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7章 蒼色と金色 (仮面編)
七十七話 遊んでない
しおりを挟む『ガイヤの烈風』
「……なっ、風……ぐぁぁっ!!!??」
「何が起こっ……!!?」
仮面どもを空へと打ち上げ、奴らの自由を無くす。
「えっ……な、なんすか、これ………!?」
「近づくなニイダ、巻き込んでしまうぞ。」
驚いているニイダを静止させながら、俺は奴らを地面へと叩き落とす。
「落ちろ。」
「ぐっ、なっ……がほぉっ!!!??」
地面の激突で仮面たちの魔力防壁は全て壊れていく。またそれどころか、衝撃のあまり気絶している者がほとんどだった。
「な……何なんだ、お前……その、魔法は………」
「お前に質問する権利は、ない。」
「ぐっ……!」
初めにやって来た男が立ち上がろうとするが、背中を踏みつけてそれを阻止する。
(……他の場所にいる学生は……ほとんどが眠らされてるが、特に異常はない。こいつの言う通り、本当に視察なのか……?)
「………!?」
いや、1つ…………1つだけ、反応が………これは、戦っている……?
「……悪いが、時間がない。とっとと質問に答えるんだな。」
「誰が、答え……ぐふっ!?」
「答えろ…………何が目的だ?」
……戦っている奴が心配だ。魔力の反応が上手く機能せず、誰か分からないが…………速く吐かせて行かなければ。
「答え、ない……!」
「意地でもか?」
「意地、で……も………!!!」
「……そうか、なら…………」
『スリープワールド』
「寝ろ。」
「ぐぉ……スリープ……ワー…俺、が…………?」
俺は超越魔法でもあるスリープワールドを発動し、この場にいる仮面の奴ら全員を眠らせた。
(……取り敢えず、これでいい。後は………)
「…………凄すぎて、腰が抜けるかと思ったっすよ。」
ニイダは、わざとらしく腰に手を当ててそう言ってくる。
「これが……本当のあなたの強さっすか。」
「……まあ、な。」
……バレてしまった物は仕方ない。それに、今は緊急事態……あまりゆっくりはしてられない。
「ニイダ、お前はローナを連れて学院内に戻って誰か残っている教師を呼べ。俺は今からもう1つの反応の方へ向かうから、ミルはここでこいつらを見張って……」
「もう1つ? ……確かに、誰か戦っているような反応があるっすね。速く加勢にいってあげないと……」
「……えっ、この位置は……?」
俺がそう言ったことで、2人ともその反応を確かめようとしたが……不意に、ミルの顔が真っ青に染まる。
「どうした、ミル? 誰がいるのか分かるのか?」
「い、いや、誰の反応かは分からないけど…………私、今日……この反応の場所の訓練場で待ち合わせを……!!」
「……もしかしたら、その人が戦っている可能性があるってことっすか?」
「ミル、それは誰なんだ?」
そう言いながら、俺は転移の準備をする。魔力反応が鈍って中々掴めないが、これくらい…………
「そ、それは…………」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ほんと、似てるなぁ………」
昼になる、少し前……私は1人訓練場で剣の素振りをしながら、昨日のことを思い出していた。
(……まさか、フィーリィアさんがあそこまで怒るなんて……前から仲が良かったし、もしかしてそういう関係かな………?)
……いや、ウルスくんのあの感じ。少し鈍感そうだったけど、流石にないか。
『俺はウルス、得意な魔法は……風魔法です。これ…………』
「…………あの時は、びっくりした。」
まさか、昨日の今日で………なんて思ったりもしたけど、私を見ても特に反応もしていなかったので、ただの他人の空似だろう。
『……あ、次私だ。それじゃあね2人とも。』
『……ああ、頑張れ。』
『……それは心配いらない。精々うまくやるさ。』
『そうなの? ……あっ、そろそろ時間だ。行ってくるね!』
『ああ、行ってらっしゃい。』
黒い髪、立ち振る舞い……見れば見るほどウルくんと重なって、勝手に懐かしく思い込んでしまう。
「………………でも、ウルくんは……もう、いない。」
9年ほど前、私が住んでいた小さな村は……ある日を境に、無くなった。
その当時、私と家族は偶然街まで旅行に行っていたので助かったが……ウルくんや、村の人たちは全員…………いなくなっていた。
調べによると盗賊の仕業、魔物の仕業だと色々な話が出てきていたが…………原因なんて、私には関係なかった。
(……………)
もう、二度と会えない………その事実だけでも、私を壊すには十分すぎた。
『ウルくん、今日はお昼寝しない?』
『お昼寝……? ラナ、今日は遊ぶんじゃなかったの?』
『え~ダメ?』
『だ、ダメじゃないけど……どうしてお昼寝するの?』
『だって今日はいい天気だし……たまにはこうやってウルくんとのんびりしたいの!』
「………………」
昨日見た、あの時の記憶。
あの頃の、楽しかった時間は……もう、返ってこない。
(……泣いちゃ駄目だ。泣き虫はもう卒業したんだ……!)
駄々をこねたところで、ウルくんが慰めてくれるわけでもない。
(私は追いかけるんだ。ウルくんを……ウルくんの『夢』を………!!)
そのために、今は強くなるしか……………!
「…………えっ?」
1人で考え込んでいた、その時。何かが私に向かって飛んでくる気配を感じ取った。これは…………?
「……っ!?」
瞬間、肩目掛けて飛ばされたであろう針を避ける。そして私はその針が飛んできた方向を調べる。
「今のは、誰が………?」
……観客席に………人? 誰だ、この反応……今まで感じ取ったことのない、凶々しい魔力…………
「……1年とはいえ、さすが上位ってところか?」
「……!?」
反応の場所から、突如人が現れ……空を飛びながら私を見下ろしてきた。
その人は謎の赤黒い仮面を顔につけた男? であり、その体からさっき感じた魔力を余す事なく溢れさせていた。
「……あなたは誰? なんでこんな針を……」
「残念だが、質問に答える気はねぇ。せっかくの睡眠針も避けられたし……最低でも気絶はしてもらおうか。」
(……!?)
冗談の欠片もない言葉の覇気に、私はたまらず剣を構えた。
(……とりあえず、あの赤仮面は敵……まずはステータスを確認して……!)
『詳細不明』
…………えっ?
「……ステータスは見せれないな、まあお前より格上ってことだけは伝えといてやろう。」
(き、気付かれてる……!?)
「も……燃えろ、『業火の舞』!!」
ステータスを覗けず、見透かされた焦りで動揺しながらも私は先手で魔法を発動させた。
対して赤仮面の男は、地面に現れた大きな魔法陣を見ても特に何もすることはなく……そのまま炎の渦へと飲まれていった。
「な、何で……?」
(……いや、それより次の魔法を………)
相手は飛べるほどの強さを持ってる、後手に回った瞬間……私は負けてしまう。
なら、最初から攻めまくって相手に何も………
「……おらっ!」
「な、ぐっ……!?」
しかし、赤仮面は炎の渦を腕の一振りだけで完全に消し去ってしまい、追撃の魔法を発動しようとした私の体勢までも崩してきた。
赤仮面は地面へと降り立ち、私を煽ってくる。
「こんなもんか? そんなんじゃ俺の魔力防壁には傷一つ付かないぞ?」
「くっ……撃て、『アイススフィア』!」
煽られるがまま、私は氷の塊を放つ。
(おそらくこれも効かない、次の行動を……!!)
「……だからそんなもん、効かねぇ!」
腕の振り払いで氷塊は崩され、風圧も飛んでくるが……既に私はそれを飛んで避けて接近していた。
「やる気だなぁ?」
「っ…………!」
仮面の戯けた声色とは裏腹に、そのドス黒い雰囲気が体から溢れ出ていた。その気配に一瞬声を漏らしてしまうが……構わず攻め上がっていく。
(……本当は…………今すぐにでも、逃げたい。でも逃げたところで多分追いかけられてすぐに捕まる……それに、仮に逃げられたとしてもこの赤仮面がそのまま何もしない保証なんてない。)
私でさえこれだ。他の人だったら一瞬でやられて……あまつでさえ、殺されたりしたら…………!!
「そんなの……させないっ!!!」
私は自身の剣…… 『チェンジブレード』の魔法を発動し、剣身を伸ばして突き攻撃をした。
「不意打ちにもならねぇな?」
「知ってる!」
「……何?」
赤仮面は当然のように突きを避けるが…………それも想定内!
「はぁっ!」
「……あ?」
伸びた剣はそのまま地面へと突き刺さっていき、私はそれを支柱のように扱い、一気に赤仮面の背後へと回り込む。
「……ちょこまか、と!」
「避け……るぅ!!」
私の動きに苛ついたのか、赤仮面は私の高さまで飛び上がって裏拳のようなものを雑に振るってきた。
それを見越して私は回り込んだ瞬間にチェンジブレードの魔法を解除し、元の長さに戻した。その結果、支えられていた体は勝手に落ちていき、何とか拳を空かすことができた。
「なっ…………」
(っ、ここ!!)
何度も重ねた裏読みの行動に、ついに赤仮面が驚きの声を上げた。
『何というか……アーストくんと戦った時は普通に今までやってきたことをぶつけ合った勝負だけど……ウルスくんとの勝負は、こう………今までやってきたこと、普通にしてきたことをぶつけるのが当たり前みたいな………』
(ありがとう、ウルスくん……あなたとの勝負が今、役に立った!!)
私の戦い方じゃ、まずこの人には勝てない。でも彼の…………ウルスくんの裏を突くような戦い方なら、渡り合える!!
「い、けぇぇぇっっ!!!!」
落下する体を回し、飛び上がっている赤仮面の下から剣を全力で斬り上げようとする。
(この一撃……不意に不意を重ねた、この一撃なら……………!!!)
「掻け、『雷牙』」
「…………えっ」
瞬間…………剣より先に、雷の牙が私を襲った。
「ぐぁっ……がはぁっ!!?」
牙に叩き落とされ、地面へと激突する。その予想外の威力に驚きながらも、激突したことで起きたとてつもない衝撃に私の体ごと揺らされた。
「……癖の強い動きだな、流石にちょっと驚いたが…………所詮、子供のお遊び戦法。そもそもが遅すぎて話にならねぇよ。」
「ぐっ…げほっ……ま、だ………!」
「根性逞しいが……これで終わり、だ!」
(っ、無詠唱……!?)
「こ……ぐあぁぁっ!!!?」
立ち上がるが先に、私の魔力防壁は雷に焼かれた。そして…………
「あぁっ、あぁぁァッ!!!!!!」
紫の壁が破壊され、気づいた時には…………私の身体も灼き尽くされた。
「あぁ、なぁぁッ……!!!?」
(痛い……痛、すぎる……!!)
今まで感じた事のない痛みに、私は声を抑えられず絶叫してしまう。
それを見て赤仮面は手をぱぱっと払いながら、余裕綽々に話しかけてくる。
「痛いよなぁ? そりゃいつも魔力防壁を壊すまでの『茶番』しかやってきてないもんなぁ……同情するぜ。」
「ぐァッ、い……あァぁ!!!!」
反論する余力すらなく、私はひたすらに悲鳴を上げ続けた。
(超、級……ギガ・スパーク………無詠唱で、これ………?)
…………強すぎる、何でこんな……私が…………
「あ……アぁ………!」
「……すっかり焼けたな。まあ逆に肌が焼けた程度で済んだのは、日頃の特訓が光ったな…………中身はぐちゃぐちゃだろうが。」
倒れたままの私に赤仮面はそう言ってくるが、視界も思考も朧なもので何も考えられない。
肌も焼け焦げ、打たれた衝撃での痙攣による地面との擦れすら激痛へ伝えられ、意識が飛びそうになる。
「お前たちの目指す『強さ』っていうのはな……結局、見映え・名誉のお飾りでしかねぇんだよ。勝負だの戦いだの、ぬるま湯に浸かってるだけで喜んでるようじゃ、殺し合いには勝てねぇんだよ。」
「……お、か…ざぃ……じゃ、なぁ…い……!」
「はいはい、誰だってそう言いたくなるもんだ。自分は真剣だ、遊んでない……ってな。ならとっととこんな所出ていって魔物の1つや2つ殺してこいよ。」
「……うぅ………!」
遊びなんか………遊びなんかじゃぁ…………!!
「ほら、さっさと気絶しろ。今回は試しに来ただけだ、今ならこれくらいで……」
「ぃがう……あ、そびぃ……なん、かじゃ……なぁ、い……!!」
「…………あぁ?」
私は……………
「あ、たぁし……わぁ……!!!」
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