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八章 夏期休暇

八十二話 結果論

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「…………結局、分かんないことだらけだなぁ……」


 学院長室でウルスくんたちとあれこれ話をした日の夕方、私は1人学院内を散歩していた。

『……今日はここまでにしておこう。これ以上考えても憶測にしかならないからな。』


『俺は一応その本を探してみる。2人はもう疲れただろうし、先に帰ってろ。』


『じゃ、俺も図書館にでも行ってくるっすよ。案外そういうところにあるかもしんないっすからね、今日明日は襲撃で休みになったし……じゃミルさん、また明日!』


「…………なんか、私だけ置いてきぼりな感じが………」

 ……まあでも、私はあんまり賢くない。周りの人たちと比べても色々知識が無いし、社会常識? みたいなのもまだ勉強中だ。お金の単位だってつい最近覚えられたし…………私もウルスくんと一緒に旅に出れば良かったなぁ………

(……まあ、断られたけど。)

 危険だからなんだろうけど……ウルスくんと一緒ならそんな危ないことになんてならない…………


『それじゃあ……ミル。学院じゃ、ずっとウルスと一緒に居られるわけじゃない。例えウルスがいなくても1人で何でもできるよう、成長するんだぞ。』


「……いや、何でもかんでも頼ってちゃダメだ。グランさんの言う通り、私1人でも何かできること、を………?」


 ……………ん? あれは………ライナ?


「ライナ~何してるの?」
「……ミル? どうしてここに?」

 色々考えながら歩いていると、何故かライナが1人で広場のベンチに座っていた。

「私は散歩中……ずっと座ってたからね、もう体がバキバキだよ!」
「こんな時間まで……? そんなに話し込んでたの?」
「うん、だって…………」

 …………あっ。

「だって?」
「だ、だって……そう! 学院長って英雄だから、色々と聞きたいことがあって……こ、こんな時間までなっちゃった!!」
(……そんな話、全くしてないけどね。)

 神界魔法のことはともかく、私がペラペラ喋っちゃうと多分ボロがでちゃう。ウルスくんもこれ以上バラしちゃ駄目って言ってたし、下手に話すくらいなら黙ってた方がいい……はず。

「あ、隣座っていい?」
「……うん、いいよ。」

 私は誤魔化すように隣へと座る。とりあえず話は晒せたようだ…………

「………………」
「………………」

(……………何か、重い……)

 お互い、特に話すこともなく時間が流れていく。いつもならすぐに私が何か話題を出すのだが……ライナから放たれる謎の重苦しい雰囲気に気圧され、何も言い出せずにいた。

(……仮面の人たちとの戦いが、まだ影響してるのかな……?)

 ラリーゼ先生が治してくれたって言ってたけど……というか、ラリーゼ先生って実は結構………




「…………私ね、幼馴染がの。」


 不意に、ライナが話し始めた。

「……? 幼馴染?」
「……うん、私が昔住んでた村にいたの。私のことをいつも気にかけてくれた、優しい男の子。」
「……へぇ、そうな…………?」

 唐突で見えてこない話に驚きながらも、ライナの憂う顔に言葉が詰まってしまう。

(え…………?)

 見たことのない、心が揺れてしまうような表情…………そんなライナに私は、ただ聞くことしかできなかった。


「…………でも、私の住んでた村は……盗賊か魔物の仕業で、無くなった。」
「……!?」
「私と私の家族は、その日たまたま旅行に出てて助かったけど……村のみんなと、幼馴染は…………」


『……!! ウルくんは!?』
『えっ、ウルクン?』


(もしかして昨日の、あの名前はその幼馴染………?)

「私は、その幼馴染の夢を追いかけるためにここに来たの……まあ、まだまだなんだけどね。昨日も全然立ち向かえなくて……嫌になっちゃうよ。」
「で、でも……それは仕方ないよ。相手が強すぎただけだから……ライナは何も悪くないよ。」
「…………違うよ、そういうことじゃないの。」

 違う……?

「赤仮面にやられて、ボロボロになって『ある人』に助けられて……私、甘えちゃったんだ。」
「あ、甘え……る……??」
「『もう助かった、あとは任せても大丈夫』って…………大丈夫なんて、何処にもなかったのに。」
「……………!」


 その言葉に、私は目を張る。



「……昼の時、ウルスくんは私を褒めてくれたけど…………でも、よく考えたらそれは結果論でしかないなって……もっと良い判断があったんじゃ、ないかって……」

 俯き、顔を顰めるライナ。

 それを見て私は……………








「…………私も、そういうのあるよ。」

 自分を蔑める彼女に、私はを出す。

「私も、今回はウルスくんの判断に従っただけで……何もできなかった。ライナが外にいることは私だけが知ってたし、もっと私が冷静だったら……ライナをもっと速く助けられたかも知れないのに………………





















 …………これが、『』だよ。」

「……え、えっ?」


 私のどんでん返しに、ライナは口をだらしなく空ける。


「ライナの言ったことも、私が言ったことも結局は結果論。確かにその場その場だったらもっといい方法があったかもしれない……でも、それを証明することなんてできないでしょ?」
「……………」
「結果論を言えるのは、結果が見えた時だけ……それでも考えちゃうのは、自分の行動に自信が持てないから……だと思うの。」
「自信…………」
「そう、自信……自信を持とうよライナ! 後悔じゃなくて活かそう、まだここから私たちは強くなれる!!」




 ……さっきまでの、私の考えは…………間違ってたんだと思う。

 
 ウルスくんが私を旅に連れてのは、保証……私を連れてまでその『過酷な』旅に、私を守れる保証がなかったから……なんだと





『ねぇライナさん! ひとつ提案があるんだけど!』
『て、提案?』
『うん……私たちってもう友達でしょ? だから、これからは私のことをミルって呼んで! 私もライナって呼ぶから!』




 ライナ友達の言葉を聞いて、私は自分の不甲斐なさを自覚できた。
 
 そして、その不甲斐なさの意味を噛み締めることができた。


『ついて、いっちゃだめ?』
『…駄目だ、ミルには耐えられない旅になると思うから。』


 頼るということは、責任をその人に預けるということ。それに慣れてしまえば……私は、駄目になる。


(ライナは、私にそのことを気づかせてくれた。なら、今私ができることは…………!)




「だから、元気出して! まだまだ学院生活は始まったばっかりなんだから!!」

 



 あの時、言えなかった言葉。

 その言葉は…………今、やっと口にすることができた。






「……ありがとう、ミル。私、『あの人』のことで少し……弱気になってたよ。」
「あの人……? それって、誰なの?」

 …………こういう言い方をするってことは、多分私があんまり知らない人なんだろうけど……もしかしてさっき話してた村の人の誰かなのかな?

「……『何言ってんだ』って話だと思うし、気持ち悪いかも知れないけど……聞いてくれる?」
「……? もちろん、友達だし何でも聞くよ!」

 私がそう自信満々に言うと、ライナは恥ずかしそうに手を膝の上でソワソワさせる。

「……さっき、私の幼馴染のことを話したでしょ?」
「うん、優しい人だって。」
「その……ほんと、変な話だけど…………昨日、私を助けてくれたのが………そのなんだ。」
「……はぇ?」

 とてつもない矛盾に、私は先程のライナみたいに口を開けてしまう。

(ライナを助けたのはウルスくんのはず……だから多分見ま)
「うん、おかしいと思うよね……でも、確かにあの時、私の幼馴染…………くんは、私を助けてくれた気がするんだ。」









『ミルと同じ様なものだ。…6歳の時、俺の村が襲われて、俺の親や村の人たちは亡くなって……村は潰れて無くなった。そんな時、俺は師匠に拾われて…………今、ここにいる。』






『………………誰と勘違いしているのか知らないが、俺にそんなはないぞ。』




 ウルス…………







「ウル…………?」
「……ああ、実はなの。多分そう言うようになったのは小さい頃に何度も名前を呼んでたから、いつの間にか勝手に短くしちゃったんだよね……だから今も癖でつい…………」
「………その、幼馴染の……名前って………」
「名前……これも偶然何だけどね、私も初めて聞いた時は驚いたよ。こんな言い方ははしたないけど、『生き返った』って……そんなわけないのにね………」



 生き返ったも、何も…………それって。




「『ウルス』くん……見た目もそのまま『ウル』くんが成長した感じだったから、最初は本当に…………どうしたの、ミル?」
















(…………?)






 その時、初めて私はウルスくんを…………………ほんの一瞬、『酷い人??』だと思ってしまった。
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