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九章 昇華する心 『Acquire』 (武闘祭編)
百六話 それだけ
しおりを挟む「ついに勝負の時だね、2人とも!!」
「……負けない。」
「今回も勝たせてもらうよ、ウルスくん。」
「……悪いが、それは無理な話だな。」
煽り合いながら、俺は対戦相手であるミルとラナを観察する。
ローナが負け、ニイダが勝って現在は1勝1敗。つまり、この勝負でどちらが決勝に進むかが決定する重要な試合だが……
「フィーリィア……気分はどうだ?」
「…………休んだから、大丈夫。」
「……そうか。」
その言葉を信じていいのならば問題はないが……やはり、上級魔法を使ったのが響いているようで、彼女は若干の疲れを見せていた。
おそらく、フィーリィアは魔法を使えてもあと1、2回しかないはず。普通の相手ならそれでも全然大丈夫だったのだろうが…………今回はそんな生易しい相手ではない。
(次席のラナに加えて、速さでは絶対に翻弄できないミル…………しかも、彼女も勝ちに来ている。)
『……つまり、今回からウルスくんは勝ちにいくってこと?』
『ああ、ステータスは抑えたままでな。だからミルも今後同じ条件で良いなら好きにしてくれ。すぐに負けてもいいし、勝ちに…………俺を、倒しに来てもいい。できるものならな。』
『……言うね、ウルスくん。なら、私も優勝を狙わせてもらうよ。だから、もしウルスくんが負けちゃっても安心してね……私が代わりに証明してあげるから!』
『…………やってみな。』
(……ミルの今のステータスは…………)
名前・ミル
種族・人族
年齢・15歳
能力ランク
体力・200
筋力…腕・154 体・125 足・131
魔力・223
魔法・15
付属…なし
称号…【魔法の才】
【化身流継承者】
(…………ここが、ある意味一番の正念場だろうな。)
ミルが勝ちに行くのならば、その実力は例えステータスを抑えていてもラナ以上に高くなる。今までのようにトントン拍子とはいかなさそうだ。
「……作戦はどうする?」
「ああ……あの2人の動きと連携に対応するには、今のフィーリィアのステータスじゃ少し心許ない。だから、フレイムアーマーを使ってもらう。」
「……? でも、フレイムアーマーは私使えない……」
「知ってる。だから、俺がフィーリィアにフレイムアーマーを付加させる。」
「……そんなこと、できるの?」
初めて聞く手法なのか、フィーリィアは理解できないと言わんばかりに首を傾げる。そんな彼女に、俺は少しだけ理論を説明する。
「……フィーリィア。普段、相手のステータスを除く時にどういう仕組みで見れているのか知ってるか?」
「……相手の体から自然に溢れてる魔力を……感じ取って? 見てる?」
「ああ、だいたいそんな感じだ。実はその応用で、相手から溢れる魔力をうまく利用すれば、その魔力で魔法を使ったり発動させたり……色んな干渉ができるんだ。まあ、本来他人の魔力を操作するのはかなり難しい芸当だけどな。」
それぞれの生物が放つ魔力というのは、人の体と同じように世界で唯一無二な物である。そのため、この世に自分と同じ魔力を持つ生き物は存在しないと言われている。
また、人が本来扱えるのは無意識上で理解しきっている自分の魔力だけであり、同じ魔力がこの世に存在しないことから、他人の魔力をすぐに扱うことは例外を除いてほぼ不可能である。
その人の魔力を知りきっているなら扱えることもあるらしいが…………少なくとも、俺にそんな人間は側にいない。
「……ウルスはできるってこと?」
「いや、俺も普通にはできない。だが、相手の体に触れた状態なら話は別だ。直に触ればその相手の体内の魔力を直接操作できるから、そこまで難しくはなくなる。」
「直に……手を握れば良いの?」
そう言ってフィーリィアは、不意に俺の手を軽く握って来る。そんな急な行動に少し驚くが……続けて説明をする。
「ま…………まあ、そうだな。この状態なら俺はフィーリィアの魔力を操作して、フレイムアーマーを付属させることができる……あと、言っておくがこの場合フィーリィアは魔力を使うだけで、魔法を発動するわけじゃない。だから、そこまで苦しいことはないはずだが……もし辛かったらすぐに魔力を切って解除するんだぞ。」
「…………うん、ありがとう。」
柔らかい返事とは裏腹に、握られた俺の手は次第に小さく震え始める。それは決して俺が起こしたものではなく……彼女の手が、そうさせていた。
(……………。)
その凍えそうな手を……俺は握り返して止める。そして、握り返されてびっくりしてこちらを見たフィーリィアに気休めを告げる。
「……俺たちはペアで、チームなんだ。だから……恐怖は俺に全部預けろ、フィーリィア。」
「…………ウルス……」
「大丈夫、フィーリィアは安心して戦ってくれ……勝ちは、俺が必ず掴んでみせる。」
『……それでは、タッグの試合を開始します…………』
「行くぞ、フィーリィア。」
「…………うん!」
「……手を握ってる……?」
「しょ、勝負が始まるっていうのに……な、ななにを…!?」
勝手に動揺してくれているミルを余所に、俺はフィーリィアの魔力を操作して魔法を組み立てる。そして…………
『……用意…………始め!!』
「纏え、『フレイムアーマー』」
「……!? これが、フレイムアーマー……!」
「「…………!?」」
俺は魔法を発動させ、フィーリィアの腕と足を炎を纏わせる。また、幸いというべきか俺たちが手を握っていたことに困惑してくれていたようで、初動に攻められることはなかった。
その隙を利用し、俺とフィーリィアは攻められる前にこちらから走り出していく。
「フィーリィア、前は頼む!」
「っ、出遅れた……!?」
「……こうなったら、2人でやろう!!」
元々の作戦を放棄したのか、先頭を走るフィーリィアを迎え撃つように彼女たちはそれぞれの武器を構えた。
(3回戦の時みたくフィーリィアにミルを足止めしてもらい、その隙に俺がラナを倒せれば一番良いのだが……流石に無理だろうな。)
相手が相手だ、フレイムアーマー付きのフィーリィアでもミルの足止めはそう簡単にいかないし、俺も一瞬でラナを倒せはしないだろう。
なので、今回は2人で戦っていくしかない。それもどこまでいけるのか……やってみるしかない!
「はぁっ!!」「はっ!」
「っ、上からも……ライナ!」
「燃やせ、『フレイム』!!」
俺はフィーリィアの頭上へと飛び上がり、彼女の剣の横振りに合わせてミルに踵落としを食らわせようとするが、ラナの放った火炎放射に邪魔をされてそれを避けざるを得なくなった。
その結果、俺は完全に避けきれず魔力防壁を掠らせてしまい、そしてフィーリィアの剣もミルは簡単にレイピアで受け止めてしまった。
「惜しかった……ねっ!」
「うっ……!」
「くっ……させないぞ、ミル!」
ミルはそのまま受け止めた剣を弾かせ、フィーリィアの胴体を無防備にさせてから突きで攻撃しようとするが……その攻撃を俺は地面に着地してから、すかさず剣を持って代わりに受け止める。
「フィーリィア、今だ!!」
「うん……はぁっ!!」
「まずっ……ぐぅっ!」
「ミル!? …………『グラウンドウォール』!!」
俺はミルの細剣を上から抑え込み逃げられないようにしてから、フィーリィアに攻撃をさせて彼女を斬り飛ばす。また、追撃を食らわせようとそのまま攻め上がろうとしたが……それは、ラナがすかさず俺たちの間に土の壁を作って阻止する。
『剣身が、伸びた……』
(……この壁は………!)
「……っ、壁から離れろフィーリィア!!」
「えっ……ぐぁっ!?」
俺は夏の大会の時を思い出し、咄嗟に壁から離れたが……反応できなかったフィーリィアは突如壁から突き出てきたラナの剣に吹き飛ばされる。
そして、崩れていく壁の向こうには剣身を元の長さに戻していくラナの姿があった。
『ジェット』
「はぁっ!!」
「ふぅっ……!!」
俺はフィーリィアが再起する時間を稼ぐため、ジェットを使い単身で横回転しながらラナへと接近し旋風脚を食らわせようとする。
だが、動きが直線的すぎたのかギリギリのところでしゃがんで避けられ、下から体を斬り上げられそうになる。
(間に合わない……なら、上げさせないまで!!)
「くっ……らぁっ!!!」
「なっ!?」
俺は避けるのは不可能だと判断し、代わりにその斬り上げに片足の裏を合わせてジェットの爆風を当てる。すると、その爆風はラナの剣の斬り上げを防ぎ、俺の体を上空へと押し上げた。
そして、攻撃を邪魔され怯んでいる彼女目掛けて俺は急降下し剣で斬りつけ吹き飛ばし、すかさずフィーリィアの元へと駆け寄った。
「大丈夫か、フィーリィア!」
「う……うん、なん……とか。」
フィーリィアはそう言うものの、衝撃が強かったのかフレイムアーマーを自動的に解除してしまっていた。
(もう一度付けるか……? いや、いくら俺が発動させるといってもフィーリィアの負担が無くなるわけじゃない。これ以上は…………)
「……ウルス、耳を貸して。作戦がある。」
「……何だ。」
フィーリィアがそう言うので、俺はミルたちを観察しながらその作戦の内容を聞く。それは…………
「……なっ………!?」
「……私なら、大丈夫。」
「しかし……『あの魔法』を使えば、ここで終わりだぞ。あれ以来練習はしていないし、調整もおそらく不可能だ…………それでも、やるのか?」
「………………うん。」
…………いくら、ここで終わってもいいからといって……過度に彼女の負担を増やすのは…………
(……いや、俺に……止める権利なんてない。できるのは…………)
「…………出し尽くすぞ、全部。」
「うん。」
選んだ道を、安心して歩けるようにするだけだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ライナ!」
「だ、大丈夫……ごめん、対応しきれなかった。」
「それは仕方ないよ、ウルスくんの動きを読むのは無理だしね。」
私はウルスくんに吹き飛ばされたライナの元へ駆け寄り、そんなやり取りをする。
「ウルスくんは一度動いたら、もう抑えられない。どんなに行動を制限させても、その制限から外れた動きで超えてくる……だから、動く前に叩くしかない。」
「そうだね……ほんと、すごいよ。」
ライナは悔しそうに……それでいて嬉しそうに呟く。きっと、この勝負を楽しんでいるのだろうが…………
(…………少し、複雑だ。)
ライナにとって一番大切な幼馴染が目の前……すぐにでも手が届きそうな所にいるのに…………彼女は気づかない、気づけない。
それはウルスくんも同じで、唯一残った大切な存在であるはずの彼女が、こんな近くにいるのに…………彼は伝えない、伝えようとはしない。
『……ああ、実はあだ名なの。多分そう言うようになったのは小さい頃に何度も名前を呼んでたから、いつの間にか勝手に短くしちゃったんだよね……だから今も癖でつい…………』
『名前……これも偶然何だけどね、私も初めて聞いた時は驚いたよ。こんな言い方ははしたないけど、『生き返った』って……そんなわけないのにね………』
『……ライナにとって、俺は死んだ存在だ。そんな奴がいきなり生きてるなんて言っても信じないだろ。それに…………』
『………おれは………いや、仮面のことがある。不用意に伝えるんじゃなくて、もっと落ち着いて、然るべき時に、言う、つもり…………だ。』
どちらの『想い』も知っている私からすれば、とてももどかしくて、心苦しくて…………哀しくなる。
『私にも、何かできるのではないか……このままでいいのか』………2人を見るたびに、嫌でもそう思ってしまう。
(ウルスくん……本当に、これでいいの…………?)
「っ……何か仕掛けてくる! 気をつけて、ミル!!」
「……えっ、あ…うん!!」
ライナの声に、意識を戦いへと戻される。そしてウルスくんとフィーリィアさんの2人を見てみると……何やら近寄って、魔法を放とうと準備していた。
「あれは……課題のときの……?」
「多分そうだと思う、でもあれは発動まで時間がかかるはず……どうする、今のうちに攻める?」
「…………いや、逆に利用しよう。あれは領域魔法、どっちにも損得があるから条件は同じ……だから、上手くやれば有利をこっちに引き寄せられる。」
何を考えてるのか知らないけど……使ってくれるなら、利用する他ない。
「ライナ、私と背中合わせになって。」
「見失わないように、だね!」
私の意図を瞬時に理解してくれたようで、ライナと私は互いの背中を守るように立ち、来るであろう魔法へと意識を向ける。
(さぁ………かかって来てっ!!)
「「『ブリザード・フィールド』!!!」」
「来たよ、ライナ!」
「了解!!」
瞬間、2人の作り出した氷と風の玉は地面へとぶつかり……激しい吹雪をこの舞台に巻き起こした。その結果、視界は濃い雪風に覆われ何も見えなくなってしまう。
(……多分、この吹雪に隠れて2人は攻めてくるはず。いくら魔力反応で感知できるとはいえ、1人なら非常に不味い状況だが…………)
「……………!!」
「っ、ミル!!」
「うん……はぁっ!!!」
「くっ……!」
ライナの声を聞き、私は近寄ってくる魔力反応……フィーリィアさんの位置を把握し、迎え撃つ準備をする。そして、私へと向けられた剣をレイピアで弾き返した。
「まだ来る……次はそっち!!」
「分かった……はぁっ!」
「………!!」
お互い声を掛け合いながら、時々飛び出してくるフィーリィアさんの攻撃を受け止めていく。彼女は例の魔力暴走が関係しているのか分からないが、他の人より若干魔力の反応が薄く感じ取りにくかったので少しやりにくいけれど……それでも対応するのはさほど難しくはなかった。
名前・フィーリィア
種族・人族
年齢・16歳
能力ランク
体力・64
筋力…腕・60 体・72 足・80
魔力・91
魔法・14
付属…なし
称号…【暴走する魔力】
「はぁっ!!」
「くっ……はぁ、はぁ……!」
フィーリィアさんのステータスの高さ…………本来ならこうも簡単にはいかないだろうが、彼女は今かなりの疲労感があるはず。
(魔力暴走をしないように、フィーリィアさんは魔法の発動に人並み以上の集中力と体力を使っている……加えて、あの派手な領域魔法。もう既に彼女は限界が…………)
「来てる……よねっ!!」
「ぐぅ!?」
だんだんと鈍くなってきたフィーリィアさんの突撃を、私は避けてからの反撃の振り下ろしでその場に止めさせながらダメージを与える。
「ライナ、畳み掛けよう!!」
「うん! ……はぁ!!」
「ぐっ、がぁっ……!!」
そして、怯んだフィーリィアさん目掛けて2人で攻めていき、どんどん彼女の魔力防壁を削っていく。対するフィーリィアさんはその攻撃から逃げようにも、疲れからの動きの遅さと段々と晴れてきた吹雪に隠れきれず、私たちの攻撃を避けきれていなかった。
「ア、アイススフィ……うっ……!?」
「無理はしないほうが良かった、ね!!」
「げほっ……ぐはぁっ!!」
完全に満身創痍な彼女目掛け、私はとどめの一撃を喰らわせ…………魔力防壁を破壊させた。
「終わりだね、フィーリィアさん。」
「はぁ…はぁ……くぅぅ………」
「…………こういうのもアレだけど、何でこんな……」
吹き飛び倒れ込んでいる彼女に、私はそう声をかける。
(……吹雪を起こして、フィーリィアさん1人だけで突っ込んでくる…………仮にこれが作戦だとして、ウルスくんがこんなの許すのかな……?)
…………あれ、そういえば……
「ま、だ…………おわって……な、い。」
「えっ、何が……?」
「俺が、いるからな。」
「「…………!??」」
刹那、すぐ隣から聞き慣れた声が聞こえた。そして次の瞬間………………
「『風神・一式』」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ブリザード・フィールドを発動した瞬間、私は2人に特攻して攻撃を仕掛ける。その間、ウルスはこっそり距離を詰めながら魔法……風神・一式を溜める。そして多分、私はその時間稼ぎでやられるから…………そこを突いて。』
(ここで…………終わらせる!)
「はぁぁっ!!」
紫風は2人を巻き込み、勢いよく押し出していく。
(本当なら『アレ』も連続で発動したいが………さすがにそれをやってしまえばオーバーキルになってしまう。かといってこれで仕留め切れるかどうかだが……)
2人にバレないように魔法を構築していたため、いつもより風神・一式の威力が劣ってしまっている。ほぼゼロ距離で放ちはしたが、おそらく…………
「…………強いね、本当に。」
「ここまで近づいていて気づかなかったなんて……私もまだまだだよ。」
(…………やはり、残ったか。)
紫風が明けた頃には、ギリギリで踏ん張ったのか途中で避けたのか知らないが……ラナとミルの2人は息絶え絶えに佇んでいた。
(ミルはともかく、ラナはこれで終わってほしかったが……不味いか、これは。)
この2人に対し1対2という状況になったのは、誰の目から見ても最悪の景色だろう。さらに言えば、ミルは俺の動きに慣れている……なので、生半可な揺さぶりは通用しないし、例え通ったとしても2人でそれらをカバーしてくるはず。
「……魔力も、あまり残ってないな。」
ブリザード・フィールドに風神・一式、残りの魔力ではジェットが1、2分飛べるかどうかの量しかない。つまり、ほぼ生身一つで戦うしかないということだが…………
「絶体絶命だね、ウルスくん! ここからどうするつもり?」
「……どうもこうも、勝つだけだ。」
目を閉じ、彼女たちが仕掛けてくるまでに集中力を限界まで高める。
『悪戯に力を使わずに、己の培ってきた技術と強さだけで相手に勝つ…………今を生きている人間には無い発想なんだ。』
(…………ちょうど、いい。)
アーストと戦うまでの肩慣らしだ。
「……………スぅ……」
今の、ステータスを抑えた俺がどこまでできるか……見せてやる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…………なに、あれ……」
「ど、どういう動きをしてるんだ、あの男……!??」
「相手は次席と夏の大会上位だぞ……なんであんなことに………!?」
「……やっぱり凄いね、ウルス様は。」
「……そうですね。」
観客の方たちが彼の……ウルス様の尋常ならざる動きに驚いている中、私とハルナは感嘆の声を洩らす。
そんな彼の動きとは…………一言で表すと 秩序 がない、だった。
(……体の脱力の巧さ、異次元なほどの集中力……そして、常識に囚われない柔軟な思考と発想。ウルス様の持つこれらの力が、このような光景を作り出しているのだろう。)
「「はぁっ!!」」
「…………ッ!!」
相手の……ミルさんと、確かライナさん。そのお二人が交互に剣を振るい、確実にウルス様を追い詰めようとしている…………のだが、彼はあらゆる方法でそれらを躱す、あるいは弾き……逆に相手を追い詰めていた。
例えば、一度ミルさんの剣を弾いた後のすぐさま降りかかってくる、絶対に避けも受けられもしないライナさんの剣を…………あろうことか、その剣身の腹を空いている肘と膝で挟み込み、無理矢理攻撃を阻止する荒業。
また、魔法と同時に迫ってくるライナさんの剣に対して、これもまたウルス様は避けたり受けはせず、剣を回転させながら魔法へと投げ飛ばし無力化、そしてライナさんの剣は魔法とぶつかって跳ね返ってくる剣で流れを崩し……逆に蹴り飛ばしてダメージを与える、無茶苦茶すぎる戦法。
「……ミーファ、あれできる?」
「…………無理ですね、例えウルス様と全く同じ力を持っていたとしても……まず『やろう』とは思えません。」
「だよね~、観てる方ですら何やってるのか分からないのに、自分でやろうとしたら頭がこんがらがるよねぇ。」
ハルナの言う通り、ウルス様の動きは……はっきり言って分からない。『何でそれをするのか、その行動に意味があるのか』……そう思わざるを得ないほどにぐちゃぐちゃで、予測ができない。
(……けど、それもウルス様の術中なのだろう。)
意味の有無を問わず、無理やり理論として考えさせ、体と頭を乖離を仕向ける…………自分で言ってて訳が分からなくなるが、そういうことなのだろう。
『…………ぇ……ウルス、さま……なにを………』
『……お前、たち……寝てるんじゃ、なかった……のか?』
『だ、ぇ、な……何し、してるの……!?? ウルス様、何をして、してっ…………??』
『……………………これ、は………』
(…………ウルス様。)
彼は、平気で何でもしてしまう。
無茶苦茶なことも、理不尽なこと…………辛いことも、『誰かのため』ならば、飛び込むことを厭わない。
もちろん、尊敬している。『誰かのため』、それだけでなんでもできる……ウルス様は、凄い。
(……でも…………やっぱり、怖い。)
『いや、必ずできる………………できなければ、俺に価値なんてないからな。』
……本当に、ウルス様はそれだけなんだ。
「…………『約束』、守ってくれていますか……ウルス様。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「……えっ……!??」」
私たちは揃って声をあげる。
その声の理由は……もちろんウルスくんの行動であり、彼は今、私とミルの挟み撃ちの剣を自身の剣の柄頭と切先で受け止めてしまった。
(ど、どうなってるの……!? さっきから全く攻撃が…………!!)
「こんなものか?」
「「くっ……!!?」」
ウルスくんはそう冷淡に呟きながら、私たちの剣を大きく弾く。そしてミルの方へと突っ込んでいき攻撃を仕掛けようとしていた。
「まずっ……!!」
「ミルっ!!」
私はすかさず体勢を立て直し、背を向けたウルスくんを斬ろうと振り下ろす……が、またもや彼は意味不明な動きでそれを阻止してきた。
それは、剣を突き伸ばしながらその場で前に宙返りし、私の剣撃を弾きながらミルの魔力防壁を攻撃する…………だった。
「なっ……!??」
「ぐぅっ!!?」
(よ、読めない……なんて話じゃない。これはもう……答えがない!)
ウルスくんの動きは……もはや『柔軟』という言葉で済ませられない。
人の…………人間の常識を壊す、狂気的な行動力とそれを実際にやってみせる強固な実現力。
(……敵わな…………いや、まだ!!)
「終わりだ、ミルっ!!」
「うっ……ぐわぁっ!!!」
「っ…………」
(ごめん、ミル……でももうこれしかない!!)
やられていく相棒を必死に無視しながら、私は魔法の準備をしていく。
前は利用されたけど…………今度はこっちが利用してみせる!
「…………やってみろ、ライナ。」
(バレて……いや、やるんだ!!)
「はぁっ!!!」
『業火の舞』
私は無詠唱でウルスくんの足元にいきなり魔法陣を現し、一気に炎の渦へと飲み込ませる。そして、ジェットで穴から抜け出してくるであろう彼を待ち伏せるように剣を腰深く構える。
(発動を急ぎ、且つ無詠唱だから威力はそれなりに衰えているだろうが……どうせウルスくんの行動は変わらない。)
ジェットで飛び出してきたところを、伸ばした剣で打ち落とす……あとはしっかり合わせられ…………
「…………どう、せ……!!?」
「らァっ!!!!」
自分の浅はかさに気づいた瞬間、ウルスくんは体をコマのようにジェットで回転させながら……炎の壁を突き破ってきた。
(まずい、とりあえず振って距離を取らせな)
「はぁっ!!」
「っ!??」
私は彼の強行に焦り、剣を横振りして間合いを詰められないようにしたが…………あろうことか、その振られる剣の腹を彼は下から蹴り上げ、空へと飛ばした。
そしてウルスくんはすぐさまジェットで飛び上がり、私の打ち上がった剣を掴んでから宙で身体を勢いよく回し始めた。
『ぎゃぁ!! 助けてウルスーー!!!』
『……大車輪。』
(あ、あれはローナさんが失敗したときのうご……!?)
「……ウらぁッ!!!!!」
「………………え」
チラついた思い出が思考を止めてしまい、それが消えた頃には……………私の目の前に、その伸びた剣が迫ってきていた。そんな考えられない攻撃に、私は避けようとすることもできず…………
「……ぐぁっ!!!?」
呆気なく、破壊された。
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