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九章 昇華する心 『Acquire』 (武闘祭編)

九十八話 メンバー

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「ねぇ、ウルスって武闘祭に出るの?」

 学院長と話をした数日後。ラリーゼ先生から武闘祭の説明がされた授業終わりに早速、ローナがそう聞いてきた。

「ああ、出るつもりだな。」
「じゃあ私と組もうよっ、ウルスが居たら百人力だし!」
「百人力かは分からんが……いいぞ。」
「ほんとに!? やったぁ!!」

 俺が二つ返事で承認すると、ローナは大袈裟に喜ぶ。断るとでも思っていたのだろうか。



『頼む……生徒たちの『可能性』を広げるためにも、お前の力が必要なんだ。どうかやって見せてはくれないか。』




『世界の広さを、お前に叩き込んでやる。』


 
 学院長の願いとアーストに言った、あの言葉…………それらを証明するためにも、今回は勝ちに行く必要がある。

(ステータスを抑えて、アーストやライナたち上位スプリアを倒す……流石に簡単じゃないな。)

 仮にもこの学院で実力者として君臨している奴らだ、舐めてかかれば負ける可能性も十分にあり得る。それに……武闘祭は『団体戦』だ。

「シングル戦が2つ、タッグ戦が1つの4人構成……だったよね、あと2人はどうする?」
「そうだな……とりあえずミルに声を…………」
「呼んだ、ウルスくん?」

 話を聞いていたのか、後ろからそんなミルの声が聞こえてきた。振り返ると、そこにはミル以外にもソーラやカーズ…………そしてラナが、何故か並んで立っていた。

「あ、いいところに! ミル、私たちと一緒に……」
「……ローナ、残念だがミルは無理らしい。」
「えっ?」

 俺がローナにそう言うと、ミルはふふんと自信満々に胸を張り、話し始めた。

「その通りっ、私はもうこの3人と組むって約束したの! だから一緒には組めないよ!」


「……なんでそんなに自信満々なんだ……?」
「多分、ウルスくんを驚かせたかったんじゃないかな……?」
「そ、そんなことでウルスさんが驚くんですか……?」
(………………)


 こそこそと聞こえる3人の会話に、俺はため息を吐きそうになる。そんなことで誇らしげにされても………

「………じゃあ仕方ない、他の奴を探すか。行くぞローナ。」
「はーい、残念だなぁ。」
「えっ、も、もっと寂しがってよぉ!?」

 聞こえてくる情けない声を無視しながら、俺たちはミルの元を離れて人を探そうと廊下に出た。

「せっかくなら知ってる人と組んだ方がいいよね、タッグ戦でも連携が取りやすいし。」
「ああ、あいつら以外の俺たちの共通の知り合いは……………」
「俺のことっすかね?」
「…………え、うわぁ!?」

 誰にしようかと2人で話していた時……背後から驚かすように奴が俺たちの耳元で囁いてきた。そして、そんないきなりの囁きに驚いたのかローナが飛び下がってしまう。

「ニ、ニイダ!!? びっくりしたぁ……!!」
「……いきなり後ろから話しかけるな、気持ち悪い。」
「ひ、酷い言い草っすね……それで、まだ枠は空いてるっすか?」
「枠………もしかして、ニイダが私たちのチームに入ってくれるの?」

 ローナの言葉に、ニイダはグッと親指を立てる。ニイダは俺たちとの関わりが深く実力も確かであり、まさに求めていた人材だが…………

「………………まあ、そういうことなら俺たちの入ってくれ、ニイダ。」
「……なんか渋々って感じに聞こえるっすけど……気のせいっすよね?」
「……これで、あと1人だな。」
「ちょっと~無視っすかぁ~?」

 …………個人的にしゃくだから渋った……とは言えないな。

「うーん、誰かいるかなぁ……そこそこ強くて私たちと気が合うような人は…………」
「………あっ。いるじゃないっすか、が。」
「『あの人』? ……言っておくがミルとライナ、ソーラにカーズはもう……」
「その4人じゃないっすよ。もう1人、適任の余ってる人がいるじゃないっすか。」
「余ってる…………」


 …………ああ、『彼女』のことか。
 

 








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「…………私が、武闘祭に?」
「ああ……どうだ、フィーリィア? 一緒に出てくれないか?」

 俺たちは再び教室へと戻り、その隅っこに座っていたフィーリィアに声をかけた。そんな彼女は何故と言わんばかりに首を傾げる。

「……何で、私?」
「何でって、強いじゃんフィーリィアは! 初日のタッグ戦だって私とミルを圧倒してたし……何より友達だからね!!」
「そっすね、俺もフィーリィアさんが居てくれたら心強いっすけど……駄目っすかね?」
「………………」

 2人の力説に戸惑いながら、俺の方へと目配せをしてくる。その意味を悟った俺は、彼女にこう言った。


「……大丈夫、俺が。だから、何も遠慮なんてしなくていい。」
「………………ウルス……」


 ………ローナとニイダは、彼女が魔力暴走を持っていることは知っているのだろうが、その魔力暴走がどういう物かは詳しくは知らない。だからもし暴走してしまったら嫌われるかもしれない……そうフィーリィアは考えたのだろう。

 しかし、だったら暴走させないようにすればいいだけの話だ。最近は少しずつだが魔法も使えるようになってきたし、無茶をしなければ大事には至らないはず。仮に、万が一暴走しても……俺が支えればいい話だ。


「それで……どうかな、フィーリィア?」
「…………うん、いいよ。私もチームに入れて。」
「おっ、そうこなくっちゃっすね!」

 俺の言葉にフィーリィアは安心したようで、首を縦に振った。するとローナとニイダはこれまた大袈裟に喜んでいた。

(これで4人揃った。あとは………)
「……構成はどうする? 誰がシングル・タッグに出るかあらかじめ決めておかないと。」
「そうだね……確か毎試合ごとに誰がどれに出るのか選べたと思うけど…………やたらめったら変えるのも駄目だよね。」
「なら、固定した方がいいっすね。その方が練習もしやすいっすし。」
「…………うん、それがいいと思う。」

 ニイダの言う通り、毎回シングル戦やらタッグ戦に出るメンバーを入れ替えるのは練習することを踏まえても効率が悪い。それをするくらいなら多少、相手に分析されやすくとも出る試合は固定させておいた方が、特訓もそれ一本に集中できるな。

「じゃあ、肝心の誰がどれに出るかっすけど……俺はやっぱり強い人がシングルに出た方がいいと思うんすよ。タッグ戦なら、仮にステータスやらで負けていてもまだひっくり返しやすいっすし……どうっすか?」
「私はニイダの意見に賛成! もしそうなったらシングルに出るのはウルスと……ニイダとフィーリィアってどっちが強いの?」
「…………分からない、けど…………私、タッグ戦の方がいい。」
「? どうしてっすか?」

 フィーリィアの要求にニイダが何故と聞くと、彼女は恐るおそる話し始めた。

「……私は、魔法があんまり上手くない。だから、もし1対1で魔法勝負になったら……勝てない。」
「え、そうなの? でもフィーリィアの魔法ランクは私たちの中の誰よりも高いんじゃ……?」
「…………でも、ごめん………まだ自信が、ない。」
「『まだ』? それってどういう……?」

 フィーリィアの言葉に疑問を持った2人を見て、俺は会話に割って入り、彼女のことについて説明し始めた。

「2人とも、フィーリィアに『魔力暴走』の称号が付いてるのは知ってるよな?」
「う、うん。何か『感情が高まったり、不安定な状態で魔法を使うと体内の魔力が暴走する』って書いてあるけど……その暴走ってどういう物なの?」
「ああ、それは。『暴走』といっても使った魔法がちょっと変になるで、そこまで危険でも何でもない。肝心なのは……この称号を持っていると、魔法ランクの高さに関係なく魔法が上手く使えなくなるってところだ。」

 嘘と真実を織り交ぜながら、俺は2人に魔力暴走について軽く話す。


 

『私は、昔からまともに魔法を使えなかった……そのせいで、沢山の人を傷つけてしまった。』

『……………』

『……だから、暴走しないために……人との関わりを捨てた。』



 フィーリィアは魔力暴走で周りの人たちか傷つき……また、その危険性を知った人たちが離れていくことを恐れている。おそらくローナたちがそれを知ることになっても、きっと彼女を否定することは無いだろうが…………それでも話すのは嫌なはずだ。
 だが、いつまでも隠せるような称号じゃない。俺の神眼で表面上消すこともできなくはないが……それじゃあ本人も周りも訳が解らなくなる。

 だったら、『危険でないと言い張って現状を伝える』…………俺が今の彼女にできるのは、これしかない。


「………へぇ、。」
「そ、そうだったんだ……ごめんねフィーリィア、無理言っちゃって。」
「……ううん、大丈夫。悪いのは私だから。」
(………………違う。)

 そう情けなさそうに告げるフィーリィアに、俺は心の中で呟くが……………今はそれを留めておいて武闘祭の話を再開する。

「……そういうことで、フィーリィアはタッグ戦に出てもらう。2人ともそれでいいな?」
「うん、タッグ戦なら魔法が無くても何とかなるし……あっ、そうだ! だったらウルスもタッグ戦に出れば?」
「……確かに、2人は以前オリジナル魔法作りで組んだこともあるっすし、1番やりやすいかもっす。フィーリィアさんもせっかくならウルスさんと戦いたいっすよね?」
「えっ、えっと…………う、うん。」

 ニイダが謎のにやけ面でフィーリィアにそう聞くと、何故か彼女は動揺しながら恥ずかしそうに頷いた。

「ウルスさんもそれでいいっすか?」
「ああ、構わない……となると、お前たち2人でシングルをやってもらうことになるが……いけるな?」
「もちろん、ウルスがシングルに出られなくても私たちが勝てばいいだけだからね!」
「ウルスさんばりに勝てるかは分かんないっすけど……折角の祭りですし、やってやるっすよ!」

 


 このチームには1人も上位スプリアはいないが、3人ともポテンシャルは上位スプリアに劣らないはず。ニイダやフィーリィアはそれこそ奴らと遜色そんしょくないほどの実力は持っているし、ローナにはジェットがある。


(この3人となら、必ず勝てる……そのためにも、俺がしっかりしておかないとな。)





「よし、じゃあ早速練習だっ!! 行くよみんなー!!」

 そう言ってローナはやる気満々で教室を飛び出した。だが…………







「……今日って、まだ授業があったような。」
「もう行っちゃったっすよ……どうするっす?」
「…………呼びに行くか。」

 …………やる気があり過ぎるのも、困りものだな。

 
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