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九章 昇華する心 『Acquire』 (武闘祭編)
百五話 穴
しおりを挟む「……ふあぁ…………」
「おいおい、欠伸って……流石の俺も傷つくぞ?」
「……ああ、ごめんなさいっす。ちょっと眠たくなっただけで、別にソーラさんとの戦いが退屈ってことじゃないっすよ。」
「本当かぁ~? まあ油断してくれるのに越したことはないがな!」
ソーラさんは胸を張りながらそう言う。
準決勝…………俺の相手はあのソーラさんだった。
(ソーラさんは……基本近接。カーズさんのように、彼の場合魔法が上手くなってる可能性もあるが……そこは考えても仕方ない。)
ローナさんが負けたことによって、もう俺たちにはあとがない。いくら俺の肝が座っているとはいえ、これでも多少は焦っているが……だからといって、できないことができるようになるわけじゃない。
(慎重かつ大胆…………いつも通りやるだけだ。)
『それでは、シングル2の試合を開始します。用意…………始め!!』
「……………」
「…………来ないのか、ニイダ?」
「……そっちこそっすよ。」
始まりの合図が鳴るが、お互い動き出そうとはしない。ソーラさんがいきなり攻めてこないのは少し意外だが……やはり魔法で来るつもりなのだろうか。
「いいんすか、ソーラさん。待つだけならただあなたが不利になるだけっすよ?」
「あのクナイを降らせる魔法のことだろ、知ってるさ。でもまだお前は溜めに入ってないだろ?」
「隠してるだけかもっすよ?」
「いいや、溜めてないね。その証拠にお前の手はまだ光ってないからな。」
(…………バレてる、意外とよく見てるな。)
苦無ノ舊雨……魔力を溜めれば溜めるほど降ってくる数、威力が増加する非常に強い魔法だが、短所としてその魔力を溜めている手が薄く光ったり動きが若干鈍ったりしてしまう。
動きの鈍さは何とでもなるが……光ってしまう癖はまだ直せていない。かといって何も考えず隠せばそれはそれで不利になるし、何かと合わせて使わないとソーラさんには効かないだろう。
「……仕方ないっすね、じゃあ俺から攻めるっすよ!」
「ああ、かかって来い!!」
このまま待ってもジリ貧なので、大人しく俺は短剣を構えながら彼目掛けて前進する。
対するソーラさんは、特に武器を構える様子もなく……ただ俺の接近を待っているだけだった。
(格闘……それか魔法か。だが、わざわざ素手でやりあう理由はないはず。だとすれば例の…………)
「…………燃えろ、『ドラゴンブレス・ファイア』!!」
「っ……やっぱりそれっすよね!」
もうすぐ剣が届きそうといった所で、ソーラさんは筒のように形取った手を口に付けて炎を飛ばしてきた。
その炎が思ったよりも速く、距離も近かったため少し魔力防壁を掠らせてしまったが……大事には至ってない。
「やっぱり、避けるよな……!!」
(……鈍いが、動けてる……ウルスさんの話とは違ってるな。)
ウルスさん曰く、ドラゴンブレス・ファイア発動中は動けないって話だったが……きっとこの武闘祭に向けて改良したのだろう。
だが、それでも動きは通常の半分程度。上手く炎を捌ければ全然追いつける速さだ。
「待ってくださいっすよ……ソーラさん!」
「余裕そうだな……じゃあ、コレならどうだっ!!!」
(コレ………?)
「……そろそろ……なっ、渦……!?」
頃合いだと感じ、迫ってきているであろう炎を見るために後ろを振り返ると、そこには……渦巻き状に回転しながら飛んでくる炎があった。
(まずい、これは……!)
「ぐっ……!!」
ただ炎が伸びてくるだけだと勘違いしていた俺は、渦を巻いたことによって実質的に太くなったそれに焼かれ……吹き飛ばされてしまう。
そして、吹き飛んでいく俺を避けながらソーラさんは魔法解除し、得意顔で語り始める。
「どうだ? 炎そのものを太くしなくても範囲は広げられるんだ!!」
「……面白いっ……発想っすね!」
受け身を取り、すかさず俺は体勢を立て直して軽く褒め称える。
(……渦状ならば、魔力消費を抑えて攻撃範囲を広げられる。合理的だな………)
……しかし、こうなるともっと大袈裟に避けないといけなくなってしまう。かといってそれでは距離は詰められない……どうしたものか。
「もう一回いくぞ……『ドラゴンブレス・ファイア』!!」
「またっすか……!」
どうする……今から避けるのに専念して苦無ノ舊雨を溜めるか………けどその場合、今度はあっちから攻めてくるはず。そうなった場合、結局俺から攻めて行かないと対応はしきれない。
(考えろ……必ずどこかに穴がある。そこさえ付ければ、崩すのは簡単なは…………)
……………『穴』?
「いや……あるっすね!!」
「来るか、さっきと同じように焼いてやる!!」
俺がただ同じように突っ込んでいったと勘違いしているのか、ソーラさんは例の渦巻き炎をこちらに飛ばしてくる。それを確認した俺は、短剣・燕の魔法を使って自身の敏捷力を高めてギリギリのところまで接近する。
「なんだ、自滅する気か!?」
「んなわけ、ないっす…………よっ!!」
適当な返事をしながら、俺は体を細くし…………丁度、渦の中心部分へと飛び込んだ。
「えっ……まさかそんな……!??」
「もっと締めるべきだったすね、ソーラさん!!」
「くっ…………!!」
ソーラさんの、炎を渦巻きににして避けにくくする作戦は悪くなかったが……欲張りすぎたのか、如何せん渦の『穴』が大きすぎていた。
それでも直立の状態じゃ当たると思っていたのだろう、完全に予想外な行動をした俺を見てソーラさんは慌てて炎を解除し、盾と剣を構え始めた。
「諦めが早いっす……ねっ!!」
「っ!? 何だその速さ……!!?」
俺は転がりながら、その勢いを利用し立ち上がって地面を蹴り出し、一気に最高速まで上げてソーラさんの元まで接近する。
そんな身のこなしも予想外だったのか、ソーラさんは俺の来るであろう攻撃をただ防御するためだけに盾の後ろに身を固めた。
(これなら……いける!!!)
「うっ、ぐっ……ぐぉっ!?」
短剣を盾にぶつけ、その跳ね返った勢いに従うように後退し、今度はその勢いを足して再び短剣を振るう。そしてまた受け止められた衝撃に抵抗することなく下がり、また同じように攻めていく。
これらを繰り返して行うことでどんどん俺の動きのキレは上昇していき……やがて、ステータス以上の速さと威力を備えていった。
「もうそろそろ、対応しきれないっすよね!」
「なっ、速すぎ……がはぁっ!!?」
高速の斬撃はソーラさんの反応速度を上回り、彼の魔力防壁を思うままに斬りつけた。そしてその威力はとてつもないものだったようで、彼は握っていた武器たちを手放しながら大きく吹き飛んでいった。
「がっ、ぐっうぅ………!」
「あら……ギリギリ持ち堪えたっすか、流石っすね。」
しかし、寸前のところで決められなかったからか、ソーラさんの魔力防壁は壊れる一歩手前のところで何とか留まっていた。
衝撃が体に少し走っているのか、ソーラさんはゆっくりと立ち上がりながら俺を見据える。そしてもう後がないと悟ったのから、手を三度口元へと持っていこうとしていた。
「こうなったら……もうこれしか…………!」
「あっ、もう駄目っすよ……ほら、上。」
「っ……まさかっ………!!?」
俺は空を指差し、その先には…………少量ではあるものの、それなりの量のクナイがソーラさんに空から降ってこようとしていた。
『苦無ノ舊雨』
「いい勝負だったすよ、ソーラさん。」
「く、クソ……ぐぁぁっ!!!」
クナイの雨はソーラさんを攻撃していき……明けた頃に彼の魔力防壁は完全に破壊されていた。
『……そこまで!! 勝者、第1チーム!!』
「……後は任せたっすよ、2人とも。」
息を吐きながら、俺はそう呟いた。
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