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九章 昇華する心 『Acquire』 (武闘祭編)

百九話 私だけの

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「す、すみませんみんな……負けちったっす。」

 決勝戦の1試合目が終わり、ニイダが頭を抑えながらこちらへと戻ってくる。その足取りは少しふらふらで、あの状況からしておそらく魔力切れを起こしたのだろう。
 ウルスもそれを察知してか、ニイダのそばに近寄り彼の腕を自身の腕へと回し、自ら支えとなっていた。

「……お前も、まだまだ課題だらけだな。」
「手厳しいっすね……ちょっとくらいは褒めてくれてもバチは当たらないっすよ?」
「なら、日頃の行いをかえりみるんだな。」
「ひぇぇー……」

 ウルスの軽口に、ニイダはやれやれと首を振る。そして、私の方へと顔を向けてから頼み込むように言う。

「それじゃ、俺の尻拭い……頼んだっすよ、ローナさん。」
「う、うん…………」



『確かに、カーズのペースに乗せられたのもある。だがそれ以上にお前はできていないことがあった。』

『できていない……こと?』

『ああ……と言った方が正しいか。』



(……まだ、ウルスの言葉の意味は分からない。でも……やるしかない!)










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「…………大丈夫なのか、あいつ。」
「……お前にも人の心配ができたんだな。」
「心配じゃねぇ、ここで負けたら全部ぱあになるぞって言ってんだよ。勝てんのか、あいつ?」

 俺のなじりが苛立ったのか、は若干キレ気味に言ってくる。
 そんなに対して、俺は心配いらないと首を横に振りながらニイダを壁へともたれ掛けさせる。

「確かに、今のローナ……を忘れてしまっている彼女じゃ勝てないかもな。」
「『大切なこと』……それってなんすか?」

 一応話は聞いていたのか、ニイダは少しやつれた様子を見せながらもしっかりと聞き返してくる。

 そして、俺はその意味について軽く語り始める。



「…………ニイダ、お前は誰かの真似まねをするのは良いことだと思うか?」
「真似? ……まあ、場合によるんじゃないっすか? 悪いことを真似したら駄目だし、良いことを真似するのは当然だと思うっすし。」
「そうか……じゃあさっき、お前がを真似したのは何故だ?」
「あちゃ、バレてたっすか……そっすね、あの時はアレが最善だと思ったからっす。ウルスさんの身のこなしは綺麗ですし、大きな振りかぶりも要らないので使える場面が多いんすよ。まあ、その分集中しないと真似っこはできないっすけど。」

 先の試合で、ニイダは不意打ちの口鉄砲を喰らわせた後に俺の動きに似た回し蹴りを繰り出した。
 ニイダがあの場面で回し蹴りを使うことが本当に最善だったのか、他に良い手は無かったのか……そういう問題はさて置いて、少なくとも彼はに俺の真似をした。

「真似は、あくまででしかない。誰かを同じこと、同じ行動をすればある一定までの強さを得ることはできるが…………決して、並ぶことは不可能だ。」
「……贋作がんさく真作しんさくを上回ることはないって話っすか?」
「いや、そうじゃない。って話だ。」
「…………ややこしい、とっとと結論を言え。」

 黙って俺たちの会話を聞いていただったが、俺の取り留めのない発言にイライラしながらそう急かしてくる。

 それに応えるように、俺はその意をはっきり伝えた。


「結論……まあ、とどのつまり『ローナは俺じゃない』ってことだ。」
「……はぁ? 当たり前だろそんなこと。」
「ああ、もちろん当たり前だ。誰かに成り切るなんて無理だし、どんな人間でも 個性 は存在する。」

 …………俺言うのも可笑おかしな話だが。




「己の力を信じ切るか、他人のわざを過信するか…………答えはもう決まってる。」












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 
 











「ローナさん、でしたわね。私はナチ=キール、以後お見知り置きを。」
「え、う……うん、よろしく。」

 聞き慣れない言葉遣ことばづかいをするナチ=キールに少し戸惑いながらも、私は軽く返事をしてステータスを見比べた。





名前・ローナ
種族・人族
年齢・15歳

能力ランク
体力・60
筋力…腕・45 体・42 足・55
魔力・60

魔法・10
付属…なし
称号…なし





名前・ナチ=キール
種族・人族
年齢・16歳

能力ランク
体力・54
筋力…腕・46 体・51 足・39
魔力・100

魔法・14
付属…なし
称号…【魔法の才】




(身体的な力は同じ……むしろ、私の方が高いまであるが…………魔法に関しては圧倒的に劣ってる。)

 ウルスの前情報通り、彼女はおそらく魔法型なのだろう。近接型の私とは相性はあまり良くないが……間合いに入り込めれば問題ないはず。肝心なのは…………

「……その袋って、何が入ってるの? 中身は全部同じ?」
「あら、気になりますの? まあ始まればすぐに分かりますわよ。」
(……ということは、やはり勝負に使うような物なのか。)

 キールが腰に付けている謎の革袋たちは何か入っているようで、結構な大きさまで膨らんでいた。その所々角張った膨らみ方からして硬い物が入っているとは思うが……如何いかんせん想像できない。投げ物なのかな?

(……まあ、どちらにせよ最初は……………)


『それでは、続いてシングル2の試合を開始します。用意……始め!!!』


「距離を詰めるっ!!」
「そうですわね、やはり!」

 私は始まりと同時に走り出し、キールとの間合いを詰めていく。対して、当然のようにそれを予想していた彼女はさっそく、その革袋から何かをおもむろに取り出し…………私目掛けて投げた。

「? ……当たらないよ、そん……」
「ええ、だからわ。」
(…………??)

 私はその投げられた物……鉄のような塊2つをなんてことなく避けたが、キールは知っていると言わんばかりにそう食い気味に言葉を返してくる。
 そして……何やら両手の、具体的には人差し指を前に突き出し始める。

(……魔法? けど指1本って…………)


「いきますわよ……あやつれ、『スレットスパイダー・ファイア』!!!」
「っ!?」
っ……?)

 そう唱えた瞬間、キールの人差し指たちから謎の炎の放線が飛んできた。しかしそれも大した速さがあるわけでもなかったので、さっきのようにすぐさま私はそれを避けた。

牽制けんせい? でも遅くて当たらないよ!!」
生憎あいにくですわ! 真価は……ここから!!!」

 炎の放線が私を通り過ぎた後、何故かキールはその繋がっている人差し指をクイッと動かし始める。その動きに連動して炎も少しだけ動くが……私の左右に飛んだまま、特に挟み込んでくる様子もなかった。

(『下準備』って……まさかっ!?)

「っ、やっぱ……ぐっ!!」

 嫌な予感がし、私は後ろ……正確には炎のを見ようとしたところ、既に遅かった。

(石と炎が……!)
「ギリギリでダメージを減らしましたか……でも、これは避けられるかしら?」

 キールはそう言って蛇のようにうねっている炎2つを使って、私を挟み込もうとしてくる。なので堪らず私は空へと飛び上がり、時間を稼ごうとする。

「と、飛べ『ジェット』!」
「……噂の空を飛ぶ魔法ですか、これじゃ追えませんわ。」

 ジェットで遥か上空へと舞い上がり、炎の攻撃の範囲外まで逃げ込む。これなら取り敢えず安全だが……いつまでもこうしてちゃいけない。

「観察…………」
(…………炎というより、石を動かしてる……? だからドラゴンブレス・ファイアよりむちっぽい動き……なのかな?)

 慣れない思考を回しながら、彼女の弱点を探し出す。

(あの魔法……スレッドスパイダー・ファイアはドラゴンブレス・ファイアと似ている。だが、全て同じというわけではないだろう。スレッドの方は石に繋げているのに対し、ドラゴンは炎を伸ばしている魔法だ……と思う。だからスレッドはドラゴンのように延々と伸びるわけじゃ……ない、はず。けどその分……さっきの感じ操作性が…………いい……)

「…………あぁもうっ、頭が痛くなっちゃうよ!!! ウルスはいつもこんなことしてるの!?」

 彼の真似……そう思って試みてみたが、私の知能じゃすぐに限界が来てしまった。大体こんな時間をかけていたら一々ジェットを使わないとできないし、ただこっちが魔力を消費するだけで不利になるだけじゃん!

「はぁ……ウルスはどうやって…………」



『学院に来て、お前は色んなことを吸収して強くなった……だが、吸収したものに囚われ過ぎてお前は大事なことを忘れてしまっているんだ。』



(……………?)

 不意に、ウルスのあの言葉が浮かび上がってくる。何だ、この違和感…………


「『水弾』」
「うわっ……仕方ない、ひとまずは………」

 私が降りてこないことに痺れを切らしたのか、キールが地上から水の弾を飛ばしてくる。それに応えるように私は彼女とできる限りの距離を取りながら地面へと降り立ち、ジェットを解除する。
 そんな私を見て彼女は何やら溜め息を吐く。

「はぁ……やはり厄介ですわね、空を飛ばれるのは。」
「……それはどうもだね。」
「褒めてないですわ……まあ、すればいいだけですわ!!」
(っ、石を……さらに4つ……!?)

 彼女は袋の石を再び取り出し、今度は6つの炎を操り始める。その圧迫感はさっきの比ではなく、もはや近づくことさえ考えさせないような気配を漂わせていた。

「これは『魔鉄石まてっせき』、私のこの魔法に反応して動かせるようにした、特注の武器ですわ。」
(特注……通りで見たことないはずだ。)
「さぁ……あなたのも把握済みですわ、ここからどうしますの?」
「…………………」

 どうする……私のフレイムアーマーのことも知られている。一応私もドラゴンブレス・ファイアは使えないことはないが……まず練度的に押しつぶされる。


(考えろ……もしウルスなら、どんな策で…………!)

 私の力じゃおそらくアレは超えられない。ウルス、どうやって………どうやって乗り越え…………






















『ああ……と言った方が正しいか。』


「…………あっ。」


 その瞬間、彼の言葉の意味をした。



『お前には多分……魔法の才能はない。』



(…………そりゃ、私には無理なわけだ。)


「…………ふふふっ、馬鹿じゃん……私。」
「……? 諦めがつきましたの? なら……終わらせてあげますわ!!」

 脱力した私の姿を見てそう判断したのか、キールは私目掛けて炎の糸たちをあちらこちらから飛ばしてきた。


『お前は普段魔法を覚える時、ほとんど頭を使って覚えようとしてない。目で見た物やその時の感触だけでやろうとする……別に悪いことじゃないが、それだけじゃより複雑になった時に混乱してしまうぞ。』



『直感で動くのも悪い事じゃない……考えるのが難しいなら、その直感を鍛えるのも選択肢だと思うぞ。』







『もちろん!! こんなところで諦めるなんて選択肢、私のにはないよっ!!』



(……別に、何も難しいことは無かった。ただ、ウルスの鮮烈な強さに……それだけだったんだ。)


 彼の強さは、彼にしか引き出すことはできない。私がいくら猿真似をしようが…………到底、追いつけることはない。



 けど…………それは逆も同じ。




 私の強さは、私にしか引き出せない。誰がやろうとも、ウルスが………………例え、『ユウ』が真似ようとも不可能なんだっ!!




『フレイムアーマー』
「……はぁぁっ!!!!!」
「……!?」

 私は炎をまとい、最高まで高まった拳で石たちを片っ端から弾き返す。
 その速さは石たちの手数を上回っており……威力もまた、これまで以上のものへと加速していた。


「……私は、私強さを極める。私らしい、単純な……自分だけの力を!!!!」
「っ、前情報ではここまでの炎は………いえ、ならば私も全力で応えるだけですわっ!!!」

 そう言ってキールはまたもや石を4つ取り出し……合計10の石を操り、私を倒そうとまるで茨の如く荒れ狂わせる。

(私は蹴りより拳の方が得意……下手に足を出す必要はない!!)

 ウルスなら四肢しし全部使ってやるんだろうけど……だ。今の私の技術力でできる芸当ではないし、わざわざ真似っこをする意味なんてどこにもない。

「1発で倒すよ、キール!!」
「っ! ……近づけさせませんわ、よっ!!!」

 私は全速力でキールの元へと駆け出す。もちろん彼女がそれを許そうとすることはなく、10本の炎の茨でそれを阻止しようと振るってくる。
 
「くっ、うっ……はぁっ!」
「素晴らしいなし、けどこの手数ならそれで精一杯ですわよね!?」

 キールの言う通り、今は何とかギリギリ捌けているだけでほとんど距離を詰められていない。そして、捌けているこの現状もいつまで続くか分からない。
 魔力消費速度で言えば彼女の方が大きいはずだが……私はその前にジェットでそこそこ消費してしまっている。このままじゃ私の魔力が先に枯れて終了だ。

(それ以前に、私の体力が保たない……ならっ!!)

「……近づくのは諦めましたの? でもやることは変わりませんわ!!」

 私は一度距離を取り、時間を作り出す。対するキールはそれを逃げと勘違いしてくれたようで変わらず炎を飛ばしてきた。
 
(両腕を……思いっきり………炎の加速と、衝撃で………!!)
「すぅぅっ……!!!」
「……っ、何を……!?」



「……はぁぁァっ!!!!!!!」
「うぁっ!??」

 引いた両腕を思いっきりその場で突き出す。その速さは私の予想を 遥か に、辺りにその衝撃を撒き散らす。
 その結果、その衝撃は私を襲おうと迫ってきていた炎を全て弾き飛ばし、強制的に魔法を解除させていった。

(……このは……いや、それより今は!!)
「……ガラ空きだね、キール。」
「っ……まだですわっ!!!」

 キールは私の行動に驚きながらも、すかさずボックスを作り出し例の石を取り出し、また魔法を使おうとしていた。

「『スレッドスパイダー・サンダー』!! ……なっ!?」

 しかし、それを発動した時には既に私は彼女との距離を大幅に詰め寄っており、あと1秒もあればこの拳で吹き飛ばせるほどであった。
 そして、流石にこの距離からじゃ攻撃は間に合わないと判断したのか、キールは電気に繋げた石10個全てを自身の前に固め、盾のように私の攻撃を迎え撃とうとしていた。

「この雷の壁、あなたの拳では貫けないですわよっ!!!」
「そんなの、やってみないと分からない!!!」

 そう、やってみないと分からないし……分からないことだってある。






『………強さ、か。』







 だからこそ、挑戦するしかないんだ。
 

(炎を……すべてぇっ………!!!)
「………!??」

 全身に纏わせていた炎を、拳一つに凝縮させる。するとその拳は巨大なほのおへと変形していく。
 

(これが私の………私だけの……………!!!!)









「『グランドアーマー』ァァっ!!!!!」
「ぐっ………がはぁっっ!!!!??」


 焔の拳は稲妻の盾を軽々と破壊し、その奥にいたキールの魔力防壁ごと吹き飛ばし…………勝負を決めた。


『……そこまで!! 決勝戦シングル2の勝者、第1チーム!!!』




「……しゃあっ!!」

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