二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す

SO/N

文字の大きさ
上 下
104 / 291
九章 昇華する心 『Acquire』 (武闘祭編)

百二話 鳴らした

しおりを挟む



 ハルナとミーファと再会した、その2日後………ついにその日がやって来た。



「…………あっ、やっと帰って来た! もうどこ行ってたのウルス!?」
「すまん、ちょっと野暮用があったんだ。」
「それにしてもギリギリっすね……まあ間に合ったからいいっすけど。」


 武闘祭、本番当日。俺は少しをかけるために時間ギリギリまで出かけていた。そして何とかその用事も終わり、ローナたちと合流して大会の準備をさっさと終わらせていく。

「……何の野暮用だったの?」
「ああ、本当に大したことじゃないから気にしないでくれ。」
「えぇーますます気になるっすねぇ?」
「もう、みんな緊張が無さすぎだって……私なんて腕がプルプルしちゃってるよ!」



「…………よし、待たせたな。」

 ギャーギャーとみんなで騒いでいるうちに俺は戦う準備を完了させ、みんなにそう声をかけた。
 そして時間も迫って来ていたため、俺たちは早々に控え室を出ようとしたところ…………急に前を歩いていたローナが何やらポケットの中を探り始めた。

「どうしたんすか、ローナさん? ちゃんと前見ないと危ないっすよ。」
「えっと、確かここに…………あった!」
「…………赤い鉢巻はちまき?」

 フィーリィアの言う通り、ローナがポケットから取り出したのは4本の至って普通の赤い鉢巻だった。すると、彼女は俺たちにそれぞれ1本ずつ渡してからその鉢巻を自身の頭に巻き始めた。

「…………これでバッチリ、みんなも付けてね!」
「ローナ、何なんだこれは?」
「『何なんだ』って、チームの証だよ!! やっぱり仲間たるもの、連帯感は大事だからねっ!」
「そういうことっすか……ならっ。」

 そう言ってニイダは頭……ではなく、自身の灰色のスカーフに結ぶように巻き付けた。それを見た俺は腕に、フィーリィアは手首に鉢巻を括り付けた。

「えっ、頭に付けないのみんな?」
「……まあ、頭だと引っ張られたら不味いからな。」
「…………頭に締め付けられる感じが、好きじゃない。」
「あ、俺は趣味っす。」
「…………さ、さいですか……」

 自由な俺たちに言葉が出なかったのか、何とも言えない表情でローナは呟く。まあ本当はどこでも良いんだが……何となくだ。



『……それでは、只今ただいまより武闘祭・1年の部を開催します。まず初めに当たるのは第1チームと…………』


「おっ、始まったっすね。」
「よし、じゃあ呼ばれる前に円陣を組もう!!」
「円陣……私はちょっと……うっ!」

 フィーリィアの有無を言わずに、ローナは無理やり俺たちの肩を掴んで円を作り…………何故か俺に振ってきた。

「それじゃあ……リーダーのウルス! 何かみんなに向けて一言を!!」
「………ここはローナじゃないのか? というかこのチームにリーダーなんていないだろ。」
「まあまあ、何だかんだこういうのはウルスさんが適任っすから。このチームを引っ張ってきたのもウルスさんっすし、誰も異論は無いっすよ。」
「……私も、ウルスがリーダーでいい。」
「………………はぁ。」

 流れでリーダーになってしまったが…………まあ、仕方ない。




「…………俺たちは、今日まで厳しい特訓をしてきた。その成果を見せつけるためにも………












 …………………絶対優勝するぞ!」
「「おぉっー!!!」」
「………おぉー」




















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















『それでは、1回戦第1試合……第1チームと第2チームの勝負を開始します! シングル1の選手は登場してください!!』


「頑張ってね、ニイダ!!」
「おっす、すぐ終わらせてくるっすよ~」

 ニイダは初陣にも関わらず、そんな飄々ひょうひょうした様子で舞台へと上がっていった。
 そんな様子が少しアレだったのか、フィーリィアは不安そうに俺に聞いてきた。

「……いきなり上位スプリアのいるチームと当たったけど…………大丈夫なの?」
「心配ない、俺たちはもう十分強い。それに……例え誰が相手でも、落ち着いて対処していけば勝てないなんてことはない。上位スプリアだろうがだろうが……な。」
「…………うん、そうだね。」

 俺の言葉にフィーリィアは納得したのか、安心しながら舞台の方へと顔を向けた。


『……それでは、シングル1の試合を開始します。用意…………始め!!』


「じゃあ……いくっすよっ!!」
(……速攻か。)

 試合の開始と同時に、ニイダは対戦相手目掛けて突撃していった。おそらく相手の長物の武器を見て、懐から崩していこうと考えたのだろう。
 相手も当然それを警戒したようで、距離をとりながらニイダに魔法を放ってきた。

「燃やせ、『フレイム』!」
「よっと。」
「なっ……!?」

 しかし、飛んでくる炎を軽やかに避けたニイダはそのままスピードを落とさず前進していく。

「くっ……このっ!」

 あまりにも簡単に避けられたことに焦ったのか、相手はまんまと両手剣を引き抜きニイダを待ち構えてしまった。
 それを見たニイダは…………したり顔を作った。


「……………はっ!!」
「は、速っ……ぐはぁっ!!?」

 相手の間合いに入った瞬間、ニイダは左右にフェイントを織り交ぜていく。そしてさっき以上のスピードを直前に解放することで相手に錯覚を起こさせ、視界から消させた。
 その結果、相手は完全に対応が遅れてしまい……ニイダの短剣に斬り刻まれていった。

「ぐぅっ、がぁっ、あぁっ!!!?」
「ほらほら、終わっちゃうっすよぉ~?」
「く、クソっ……うぉあっ!!!」

 ニイダの煽りに反応した相手は、がむしゃらに剣を振るって彼を引き離そうとしたが……ニイダは完全に軌道を読み切っていたようで、楽々と斬撃を躱しながらどんどん攻撃を続けた。


「す、凄い……相手の剣も遅くは無いのに……!」
「……ニイダは動きのキレが人一倍極まってる。だから、咄嗟のことでもすぐに体が反応できるんだ。」

 それに加え、相手を分析する観察眼に……魔力に対しての敏感さ。これらを今以上に戦いで扱えるようになれば、いつか唯一無二の戦闘スタイルを確立できるだろうな。



「これで………トドメっす!!!」
「ぐっ、ぐぁぁっ……!!!?」


 ニイダは混乱したままの相手に渾身の一撃を喰らわせ……魔力防壁を破壊した。


『……そこまで!! 勝者、第1チーム!!』




「ふぅ……こんなもんすね。」













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














『続いて1回戦第1試合、シングル2の選手は登場してください!』


「ふぅ……じゃ、じゃあ行ってくるっ!」
「頑張って、ローナ。」
「勝って2人の出番を減らしてくださいっすねー」
「おい……余計なプレッシャーをかけてやるな。」

 ローナは緊張していたのか、体を小刻みに震わせながら舞台へと上がっていった。

「まあまあ、大丈夫っすってローナさんは。何てったってあの魔法があるっすから!」
「おそらく、相手はローナが使えることは知らないからな。隙を突けばまず間違いなく勝てる。」
「あとは……あの緊張だけ。」

 


『……それでは、シングル2の試合を開始します。用意…………始め!!』



「吹け、『エアボール』!!」
「い、いきなりか……はっ!」

 開始早々相手が風の球を牽制として飛ばしてきたが、ローナは難なく避けていく。それは予定通りだったのか、相手は彼女が避けたのを見てから接近していく。
 対してローナは自身の普通武器である片手斧・ベアーアックスをボックスから取り出して待ち構えた。

「『フレイムアーマー』……はぁっ!!」
「っ……だが、わっ!!」

 ローナはそのままフレイムアーマーを発動し、腕と足を炎でコーティングして勢いを増させた斧を振るったが……その性質を相手は知っていたのか避けられてしまう。
 すかさず相手は細剣で突き、ローナの魔力防壁を軽く傷付けさせた。

「うっ……!」
「隙ありっ………!!」

 その突きに怯んだローナを見て相手は好機と判断したのか、さっき以上に距離を詰めて斬り飛ばそうとした。

「あ、危ない……!」
「……いや、。」
「………え?」


 …………おそらく、今ので相手はだろう。


『フレイムアーマーはただの飾り、大した効果はない』…………と。


「…………いまっ!!!」
「なっ……ぐぅっ!!??」

 細剣が届きそうになった瞬間、ローナは片手斧を握っていない方の手を握りしめ……思いっきり突き上げた。
 その速さは明らかに先ほど見せた斧のスイングよりも高く、反応すらさせずに相手を吹き飛ばした。

「うぉっ、何すかあの加速! あんなにローナさんの拳って速かったっすか?」
「元々あんなものだ……ただ、ローナは拳を速くようにはしていたな。」
「速く……感じさせる?」
「ああ。最初、ローナが斧を振った時はあんまり速く感じなかっただろ?」
「……確かに、いつものフレイムアーマー発動時よりは遅く感じましたね…………あっ、なるほど。そこからローナさんお得意の武術を見せたら、急に速くなった攻撃に相手も驚いて反応できないってことっすか?」
「……まあ、そういうことだな。」

 正確に言えば、フレイムアーマーは性質的に五体ごたいその物で動いた方が恩恵を受けやすいようで、武器やらでの加速はあまり乗らないようだ。
 対して、拳やら蹴りには存分にその効果を発揮する。元々ローナはそういったスタイルの方が得意なので、まさにピッタリな魔法だな。

「はぁっ!!!」
「がはぁっ……つ、強い……!!?」

 続けざまの蹴り飛ばしもクリーンヒットさせた結果、既に相手の魔力防壁はボロボロになっていた。
 そして、想像以上の威力と速さにすっかり怯えてしまったのか、相手はあからさまに距離を取って魔法攻撃へと切り替えていた。

「と、飛んでいけっ『アクアランス』!! …………んなっ!?」
「そんな水じゃ、私のフレイムアーマーは剥がせないよっ!」

 しかし、相手が飛ばした水の槍たちはローナの鎧にぶつかった途端に蒸発し、完全に無意味なものとなってしまっていた。

「じゃあ……そろそろ終わらせるからっ!!」
「お、終わらせ……!?」

 ローナはそう宣言し、フレイムアーマーを解除する。そして、片手斧を深く構え…………詠唱した。




「『ジェット』!!!」
「じぇ、ジェットってまさっ…ぐぅっあっ!!?」



 瞬間、ローナはジェットを爆発的に発動させ………相手に対応させる暇もなく、吹き飛ばした。
 その結果、相手の魔力防壁は呆気なく崩壊し…………





『……そ、そこまで!! 勝者、第1チーム! また、これによって既に2勝を収められたので………この戦いの勝利チームは、第1チームです!!!』









「やったよみんな、2回戦進出だー!!!」

 試合が終わった途端、ローナは嬉しそうにピョンピョン跳ねながらこちらに戻ってくる。
 そして、その喜びを分かち合おうと…………手を軽く上げて、ハイタッチを求めてきた。

「……何、それ?」
「えっ、何ってハイタッチだよっ!」
「そうそう、こうやって……はいっ!」

 フィーリィアはその手の意味が分からなかったようで、ニイダが代わりにおちゃらけながらその手を鳴らした。

「いぇーい!! ほらっ、フィーリィアも!!」
「えっ、あっ……えいっ。」
「いぇい!!」

 フィーリィアは困惑しながらも、小さくローナに手を合わせた。


 そして…………やがて、その手はこちらにも向かれた。


「はい、ウルス!! …………って、どうしたの?」











『………別に、やる必要ないだろ。』
『えぇ、つれないっすねぇー』








「…………いや、何でもない。」



 引っ掛かっていた『何か』を振り払い、彼女の手を…………俺は、軽く鳴らした。




「…………やったな、ローナ。」
「うんっ!!」




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

プリズム―黒と白と七色の冒険譚―

Kyon*03
ファンタジー
『ブラックホール!』……とメイド服を着た銀髪の女性が言い放ち、主人公タリムは“赤のオーラ”が使えなくなってしまった。 赤のオーラが使えなくなったタリムは、オーラを取り戻すため、幼馴染のオペラとともに旅に出るのだが……。 ※小説イラストは「すぐつかレルンさん」に描いてもらいました! X(旧:Twitter)⇒ @Sugutsuka_Rerun

第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。 野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。 その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。 果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!? ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

処理中です...