然というのは恐ろしいな。」』


 悠は鼻を鳴らしながら薄く笑い、それにつられて俺も少しだけ笑みをこぼしてしまう。

『「……もう1つは?」』
「…………どうして、俺に手助けをしようと思ったんだ? お前……悠にとって俺は別人みたいなものだろ、そんな奴を助ける理由なんて特にないはずだ。」
『「……………」』
「俺が消えてしまおうが、もう悠には何の関係もない……生まれ変わりの自分だから手を差し伸べたのか?」

 
 …………理由がなく、ただそれだけで助けようとする人間ではないはずだ。俺がそうであるように悠もきっと何か事情が……






『「…………俺のようになってほしくないだけだ。」』





 ……………馬鹿か、俺は。




『「俺には、何の力もない。剣を扱う才能も無いし、お前のように優しい人間でもなかった。今ある現状に浸って何もしない……臆病な奴だった。」』
「………………」
『「だから、何もできずにやられた。たらればの話だが、もし柔道やら何かを習っていたら、あの男も撃退できたかも知れない。もっと冴えた頭を持っていたら……あの最期を変えられたかもしれない。それもこれも全部、俺が何もしようと……変わろうとしなかったせいだ。」』
「……そんなことを言ったら、俺だって…………」




『「…………お前は違うだろ、ウルス。」』



 肩を掴まれ、真剣な表情で悠は言う。


『「ずっと見てきたから分かる……俺とお前は似ていても、決定的に違うところがある。」』
「違う……ところ…………?」
『「ああ、違う……生まれてきた頃からずっと俺はお前を、この目に映る世界を見てきた。そこに映っていた景色は俺とは比べものにならないぐらい綺麗で鮮やかで……明るいものだった。が何か、分かるか?」』
「……………いや……」
『「……………………、『』が、お前にはあるんだ。」』


 …………命の、渇き……?

『「……まあ、カッコつけて言ったが……俺の人生にはそんな想いを最期まで抱かなかった。だがウルス、お前は逆だ。全てを失う、ずっと前から大切なモノを守ろうと必死に生きていた……そして今もそれは同じだ。」』
「……そんなことは」
『「なら、お前の今周りにいる人たちは大切じゃないのか? ライナやミル、ニイダ……グランたちが今までお前にしてくれたモノも全部、ただのほどこしだって本気で思ってるのか?」』
「…………………」
『「……お前が大切にしている気持ちは、みんなも分かっている。だから今日、お前は話をすることができたんじゃないのか?」』



『だから……その、私。もっと……みんなのことを知りたい。ウルスくんも同じ気持ち……だよね?』




『「大切にから、大切に。これくらいの摂理せつりはあっても良いとは思わないか?」』


 
 悠の言葉は優しくもあり厳しくもあり、今までの俺ならその真意を汲み取ることはできなかったが…………もう、そんなことはなかった。

「……そうだな。俺は、独りよがりに考えてたんだ。自分が何でもできるからって、それだけでいいんだって……でも、それじゃ一方通行になって、人を置いてきぼりにしてしまう。」

 才能のある人間は、才能のない人間の気持ちを考えられない……なんて言うような文句は、究極ただの言い訳だ。

 
 分かろうと、歩み寄ろうとしなければ結局誰だって分からない。過去も今も全部無かったことにしてしまって、新しい自分として振る舞おうなんて……無理なんだ。


「でも、少しずつ……頑張ってみるよ。今はまだできなくても……少しずつ、ゆっくりでも理解してもらえるように。俺という人間を伝えていくよ。」
『「………………そう思えたなら、こっちも安心できる。抵抗はあるかも知れないが、いつか乗り越えないといけない壁だからな。」』

 悠はそう言って俺の肩から手を離し、一息を吐く。すると……不意に彼の身体が光始め、どんどんとその姿を薄めてしまっていた。

「な、なんだ……?」
『「……まあ、魂だけの存在だからな。今日のところはここまでって感じなんだろう。またその内、話をしに来る時が必ずあるさ。」』
「そ、そうか……なら良かった。」

 てっきり、もう二度と居なくなってしまうのかと思ったが……そういうことなら心配はいらないな。



『「……最後に、お前に伝えておかないといけないことがある。忠告として聞いてくれ。」』
「忠告?」
『「不確かなことだからな、だから俺もはっきりとしたことは言えない……。」』
「……? 何なんだ、お前が俺に話せないような内容なんてあるのか?」
『「いや……そうじゃない。仮に、お前にこの話をしたとして……お前は。『嘘だ、あり得ない』と間違いなく言うはず……何せ、俺自身も未だそう思ってるからな。」』

 中身の見えない内容に、俺は首を傾げるしかなかった。

「……だが、少しでも可能性のあることなら言ってくれ。俺は……大切なモノを守らないといけないんだ。だから……」
『「駄目だ、まだ……今のお前には伝えられない。伝えたところで今のお前には足枷あしかせになってしまう。可能性の範疇はんちゅうでしかないことだ……その意から、あくまで『忠告』だ。」』

 俺の言葉に、悠は今までに無いほどの複雑な表情を見せる。その表情に俺は聞きたくなる意欲を失ってしまった。




『「…………これから先、お前にはいくつもの壁が必ず立ち塞がる。それが例え小さかろうが大きかろうが、絶対にお前のく道を惑わし、お前自身をもむしばむことだろう。」』
「………………。」
「『そして……いつか“ その時 ”が来る。何かを捨てて、何かを守る……選択しなくてはいけない…場面が訪れる。“ その時 ”が来たら…………ウル、ス…………」』


 どんどんと消えかかっていく悠の声は、やがて俺の耳に届かなくなる。
 

 しかし…………何を言っているのか、何故か理解することができた。

















「『………………見失うなよ。』」












「…………ああ。」

 


 意味は…………わからなかった。

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